約束された場所で (underground2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167502041

感想・レビュー・書評

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  • 52冊目『約束された場所で underground 2』(村上春樹 著、2001年7月、文藝春秋)
    『アンダーグラウンド』(村上春樹 著、1997年3月、講談社)の続編であり、なおかつそれと対をなすノンフィクション。地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめた前作に対し、本作はオウム真理教の信者/元信者へのインタビューをまとめたものとなっている。
    宗教の善悪について考えるきっかけとなる一冊。
    巻末には心理学者・河合隼雄との対談が収録。

    「世界というのはそれぞれの目に映ったもののことではないかと」

  • オウム真理教に関するインタビュー集第2弾。今回は信者や元信者8名のインタビューです。一人一人丁寧に淡々とした筆致でそれぞれの人生が描かれています。
    そこから感じるのはみんな普通の生活を送ってた人なんだということ。
    前著「アンダーグラウンド」とあわせて読むと良いかも。オススメです!

  • オウム事件のインタビュー集。
    思考回路と行動に興味がある私は人はなぜ宗教にひかれるか?というところにも興味があります。
    村上春樹は小説よりエッセイやインタビューの方が好きですがきっと異端な考えなんだろうなあ。。。

  •  村上春樹「これは小説家として思うんですが、ネガティブなところから出てこない物語ってないんですよね。物語の本当の影とか深みとかを出すのはほとんど全部ネガティブなものなんです。ただそれをどこで総体的な世界と調整していくか、どこで一本の線を引くか、それが大きな問題になると思います。そのためにはバランスの感覚がどうしても必要になりますよね。」
     河合隼雄「そうです。そのネガティブなものをかかえこんで、抱きしめている時期が必要なのです。醸成する期間といいますか。そういうものがたっぷりあるほど、それに見合ったポジティブなものが自然に出てきます。それはポジティブなものに関しても言えることですよ。」

    ずしん。

  • 社会不安が増大している、読み時はいまだと思った。
    宗教の話には弱い、妙に怖くなってしまう。けれどこの本は、文章のおかげで興味深くあっという間に読めた。
    河合隼雄さんとの対談もよかった。

    最後には自分が考えないといけない、と、そのためには悪い物語に覆われないように、とおもう。

  • 『アンダーグラウンド』では明言されていなかったが、こちらでは河合氏との対談ではっきりと語られている。つまり、こちら側とあちら側のシステムが通底している部分があるということ。
    村上氏はあちら側とこちら側の壁の薄さを警告しながら「地下鉄サリン事件で人が受けた被害の質はその人が以前から自分の持っていたある種の個人的な被害パターンと呼応したところがある〜」など、自身も、その壁が曖昧になるような発言をしているのが不可解だ。

    オウムに帰依するきっかけとして、体調不良の解消というのが気になる。
    私自身、希少疾患ゆえ長年病名が判明せず大学病院から鍼灸院まで転々としたが、その中で気功やヨガのサークルにも誘われた。そうした場所では「身体と心は密接に繋がっていて、病は心の癖が招くカルマ」的な考えが当然のようにまかり通り(癌は怒りの現れだとか?)更に前世のことまで持ち出され…。 そんなやるせない、苦い記憶が蘇った。

    イエスの時代から治療者を奇跡を起こす人としてカリスマ視してしまう人がいるようだが、私には理解できない心情だ。
    目に見えない力(超能力や千里眼を含む)を全面否定はしない。私自身、気功を受けているが、効果を感じている。
    だからといって、その治療者が人格的に優れているとも、霊的ステージが高い(笑)とも思わない。運動神経が優れていることや絶対音感を持つことと同じようにその才能を認めるだけのことだ。

    功利的で物質主義的な現代社会の中、生真面目で純粋ゆえに生き辛く、こぼれ落ちていく元信者のような人達の受け皿が必要であると河合氏はいうが…。
    現代社会に異を唱えるやり方ならば幾らでもある。私からすれば、社会運動かボランティアでもすれば己の存在意義も得られて一石二鳥だと思うのだけど。このインタビューを読んだ限り、彼らにとってそれは望むところではないようだ。
    思うに彼らは自分のことしか考えていない。自分が救われること、自分が解脱することばかりに興味が行くらしい。
    厳しい修行も己がため。
    結局、スピ系サークルや密教系の勉強会などが受け皿になるのだろう。
    それでもオウムのような事件を起こす団体は稀であろうから(問題点はたったひとつ、タントラ ヴァジラヤーナだけだから)弊害っていってもせいぜい村上氏のいうように「より高い精神レベルにあるという選民意識」を持つぐらいだろう。

    「空しいのは、《功利的な社会》に対してもっとも批判的であるべきはすの者が、言うなれば《論理の功利性》を武器にして、多くの人々を破滅させていったことなのかもしれない」
    このインタビューから15年余り、現在の彼らがどうしているのかそれが知りたい。

  • 2023年4月1日読了。村上春樹が地下鉄サリン事件被害者にインタビューした『アンダーグラウンド』の続編、オウム真理教の信者たちに行ったインタビュー8本と河合隼雄との対談を収録。前作のインタビュイーは62人だったが、教団関係者にコンタクトをとって対談にこぎつけるには相当な労力が必要だったのだろうな…と想像する。著者自身の述懐にもある通り、信者たちは一様にまじめでそれぞれの形で教壇に魅力を感じており(まあ、だから入信したわけだが)「教団のすべてが間違っているわけではない」と考えているのことは、まあその通りだとは思うが、「戦争のすべてが悪いわけではない」みたいな発言のように、特に当事者・関係者としては「そんなことを言う前にやることがあるだろう」という思いが強くなるが、そういうことを彼らに問うても無駄なのだろうなあ…もともと現世に興味がなく解脱を目指した人々に、教義の現実の妥協点・着地点を見いだせ、というのは無理な話。マスコミや一般大衆の無知・いたずらに恐怖をあおるだけの対応は何も生まない、著者のこの試みは小さな取り組みではあるが、日本人・人類にとって有意義なものだったのだと思う。

  • 突風の中に放り込まれたような読書でした。
    多くの人の考え、しかもそれが一般的に「正しくない」と認識されているという前提条件を知った上で、その考えを読むこと。わたし、文章の、言葉の力というのはすごく大きいと思っていて。一度読んでしまったら少なからずわたしのどこかに何かが残ると思うのです。その中で、「わたし」を見失わないように注意しながら読まなくてはいけない。だからものすごく疲れました。本当に興味深い内容で、平易な言葉で書かれていて読みやすくて、なのにこんなにしんどい読書体験ってなかなかない。読み切ることが出来たのは、村上春樹というフィルターがあることへの安心感から。春樹に守られている、河合隼雄が引き戻してくれる、そういう本。

    わたしにとっての「正しさ」が誰かにとっても「正しい」のではない。一人称をそのまま複数形にしてしまうことの危うさ。主語は丁寧に、注意深く扱うべき。あと世界は複雑なのだと思う。すっきりと、綺麗に説明なんて出来るものではなくて、世界を複雑なままに受け入れることが必要だと思う。そして生きていく意味だとか真理だとかは、本当に長い間、それこそ一生をかけて向き合っていくもの。答えの出ないけれど、問い続けるべき問いってあるとわたしは思う。

    オウムの信者・元信者の考えには共感出来るところも、同情してしまうところも、非常に興味深いところもあった。真剣に生きる意味を模索する人々、現代の競争社会・資本主義の経済体制・消費のスピードと効率が何よりも重視される価値観、に合わせていくことの出来ない人に、わたしはとても魅力を感じる。そういう人の受け皿がオウムしかなかったこと。これは完全に社会の欠陥。悪とは何か。世界とは何か。物語の力とは。あらゆることを考えなければならない。わたしは、バランス感覚と身体性を持って、上手に抱え込んで、生きていかなければならない。そんなことを思いました。何度でも立ち返りたい、大切な一冊。

  • 発行元は異なるが、この本は『アンダーグラウンド』の延長線上に位置するものだ。
    そして今回は、「加害者」の視点から地下鉄サリン事件が描き出される構成となっている。語られる物語一つ一つから浮き彫りにされる「内なる『悪』に打ち克つと今度はその外に『悪』が必要になる」という構造は、とても滑稽に思えるだろう。だが、仮に私たちが「悪」を排除さえすれば社会に「正義」がもたらされると考えているのならば、そこにどんな違いがあると言うのだろうか。
    自分の中に潜む「悪」と、どう向き合い、折り合いをつけていくのか――村上(春樹)さんの小説の永遠のテーマのひとつ人間の「暴力性」について、これほど分かりやすく心に訴えかけてくれる本はないだろう。

  • アンダーグラウンドから続けて読みました。自分にとってはすごく「怖さ」のある本で、最近は某宗教団体の問題も色々取り沙汰されているけれど、彼岸と此岸の境目なんてなくて全ては地続きなんだということ、いつ自分が足を踏み入れる分からないということにすごく実感を持ててしまう。もっと言えば踏み入れること自体が悪なのか、結果的に悪しき事件を引き起こすことになったとしても、社会に適合できず他人の用意した物語の中で生きようとすること自体は果たして悪なのか?
    インターネットもより普及し、オウムの存在した時代よりアクセスしやすい「受け皿」はずっと増えたけれど、血肉ある自分の物語を持つことの重要性は増しているのではないかと思いました。
    また河合氏との対談パートがとてもよかった。「会社というのは宗教的な色彩さえある一つのシステムである」「日本人は異質を排除する傾向が強く、時間が経つと『何をまだぶつぶつ言っているんだ』というふうに被害者の方へ敵意を向けてしまう」「麻原が用意した物語に社会が有効な対抗ワクチンを用意できなかった」「内側に悪をもたない組織はやがて外側に悪を置くようになる」「悪を抱えて生きる」など覚えておきたいことが多くあった。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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