二葉亭四迷の明治四十一年 (文春文庫 せ 3-8)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167519087

感想・レビュー・書評

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  • 所用の旅行に携えた一冊。二葉亭四迷だけというよりその周辺の同時代人を描いた群像劇的作り。また、当時の時代・社会的背景も描かれているので俯瞰的にも理解がしやすい。
    ところが作者の硬質で古風な語り口がすらすらと読むことを半ば拒絶している。でもそれは否定な意味ではなく訥々と語られるなかにある芳醇な物語のようにある種滋味深く感じられる。
    この明治という時代に限らずいつの時代もそうであるが、社会や世間と距離を置き、ある意味「アウトサイダー」として生きていくことの困難さを痛感する。兼好から連綿と続く個人と社会の関わりについて明治人達の煩悶が如実に伝わってくるのも本書の読みどころのひとつです。76

  • 二葉亭四迷を一つのキーマンにして、明治の時代精神を描いた作品。明治二十年代~四迷が没する明治四十年辺りにフォーカスを当て、四迷の生き様を追いつつ当時の社会を汲み取っていく感じ。
    ここで描かれる四迷のエピソード自体は内田魯庵の「思い出す人々」と中村光夫の「二葉亭四迷伝」から抽出組み合わせたような話なので、そちらを既読の人は「二葉亭四迷の伝記」として読もうとすると新規のネタはないのでご注意を。ただ、本書はあくまで四迷はキーマンであって、各時節毎の社会世相や給与相場、物価などと絡めたり、その当時近所に住んでた樋口一葉や夏目漱石、田山花袋や国木田独歩、川上眉山、石川啄木…といった他の文豪達が当時どんな状況だったか、というのを絡めて描いてくれているので、個々の文豪毎の伝記は頭に入ってるんだけど横串で繋がってなかったところが、「ああ、四迷があの頃、この文豪はここらへんか」という理解が捗る面白さがありました。
    あと、坪内逍遥とのお手紙引用が多くて、四迷の逍遥への甘えっぷりが成る程な…と思いました。

  • 明治という新しい時代に若者は己はどう生きるべきかと激しく身を焦がす。国家の行方と己の運命を結びつけたいとする二葉亭は文学に没入することをなく、生涯ジタバタし続けたといえるだろうか。

  • 新書文庫

  • 著者も言うように、文学というよりは、歴史の本。明治後期文壇関係者に見る社会精神史、といったところでしょうか。面白く読めるし、良く調べてあるなあと感心するし、勉強になるなあ、とは思うのです。が、見てきたような嘘を書いて無理矢理自分おの描いた構図にはめ込んでいるんではないかという気にさせられる所もあり、もう一つもの足りないのでした。

  • 関川夏生の名を知ったのは、漫画「坊っちゃんの時代」の原作者としてだった。明治の時代の香りを立ち上らせる作品だったが、ホントに云いたいことのために、嘘を並べ立てるやり方は、矢作俊彦+大友克洋の「気分はもう戦争」に似ている。共に週刊アクションに連載されたものだし。
    坊っちゃんの時代、第二部の「秋の舞姫」の冒頭で長谷川辰之助二葉亭四迷がベンガル湾の航路中に眠るように没したシーンが印象的に描かれた。そして関川さんは、本当に書きたいのは四迷のことと、何処かに書かれていた。爾来、いつか書かれる著作を待っていた。ところが、10数年前に出版されているのに、迂闊なことに気付かないでいた。自分を罵倒しつつ、本を開く。

    四迷や一葉、独歩がまるで谷口ジローの漫画のように、生き生きと映し出される。近代人としての自我のため、新しい日本語の文章を生み出した四迷。しかし、小説家として進もうとしなかった人。憂国の人、完全主義の人、自己嫌悪の人、放蕩の人、孝行の人。煩悶の中に命を削っていった人。独歩にとって風景は「めでる」ものではなく、自分の淋しさを映し出すものとある。四迷の翻訳がその内証的な描写に影響を与えているという。「武蔵野」は高校の時分に読んだが、全然判っていなかった。橋本治「江戸にフランス革命を」の浮世絵師、井上安治のことを思い出し、近代が風景を発見したということを考える。そんな読み飛ばせない箇所があちこちにあって、時間のかかる読書だった。

    二葉亭四迷が四迷であることは、難しいことであるように、関川夏生が関川夏生であるのは、シンドイことなんだろうなと、理由もなく思えた。ともかく、この人についていこうと思う。

  • 飄々と時代を生きたのが二葉亭四迷の生涯だったことは有名ですが、飄々に生きるとは、デラシネを気取るのではなく、力強く生きぬくこと。そして大切なのはそれを覚られてはだめなこと。その歩みを丁寧に紹介してくれる一冊。樋口一葉の時代から日露戦争へと至る明治人の庶民史と読むことも可能。石光真清の写真館(満州)も出てきてワクワクしますよ。

  • こちらも卒論用に。一葉の時代の民衆の生活について少々。

  • 「明治の時代精神を描く」と謳われていてもここに書かれているのは二葉亭四迷のたんたんとした人生です。「たんたん」ではないのですが、関川さんの手にかかるとなんでも「たんたん」と見えてしまうのです。

  • 去年の夏(2003)、「浮雲」のレポート作成の為に取っつきやすいところから、と。小説ですね。マンガもあります。双葉文庫から出てます。作画は谷口ジロー

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著者プロフィール

1949年、新潟県生まれ。上智大学外国語学部中退。
1985年『海峡を越えたホームラン』で講談社ノンフィクション賞、1998年『「坊ちゃん」の時代』(共著)で手塚治虫文化賞、2001年『二葉亭四迷の明治四十一年』など明治以来の日本人の思想と行動原理を掘り下げた業績により司馬遼太郎賞、2003年『昭和が明るかった頃』で講談社エッセイ賞受賞。『ソウルの練習問題』『「ただの人」の人生』『中年シングル生活』『白樺たちの大正』『おじさんはなぜ時代小説が好きか』『汽車旅放浪記』『家族の昭和』『「解説」する文学』など著書多数。

「2015年 『子規、最後の八年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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