心臓を貫かれて 上 (文春文庫 キ 9-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167309909

感想・レビュー・書評

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  • 書き方がまどろっこしいが、ノンフィクションであり、事件を巡っての家族の歴史である。まどろっこしく感じるのは、その歴史の説明が何世代にも渡り、尚且つ、登場人物がコロコロ名前を変えるからだ。また、この家族は、モルモン教という、きちんと理解していなければ、カルト色を強く感じるような生活習慣を持つ。いや、理解したとしてもいかがわしいものかも知れないが。
    まどろっこしさは、後半には落ち着くのでご安心。

    ジャックケッチャムやスティーブンキングのホラーにはまった時、確かこの本を入手したのだと思う。その頃には、イヤミスというジャンルがある事を知り、より深みに嵌るに連れ、北九州殺人事件などの猟奇殺人モノにも手を出したものだ。

    そういう理由が先だったから、本著が村上春樹の翻訳である事には後から気付いたのだ。ファンには嬉しいのではないだろうか。私も彼の翻訳本はレイモンド・カーヴァーやスコット・フィッツジェラルド以来だった。

    さて、物語はそのコロコロ名前を変える亭主に引っ張り回される女(著者の母)にスポットを当てる事により、ようやく感情移入しながらストーリーを追えるようになる。その後、母から父へ。父から子へ視点を変えながら、物語は進む。著者の兄が事件の主役なのだが、強烈なアウトローである。

  • 殺人を犯し、自ら死刑を望んだ男とその家族について末弟である著者がまとめた作品。

    わたしは結構犯罪マニアというか犯罪者心理や犯罪そのものに関心があるが、この事件と犯人については知らない。
    何十人と殺害したり死体の一部を記念として集めたりといった猟奇的な犯人に比べればこの犯人の起こした事件は珍しいものとは言えないから日本での報道は余り無かったのではないかと思う。報道があったかどうかさえ知らない。
    この犯人の特異性と言えば、自ら処刑を望んだことだろう。

    著者マイケルはモルモン教徒の多い地域で、非モルモン教徒である父親とモルモン教徒である母親とフランク・ジュニア、ゲイリー、ゲイレンの三人を兄としてギルモア家に生まれる。
    事件を起こした兄はゲイリーである。

    モルモン教とモルモン教徒についてはじめにページを割いて書かれている。
    日本人は信仰について関心のないひとが多いようで、キリスト教徒であることを話すだけで、輸血しちゃダメなんでしょと言われたりで、何かとゴッチャになっているひとも多いし、カトリックとプロテスタントの区別もよくわからないひとも多い。そういうことはもう慣れているので構わないけれど(ちょっと面倒ではある)。
    そんなこの国でひとりだけモルモン教徒のひとと話したことがある。正直モルモン教自体がよくわからないでいるのに、キリスト教徒であるとウッカリ漏らしたのが良くなかったのか自身の信仰について長々話されたことがあり、戸惑った憶えがある。
    モルモン教徒のかたはとても熱心な信者が多いのか、そのときもキリスト教に比べいかにモルモン教が素晴らしいかを語られ、どう対応したら良いのか悩み、内心ムッとするところもありながら日本人的に曖昧な笑顔で終始流した。
    この本で少しモルモン教を知ったが、熱く語られたときに感じた奇異さのようなものの正体がわかったような気がする。

    本書では殺人犯の兄を持つ弟という立場であるマイケルが、出来るだけ冷静な視点で家族を描いている。母親の生育過程に始まり、母親が父親と出会い結婚し、家庭を持つといった一連の経過が丁寧に描かれている。マイケル自身は末弟であるので、実際に目にしたことよりも、恐らく多くは母親から聞いたことが大部分だろうと思うが、特定の誰かに肩入れしている様子は余り感じられないところが作品として良いと感じる。

    ギルモア家のことや全体の感想は下巻にて記載する。

  • 村上春樹の作品が生理的レベルで受け付けない人、ってのはかなり大勢いると思うんだよね。
    かくいう僕もその1人。嫌いだっていいつつやっぱり読んじゃう、みたいなことも一切ない。「風の歌を聴け」「ノルウェイの森」が僕にとっては0点だったから、もういいかなと思って。

    ただその無風状態に、小さからぬ風穴を開けたのがこのノンフィクション小説「心臓を貫かれて」だった。
    村上さん自らが見出して翻訳を手がけたというこの作品は、たしかに紛れもない名品。こんな作品を見つけ出してくる村上さんはたしかに慧眼としかいいようがない。翻訳も変に春樹テイストを混ぜ込んでくるようなこともなく、首尾一貫した文体の優れた日本語。
    なんだ村上さんできるんじゃん(翻訳は)、と思わせてくれたとあって、僕にとってはまさに記念碑的な作品です。

    村上春樹に無関心な人にこそ、この作品ばかりはお薦めしたい。読む価値はあります、確実に。
    ほかにも村上さんによる翻訳作品はけっこう出てるみたいだから、そのうち読んでみようかな、と考えている。

  • 運命の鎖のおぞましい連結部を検証していくしかないのだ。もしこの歴史を変えられるなら、いったいどの地点で変えることが可能だったろうか?

  • 20140904読了。
    殺人を犯し死刑となった兄について、弟が語っていくノンフィクション。兄が犯罪を犯すことになった経緯と、ベースとなった家族の話なのだが、兄について語るには自分の祖父まで遡らなければならない複雑さがある。
    信仰している宗教の戒律を守ること、そこから生まれる事件や誤解、父の暴力による支配、犯罪を重ねて生活する毎日など、どうにもやりきれない場面が次々と描写され、読んでいて本当に辛い。
    下巻がどう展開されていくのだろうか。

  •  著者の兄が殺人を犯すまでの前半生を詳細に記録する。ギルモア一家の特殊な家庭環境に驚く。4兄弟の長男と著者である末っ子は犯罪者ではないのだが、2人の兄は悲劇的な人生を送ることになる。母親の家系は厳格なモルモン教徒であったことが少なからず影響しているのかもしれない。下巻では兄ゲイリーの殺人に至る経緯が知れる。

  • 家族内での暴力、宗教を笠に着た暴力の根深い業を感ず

  • 読みはじめは、登場人物が多すぎて把握するのが大変だった。だから、何度もページを戻ってしまった。

    本当にこんな家族が存在するんだ。
    結婚と出産は、「覚悟」がもっとも必要であり大切なのかな。変化する中で愛する覚悟、愛して育て抜く覚悟、そういうものが夫・妻あるいは父・母として必要。もちろん「愛」がある上での「覚悟」
    フランクとベッシーの間に生まれた4人の子どもは、生まれたときから大荷物をかかえていて、痛々しかった。生きていく上で増えていくはずの荷物をはじめから全て背負っているようだった。ゲイリーとゲイレンはフランクとベッシーの子どもじゃなかったらよかったのに。でも、二人の間に生まれた子どもだから、ゲイリーとゲイレンなんだ…

    宗教について、私はどうしても疑問を抱かざるをえなかった。

  • 末弟マイケルが語るギルモア家の真実。
    兄弟はいないほうがいいかもと思ってしまう一冊。

  • 一瞬にして呪われた一家が持つ歴史に引き込まれる。モルモンの幽霊、アメリカという国家の国家性。感想は下巻まで読了してから。

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