巨人伝 下 (文春文庫 つ 4-25)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167314262

感想・レビュー・書評

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  • 外で読んできた本を丸暗記して、家で書き残したらしい。恐ろしい記憶力。

  • 読了 20230817

  • (01)
    現代なら「絡みにくい」とも比喩されそうな南方熊楠の生態を南方の生命のあった時間の流れを使って紹介している。
    本書の南方が生き生きとして感じられるとすれば、まず、彼や周辺の人物のことばによるものと考えられる。和歌山市出身の著者が操る紀州弁は楽しくもあり、熊楠が半生を過ごしたこの海岸地帯が醸す熱気が伝わってもくる。
    熊楠は文書の中でも存分に猥褻や下ネタを織り交ぜているが、本書にもそうした熊楠の特性を欠くことなく紹介されており、爽快でもある。
    また、熊楠の生の受難や苦難にも目が注がれており、読後に、彼の人生の生々しさが苦く残されてしまう。著者は、熊楠の「絡みにくさ」あるいは厄介さ、神経症、人間嫌い、高慢さなどにその理由を求めているようでもあるし、多岐祐介氏の解説にもあるように、熊楠がまわりの近代性(*02)に残され進んだという問題にも触れられないではない。
    本書では、熊楠の原文もいたるところで引用されている。近代の並みの文献にのみしか触れていない読者は、この引用箇所の「読みにくさ」に戸惑うかもしれない。これらの「にくさ」は、熊楠の生が違和感として残るものを、読者として愛し、彼の境地への関心を示すかが、現在と熊楠をつなぐ課題となるだろう。

    (02)
    熊楠は夜に書く。夜に書かれるものは、採集した生物の記事や雑誌への投稿、古書からの抜き書きも多くあることは本書からもうかがわれるが、書簡いわゆる手紙も多いように感じる。
    厄介者でもあった熊楠の交友は、それでも多彩であった。英国の研究者たち、東京の同好たちのほかに、和歌山にも数多くの友好がネットワークされていたこともわかる。地域のネットワークは、新聞社や県庁といった方面にも及んでおり、それらは熊楠の政治性の発現とも考えられ、後年は弟子グループも組織されていたようである。
    書簡という当面の一方的な権力によっただけでなく、彼が酒席で開陳する古今東西の蘊蓄も、おそらくは、質疑や対話を許さない形式のコミュニケーションであっただろう。熊楠から溢れ出るもの、彼から突き刺されるものからは、彼の多感な霊感との交感という問題が浮上する。心霊や神霊と応接する際、彼女ら彼ら心霊は、一方的に降りてきて垂れてきて、現れてくる。その相互性の不全にのみ、熊楠は賭けていたのかもしれない。
    近代日本において政治的に構築された唯一の人格的神性であった天皇との引き合いが起こる必然も、霊感の圏内においては、必然であったようにも感じた。

  • 結局、最後まで古典の引用の連続には慣れることができなかった。登場人物も目まぐるしく入れ替わるから、弟とか奥さんとか息子とか、かなり頻繁に登場する一部の重要人物しか、最終的な印象には残らない。どちらかというと、ひとつの読み物というより、熊楠自身についての資料的価値の側面が大きいと感じました。

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著者プロフィール

1929年和歌山県生まれ。東北大学法学部卒業。78年に『深重の海』で直木賞受賞。その後、織田信長を描いた『下天は夢か』がベストセラーになる。95年『夢のまた夢』で吉川英治文学賞、2005年菊池寛賞受賞。1997年に紫綬褒章を、2003年には旭日小綬章を受章。剣道三段、抜刀道五段で武術全般に造詣深く、剣豪小説をはじめとして多くの武道小説を執筆。2018年5月26日逝去。著書に『明治撃剣会』『柳生兵庫助』『薩南示現流』『雑賀六字の城』『修羅の剣』『大わらんじの男』『龍馬』など多数。

「2022年 『深淵の色は 佐川幸義伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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