若い読者のための短編小説案内 (文春文庫 む 5-7)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167502072

作品紹介・あらすじ

戦後日本の代表的な作家六人の短編小説を、村上春樹さんがまったく新しい視点から読み解く画期的な試みです。「吉行淳之介の不器用さの魅力」「安岡章太郎の作為について」「丸谷才一と変身術」…。自らの創作の秘訣も明かしながら論じる刺激いっぱいの読書案内。

感想・レビュー・書評

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  • この本、タイトルだけ読むと村上春樹が好きな短編をおもしろおかしく紹介してくれる本に思える。 いや実際にそうなのである。しかし、本書は他の作家の作品の評論を通して、村上春樹的小説あるいは小説家の在り方を示した作品と言える。その意味では「職業としての小説家」に近いものはあるだろう。
    自己について語るとき自己自身について語るよりむしろ、他者について深く深く掘り下げていき、他者に対しての自分のスタンスを示すことがかえって自分自身についての解像度をあげる。
    だからこそ、村上春樹自身が紡ぐ長編と同じくらいエッセイや本書のような非小説も同じくらい好きなのだ。
    もちろん吉行淳之介や丸谷才一の作品は是非とも読んでその都会的なタッチ(あるいは不器用さ)を感じてみたくなったが。
    「なにも喜怒哀楽をいちいち描く必要はないんです。そんなもの全部すっぽかしたっていい。ただしそれは伝わってこなくてはならない。」 
    この部分に首がとれるほど頷いてしまった自分がいる。別に創作に限らない。本当に大切なことは明示的にではなく暗喩としてメタファーとして現れる。

  • 私は昔から親の影響で、あまり海外の文学らしい文学に触れたことがない。また、ちょっとかじって読んでみても、なにか違うような気がするなあ、といった根本的な自分にはまらない、みたいな印象を受けてしまって、結構敬遠していた節があります。その代わりといってはなんですが、日本の文学に重点を置いて読んできたつもりだった。特に戦後派の純文学作家たちが私の主な読書体系だった。三島由紀夫とか、大岡昇平とか堀辰雄、さらには遠藤周作、福永武彦、加賀乙彦とか。
    でもこの本を読んで、ああわたしは何も読んではいなかったと思った。ほんとうに、こんな風に本を読む人がいるならば、わたしの読書はもはや読書といえるような代物ではないと。それはもちろん村上春樹はプロの文筆家で、わたしの3倍くらい長く生きてて、文章に対してかけた時間もわたしの1000倍くらいあるでしょう。それにしたって、文学にこんな風な無限の可能性があるのなら、わたしのやってきたことは読書ではないし、わたしは本に向かいあったことなんてないし、その文章を紡いだ作者に対して失礼極まりないなにかをしてしまったような、そんな気さえします。
    可能性を示唆された、というかここまで読み込めるんだよ、という一種の例示としては、抜群の破壊力をもった本であった。今わたしは現在進行形で北杜夫の短編集を読んでいるので、そこから少しでも還元していくことができたら、いいなあ、
    と同時に、どこかの大学でここまで文学をやってくれる先生、いないですか??

  • 恥ずかしならがら、この本が村上春樹氏の本で初めて読んだ本だ。短編小説が読みたいなと思っていた頃、電子書籍の検索でこれがヒットしたので、衝動的にワンクリック購入し、そのまま放置していた本だ。

    特に村上春樹さんを読みたかったわけでもく、「いつもノーベル賞候補にノミネートされる村上さんが、案内してくれる短編小説ならきっと面白いに違いない」という発想で買ったものだ。

    ・・・が、「案内」という意味が違ってた。ブックガイドではなかった。これは、それぞれの作品をどう解釈し、どう味わうか、といった村上春樹流「文学の読み方の案内」というような本だった。ノーベル賞受賞候補・村上春樹氏の文学講演を聞いているようでもあった。

    この本では、次の6編を取り上げている。これらは、いずれも「第三の新人」と呼ばれた作家だそうだ。名前だけは聞いたことがあるという人が数人含まれているが、全員他の作品も含めて一冊も読んだことなし!(汗)。

    吉行淳之介 『水の畔り』
    小島信夫 『馬』
    安岡章太郎 『ガラスの靴』
    庄野潤三 『静物』
    丸谷才一 『樹影譚』
    長谷川四郎 『阿久正の話』

    本書の巻末には、各人の紹介文も掲載されているが、いずれも徴兵されるなど、戦争に巻き込まれた経験をお持ちの方ばかり。世代が違うというのを苦し紛れの言い訳としたい。

    村上氏は、この「第三の新人」と言われる作家の作品で、こういうことをやってみたかったと言っている。
    こういうことというのは、作品をじっくり読みこんで、読みこんだ人達で、その解釈や感想を述べあうことにより、その作品の理解をより深めるというようなことだ。

    本書では、この6編に入る前に、「僕にとっての短編小説」とか「まずはじめに」とかの章がある。であるのに、ここをすっ飛ばして、いきなり「吉行」の章から読み始めてしまったものだから、村上氏が吉行氏の作品にあれやこれやケチをつけたり、勝手に解釈していているのを見て、早計にも「先輩の作品にケチをつけるとは、いくら優れた作家でも、マナー違反じゃないの!」なんて感想をもったわけですが、ちゃんと最初から最後まで読んでみて、誤解が尊敬に変わりました。

    文学を読むということはこういうことなのか?
    小説をさらりと読んでオシマイという習慣の自分には、一つの作品をその著者の背景なども絡ませながら、「その作家がどうしてこういう表現をしたのか」ってなことを推理していく過程を読むのは、推理ゲームのようで非常に面白かった。過程も面白かったし、推理の結果がまた興味深い。

    村上氏は本書の中で、「その作家のはいていた靴に自分の足を入れてみる」というようなことを言っている。また別のところでも、「僕は・・・太宰治も駄目、三島由紀夫も駄目でした。・・・サイズの合わない靴に足を突っ込んでいるような気持ちになってしまう・・・」というようなことを言っている。

    先輩の作品にケチをつけているのではなく(ご自身も上記の作品は最もお気に入りの作品のセレクトだと言われている)、むしろ先輩の作品を教材として研究を尽くされているのだということがよくわかった。

    この本を読んで、そろそろ本当の村上春樹氏の本を読んでみたいなと思ったし、ここで紹介されている中では、丸谷才一氏を読んでみたいなと思った。

  • 本書は、著者が1991年〜1993年にかけてアメリカのプリンストン大学にて週に1コマ大学院の授業を受け持つことになり、小説家として、教えるのではなく“第三の新人“の作品を学生たちと読み込んでディスカッションしよう〜という形で、テキストとして取り上げた作品からいくつかを改めて読み直したものである。(その後、ボストン近郊のタフツ大学でもクラスを半年持つ)

    冒頭の『僕にとっての短編小説』にて、短編小説は長編小説の始動モーターとしての役目を果たすとし、“その女から電話がかかってきたとき、僕は台所に立ってスパゲティーをゆでているところだった“から構想が始まった「ねじまき鳥と火曜日の女たち」は「ねじまき鳥クロニクル」に、「螢」から「ノルウェイの森」に、「街と、その不確かな壁(加筆されて近年になり刊行された。この頃は150枚程度の下書きだった)」から「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」に〜と、短編から長編に繋がった作品を紹介している。

    著者の読書遍歴。主に海外小説を原語で読むが、海外生活を始めてから嫌でも自身が日本人であることを思い知らされ、日本に来る度に日本文学を買い漁る。自然主義的な小説や私小説は苦手で、例えば太宰治、三島由紀夫などは駄目だった。
    逆に心惹かれたのは、第三の新人と呼ばれる、安岡章太郎、小島信夫、吉行淳之介、庄野潤三、遠藤周作など。他は、長谷川四郎、丸谷才一、吉田健一など。

    その後、計6作品を読書案内。
    著者の視点が面白く、もっと読みたくなった。

  • 昔、ファミコンのゲームを持ってなくても攻略本を読むだけで楽しめたように、村上春樹の書評は、その作品を読んでなくても書評のみで独立して楽しんでしまえます。誠実に、真摯に作品と対峙する彼の態度には好感が持てますし、精緻かつ豊かなアプローチで小説を解きほぐすさまには大いに感銘を受けました。小説が好きな人におすすめです。小島信夫と庄野潤三は、名前すら知りませんでした。『馬』も『静物』も読んでみようと思います。

  • 僕自身は、作家の発言というものは多かれ少なかれみんな嘘だと思っています、と書いてある部分がありました。
    村上春樹さんの小説指南書2冊を読んで、私が感じたことそのままで、笑えました。

  • 村上春樹が、第三の新人と呼ばれる作家たちの短編小説についての解説する本。読んでみると、すべての作家、作品が魅力的に思えてくるから不思議。

  • はるきんの小説の読み方が垣間見れる1冊。こんな読み方があるのか、、!と授業を聞いているような感覚で読めて、なんだか新鮮な読書体験だった。

  • 文体は(村上春樹特有の)比喩が多くてあまり好きではないが、それはさておき内容はそれなりに面白い。「作家の内なる『狂気』が作家自身を駆り立てた結果、ある種の破綻の顕われとしてできあがるもの」という小説の本質に関する見解は、かなり定まったものであるらしい(阿部公彦氏の著作にも同様の記述があったことを憶えている)。庄野潤三「静物」および丸谷才一「樹影譚」は読んでみたいと思った。

  • 小説と、書き手の分析が面白くて、へー、こういう見方面白いな、個人の思想や思考の、小説への反映のされ方とか、なるほどな、と、たくさん感じました。
    が、惜しむらくは、分析の題材となった小説が、ぽいっと!簡単に手に入りにくいことでした、、、
    これらの小説を読んでもう一度読むと、何度も読むたびに気付かされることがありそうです。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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