真珠夫人 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 73
  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167410049

作品紹介・あらすじ

真珠のように美しく気高い、男爵の娘・瑠璃子は、子爵の息子・直也と潔い交際をしていた。が、家の借金と名誉のため、成金である勝平の妻に。体を許さぬうちに勝平も死に、未亡人となった瑠璃子。サロンに集う男たちを弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化した彼女の心の内とは。話題騒然のTVドラマの原作。

感想・レビュー・書評

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  • まず表紙の鮮やかな人物画に目を奪われました。意志の強そうな瞳、真珠のような柔肌、麗しい唇、艶やかな波打つ黒髪。美しく気高い瑠璃子のイメージにぴったりです。
    家の借金と名誉ため、身勝手な男の意地のため、瑠璃子の初恋は実りませんでした。そして彼女は自ら愛憎の渦へ身を投じます。
    けっして体も心も許さなかった結婚生活は、憎き夫の思わぬ死によって幕を下ろします。ここで瑠璃子は初恋の直也の元へ戻りませんでした。やはり、お金に苦労していた生活から財力がほしいままに使える今の地位は手放せなかったようです。そして処女のままとはいえ、一度直也との愛を自ら手放したことで戻ることが出来ないと思ったのかもしれません。娘となった素直で優しい美奈子のことも気がかりだったでしょう。運命の分かれ道はここだったのに・・・
    未亡人になった瑠璃子はたくさんの男を弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化します。瑠璃子は美しく誰もが跪くような女性ではあったけれど、聡明ではなかったのかもしれません。彼女が選択していく人生は、ますます直也との初恋に胸をときめかせていた純真な彼女自身から遠くなっていくだけのようでした。でもそれは彼女が彼女自身を許せず、直也への償いもあって自らを貶めていたのかもしれないなと思いました。
    だから、娘となった美奈子の初恋を誰よりも守ってやろうと願っていたのでしょう。それなのに、瑠璃子自身がその初恋を汚すことになってしまいます。そして、とうとう悲劇が起こります。
    女性が思いのまま生きられなかった時代。その時代に抗おうとしたひとりの女性。
    男たちの愛を手玉にとり、華麗奔放に生きた瑠璃子。彼女の駆け抜けた短い人生はスキャンダラスなものでした。
    それでも読後感は、そういうドロドロしたものではありませんでした。
    生涯、瑠璃子が大切にしていた写真。みなしごになった美奈子の為に死期迫る中、呼び寄せた人物。
    初恋に捧げた瑠璃子の生き様は、女の意地とプライドを掛けた高潔なものにわたしは思えたのです。

  • 新婚の渥美信一郎が偶然タクシーで乗り合わせ、交通事故で死亡してしまった学生の遺品を受け取り、彼が死の間際に漏らした「瑠璃子」という言葉を耳にする。信一郎は学生の葬儀に参列し、人を圧する威厳と理知的な美しさを併せもつ二十過ぎの未亡人である荘田夫人を目にし、彼女が瑠璃子であることを知る。物語は過去に遡り、気位の高い貧乏華族である唐沢男爵の娘の瑠璃子が、どのようにして年の離れた成金の荘田勝平に嫁いで未亡人になるに至ったかの経緯と、彼女が漂わせる妖しい魅力の源流をたどる。そして再び現在、多くの男友達にかしずかれる瑠璃子に魅了されつつある信一郎の視点に戻る。

    大正九年の新聞紙上で連載された小説。作者にとって初の本格的な「通俗小説」とされており、そのことを意識してか、作中にも登場人物たちが通俗小説の定義をめぐって論争をするシーンがあります。そのことを最も強く感じた場面は終局、瑠璃子を中心とした主要人物に対する解釈が作者によって定められている点でした。語りようによっては判断を読み手に委ねることができる作品について回答まで提示しているのは、娯楽作品を志向した作者の明確な意図によるものなのでしょう。ちょうど一世紀前の分量も少なくない作品にもかかわらず、違和感なくサクサクと読み進められたのは、作者の試みが成功した証かもしれません。

  • はじめて読んだ、菊池寛氏の作品。妻がなぜかブックオフで手当てり次第に買ってきた。

    文の作り方が、非常に上手である。さすが、としか言いようがない。特筆すべきは、読点の打ち方である。ここしかない、というところにすっと打たれており、文が少々長くなっても、内容が1度で必ず理解できた。新聞小説でこのクオリティーは、他の追随を許さないだろう。

    私は何冊かの本を同時に読むのが好きで、この本は主に歯磨きのお供の本だった。そのため一日に数ページしか読み進められないことも多かったが、ストーリーを一度も忘れなかったのは、文の一つ一つが引き締まっていたためだと思われる。

    ストーリーは、まぁ大正時代の女性観がよくわかるな、ぐらいのもの。

  • 当時の新聞連載だけあって、とにかく引き込まれる展開、そして速度(勢い)。
    明治の煌びやかな雰囲気と、そして真珠夫人の影と孤独が対比してとても美しい作品だと思った。
    一つの事実をどう捉えるか、誰が見るのか、その視点によってこんなにも印象が変わるのか、と気付かされる作品。
    個人的には「ドガ」と「ゴヤ」のミスも、当時ならではと思って楽しくなった。

  • 大正9年に新聞に連載され、その後新潮社から出版されたものの、現在は全集でしか読むことが出来なかったらしい。それが昼ドラマのヒットで文庫本化となったようだ。
    ある園遊会の場で成金オヤジの荘田に睨まれた美しく聡明な瑠璃子と恋人の直也は、荘田の金に物を言わせた謀略によって引き裂かれてしまう。瑠璃子はあえて荘田の妻となり、復讐することを誓う。
    と、これだけでもすでにドロドロ加減が伝わると思うが、この引き込まれるようなドラマ性は本当にすごい。瑠璃子は妖婦か否か、誰かと論議を戦わせて見たいものだ。

  • リズム良く、グイグイと引き込まれるストーリー。キャラ設定が萌える。父を踏襲した、瑠璃子。母であり、姉であり、最後には夫をも彷彿とさせる、美奈子への愛。名前のように、色々な青を着こなすファッションセンス。瑠璃子がただただ美しい。

  • 物語の中でハラハラドキドキさせる展開は良かったと思いますが、作者が意図して通俗小説として書いている事が分かるぐらいに文章は淡々としています。少し物足りないぐらいです。それは多分、昼ドラが流行った時代に私が昼ドラを見過ぎていたので、物語としては慣れてしまっていたからじゃないでしょうか。
     語り手の渥美氏が青木稔の殺人を促してしまう様な構成だとは思わなかったので、そこは意外でしたが冷静に考えると悲劇的な要素はそこで埋まったという感じです。上品に語句や話し手の言葉を使える作者だと思いました。

  • 2014.08.31 菊池寛『恩讐の彼方に』を検索していて見つける。

  • 運命に翻弄され周囲を翻弄した一人の女性の人生を描いた良作。昼ドラ的なドロドロした愛憎劇を想像していたが全くそんなことはなかった。妖婦と呼ばれ男を誑かす瑠璃子は、実際のところ初恋の男への操を守り養女に対し惜しみない愛を注ぐ一人の女性であった。その功罪を周囲の視点を交えながら上手く描いている。

  • 自分と恋人がある成金男性を侮辱したことで生活をめちゃくちゃにされ、その男性ひいては社会に対して復讐をする話。
    法に背かない範囲で父までも追い詰めた相手に敢えて嫁ぐことにより精神的な苦痛を与え復讐をしようと考えるが、相手はあっけなく死んでしまう。
    いつのまにか矛先は、男は女を弄んでも良いけど逆はダメ、な社会に対して、自分が男を弄ぶことによって意見するようになるのだが、最終的には恨みを買って悲劇が起こる。
    それぞれがなんだか幼く、意地にこだわってみたり我を押し通してみたりが絡まり合って最後はひどい結末。

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著者プロフィール

菊池寛

一八八八年(明治二十一)香川県生まれ。本名・寛(ひろし)。第一高等学校を中退後、京都帝国大学英文科に入学。芥川龍之介、久米正雄らと第三次、第四次『新思潮』に参加。京大を卒業後、時事新報社に勤務するかたわら小説を発表、『無名作家の日記』『忠直卿行状記』『恩讐の彼方に』などで世評を得る。一九二〇年(大正九)に発表した『真珠夫人』が成功をおさめ、以後、約五十篇に及ぶ通俗小説を発表。その他の小説・戯曲に『父帰る』『藤十郎の恋』『蘭学事始』『入れ札』などがある。雑誌『文藝春秋』の創刊、文藝家協会の設立、芥川賞・直木賞の創設、映画事業への参画など、多方面に活躍した。一九四八年(昭和二十三)死去。

「2021年 『受難華』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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