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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784167399016
感想・レビュー・書評
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いささか僭越かもしれないが、著者に降りかかった左遷を通じて、人間としての成長過程を、詳らかにきれいごとや誇張なしに著されている「小説」と捉えた。ここで繰り広げられる様々な人事は、勤め人に起こり得ることであるし、昭和・平成の時代ではない、今日でも政治的活動・運動に熱心に取り組む諸氏も多いだろう。会社組織が一種の共同体であるとした上で、ロジカルな判断より、権威がある者が持つ情緒で全てが動いていると冒頭で言い切っているのが、―賛同しかねるが―潔い。丁寧に描かれている主人公の性格や考え方、心情は理解できなくもない。およそ一般的なサラリーマン像なのだと思う。それゆえ誰にでも起こり得る、決して特別ではない、運不運によるイベントが日記形式で繰り広げられる。あの森鷗外も「小倉左遷の屈辱のなかで、用心と処世を学んだ」(p.241)という。あとがきでは、「かつて心が裂けるほど思い悩んだことでもすんでしまえば、何でそんなちっぽけなつまらぬことに、ウジウジクドクドこだわっていたのだろうかと、自分で自分に呆れる始末である。この程度の苦労なら、いささかの辛抱と我慢で十分乗り切れるはずであり、やはり酒の座の独り言にすぎない」(p.249)と、熟慮の末に達した境地が記されている。
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本書は、人生における挫折や逆境をどう受け止め、いかに乗り越えるべきかを深く掘り下げた一冊である。中国古典や歴史、経済人たちの実例を織り交ぜながら、「失敗」を肯定的に捉える独自の人生哲学を展開している。
本書の出発点は、松永安左エ門の「真に偉大な人物となるには、闘病、浪人、投獄のいずれかを経験している」という言葉である。そこに「左遷」を加え、「人間が本当に成長し、成熟するには、これら四つの試練を避けては通れない」と説く。いずれも自分の力ではどうにもならない状況に追い込まれ、自尊心が傷つけられる経験であるが、そこをどう生き抜くかが人間としての厚みを決定づけるというのが、著者の基本的な立場である。
本書は、「闘病」「浪人」「投獄」「左遷」という四つの試練をそれぞれ章立てして論じ、それぞれの局面における心の持ちようと、逆境がもたらす内面の成熟について述べている。
例えば、政財界で活躍した松永安左エ門や山田光成、ライフネット生命創業者・出口治明のような人物は、いずれも一度は大きな挫折を経験している。しかし、その時間を単なる「耐える時間」として過ごすのではなく、「学びと内省の時間」として使ったことが、後の成功につながった。逆境の中にある人間は、表面的な肩書や地位ではなく、「何を考え、どう生きるか」という本質を問われると説く。つまり、試練のときこそ、人間の真価が問われるのである。
本書の副題にもなっている「嵐のなかでも時間はたつ」という言葉は、シェークスピアの戯曲『マクベス』からの引用である(p.122)。伊藤はこの言葉を非常に重く受け止め、逆境の最中においても時は確実に流れ、その流れの中で人は静かに変化していくと強調する。たとえ不本意な左遷を受け、表舞台から退いたとしても、そこで得た経験や思索が後に必ず生きる。逆風の中で「何もしない」のではなく、「思考し、構想を練る」ことが重要なのだという。
また、「逆境は人間の本質をあぶり出す場」であるとも説かれる。人は困難な状況になると、自分の内面の弱さや他者との関係の脆さに直面せざるを得ない。そこに目を向けず、ただ環境や運命を呪っても何も変わらない。大切なのは、自らを省みて、自分の至らなさや限界を受け入れ、それでもなお前に進もうとする意志である。伊藤は、逆境のときこそ「ニセモノとホンモノ」の人間が見分けられると語り、周囲の言動や自分の内側の反応に敏感になるよう促す。
さらに、「死の意識」が挫折とどう関係しているかにも触れている。人間は必ず死を迎える存在であることを忘れがちだが、左遷や病気、失業といった出来事は、そのことを強烈に突きつけてくる。だからこそ、そうした逆境の時間は、単に苦しいだけでなく、「生を深く考える機会」となりうる。
終盤では、具体的に左遷や挫折を乗り越えて再起した人物たちのケーススタディが紹介される。苦難の時間を通して自己認識を深め、他者に対しても柔らかな目を持つようになったという共通点を持つ。著者はこれを「逆境の効用」として捉え、もし読者がいま逆風の中にあるならば、それは人生の節目であり、自らの内面を鍛えるまたとない機会だと語る。
総じて本書は、「左遷」や「失敗」を単なる不幸や敗北と捉えるのではなく、それを通してしか得られない智慧や人間的深みがあるという視点を提供している。嵐の中で立ち尽くすような時間にも、確かに「意味」はある。たとえ足止めされたように感じても、時間は確実に流れており、その流れをどう使うかは自分次第である。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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