忘れたことと忘れさせられたこと (文春文庫 え-2-10)

  • 文藝春秋 (1996年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784167366100

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  • 『#忘れたことと忘れさせられたこと』

    ほぼ日書評 Day964

    昭和100年、戦後80年の年を終えて、最初の書評はこちら。江藤淳全集 第19巻として、Kindle Unlimitedで読むことができる。
    「ポツダム宣言で日本は無条件降伏」という一節に "違和感を覚えない" 方は、必ず読んで欲しい一冊だ。

    本書の主張はざっと以下の通り。
    1. ポツダム宣言は一般に理解されるような「国家としての無条件降伏」を前提としていない。国際法上、降伏の主体は本来軍隊であり、国家が降伏するという理解自体に理論的な問題がある。
    2. 国家が存続している限り、戦時占領下にあっても当該国の法秩序は尊重されるべきであり、占領軍が自由に統治権を行使できるわけではない。
    3. 米国は当初ポツダム宣言を「有条件降伏」と認識していたにもかかわらず、占領後にその解釈を一方的に変更し、国際法上の根拠を欠く形で各種政策や規制を日本に強制した。憲法制定にまで介入したことは、占領軍の権限を逸脱している。
    4. 国家体制が崩壊したドイツと、国家として存続していた日本を同列に扱うのは不適切である。日本に対する占領政策は従来の戦後処理の枠を超えた、きわめて特殊なものであった。

    我々世代は、日本はポツダム宣言に基づく無条件降伏によって第二次世界大戦の敗北を受け入れ、その後、米国を中心とする進駐軍の占領下に入るが、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を主眼とする日本国憲法を定めることで民主主義国家としての歩みを始め、サンフランシスコ講和条約で独立国としての国際社会への復帰を果たした…と教えられ、長らく無邪気にその「歴史」を信奉して来たが、こうした教科書的表現には、決定的な矛盾のあることを看破し、そうした通説・俗説に事勿れ的に安住する人々(国会議員やマスメディアをはじめとする)を通説に批判する内容。
    冒頭にも記した通り、上記の「教科書的」な通説に、違和感を覚えない(そう習ったよねと感ずる)方には一読をお勧めする次第だ。

    ただ、前半は終戦から2-3か月という短期間に、新聞報道等の論調が180度様変わりし、日本人が多くのことを「忘れさせられ」てゆく様を丹念に検証する内容であるために文章の4、5割が片仮名混じりの文語調であり、さらに「樽俎折衝」等という見慣れぬ用語ひとつだに疎かにしてはいけない緊張感ゆえに、初見時には挫折しがちかと思われる。
    その際は、後半に収められる「ポツダム宣言を正確に読め」(サンケイ新聞 昭和五十三年八月十日付「正論」)の章を、最初に読むことをお勧めしたい。きわめてコンパクトに本書の主張がまとめられている。

    あとがきに "アメリカに渡って「ウオー・ギルト・インフォメーション・プログラム」を発見した『閉された言語空間 占領軍の検閲と戦後日本』の段階に入ると、占領軍政策により「忘れさせられたこと」を見定め、「敵」がはっきりしたので、筆致は基本、クールになる。江藤の占領に対する激しい怒りが随所に爆発しているのは、本書だけと言っていい" とある通り、本書に封じ込められた我々を圧倒する凄まじい怒りのパワーを感じてみていただきたい。

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著者プロフィール

江藤 淳(えとう・じゅん):文芸評論家。昭和7年12月‐平成11年7月。昭和31年、「夏目漱石」で評論家デビュー。32年、慶應大学文学部卒。37年、ロックフェラー財団研究員と してプリンストン大学留学。東工大教授、慶大教授などを歴任した。新潮社文学賞、菊池寛賞、日本芸術院賞、野間文芸賞など受賞多数。

「2024年 『なつかしい本の話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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