伯林蝋人形館 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2009年8月4日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (400ページ) / ISBN・EAN: 9784167440091

みんなの感想まとめ

複雑な構成と多様な視点で描かれるこの物語は、1920年代のドイツを舞台に、運命に翻弄される人々のドラマを紡ぎ出します。登場人物たちがそれぞれの欲望や苦悩を抱え、時に美しく、時に退廃的な世界に生きる様子...

感想・レビュー・書評

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  • 「全ての物語を書き終えたものには、自殺の特権を与えよう」……なんて甘美な。

    皆川博子による「伯林蝋人形館」。
    その後、ふたたび現れる「伯林蝋人形館」のタイトル。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    書簡。

    こういうかたちで、同じ出来事を別の人物から描きなおし描きなおしていく。
    その後、本自体の仕掛けに気づかされる最終章「書簡」。
    おお。
    本書に関しては解説もありがたい。

    アルトゥール。
    ナターリャ。
    フーゴー。
    ヨハン。
    テオ。
    ハインリヒ。
    マティアス。
    ツェツィリエ。
    おお。

  • 1920年代のドイツを舞台に、6人の人物のそれぞれの視点で語られる連作短編集・・・と思いきや、実はある人物による小説内小説だったという複雑な構成で、語られる時間も少しずつズレているせいで、まるで複雑怪奇な迷路に迷いこんだよう。でもそれが物語が進むにつれて徐々に解れてゆく感じがなんともいえず読書の醍醐味を味あわせてくれます。濃密で贅沢。

    実際の歴史(戦争)を背景にしながらも、熱帯植物園や蝋人形館、沼のイメージ、麻薬に溺れる青年詩人、そして美しい少年士官、と紡がれるイメージはゴシックにして耽美。

    結局は、一人の女性が演出した、壮大な愛の告白劇だったのかもしれないけれど、登場人物が皆魅力的で、操り人形のように運命の糸にたぐりよせられ踊らされる彼らの、人間ドラマに惹きつけられます。

  • おぞましいのに覚めたくない悪夢。それは過去に囚われ抜け出せない時の、嫌悪感とセットの悦楽にも似ている。蝋人形という、いっときの姿形を具現化して固定するメインモチーフもこの読後感を象徴しているように思えた。

  • 感想を書き忘れていたことに気が付いて驚いている。本書は現在わたしが皆川作品の中で最も愛読しているものであり、幻想に踏み出すわたしの危なっかしい一歩を、整然とした理論の上に支える一冊である。熟慮と練達の上に描かれる風景は生々しく、すべてが明かされるラストには思わずあっと言わされる。すべてが偽りである可能性を残しているのが、この作者の筆力の凄まじさを感じさせる。醜い場面をいくつも描きながら、しかし、硝子のように澄んだものを透かしてみせるのである。

  • 当時、ベルリンを覆っていた退廃と優雅さを味わえる本。

  • 戦争というグロテスクなものから縦横無尽に吐き出された糸が少しずつ紡がれ、おそろしくも何か美しいものを作り出しいく様を見ているような感じ。何が真実でどこからが創作なのかわからなくなりながらも、その中を漂う恍惚だけがある。読書という行為はこんなにも贅沢なものだったのかと皆川作品を読むたびに思う。

  • ああ、ドイツ!戦間期!なんて蠱惑的な時代と場所。
    完全に皆川ワールドにどっぷりで二つの大戦期のドイツにはまり始めている。

    物語は迷宮のようで、度々前のページを繰り直す。
    後半になるほど登場人物たちの関係性が見えてくる。
    (解説の年表は、確かに野暮だけどありがたくもあるw)
    皆が一方通行の想いを抱えてる。
    現実と折り合いをつけられる人種とつけられない人種。
    ツェツィリエのように、傍観者観察者でありたいという願望は理解できる。当事者でないことの嫉妬や寂しさも内包しているのに同時に全てを知る神のような優越感にも浸ってしまうっていう感じ。
    結局それは崩壊を呼んでしまうのだけど。

  • 1920年代のドイツ、ベルリンが舞台。混沌とした時代を生きる男女6人。それぞれの目線からなる幻想的な短編と、付随する作者略歴で構成されている。幻想と現実を行ったり来たりしながら徐々に全体像が見えてくるのが絶妙。内容は少し複雑だったが相変わらずの美しい文章と世界観だった。

  • 複数の視点が交錯しながら時が過ぎてゆく中に、退廃的というか耽美的というか、独特の世界が感じられた作品でした。

  • ナチス台頭前夜の混乱のドイツ。複数の人物視点で語られる物語はよくありますが、こんなにも複雑に入り組んで、しかもミステリーかと錯覚するほど巧妙に仕組まれた構成は滅多にありません。読み進めるうちに、妙に抜け落ちた部分が見つかって嵌っていくパズルのような快感がありました。解説の「年表」が答え合わせともなり、親切です。やっぱり皆川さん、これも素晴らしかった。

  • 退廃と狂騒が錯乱するナチス台頭前夜のベルリン。危うくせめぎあう生と死の均衡。じっとり絡む濃密な空気に眩暈を覚えながらも堪能。未だ幻惑に囚われたまま。まるで麻薬のような小説。

  • 結構ページを行ったり来たりしながら読んでました。ハインリヒの話は、アルトゥールとナターリャに対する愛が透けて見えるなあ、と感じました。
    ツェツィリエの話とハインリヒの手紙で、すべての真相が明かされるわけですが、すっきりすると言うよりかは、幻想的な気分に浸る感じでした。

  • 登場人物一人一人に焦点を当てた章立て。短編+作者略歴で構成。
    各章の情報・人物関係を自分の頭の中で少しずつ繋げていかないと主軸のストーリーがはっきり見えてこない。しかも、幻想と事実が入り混じったような部分が多くさらにやっかい。何度もページを戻りながら読みました。

    さすが皆川さん、というような複雑な物語。
    最後に解説者によって年表が作られているので解りやすい。

    ヨハン・アイスラーは「薔薇密室」にも登場。
    ユーデト&「刑吏の娘」は聖餐城から?それとも元ネタあるんでしょうか?

    すべてツェツィリエの書いた「作品」。短編(太字)部分はフィクションも交じっている。

  • また違う雰囲気の話を読みたくなって。
    六人の異なった視点から書かれた短編集……のように見えるけど、実は一人の青年を中心としたひとつの話、と言っていいと思う。
    すごく幻想的ではあるんですけど、土台の物語がかっちり出来ているので破綻しないというか、その幻想に酔えなくても十分に楽しめる感じ。
    この一話一話読み進むごとに、複雑だと思っていた(いや複雑なんですが)人間関係が見えてくる感じはさすがの一言です。
    あと背景になっている1920年代のベルリンの描写が素晴らしい! やっぱり世界観て大事ですよね。

  • 複数の登場人物の視点による短編から成る一つの物語。
    解説の方が作ってくれた年表が、とても役立ちました。
    舞台は、第一次大戦後のドイツ。
    そんな混沌の時代に生きる、6人の男女。
    それぞれの思惑は当然違うから、読んでいて混乱する。
    久々に頭を使いました。
    皆川博子は、やっぱり凄い。

  • 再読。

    錯綜する時間と、人の心。
    一章、二章と読み進めるうちに、得体の知れない沼の中に入り込んでしまう感覚。
    どれが現実で、どれが夢なのか分からなくなるのだ。
    それでいて、第一次世界大戦前後の生々しくも凄惨な戦争や、庶民の日々の暮らしの描写は的確。
    読者は当時のベルリンの倦みを孕んだ熱気に身を浸しながら、出てくる人物たちの愛と絶望に寄り沿う。

    ここまで緻密に物語を組み立てる、その手腕にただただ感服。
    すべての話の細部が、食み合うように絡み合い、一篇の豪奢な織物のような物語を紡ぎ上げている。
    時代背景描写の重厚さ、人物描写の深遠さ、さらにはすべてが幻想とも取れる人物たちの喜怒哀楽の耽美さ。

    みんな、誰かが誰かを熱烈に慕い、絡み合って果てていく。
    その様は、意図的に繰り返される熱帯植物園の様子にも似ている。
    淫らで、よじれて、闇が吹き出す。

    ツェツィリエ切ねぇなあ~;;
    アルトゥールが、あそこまでヨハンを恋い慕わなければ、これら絡み合った亜熱帯性植物の蔓のような呪縛は生まれなかったんでしょうかね……?
    とはいえ、時代背景も細かく書かれているので、無垢な青年らが堕ちていくその様も納得できるところがスゴイのだ。

    完璧です。
    皆川先生、恐るべし。

  • 正直外国を舞台にした話は苦手(というかカタカナが多用されるのが苦手w)なのでどうしようかな、とも思ったが、前に読んだこの方の短編集の面白さを覚えていたので。

    第二次大戦後のドイツが舞台となっていたせいで時代背景がわからず、カタカナも多く、第一章でまず一度読むのをやめようとして、でも読み続けて見ればなるほど、これは面白い。
    構成自体が変わった形態をとっていたのもあとあと考えると震えるほどよくできていて、感動した。
    前に短編を読んだ時同様、このひとの頭の中はどうなっているんだろうと思ってしまう。これだけ幻想的な、ある意味幻覚のような後味を残す小説は、すごい。

    個人的にはアルトゥールとヨハンの関係、ヨハンとマティアスの関係、マティアスとツェツィリエの関係という3つの他の介在を許さないような深い関わり合いが好きだった。
    しかし全く予備知識のない戦後のドイツの話に、まさかこれほど夢中になるとはなぁ。
    作者のもつ知識量のおかげかもしれない。

    ■概略
    第一次世界大戦に敗れたドイツ。
    極端なインフレと共産主義との闘いで混迷するなか、退廃的な文化も爛熟を深めてゆく。
    持とプロイセン貴族の士官で戦後はジゴロとして無為に生きるアルトゥール――彼を巡って紡がれた、視点の異なる6つの物語の中に、ナチス台頭直前の1920年代のドイツの幻影と現実が描かれる。

  • この世界観…やっぱり大好きだ…

  • 6つの視点から描かれる1つの物語。

    さまざまな視点から描かれているので最初は手探り状態。なのでなかなか読み進めづらかった。でも他の視点と重なっている部分が出てくると、物語の輪郭が見えてくる。

    退廃的でほの暗く、それでいて激動的なストーリーが魅力的。
    すべてを知ったあとで、もう一度読みたくなる作品。

  •  第1次世界大戦後のドイツを舞台にした、幻想小説。

     それまで信じていたもの全てが壊れ、経済も立ち行かなくなった中で、それでも人は、幻想にすがってまで生きていこうとするのか。
     1920年代のドイツは退廃的であったというが、結局それは八方ふさがりの中で逃げ場を求めた所以なのではないか。

     ということを、美麗な文章と確かな構成力で訴えてきます。
     
     主人公は、士官学校出で戦後ジゴロにまで身を落とした青年なのだけど、彼の死にたがってる姿はむしろ、生きようとあがいている姿のようにさえ思える。
     もっと、これは色々に仕掛けがあるので、目の前で見てるものが確かものであるとはいえないのだけどね。

     やっぱり、皆川博子はすごいです。
     なんというか、退廃を描いていても、瑞々しいのがすごい。

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著者プロフィール

皆川 博子(みながわ・ひろこ):1930年旧朝鮮京城生まれ。72年『海と十字架』でデビュー。73年「アルカディアの夏」で小説現代新人賞受賞。86年『恋紅』で直木賞、90年『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、98年『死の泉』で吉川英治文学賞、ほか多数の文学賞を受賞。著書に『聖餐城』『海賊女王』『風配図 WIND ROSE』『天涯図書館』など。

「2024年 『大江戸綺譚 時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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