- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167447069
感想・レビュー・書評
-
古美術品に絡めて、ひと儲けを企む海千山千の山師達が繰り広げる古美術ミステリの連作短編集。
舞台は関西。美術系出版社社員、古道具屋、表具屋、ブローカーと言った金の匂いに敏感な登場人物たちは悪徳業者ばっかりかといえばそうでもなく、読んでるうちに読者は彼らに味方してしまうのが不思議。活き活きとした関西弁の台詞は、ガツガツとした雰囲気もありながら人間味を感じる。そしてオチには思わずニヤリ。
黒川博行というとハードボイルドよりのミステリ作家という印象が強いのだが、美大を卒業して高校の美術教師というと経歴の持主だという。その経験を存分に活かした傑作だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「黒川博行」の連作短篇ミステリ作品『文福茶釜』を読みました。
ここのところ国内のミステリ作品が続いています。
-----story-------------
痛快、古美術ミステリーの傑作登場!
相剥本、ニセの入札目録……欲に憑かれた男たちの手練手管が、ニセモノをホンモノ以上に見せてゆく。
異色のユーモアミステリー!
古美術でひと儲けをたくらむ男たちの騙しあいに容赦はない。
入札目録の図版さしかえ、水墨画を薄く剥いで二枚にする相剥(あいはぎ)本、ブロンズ彫像の分割線のチェック、あらゆる手段を用いて贋作づくりに励む男たちの姿は、ある種感動的ともいえる。
はたして「茶釜」に狸の足は生えるのか?
古美術ミステリーの傑作。
解説「落合健二」
-----------------------
1997年(平成9年)から1998年(平成10年)に、文藝春秋が発行する月刊娯楽小説誌『オール讀物』に発表された6作品が収録されています… 1998年(平成10年)の第121回直木三十五賞候補になった作品です。
■山居静観(さんきょせいかん)
■宗林寂秋(そうりんじゃくしゅう)
■永遠縹渺(えいえんひょうぼう)
■文福茶釜(ぶんぶくちゃがま)
■色絵祥瑞(いろえしょんずい)
■あとがき
■解説 落合健二
関西を舞台にして、古美術の売り買いでの騙し合いをユーモアたっぷりに描く連作短篇でしたねー
水墨画を薄く剥ぎ二枚にする相剥(あいはぎ)を扱った『山居静観』、
利幅が厚い入札目録の図版差し替えを扱った『宗林寂秋』、
複製を前提に製作されるブロンズ像の石膏の原型像を扱った『永遠縹渺』、
旧家から骨董品(今回は茶釜)を騙し取る初出し(うぶだし)屋を扱った『文福茶釜』、
中国の陶磁器の贋作を扱った『色絵祥瑞』、
等々、骨董品を巡って繰り広げられる、海千山千の金の亡者たちの物語を愉しめました… 骨董品に興味がないので、専門用語は辛かったですけどね、でも、奥が深過ぎるので手を出しちゃダメだって、改めて感じましたね。
「黒川博行」は、京都市立芸術大学彫刻科を卒業しているらしいので得意分野なんでしょうね… 骨董好きだったら、もっと愉しめたんだろうなと思います、、、
作品中、繰り返し説かれる「道具屋が道具屋を騙すのは、騙された方が悪い。その代わり客にクレームをつけられたら、売値で買い戻すのが道具屋の仁義」という道具屋のモラルが印象的でした。 -
初めて読んだ黒川博行先生の作品。
びっくりするほど純に欲と金に塗れた5話を収録。
古美術品ミステリーということで掛け軸やら焼き物に関する蘊蓄が面白い。
そもそも黒川先生自身が美大の彫刻科専攻だったとは驚き(p254あとがき より)。
面白かった…のだが、私の場合は美術品に関する必要知識を追うことが先行してしまいミステリーの本筋がいまひとつ頭に入りにくかったことが残念。
再読したらまた違った印象になりそうな予感。
8刷
2021.12.19 -
黒川博行の珍しい短編集。ほとんど詐欺のような美術雑誌の副編集長佐保を中心に、その周辺でのホンモノ・ニセモノの騙し騙されあい。
敦賀市に残る蔵に眠る芦屋の茶釜。そこに「初だし屋」と呼ばれるハイエナがごとき2人組が現れ、不用品の回収と称して、時価500万円とも言われる茶釜をだまし取っていく。その家族からの依頼で、二人組に復讐を計画する…。
短編ということもあり、特に最初の2本で「あ、本物やと思ってたら偽物やったという話か」と納得してしまいがちだが、3本目からは流石にそうはいかんのが黒川流。偽物とわかってからの二転三転を短い中に折り込む超ハイスピードな展開で、飽きさせないというよりは、ついていくのが精一杯な作品が続く。
あとがきに本人が大学時に美術を専攻していたということから、なかなかに背景などをよく調べてあるもんだという点は感心する。そういう調べたものが血肉になっている作品だからこその、文章の深みというものが感じられる辺りは大変よろしい。
ただ、ちょっとハイスピードすぎるんよね。図録の話はもう少しベースの知識を共有してほしかったし、同じような名前の登場人物(末永と末武など)が多すぎるのもちょっとしんどい。
また、黒川作品の魅力でもある、関西弁での会話文がかなり少なく短く、誰が喋ったかという点も省略されがち。物足りない。1冊2篇くらいの中編で良かったのではないかと思う。震災時の石膏像の話は、ちょっと中途半端。
ストーリーは一級だし、テーマやコンゲームのような展開も面白いので、おすすめの作品では有るが、短編で読みやすかろうと手にとって、黒川博行はこんなもんかいと判断されるのなら、他の作品から入られることをおすすめする。 -
内容(「BOOK」データベースより)
古美術でひと儲けをたくらむ男たちの騙しあいに容赦はない。入札目録の図版さしかえ、水墨画を薄く剥いで二枚にする相剥本、ブロンズ彫像の分割線のチェック、あらゆる手段を用いて贋作づくりに励む男たちの姿は、ある種感動的ともいえる。はたして「茶釜」に狸の足は生えるのか?古美術ミステリーの傑作。 -
『今日はきっちり二日酔いや。頭の中でコロポックルが踊ってますねん』
海千山千のわるうい奴しか出てこない。
知らない美術用語が乱発されるにも関わらず、つつつん、と楽に読めるのは大阪弁のなせる業でしょうか。知ってる地名がちょいちょいあるのも嬉し。
ミステリというより、スティングみたいな展開の小噺が5つ。
もっかい読むことはないと思うけど、おもろかったわぁ。 -
美術の真贋とそれを取り巻く様々な人々の話。人脈が真贋の見極めにつながり、それぞれの人がとてもキャラが濃い。97年から98年に発表された短編を集めたものなので、2022年に読むと連絡方法や雑な個人情報の扱いはかえって新鮮に思える。
※評価はすべて3にしています -
書画骨董の古美術取引の詐欺を扱う短編集。
大阪弁もそこまで嫌味ではなくテンポ良く話が進む。これくらいならいい登場人物も分かり易い。
偽作の手口や真贋の見極め、古物商の気概など、リアルな描写が作品を支えている。