繁栄と衰退と: オランダ史に日本が見える (文春文庫 お 7-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167362034

感想・レビュー・書評

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  • 岡崎久彦さんによる著書は今で見てきたもの全てが重厚な内容で、隠された歴史事実を学ぶ上で大変役に立つ。本書は16世紀から17世紀におけるオランダ国の成立と繁栄、衰退のパラダイムを読み取り、如何に繁栄と富を極めた環境においても国家の独善的な趣向が衰退へと導くのかを学ぶ一書である。そもそもオランダ国の繁栄というの世界史の中では閉ざされた歴史となってしまっているが、この繁栄と背景を十分に考察されている点だけでも十分に読み応えがある。さらに、スペインという共通の脅威が去ったあとに訪れるイギリスとオランダ国の関係は正にソビエト亡き後のアメリカと日本の経済摩擦に当てはまる点が歴史は繰り返す原則に基づくもので大変おもしろい。独善的な立場において富を独占することが国家を繁栄させあまりにも進歩的な体制が国家を瓦解させるに至った。、
    中世の新教徒の台頭、30年戦争を踏まえた歴観において、オランダ国のパラダイムを読み解き失敗を学ぶことはアメリカ国家の成立と繁栄に結びつき、近代社会の礎を学ぶこととなる。
    近代社会学を学ぶ上でもオランダ国の存在は決して忘れえてはいけない。

  • サブタイトルに『オランダ史に日本が見える』とあるけど、ほぼオランダの勃興と衰退をスペイの衰退とイギリスの勃興が書かれている感じだったな。
    所々でオランダの状況と日本の状況が似ている部分が解説されている。
    これを読み、思ったことは『歴史は繰り返す』といったことだろう。
    しかし、この本に書かれていた1991年の日本の問題は2014年現在では多少は進展しているのが救いだな。日本も孤立することを避け、協調することを選んだということだ。
    TPPや集団的自衛権はその証ということだな。

  • 新書文庫

  • 蘭学、東インド会社、チューリップ、大麻。現代のオランダのイメージからはそうは思えないが、かつて世界随一の経済大国であったオランダは、いかにして衰退することとなったのか。15世紀〜17世紀のオランダの興亡について。

    そもそも『低地帯の国々』を意味する『ネーデルラント』という国名自体が、この国をよく表している。生産に適した土地ではなかったことから、西欧が大航海時代に入るまで、歴史の表舞台に登場することはなかったが、その経済的な存在感が増していくにつれ、一国の衰退が他国の利益と考えられていた時代、危険度は増していく。

    さらに、『国々』とある通り、オランダは統一国家というよりは諸都市連合であり、君主を抱かず早すぎる民主制を獲得してしまった。民主制というのはとかく時間的、人的、金銭的に多大なコストを必要とする体制であり、平穏時ならともかく、まだ君主の一存で軍隊が動いた当時の欧州においては、そのまとまりのなさは致命的な弱点となった。

    かくして宗教戦争をかろうじて生き延びるもその後の経済戦争にて滅びかけたオランダであったが、絶体絶命の中、間一髪で城門を閉じた女性の奇跡、神風、そしてイギリスの名誉革命に救われて、国としての存続を許されたのだった。

    本書はそんなオランダの趨勢を、冷戦終結間際バブル絶頂期で安保問題に揺れる日本との対比で語られるが、バブル崩壊後の今からして見れば、ほんの十数年前のことであるのに、隔世の感すらある。
    愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶとは言うが、ただ個々の似た事象を収集して並べて「あの時と一緒だ!」と叫ぶことに全く意味がないことは、左右の罵り合いでしかない言説を見れば明らかだ。
    賢者を志すならば、まずは歴史からどのように学びを得られるのか、を考えなくてはならないだろう。もちろん、愚者として歴史を楽しむに留めておくという生き方も悪く無い。

  • どんなに強固にみえる同盟でも共通の敵がいなくなってしまった時もろくも崩壊し得る。オランダの繁栄が英国の嫉妬をかい、強引にいちゃもんをつけられ戦争へと引きずり込まれてしまう。歴史なんてそんなものなのね。

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著者プロフィール

岡崎久彦

1930年(昭和5年)、大連に生まれる。1952年、外交官試験合格と同時に東京大学法学部中退、外務省入省。1955年、ケンブリッジ大学経済学部卒業。1982年より外務省調査企画部長、つづいて初代の情報調査局長。サウジアラビア大使、タイ大使を経て、岡崎研究所所長。2014年10月、逝去。著書に『隣の国で考えたこと』(中央公論社、日本エッセイスト・クラブ賞)、『国家と情報』(文藝春秋、サントリー学芸賞)など多数。

「2019年 『戦略的思考とは何か 改版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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