旅をする木 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2895
レビュー : 350
  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167515027

作品紹介・あらすじ

広大な大地と海に囲まれ、正確に季節がめぐるアラスカ。1978年に初めて降り立った時から、その美しくも厳しい自然と動物たちの生き様を写真に撮る日々。その中で出会ったアラスカ先住民族の人々や開拓時代にやってきた白人たちの生と死が隣り合わせの生活を、静かでかつ味わい深い言葉で綴る33篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • アラスカの大地の中で語る星野さんの静かな声に耳を傾けていると、いつしか自分も同じ世界に存在しているような感覚になる。本のページをめくりながら、アラスカの地図を横に広げ、ああ、ここがユーコン川で、フェアバンクスはここか、西にはベーリング海、と一緒に旅をしていました。

    太古に自然から離れ、自分たちの都合に合わせ、自然を従え、制御し、変化させていると錯覚してしまう人という存在。人の非力な営みなど吹き飛んでしまう、圧倒的な大きさと、悠久の時間で語る自然を前にして、無力で小さな存在であることを知るとき、鳥や狼や熊、他の生き物と同じように生かされているという感覚を持つのか。

    吹きすぎていく風の音と自分の存在だけ、自然の中に包み込まれるような感覚がとても静かで穏やか。このような感覚を味わった後は、毎日目にする木々や鳥の声、身を屈めると見えてくる無数の虫たちの営みを、静かに見つめることができるのではないか。自分が自然の一部であり、生き死にも深くかかわる共生という視点。

    自然に抗うことなく、自らも自然の一部として生かされているという感覚を大切にしたアラスカインディアンの方たちとの生活。時の流れで変化しているとはいえ、自然に対する畏敬の念は忘れていない。アラスカの地に根付き彼らとの生活を愛した星野さんの姿が、静かな語りを通して伝わってくる。

    黒部川の源流、山深く旅した時の感覚を思い出しました。
    いつの日にか、白い大地の中でゆらめくオーロラを見てみたい。

    • naosampoさん
      アラスカ、行ってみたいですね。若い頃に読んでたら、たぶんアラスカ行ってました。そう思って高校一年生の甥っ子に贈ったら、あんまり反応ありません...
      アラスカ、行ってみたいですね。若い頃に読んでたら、たぶんアラスカ行ってました。そう思って高校一年生の甥っ子に贈ったら、あんまり反応ありませんでした。笑。写真集にすればよかったかな。ステキなレビューありがとうございました。
      2016/03/15
    • 8minaさん
      naosampoさん
      こんにちは、コメントと沢山の訪問ありがとうございました。海外に出る必要があり、久しぶりに開けました。本を送り喜んでも...
      naosampoさん
      こんにちは、コメントと沢山の訪問ありがとうございました。海外に出る必要があり、久しぶりに開けました。本を送り喜んでもらえるのは素敵ですね。今回海外に移動する際にもお気に入りの蔵書を何冊か、大事な友人に贈りました。
      2016/03/17
  • アラスカの大自然を愛した写真家・星野道夫のエッセイ。
    星野さんの写真が好きな母の影響で、実家にあった写真集を眺めることはあったのですが、エッセイを読むのは初めてです。

    同じ瞬間に世界のどこかで別の時間が流れている。
    それは、巨大な氷山が轟音とともに削れる瞬間かもしれないし、新たな生命の誕生の瞬間かもしれない。
    山歩きをはじめてから、眼前に広がる雄大な景色に圧倒されることが増えましたが、そんな風景の中で同じ瞬間になにかが起こっているかも…と考えるだけで、ともすれば自分の周囲のことばかりが気になってしまう日常に、清涼な風が吹き込む気がしました。

    日本の子どもたちともにルース氷河で過ごすという企画をされていたのだそう。
    氷に囲まれたマイナス20℃の世界で過ごした1週間は、その後の子どもたちにとって忘れられない時間となったのではないでしょうか。
    星野さんとオーロラを見上げることができた子どもたちが本当にうらやましいです。

    星野さんは、生きるということを本当に楽しんでいた人だったのだということが伝わってきました。

  • アラスカの大地に身を置き、移りゆく自然が織り成す姿と
    そこに生きる動物たちを写真に捉えることを生業とした、星野道夫さんの綴る
    エッセイ集です。

    またいつものように地図を広げて。
    星野さんが辿ったアラスカの各地を、一緒に旅するように
    地図の上をなぞりながら、雄大な大地と海、そしてそこに生きる
    動物たちとともに生きていく星野さんを想像して楽しみました。

    高校生の時に出会ったある一枚の写真をきっかけに、アラスカへの
    第一歩を踏み出した星野さん。その少々無謀ともいえるような第一歩も
    そしてその後、アラスカで生活をしながらアラスカの大自然と
    共存していくことを選択して、アラスカ中を駆け巡っている
    星野さんのバイタリティ溢れる日常も、それはまるで太陽に照らされた
    白銀のように眩しいほど清らかで瑞々しくて、とても爽やかなものに感じられました。
    きっと厳しくもあるだろうに、苦しくもあるだろうに、私の目に映る星野さんは
    いつも大きく構えていて優しい笑顔をこちらに向けている...
    幸福そうな満面の笑みばかりが浮かんできます。

    自分のなんてちっぽけなことか...

    日々の暮らしのつまらないことにあくせくしている自分が
    少々馬鹿らしくも思えてきました。さぁ気持ちを入れ替えなくちゃ!
    星野さんにそう背中を押されているようにも感じて今、とても清々しいです。

    二十代の頃、アラスカに行きたい絶対に行くんだ!と、我ながら
    結構強い気持ちで夢見ていたことも懐かしく思い出しています。
    なのにいまだ実現させる兆しのない自分に、なんとミーハーで甘ちゃんな
    単なる憧れに過ぎないことだったのかと、いささか恥ずかしい気持ちにもなって....。
    それでも星野さんのお話を読むにつれ、アラスカの大地に一度立ってみたいという
    あの頃の想いに変わりはないと再認識しています。やっぱりできるものなら...!

    "いいか、ナオコ、これがぼくの短いアドバイスだよ。
    寒いことが人の気持ちを暖めるんだ。
    離れてることが人と人とを近づけるんだ"

    一生の伴侶をアラスカに迎え
    極寒の地の果てに来て、心細そうにしている愛する人へかけた星野さんの言葉は
    何よりも温かでした。

  • 幼少のころ、どこかの山に遊びに行ったとき、ほの暗い森の奥にユリがすくっと立って咲いていることにひどく驚愕したことがあります。そこだけスポットライトがあったたように鮮やかで、凛とした佇まい、まるで時間が止まってしまったようでした。花屋にならぶわけでもなく、花瓶に活けられるわけでもなく、誰一人として愛でることもないようなこんな場所に、一体何のためにユリはこんなにきれいに咲いているのだろう? それからふと鬱蒼とした森の奥を、息を殺して眺めまわしているうちに、なんだかとても恐ろしくなって立ち竦んでしまったものです。

    思えば子どものころ、近場や遠方の自然をよく見せてくれた親に、いまごろになって感謝している私です(もっと早く気づけよ~)。海にしても川にしても山にしても、ただそこに存在している自然、まるで人間を拒絶するかのような自然、おまえがどう思おうが、おまえがどう生きようが俺には関係ないぞ、と言われているような、なんとも名状しがたい畏怖の念……。

    大自然のアラスカの地に生きた星野さんの本を手にとってみると、その文章はひたすら優しく(易しく)て瑞々しい。読んでいるうちに本の中に吸い込まれそうになります。太古からアラスカの地に連綿と生きる狩猟民イヌット(エスキモー)やインディアンの多様な生き方を、そして多くの野生動物や天空の星空やオーロラを彼は愛してやみません。その詩情はあまりにも豊かで、まるで悠久のときを生きている自然の一部のようです。読みながら思わず涙が出てしまいます。

    「……私たちが生きていくということは、誰を犠牲にして自分自身が生き延びるのかという、終わりのない日々の選択である。生命体の本質とは、他者を殺して食べることにあるからだ。近代社会の中では見えにくいその約束を、最もストレートに受けとめなければならないのが狩猟民である。約束とは、言いかえれば血の匂いであり、悲しみという言葉に置きかえてもよい。そして、その悲しみの中から生まれたものが古代からの神話なのだろう。
     動物たちに対する償いと儀式を通し、その霊をなぐさめ、いつかまた戻ってきて、ふたたび犠牲になってくれることを祈るのだ。つまり、この世の掟であるその無言の悲しみに、もし私たちが耳をすますことができなければ、たとえ一生野山を歩きまわろうとも、机の上で考え続けても、人間と自然の関わりを本当に理解することはできないのではないだろうか。人はその土地に生きる他者の生命をうばい、その血を自分の中に取り入れることで、より深く大地と連なることができる。そしてその行為をやめたとき、人の心はその自然から本質的にはなれてゆくのかもしれない……」

    長年の念願かなってアラスカを訪ねてみると、子どものころの衝撃や不思議な感覚を思い起こし、ただただ目の前に広がる壮大な自然にひれ伏してしまうような感慨を覚えました。地響きのような軋みと、雷鳴さながら轟きをあげて海に崩れ落ちていく何万年前の青い氷河、その氷塊の浮き島にちょこんとたたずむ海鳥、高い崖地のわずかな草を求めて食べ歩くドールシープ、独り冬ごもりのために一心不乱にブルーベリーをむさぼる熊、そして産卵のために遡上したおびただしい数の鮭。澄んだ川の中に動く黒い帯のようにびっしり連なっています。その川べりには命を繋いで力尽きたむくろが横たわり、小動物や鳥の餌になり、あるいはまた森や川に滋養を与えているのでしょう。ひたむきな彼らをじっと眺めていると、どうも胸がつまってうまく言葉をみつけることができません。ただ、すっかり変わり果てたむくろも、ときおり川の風が運んでくる朽ちていく臭いも、その自然の中に深く溶け込んで巡っているものだと思えて、なんだか愛おしくなりました。

    厳しく優しい自然と、その自然の中で失った多くの友、死すべき人間のはかなさを肌身に感じてきた星野さん。彼も熊に襲われ落命しています。なんとも厳しい自然の掟に悔やんでしまいます。でも彼が残してくれた散文詩のような素晴らしいエッセイと、自然の輝きの一瞬間をとらえた写真を通して、彼の深い宇宙観に触れることができるのは、なんて幸せなことだろう~と思うこのごろです。
    自然が好きな方はもとより、日々の生活に疲れてしまった人にもお薦めしたい♪

  • 自分を惹きつけてやまないアラスカに単身で渡り居を構え、大好きなヒグマの撮影をしながら自然の神秘を肌で感じられる数々の旅をし、しかし最期は不運にもそのヒグマに襲われて43歳の若さで亡くなった写真家、星野道夫さんの言わずとしれた名著です。

    33篇収録されているこの本には、様々な地を訪れそこで素晴らしい風景を見たり素敵な人と出会ったことなど、筆者にとっての日常が何の脚色もなく書かれています。ひとりの赤の他人の日常が、たとえ生きた時間は長くなかったとしても、それがいかに濃密で素晴らしいものであったかを読み知ることで、人生で大切なのはどれだけ長く生きたかではなく、その瞬間をどれだけ濃く楽しく過ごしたかである、ということを認識させられます。
    不慮の事故であるので、こんな言い方はもしかしたら不謹慎かもしれないけれど、本の中にでてくる筆者の「相手は自然なんだから、それはしょうがないんじゃないか」という言葉に表れているように、厳しくて公正な自然を敬いその自然の中で生きたこの著者にとって、そういう最期の迎え方というのはある意味では幸福なことだったのではないかと思います。

    文章が美しくリアリティーがあり、読者は、著者が各地で見た風景や嗅いだ匂い、筆者が感じた人生の幸福感を、本を通じて体感することができます。この文庫本をいつでもポケットに入れて外出先で空いた時間にお気に入りの一篇を読めば、たちまちアラスカの大地に降り立った気分になれるような、そんな本です。

  • 「です」「ます」調で書かれたⅠ章は、まるで、古い友人から久しぶりに届いた手紙のよう。
    Ⅱ章、Ⅲ章は、アラスカが好きで旅をし、やがて定住してしまう著者が、アラスカで出会った人々との交流や、旅の体験を清涼に綴ったエッセイ。
    恩恵に満ちた自然と、自然の中で暮らす人々と出会えた喜び、幸運を繰り返し書いてあり、読者もその幸福に取り込まれてしまう。旅の途中、あるいは午後のまどろみの中で、一遍一遍をじっくり味わうのは、読書の喜びであり、珠玉のひと時といっていい。

  • 再読。
    文章も内容も見事。
    アラスカの風が私の心を吹き抜け、しーんと冷えた。
    淋しくもあるけれど、同時に余計な物事を払って冴えた目で、大切なものに情を注げる柔らかな気持ちでもある。

    「人と出会い、その人間を好きになればなるほど、風景は広がりと深さをもってきます。やはり世界は無限の広がりを内包していると思いたいものです。」

  • はじめて読みました。
    何とも言えず、良いです。
    アラスカの自然、先住民族の人びと、友人たち、動物たち、生と死。
    北海道地震の、今この時期に読んで、良かったなと思います。

    大きなキャラバンを組んで南アメリカの山岳地帯を旅していると、ある日、荷物を担いでいたシェルパの人びとがストライキを起こします。どうしてもその場所から動こうとしないのです。困り果てた調査隊は、給料を上げるから早く出発してくれとシェルパに頼みました。日当を上げろという要求だと思ったのです。が、それでも彼らは耳を貸さず、まったく動こうとしません。現地の言葉を話せる隊員が、一体どうしたのかとシェルパの代表にたずねると、彼はこう言ったというのです。
    ”私たちはここまで速く歩きすぎてしまい、心を置き去りにして来てしまった。心がこの場所に追いつくまで、私たちはしばらくここで待っているのです” ー 41ページ

  •  生きるということを、まっすぐ静かに見つめている。

    その姿勢、その姿。

    全ての命は、生と死の間にあって、絶対に終わりがあることを教えてくれる。

    人も大自然の中の一部であることを教えてくれる。


    あとがきにあるとおり、
    本当に、大事なことは長く生きることではなく、よく生きることなのだろう。

  • 冷たくひっそりとした空気と途切れることのない木々の音、遠くから聞こえる動物の声、静寂な湖のさざなみ。旅行ではなく、旅。誰かに連れて行ってもらう安直なものでなく、あくまでも自分の足で前に進み、自然を分け入って自然と一体になる。そんな旅好きは必読。決して穏やかなだけではない自然の猛威も含め、そこで生きる人・動物・自然のありのままが綴られている。
    広大な自然と移りゆく季節が巡るアラスカの自然と、そこで生活を営むエスキモーたちの姿を33篇でつづった旅行記。エッセイというより、そのたおやかなで優しい物言いは個人に向けた手紙のよう。
    この本に向き合っている時は、日々の喧騒からあっという間に別世界へトリップさせられる。様々な旅行記はあるけれど、これほど外の音が耳に入らなくなるようにのめり込む本はそうない。

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