時刻表おくのほそ道 (文春文庫 331-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167331016

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  • 国鉄全線完乗を達成した著者のもとに舞い込んだ、私鉄乗りつぶしのオファー。どこまでをその対象とするか、と冒頭に長々と悩む辺りがさすが宮脇先生ですが、当時地方私鉄にほとんど関心を払っていなかった氏が文庫本1冊程度の文量で完乗などできるはずもなく(実際、お亡くなりになるまで完乗はされなかったようですが)、要するに私鉄の乗り歩き紀行です。

    比較的初期の作品でもあり、処女作「時刻表2万キロ」に通じる文章の妙味がそこかしこに見て取れます。筆致は淡白ですが、ローカル線への慈愛と時刻表への執着が存分に発揮されていますし、抑えた筆致であればこそ加悦鉄道を目指した峠越えのような旅の感動がなおさら胸に迫ります。取り上げた鉄道が比較的地味なので埋もれがちですが、隠れた傑作だと思います。

    それにしても、目次を改めて眺めるにつれ、現在廃止になった路線のなんと多い事か。地方鉄道の置かれた環境の厳しさに慄然とします。個人的には小中学生の頃写真集で眺めつつも、乗りに行けなかった鉄道がごろごろとしていて、悔しい事この上ないです。別府鉄道とか、一度でもこの目で見たかったものです。

  • 同行者いじり、飲酒、時刻表攻め、自虐、風景描写、ローカル線への愛情など、宮脇俊三の良さがかなりの高水準を示している

  • 16/05/04、神保町・澤口書店で購入(古本)。

  • 「地方の片隅で、貧しく汚く、しかし、赤字に堪えて頑張っている小さな鉄道に乗って、その尻を撫でさすってきましょう」
    と私は上機嫌で言った。
    「助平なんですね」
    「誰だってそうでしょう」
    「そりゃそうですね」
    と彼は言った。
    (本文より)

    上記は、本書『時刻表おくのほそ道』の概念とは何かを端的に示す部分と申せませう。文中の「私」とは宮脇氏、「彼」は文藝春秋の編集者であるところの名取昭氏であります。
    宮脇氏は言ふまでもなく時刻表の愛読者。時刻表を読むと、乗りに行きたくなるのです。

    しかし時刻表はJR線を中心に編集されてゐて、私鉄線は巻末に追ひやられ、しかも抄録なのです。その私鉄線の中でも、大手ではない地方の零細私鉄にいたつては、始発と終電のみの掲載で、「この間約○分毎」などと簡単に片付けられてゐるのでした。ああ可哀想に。

    そんな状況ですから、冒頭の宮脇氏の発言も首肯できるところなのです。本書に収録された地方鉄道は27社、いづれも経営が厳しく、2014年現在はざつとその半数が姿を消してゐると思はれます。したがつて今となつては貴重なルポなのです。
    本作品で特筆すべきは、同行する編集者の存在でせう。元来宮脇氏は一人旅を旨とし、仮令同行者がゐてもそれを肴にすることはなかつたのであります。
    それが今回は文春の名取昭氏、明円一郎氏との二人旅であることを逆に売り物にしてゐるフシがあります。「おくのほそ道」だから河合曾良の役柄が欲しかつたのか。(筆者は否定してゐますが)

    本書の後、宮脇氏は編集者との二人旅が増えていきます。それまで自ら禁じてゐた「同行者を肴にする」ことを解禁したやうです。『阿房列車』の世界を継ぐ『旅の終りは個室寝台車』なんかは好例と申せませう。
    さういふ意味で、この作品は一つの転機となつた存在であると、わたくしは一人勝手に睨んでゐるのであります。
    色色な意味で興味深い一冊なのです。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-175.html

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著者プロフィール

宮脇俊三
一九二六年埼玉県生まれ。四五年、東京帝国大学理学部地質学科に入学。五一年、東京大学文学部西洋史学科卒業、中央公論社入社。『中央公論』『婦人公論』編集長などを歴任。七八年、中央公論社を退職、『時刻表2万キロ』で作家デビュー。八五年、『殺意の風景』で第十三回泉鏡花文学賞受賞。九九年、第四十七回菊池寛賞受賞。二〇〇三年、死去。戒名は「鉄道院周遊俊妙居士」。

「2023年 『時刻表昭和史 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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