あのころ、こんな暮らしがあった 昭和恋々 (文春文庫 や 11-15)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167352158

感想・レビュー・書評

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  • 2006年に亡くなられた時、もう久世さんの美文・名文には出会えないのかと、ずいぶんと寂しかったものだ。
    でも「人は死して・・」なのだね。
    ちゃんとこうして作品として残り、品のある、流れるように美しい文章に再び出会うことが出来た。幸せだなぁ。
    山本夏彦さんとの共著で、【はじめに】を久世さんが、【あとがき】を山本さんが、その前にはおふたりの対談もあり、これらを読めるだけでも読者としての役得にありつけたようで、ただただ嬉しい。

    中身は、プロの写真家さんの撮った昭和の写真一枚ずつに、記事を載せたもの。
    見開きの、左側が写真で右側が記事になっている。
    ただし、山本さんの方は記事が長めである。
    【単なる回顧に流れないように心したつもり】と久世さんは言われるが、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろう。
    しかも、私自身が知っている光景も、そんなに多いわけではないのだ。
    体験したこともないのに、懐かしい。でも切ない。
    珍しくて面白い写真も続々とあって、それなのに笑いは漏れずに涙腺がゆるんでくる。
    【割烹着】【姫鏡台】【オルガン】【花火】【子守り】の、つつましやかな郷愁。
    ふと考えさせられる【原っぱ】【縁側】【風呂敷】。
    忙しがってばかりいて、一体何を求めて自分は生きてきたのかと、胸のざわつきを抑えきれなくなる。
    今目の前にあるものを、いとおしむことさえ出来なかったではないか。
    気が付いたときは、失ったときなのだ。そのことが、ただ寂しく悲しい。

    とまれ時は戻ってくれない。
    おふたりの著者も、すでに鬼籍に入った。
    せめてこの本を読み返し、【大きな忘れ物】に気がつけただけでもありがたいと、思うしかないか。
    「ノンフィクション」などという雑なカテゴリに入れてしまったが、これは「社会史」の分野である。
    久世さんは今でも天国で、あの名文を書かれているのだろうか。

    • nejidonさん
      vilureefさん、コメントありがとうございます!
      いつもたくさんの花丸をくださって、とっても嬉しいです。
      肺炎というものが、こんなに大変...
      vilureefさん、コメントありがとうございます!
      いつもたくさんの花丸をくださって、とっても嬉しいです。
      肺炎というものが、こんなに大変なものだとは知りませんでした。
      私は持病があるのですが、肺炎になるとそちらのお薬は飲めません。
      なので、二重苦でございました。トホホ。

      タイトルが良いでしょう?この本。
      私が読んだのは清流出版のハードカバーなのですが、文春文庫でしか検索で出てきませんでした。
      でもたぶん、同じ中身、のはずです。
      久世さんは【向田邦子さんに嫉妬していた】らしいんですね。
      そんな一文も読むことが出来て楽しいですよ。
      どうぞ手に取ってお読みくださいませ。
      2013/06/13
    • imogenさん
      nejidonさん こんにちは。
      お加減よくなられたようで良かったです。
      また素敵なレビューが読めてとても嬉しいです。
      でもこれからの季節も...
      nejidonさん こんにちは。
      お加減よくなられたようで良かったです。
      また素敵なレビューが読めてとても嬉しいです。
      でもこれからの季節もどうかお体を大切にしてくださいませ。

      昭和の写真との競演のこの本、私もとても気になってぜひ読んでみたいです。メモメモ。
      アサヒカメラ等のカメラやグラフ系の雑誌で
      昔のモノクロ写真を見るのが好きなのですが
      特に昭和の子どもたちの写真がすきです。
      昨日、私の昔住んでた広島の駅前の再開発のニュースをTVで観たのですが、最近都市のあちこちの再開発でさいごに残っていた昭和の名残もどんどん失われていくようで淋しくてしかたないです~。
      なんだかノスタルジックになってしまうのですけれど、平成生まれの方にとっては昭和はどんな時代なのでしょうね。
      2013/06/17
    • nejidonさん
      imogenさん、こんにちは♪
      おかげさまで、少しずつ体調は安定してきています。
      ご心配をおかけしました。
      自分の不注意が招いた結果とはいえ...
      imogenさん、こんにちは♪
      おかげさまで、少しずつ体調は安定してきています。
      ご心配をおかけしました。
      自分の不注意が招いた結果とはいえ、大変な思いをしました。
      imogenさんも、どうぞご自愛くださいね。

      この一冊に興味を持ってくださって、とても嬉しいです!
      アサヒカメラのモノクロの写真、私も大好きですよ。
      あれだけを見るために、図書館に入ることもあります(笑)
      昭和の写真たちには、ちゃんと背景にまで季節と物語がありますね。
      子供たちの顔も、実に豊かな表情があります。
      背景が失われたとしても、子供たちの表情まで失って欲しくないと思うのですが、現実はどうなのでしょう・・
      豊かになるって、一体何なのだろう、と色々なことを考えさせられました。
      平成生まれの子たちには、民話のふるさとのような時代らしいですよ。
      先日のお話会で、ある中学生にそう言われました。
      imgenさんも、どうぞこの本を手に取ってご覧くださいね。
      2013/06/19
  • 文章もいい
    その短さがまたいい
    私自身は
    ここに 挿入された
    「写真」が五つ星です

    その時代に
    暮らしてはいませんが
    その時代の
    風景と匂いが
    漂ってきます

  • 昭和昭和生まれである。それも後半以降の生まれなので大正4年生まれ
    の夏彦翁と、昭和10年生まれの久世氏の書いていることやふたり
    の対談の内容のすべてが「懐かしい」と感じる訳ではない。

    それでも子供の頃の思い出の中には「あ、そういえばあったな」
    と感じる風物や物が結構あった。

    共著ということで第一部の「戦前を見に行く」を夏彦翁が、第二部
    「過ぎ行く季節のなかで」を久世氏が担当し、第三部「昭和恋々
    記憶のなかの風景」がおふたりの対談との構成になっている。

    「戦前を見に行く」の項も書かれたのは平成10年。その頃でも
    戦前の建物が残ってたのかと感じた。あれから20年が経過してる
    現在、僅かに残っていた戦前のものたちも再開発の波に飲み込まれ、
    姿を消しているのだろうな。

    子供の頃、何故か蚊帳が好きだった。夏の夜、蚊帳を吊って寝るの
    は何か特別な感じがしたし、蚊帳の内側から見る部屋の風景は普段
    と違って見えた気がした。

    金魚売りは知らないけれど、夜鳴きそばは知っている。テレビドラマ
    のお母さん女優はもれなく割烹着を身に着けて常に忙しそうにしていた。

    足踏みミシンが上手に使えなくて、それが私の裁縫嫌いのきっかけだ。
    尚、電動ミシンは恐くて使えない。あ、それ以前に不器用だとの理由
    があったわ。

    小学校の裏門すぐにあった駄菓子屋は既になくなって久しい。改築する
    前の実家には縁側があったし、裏木戸もあった。

    小さな庭があって、季節の花が咲き、外に水場があって、縁側と裏木戸の
    ある平屋の一戸建てに住みたい。今じゃ贅沢なのかもしれないな。

    おふたりが書かれているエッセイはどれも短文でサクッと読めるが、
    どれも余韻を残す名文である。

    「うっとりするような美しさには、背中合わせに、消え入るような
    儚さが張りついていることを、人生ではじめて教えてくれたのは、
    子供の日の花火である。」

    短文の中でこんな文章を書かれたらやられるわ。久世氏、上手過ぎ。
    それでも向田邦子氏に嫉妬しているというんだから、私の文章なんて
    駄文中の駄文じゃないか。シクシク。

    「路面電車」の項を読んでいて思い出したのだが、東京都はなんで
    「都電荒川線」を「東京さくらトラム」なんて名称にしちまったの
    だろうな。東京に唯一残った路面電車なのに。ブツブツ…。

    来年、平成が終わる。昭和はまた遠くなるんだろうな。

  • 私自身が昭和30年代前半の生まれであるので、子供のころ原っぱで戦争ごっこをするため、板のパネルなどで基地を作ったり、道はまだ舗装されていなかったので小さな穴を掘ってビー玉をしたり、独楽回しやメンコ(私たちはパッチンと言っていた)をしたり、割り箸を束ねて輪ゴムを飛ばす鉄砲を作ったりと色々工夫して遊んだことが想い出されるのが昭和40年ころまで。 この本には私の知らない昭和10年~20年代の世相の様子が幾枚もの写真で示されていて、いつもこの種の写真を見るとその時代の雰囲気を味わってみたくなる。

  •  実際は自分が生まれるよりもっと前の風景ですが、なぜか懐かしい風景に思えてくるので不思議です。時間がゆったり流れてる様子に、子供の頃を思い出してしまうのかもしれません。

  • 「汽車にあって電車にないのは《未練》である。(中略)ドアが電動ではないから、未練を断ち切って飛び乗ることもできたし、思い直して飛び降りることもできた。」
    「ーー私たちはふるさとを失ったのである。もう永遠に返らないのである。」

    失ったものの多さに、思わず泣きたくなります。
    昭和前期に興味のある方にはお薦めの一冊です。

  • 写真もいっぱい入っていて、ぺらぺら眺めてるだけで懐かしさを感じる。自分が生まれていない時代でも懐かしい。

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著者プロフィール

山本夏彦
大正4年東京生まれ。コラムニスト、作家。「室内」編集・発行人。昭和22年『中央公論』に発表した「年を経た鰐の話」が坂口安吾らの目にとまり、注目を浴びる。その後、出版社勤務を経て昭和33年、月刊インテリア専門誌『木工界』(36年に『室内』と改題)を創刊し、以来編集に携わった。『週刊新潮』『文藝春秋』などにコラムを連載、一貫して、世相をするどく諷刺する辛口コラムを得意とした。昭和59年第32回菊池寛章を受章。
著書に『日常茶飯事』『編集兼発行人』『死ぬの大好き』『完本文語文』『「室内」40年』『私の岩波物語』などがある。平成14年に10月に死去した。

「2022年 『無想庵物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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