伯林蝋人形館 (文春文庫 み 13-9)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167440091

感想・レビュー・書評

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  • 「全ての物語を書き終えたものには、自殺の特権を与えよう」……なんて甘美な。

    皆川博子による「伯林蝋人形館」。
    その後、ふたたび現れる「伯林蝋人形館」のタイトル。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    本編。作者略歴。
    書簡。

    こういうかたちで、同じ出来事を別の人物から描きなおし描きなおしていく。
    その後、本自体の仕掛けに気づかされる最終章「書簡」。
    おお。
    本書に関しては解説もありがたい。

    アルトゥール。
    ナターリャ。
    フーゴー。
    ヨハン。
    テオ。
    ハインリヒ。
    マティアス。
    ツェツィリエ。
    おお。

  • 1920年代のドイツを舞台に、6人の人物のそれぞれの視点で語られる連作短編集・・・と思いきや、実はある人物による小説内小説だったという複雑な構成で、語られる時間も少しずつズレているせいで、まるで複雑怪奇な迷路に迷いこんだよう。でもそれが物語が進むにつれて徐々に解れてゆく感じがなんともいえず読書の醍醐味を味あわせてくれます。濃密で贅沢。

    実際の歴史(戦争)を背景にしながらも、熱帯植物園や蝋人形館、沼のイメージ、麻薬に溺れる青年詩人、そして美しい少年士官、と紡がれるイメージはゴシックにして耽美。

    結局は、一人の女性が演出した、壮大な愛の告白劇だったのかもしれないけれど、登場人物が皆魅力的で、操り人形のように運命の糸にたぐりよせられ踊らされる彼らの、人間ドラマに惹きつけられます。

  • おぞましいのに覚めたくない悪夢。それは過去に囚われ抜け出せない時の、嫌悪感とセットの悦楽にも似ている。蝋人形という、いっときの姿形を具現化して固定するメインモチーフもこの読後感を象徴しているように思えた。

  • 感想を書き忘れていたことに気が付いて驚いている。本書は現在わたしが皆川作品の中で最も愛読しているものであり、幻想に踏み出すわたしの危なっかしい一歩を、整然とした理論の上に支える一冊である。熟慮と練達の上に描かれる風景は生々しく、すべてが明かされるラストには思わずあっと言わされる。すべてが偽りである可能性を残しているのが、この作者の筆力の凄まじさを感じさせる。醜い場面をいくつも描きながら、しかし、硝子のように澄んだものを透かしてみせるのである。

  • 当時、ベルリンを覆っていた退廃と優雅さを味わえる本。

  • 戦争というグロテスクなものから縦横無尽に吐き出された糸が少しずつ紡がれ、おそろしくも何か美しいものを作り出しいく様を見ているような感じ。何が真実でどこからが創作なのかわからなくなりながらも、その中を漂う恍惚だけがある。読書という行為はこんなにも贅沢なものだったのかと皆川作品を読むたびに思う。

  • ああ、ドイツ!戦間期!なんて蠱惑的な時代と場所。
    完全に皆川ワールドにどっぷりで二つの大戦期のドイツにはまり始めている。

    物語は迷宮のようで、度々前のページを繰り直す。
    後半になるほど登場人物たちの関係性が見えてくる。
    (解説の年表は、確かに野暮だけどありがたくもあるw)
    皆が一方通行の想いを抱えてる。
    現実と折り合いをつけられる人種とつけられない人種。
    ツェツィリエのように、傍観者観察者でありたいという願望は理解できる。当事者でないことの嫉妬や寂しさも内包しているのに同時に全てを知る神のような優越感にも浸ってしまうっていう感じ。
    結局それは崩壊を呼んでしまうのだけど。

  • 1920年代のドイツ、ベルリンが舞台。混沌とした時代を生きる男女6人。それぞれの目線からなる幻想的な短編と、付随する作者略歴で構成されている。幻想と現実を行ったり来たりしながら徐々に全体像が見えてくるのが絶妙。内容は少し複雑だったが相変わらずの美しい文章と世界観だった。

  • 複数の視点が交錯しながら時が過ぎてゆく中に、退廃的というか耽美的というか、独特の世界が感じられた作品でした。

  • ナチス台頭前夜の混乱のドイツ。複数の人物視点で語られる物語はよくありますが、こんなにも複雑に入り組んで、しかもミステリーかと錯覚するほど巧妙に仕組まれた構成は滅多にありません。読み進めるうちに、妙に抜け落ちた部分が見つかって嵌っていくパズルのような快感がありました。解説の「年表」が答え合わせともなり、親切です。やっぱり皆川さん、これも素晴らしかった。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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