あの戦争と日本人 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167483210

感想・レビュー・書評

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  • 日本人の気質と戦争との結びつきを考えさせられた

  • このところずっと読み続けている形となる昭和史モノ。
    前回の『日本のいちばん長い日』の流れで半藤一利氏の描く近代日本の姿を主に日露戦争時から第二次世界大戦の終戦までを時系列的に述べたモノである。

    ただの通史ではなく、それぞれの歴史の転機における主導層の動き、考えと世論、新聞、大衆の動き、考えを合わせ、当時の『日本人』というものが情勢をどう捉え、どういう思想を元に、どういう行動をなしたのかということが非常にわかりやすく整理された本である。

    話が変わるがボクはあとがきが好きである。
    なので、中身の読書に入る前にあとがきから読み進めてしまうケースが多い。
    中にはネタバレのようなあとがきもあるが、本書に対する作者の思いというモノがあとがきには書かれているケースが多いので、本全体の雰囲気を最初に捉えておくためにも、はじめにあとがきから読んでおいたほうが、ボクは後々の読書をしやすいのである。

    本書のあとがきではいきなりきな臭い話から始まっている。
    書名である『あの戦争と日本人』。
    なぜ、書名で『あの戦争』という言葉を使ったのか、使わざるを得なかったのか?ということから本書のあとがきは始まっている。

    その理由の中にも自虐史観だのなんだのとボクらが学校で習ってきた『太平洋戦争』という言葉に対する、保守反動的な圧力が働くのだという。
    日本ていつのまにこのような息苦しさを感じる国になったのだろうか?
    いちいち、作者に反論を寄せるのも大変だろうに...。

    それもこれも特に『昭和』という時代についてはまともに歴史を教えてこなかったが故だと思う。

    また、あとがきの中に『非連続』という言葉が綴られている。
    最初にあとがきを読んだときにはサッパリ意味がわからなかったが、本書を読了する中でこの『非連続』が意味することがよく理解できた。

    幕末から明治となり近代日本の夜明けを歴史の授業として習っていく中で、幕末以降の近代日本は明治・大正・昭和と繋がっているという感覚はないだろか?
    ボクは本書を読むまで繋げて理解していたのだ。
    薩長が中心となって明治政府を作り上げ、廃藩置県・富国強兵により天皇を中心とした中央集権的な近代国家として発展を遂げてきた。
    日清・日露・第一次世界大戦により国際的な列強の一角に肩を並べるに至り、世界の利権配分争いにより旧列強(英・米・仏)と新列強(独・伊・日)による第二次世界大戦が引き起こされ、新列強の三国の降伏により終戦。日本はアメリカによる占領政策下で象徴天皇制に基づく立憲君主制で再スタートを切る。
    といった、バカみたいに略しすぎだが明治・大正・昭和(戦前・戦中)までは幕末の薩長の体制を中心として、脈々と繋がってきたという理解なのである。

    それが全くの誤解であるというか、そもそも教えられてこなかったことに驚きだ。
    教えてこなかったのだからある意味当然なのだが、昭和の戦前・戦中までの話が今ひとつ理解できなかった要因に『統帥権』『天皇機関説』というモノがある。
    これまでこの二つのキーワードが出てくるとボクはもぉ〜お手上げだったのだ。
    大日本帝国憲法なるモノを掲げる立憲君主制国家でありながら、なぜ内閣は軍隊の暴走を止められなかったのか?
    統帥権干犯とか言われて軍部に脅されても、内閣には陸相も海相もいるわけだし。天皇自らが作戦を指揮するわけじゃないんだから、参謀本部・軍令部といったって無茶できんでしょ?
    また、天皇機関説がけしからんっ!といってもそもそも、内閣も軍隊も天皇は『玉』としか考えてないでしょ?幕末に倒幕の象徴として担ぎ上げた時代から??
    どの組織でも『天皇』という位であれば今上天皇でなくても代わりの『玉』がいればいいんでしょ?
    そしたら、昔から天皇は『象徴』でしかないじゃないすか。
    天皇機関説のナニが悪いの???
    とボクの灰色の脳味噌はこの二つのキーワードが理解不能でなにが問題なのかすら解らなかったのである。

    それが、本書を読んだことによりすっきりした。よくよくよぉ〜やく理解できたのである。
    やはりキモは『統帥権』なる謎の権利なのだ。
    しかも、この統帥権なるモノは山県有朋の発明により、大日本帝国憲法が作る前から成立していたと。
    要は内閣という行政府が出来る前から軍事に関することは天皇直轄の幕僚組織としてすでに
    独立した機関として成立していたと。
    とすると当然、遅れて成立した憲法なんぞにこの幕僚組織を定義する条項などないに等しいのである。
    国の舵取りを司る行政府のコントロールが一切及ばない外側に日本の軍は存在した。
    『政府の前に軍が存在している。』終戦を迎えるまでの日本はそんな国だったということである。

    また、この憲法以前に統帥権の独立ということが天皇機関説のミソでもあるのだ。
    天皇機関説は『象徴』は象徴であれど、憲法下において天皇を位置づけ、ようは『統帥権の独立を憲法下に再定義する』ということであり、だからこそ陸軍を中心に統帥権干犯を問題視して大騒ぎになったということらしい。

    なるほど、『統帥権』という謎の言葉の意味が効能を理解することによりわかりづらい昭和史というモノが見えやすくなった。
    また、このある意味制限があって無いようなモノである『統帥権』を魔法の杖のように軍が遣い出すことにより、明治以降粛々と成長を続けてきた近代日本と、明治の成果のみを観て生きてきた次の昭和世代に非連続な歴史が垣間見られるということも本書を通して読むと実によく理解できる。


    昭和史が苦手な人はまずこの本から読むべきだと思う。

著者プロフィール

半藤 一利(はんどう かずとし)
1930年、東京府東京市向島区(現在の東京都墨田区)生まれ。東京大学文学部国文科卒業後、文藝春秋新社に入社。編集者として活動しながら匿名記事も記す。1965年に大宅壮一の名義を借りて『日本のいちばん長い日』を執筆、発行。『漫画読本』『増刊文藝春秋』『週刊文春』『文藝春秋』編集長を歴任。1995年に文藝春秋を退社してから作家・評論活動専任となる。
1993年『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、1998年『ノモンハンの夏』で山本七平賞、2006年『昭和史』で毎日出版文化賞特別賞をそれぞれ受賞。2009年の語りおろし『昭和史 1926-1945』『昭和史 戦後篇 1945-1989』はベストセラーとなった。
妻の半藤末利子は、松岡譲と、夏目漱石の長女・筆子の四女で、夏目漱石が義祖父にあたる。

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