サイダーハウス・ルール 下 (文春文庫 ア 7-2)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167309657

作品紹介・あらすじ

サイダーハウスのルールとは何なのだろう。酒瓶を持って屋根に上がらないこと。たとえどんなに暑くても、冷蔵室へ寝に行かないこと。一度に6名以上は屋根に上がらないこと…。ホーマーは15年間その一覧表を壁に貼りつづけた。まるで人生のルールを探るかのように。現代アメリカが生んだきわめて"小説らしい小説"。

感想・レビュー・書評

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  • 一人の人生を超えた、連綿と連なる「良心」の場所。「良心」はときに苦い。きれいごとではない。そこにたどり着くには、待つ時間が必要。

    ときに過酷で、ときにほろ苦く、ときに甘く切ない物語だった。

    法律、慣習、道徳というルールが物語を繰り返す駆動力になっている。反発し、屈するというかたちで。

    傑作だった。

    ジョン・アーヴィングの作品は、読後、一人一人の人生が哀切に迫ってくる。

  • 中絶の場面や性的描写が少し辛くてお腹が痛くなるような思いで読み進めました。
    ホーマーにまつわる登場人物たちがそれぞれ迷いながらも良心を持って行動して行くエンディングに着地し、心が暖かくなる読後感でした。

  •  ホーマーはウォリーのリンゴ農園で、粗野な季節労働者たちと一緒に働き始めた。世間の人々の生活を知り、悪意がある人間もいることを知り、全てを新鮮に受け止めるホーマーをウォリーの家族やサイダー・ハウス(リンゴジュースを作る作業小屋)の人々は好意的に受け入れる。
     ウォリーが第二次世界大戦で出征し消息不明になると、ホーマーとキャンディは恋仲になり子どもを授かる。しかしウォリーが生きて帰ってくるとわかった時、キャンディは予定通り彼と結婚し、ホーマーは自分の息子を養子と偽って4人で暮らす道を選ぶ。
    「セント・クラウズに戻りドクター・ラーチの後を継いでほしい」という孤児院からの要請を断り続けてきたホーマーだったが、サイダー・ハウスのリーダーの娘が父親に妊娠させられたことが判明し、彼はあれほど忌み嫌い避け続けてきた堕胎をやらなければならない事態に直面する。

     長い年月を経てついにホーマーが医師としてセント・クラウズに戻っていく時、ラーチ先生が周到に準備していた全ての物事が物語の帰結に向けて収束していく展開にとても心が満たされる。これでもかと全編に差し挟まれる性的描写は露骨ではあってもいやらしさがなく、人間の営みとは何なのかという根源的な問いを読者に投げかける。「神は細部に宿る」というが、まさにその細部を徹底的に描くことによって到達した金字塔とも呼べる傑作。

  • 血の繋がらない父息子のドクター ラーチとホーマー、そしてミスターローズ、メロニィ、それぞれのウソと律儀さとルール。キリスト教と堕胎と孤児。いつの世も女性は苦しいですね。孤児達への読み聞かせの本がディケンズというのも気に入りました。規則の張り紙、ろうそく、、、など小道具やそれぞれの心理描写が伏線となり最後に持っていかれるところは素晴らしい。

  • 主人公は孤児院からリンゴ農園へ。偶然知り合ったリンゴ農園の若夫婦と仲良くなり三者の関係性が濃密になっていく。タブーを破ってでも貫く信念と社会問題の狭間で人生の意味を見出していく。

  • よくも悪くもジョン・アーヴィング。相変わらず面白くて冗長で。

  • 後半にいくに従ってドラマチック(ある意味チープな展開)になるアーヴィング作品の構成は健在だった。
    ただ、それは売上のために入れてるような卑しいものというよりは、読者に純粋にストーリーを楽しく読んでもらおうという一流作家としてのサービス精神なんじゃないかと思います。全部自分の憶測だけど。でも、メロドラマが異常にくどくならないし、骨太な作りは三文小説と呼ぶにはあまりに作りこまれすぎてる。
    読み終わった感想としては、この物語のキーワードは他の方が書いている通り『ルール』を軸にしたお話だと思います。サイダーハウスの事故防止のためのルール、ミスタ・ローズの日雇い労働者をまとめるためのルール、当時のアメリカの中絶禁止という法律、そして主人公ホーマー個人の『人の役に立つように生きる』というルール。
    物語の中で、上に並べたルールを、敷く側は守るように強制し、敷かれる側は(だいたいの登場人物が自分の自由を制限されるので)破ります。
    主人公ホーマーは最後に、セント・クラウズの非合法の堕胎手術をすることこそ、自分が役に立つ場所(必要とされる場所といったほうが正しいかも)だと悟り、帰るのを嫌がっていたセント・クラウズに戻ります。
    ルールは人を縛るものですが、ルールがあるからこそ世の中は上手く回ってもいる。人間もルールで自分を律するからこそ他人を助けられるような特別な力を持てる。もちろんルールに盲目的に従うことは何ももたらさないけど。・・・・・・小説のテーマはそんな所じゃないかなと思います。

  • いちばん印象的な人物はメロニィ。関わりたいかは別として。
    小説のイメージがしっかりできてしまったので、
    映画版は観ないでおこうと思う。

  • 【粗筋・概要】
    オーシャン・ヴューのりんご園で働き始めたホーマー・ウェルズは充実した日々を送っていた。しかし、友人ウォリーの恋人キャンディを恋していたホーマーは、彼女の気持ちが明らかになるのを辛抱強く待っていた。そして、空軍パイロットとして太平洋戦争に出征したウォリーの搭乗機がビルマ上空で墜落されたとの報が届き、彼の生存を絶望したホーマーとキャンディは結ばれる。そして、15年の月日が流れる。

    サイダーハウス・ルールや堕胎禁止法法(?)に代表されるような既にある、または外部から与えられたルール(法)と、「人の役に立つ」というホーマーやラーチが人生の絶対的な指針としていた私的なルールや、ミスタ・ローズたち黒人季節労働者の小集団内のルール(掟)との葛藤・対立を描く。

    サイダーハウス・ルールとは、りんごの収穫時期に季節労働者(黒人)たちが住む家に貼り出された規則表のこと。

    【感想】
    非常にストレートで骨太な小説。難解な現代小説に苦手意識のある私にとって、まさに近代小説という感じで楽しめた。上下巻合わせて1000ページにもわたる長編小説だけれども、途中飽きることはなかった。

    1930年代から50年代にかけての物語であるけれど、ホーマー・エインジェル親子とキャンディ・ウォリー・エインジェルとの奇妙な家族形態、メロニィとローナのレズビアンカップル(実際にはともにバイセクシュアル)と現代的な家族関係が描かれているのも面白い。

    ホーマーの最初の相手で、男勝りの体躯をもち、凶暴なメロニィは、約束を破って自分を置いていったホーマーを探し続けるけれど、ミセス・ンに対するお返しやホーマーとの再会、彼女の最後など予想を裏切るメロニィの行動がよかった。

    『デヴィット・カッパーフィルド』と『ジェイン・エア』を読んだあとに読めば、さらに深く楽しめると思う。次に読むときには是非そうしたい(前者は既読だけれども10年ぐらい前だからほとんど内容を覚えていない)。

  •  アーヴィングは初読。

     始めは、結構分厚い本で、しかも上下か! こんなにびっちり改行なしで書いてあるのか!って思ったのに、上善水如とでもいうように、詰まることなく読める。
     物語が何処へ行くのかサッパリ予想がつかないながらも、孤児ホーマーが成長して息子が育つところまでを、彼の隣で眺めているような気分のうちに、どんどん引き込まれて読み終わってしまった。
     ラーチ先生が好き。

     ものすごく、どきりとしたシーンがあったんだが、何処だったか……
     メロニィが、ホーマーに再会したときだったかな。大した意味があるように思えなかったんだが、あとから考えたら、すごく恐ろしかったのは何処だったろう。
     今度ちょっと再読した方がいいかな。あとがきを読めば思い出しそうな気がする。
     堕胎の合法と非合法、よりも、なんだったかなあ。

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