ソロンの鬼っ子たち (文春文庫 478-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167478018

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  • “権力より大衆の声を聞け”賢人ソロンの教えは生きているか!?

     向こう見ずで滑稽で反体制的、それでいて自分のやりたいことに関しては辛抱強くて、小器用で小粋ですらある悪漢の高校生を主人公とした“青春ユーモア推理小説”というジャンルを確立した小峰元。

    国家機密情報の“私用”目論む新聞社副社長、やがて連続殺人…

     高校三年生の主人公亀谷章介は、学資稼ぎのため大阪駅近くの東西新聞の事務補助員として働いている。
    四百万部の発行部数を誇る東西新聞社は深刻な経営危機に陥っており、さらに社長と副社長の権力争いで社内がゆれている。
    そこへ、学生運動の組織・革命同志会議から「国の機密文書を買わないか」という連絡が入る。外務省の秘密書類「緊急時における米海軍原潜の修理に関する覚書・案』で、外相の花押まである本物。新聞で発表すれば大スクープだ。総裁選にも影響を与える。
     しかし、その情報を副社長個人が握ろうとしていた。政財界の黒幕に、総裁選を戦う政治家の土産用にその情報を譲り渡し、見返りに巨額の融資を得て、経営危機を乗り切り、社長交替を-という目論見だ。
     だが、機密書類を売る男がアパートの火事場で殺され、書類は行方不明に。副社長の密命をおびた辣腕新聞記者が真相探りに動くが、その前にエリート公安係、元活動家で犯罪のプンプン臭う右翼が現れ、関係者が次々と殺されていく…。

    “情報コントロール”の内幕 元ブンヤならではの筆致で

     小峰元は1921年神戸生まれ。大阪外国語学校を卒業後、教員を経て毎日新聞に入社。「アルキメデスは手を汚さない」で第十九回江戸川乱歩賞を受賞。その後、ギリシャ哲学者の名を題名にとりれた青春ユーモア推理小説を次々に発表する。
     作者が勤務していた毎日新聞は沖縄返還協定の密約をスクープしたが、この行為が裁判となると、何ら本質的でない、記者の個人的関係の追及に終始した。小峰はこうした権力のやり方を苦々しく思ったことだろう。
     ギリシャの賢人ソロンは、いかなる権力者よりも大衆の声を上位に置き、民主主義を確立した。大衆の声を聞く新聞は民主主義の防波堤であり、武器である。しかし、現在の新聞は本当に大衆の立場に立っているだろうか、思い上がってはいないかと、この作品は訴えている。
     新聞記者だった小峰は作品の中で『考えてみるがいい。警察は知らせていいことだけを発表し、知られたくないことは伏せるに決まっているじゃないか。そして記者たちを発表を鵜呑みにするように飼育してしまえば、こんどは知らせたいことだけを強調し、ときには虚偽や無根の事実を撒き散らすことも可能になるではないか。何ものかに、ことに権力側にコントロールされた情報は、も早、情報の名に値しない。むしろ有害な情報だ』と書いている。
     昔気質のプンヤと擲楡されようが、足で歩いて自分で情報を得る。そういう記者がいてこそ、新聞の値打ちがあるというものだろう。
     

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