- Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167440091
感想・レビュー・書評
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1920年代のドイツを舞台に、6人の人物のそれぞれの視点で語られる連作短編集・・・と思いきや、実はある人物による小説内小説だったという複雑な構成で、語られる時間も少しずつズレているせいで、まるで複雑怪奇な迷路に迷いこんだよう。でもそれが物語が進むにつれて徐々に解れてゆく感じがなんともいえず読書の醍醐味を味あわせてくれます。濃密で贅沢。
実際の歴史(戦争)を背景にしながらも、熱帯植物園や蝋人形館、沼のイメージ、麻薬に溺れる青年詩人、そして美しい少年士官、と紡がれるイメージはゴシックにして耽美。
結局は、一人の女性が演出した、壮大な愛の告白劇だったのかもしれないけれど、登場人物が皆魅力的で、操り人形のように運命の糸にたぐりよせられ踊らされる彼らの、人間ドラマに惹きつけられます。 -
おぞましいのに覚めたくない悪夢。それは過去に囚われ抜け出せない時の、嫌悪感とセットの悦楽にも似ている。蝋人形という、いっときの姿形を具現化して固定するメインモチーフもこの読後感を象徴しているように思えた。
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感想を書き忘れていたことに気が付いて驚いている。本書は現在わたしが皆川作品の中で最も愛読しているものであり、幻想に踏み出すわたしの危なっかしい一歩を、整然とした理論の上に支える一冊である。熟慮と練達の上に描かれる風景は生々しく、すべてが明かされるラストには思わずあっと言わされる。すべてが偽りである可能性を残しているのが、この作者の筆力の凄まじさを感じさせる。醜い場面をいくつも描きながら、しかし、硝子のように澄んだものを透かしてみせるのである。
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当時、ベルリンを覆っていた退廃と優雅さを味わえる本。
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戦争というグロテスクなものから縦横無尽に吐き出された糸が少しずつ紡がれ、おそろしくも何か美しいものを作り出しいく様を見ているような感じ。何が真実でどこからが創作なのかわからなくなりながらも、その中を漂う恍惚だけがある。読書という行為はこんなにも贅沢なものだったのかと皆川作品を読むたびに思う。
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1920年代のドイツ、ベルリンが舞台。混沌とした時代を生きる男女6人。それぞれの目線からなる幻想的な短編と、付随する作者略歴で構成されている。幻想と現実を行ったり来たりしながら徐々に全体像が見えてくるのが絶妙。内容は少し複雑だったが相変わらずの美しい文章と世界観だった。
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複数の視点が交錯しながら時が過ぎてゆく中に、退廃的というか耽美的というか、独特の世界が感じられた作品でした。
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ナチス台頭前夜の混乱のドイツ。複数の人物視点で語られる物語はよくありますが、こんなにも複雑に入り組んで、しかもミステリーかと錯覚するほど巧妙に仕組まれた構成は滅多にありません。読み進めるうちに、妙に抜け落ちた部分が見つかって嵌っていくパズルのような快感がありました。解説の「年表」が答え合わせともなり、親切です。やっぱり皆川さん、これも素晴らしかった。