超音速漂流 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2001年12月7日発売)
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  • 本 ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167527938

感想・レビュー・書評

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  • 超音速の旅客機といえばもう退役したコンコルドでしたが、そのコンコルドと同じく成層圏を音速を超えで飛行し乗客325名という旅客機がもしも成層圏で事故にあったら!という背筋も凍るサスペンスドラマです。
    高校生の時FMラジオドラマ化されているのを偶然聞きました。所々で専門家の解説が入っていたのですがあまりの面白さに本も読んで興奮してしていたのを思い出します。作者のトマス・ブロックは元々パイロットなのですね。どうりでリアルな描写が多いと思った。この70年代の作品を90年にup to dateしたのが本作とのこと。いや〜今読んでもものすごい緊張感。航空業界って厳しいんだね。それまでの航空パニック物だと事故機を救助しようと関係者一丸となって助けようとするのですが、この作品はそうではない。このねじれ具合がリアルで恐ろしい。
    この作品を読んで学んだのは「我が身の生殺与奪権を握っているのは誰だ?」そして「その者の利害は何か?」を抑えることが重要だということです。そのためには正しい情報を得なければならず正しい判断を下すためには十分学ばなければなりません。若者よ闇バイトにうかうか乗っかる前にこれを読め!中高年者よもう手遅れだがこれを読んで腹をくくれ!自分の生殺与奪権だけは自分で握っていたいものです。

  • 裏表紙に「今や古典となった航空サスペンス」とあった。それを全面加筆して決定版にした。それでも手元にあるのは2001年版だったが。映画化もされたようだが極上のパニック・サスペンスで面白かった。


    トランス・ユナイテッド航空の旅客機52便、ストラトン797はサンフランシスコを39分遅れで飛び立ち、太平洋上を東京に向かっていた。マッハ1、8 時速930マイル。高度6万2千フィート。窓の外はなにもない亜宇宙が広がっていた。
    コックピットは自動操縦に変わり飛行計画通り飛んでいた。
    しかし今日は出発が少し遅れた、その上気象予報によりコースをやや南に変えていた。
    ファーストクラスのラウンジでは若いピアにストが演奏し、乗務員も仕事をこなしながらくつろいでいた。

    中部太平洋上に原子力空母ニミッツが秘密の実験のために待機していた。国際条約には違反するが密かに自動誘導システムの特殊テストを行おうとしていた。テスト用の軍事用超高速無人標的機を飛ばし、フェニックスミサイルで撃ち落とす作戦だった。
    そのためにミサイルを二個搭載したF18が飛び立ち、操縦士マトスはスクリーンに輝く点を確認した。ためらわず自己の昇進のかかった発射ボタンを押した。ミサイルの軌跡は輝点に向かっていった。
    しかし同時にレ-ダー・スクリーンにはもう一つの弱い輝点を認めてもいた。
    これはスクリーンシステムの誤作動かゴーストに違いない。
    だがミサイルが到達した先の輝点はそのまま飛び続けている。弱々しい輝点の方は小さく弧を描いて落下して行った。おかしい。彼は機を大きな点の方角に向けた。
    そこには胴体に二つの穴が開いた旅客機が徐々に高度を下げながら飛び続けていた、1万1千フィートで水平飛行にはいった。そんなはずはない。
    彼は近づいてみたが人影はない。コックピットも無人だった。
    空母に知らせた。「誤射しました。ストラトン797、トランス・ユナイテッド機です、人影は見えません」

    穴の開いた旅客機の中は、固定されていなものは人とともに飛び出していった。瞬時の減圧の影響で人々の体内が破壊され脳組織も損なわれた。人が人でなくなり形をとどめていても制御不応のロボットのようにてんでに動き汚物にまみれあたりは出血で汚れた。
    酸素補給も圧力によって用をなさずかろうじて燃料の循環装置が損なわれず働いていた。
    たまたま3つの化粧室にいた人たちだけが小さなダメージで生き残った。
    ジョン・ベリーも化粧室の与圧装置に守られてかろうじて生き残った。呼吸可能高度で外に出ると、まだ生き残りが三人いた。
    少女と男性が一人、フライト・アテンダントのシャロン。
    機長は亡くなり2人のパイロットは意識がなかった。
    ベリーはセスナを飛ばしたことがあった。しかし大型旅客機は勝手が違う。それでも落下を食い止めるために操縦席につく。そのうち計器も読めるようになるだろう。

    空母ニミッツでは誤射を確認して対策に追われていた。ミサイルはもう一発積んでいる。

    過去に、暗号装置を備えた駆逐艦が航行不能となっていたことがある、敵に曳航させないために、生存者ともども撃沈した。

    飛行の障害になる機は除かなくてはならない。幸いミサイルはまだ残っている。その上海軍に要らぬ疑いをもたれてはならない。トマスに汚い仕事をさせるのだ。

    ユナイテッド航空はストラトン通常運航データを待っていた。だが通信室には何も入ってきていない。プリント装置を備えた航空機とのダイレクト・リンクが一瞬瞬いて消えた。SOSと読めたような。馬鹿な今どき時代遅れのシグナル「SOS」とは何かのいたずらだろう。

    52便でベリーは応答を待っていた。ランプが瞬いたように思った。誰だ!
    ベリーのメッセージを送る手が震えた。
    受け手の航空管制官は一目見て叫んだ。ジーサス・クライスト。
    メーデー・・・機体損傷・・・無線故障  ダイレクト・リンクが文字を吐き出し始めた。

    ベネフィシャル保険会社でも担当者が事態に備えた。提案が採択され乗客賠償保険を引き受けていた。だが今は不時着の恐れがある。町を擦りつぶしたら。彼は将来の暗雲を見た。一生涯の保証は家族にも及ぶ向こう75年はかかるだろう。
    1億ドルを超す機体保険がなかったのが幸いだった。

    ベリーはハワイ島に着陸せよという連絡に不審を持った。燃料ギリギリであの小さい島になぜ着陸せよという。
    彼は回転して引き返し、ベテランに誘導してほしいと送信した。

    空母上では最後のミサイルを発射しなかったトマスとともに誤射機を消した。


    様々な組織につながる人々は、組織の保全と自己の将来のため策を練る。ちょっとした過失が招いたかもしれない。この事故を消しにかかった。
    中には道徳観に縛られながら苦しみ、それでも逃れる方法を探す人もいたにはいたが。

    そしてヒーローの出番になる。
    ベリーは、命を見捨てない。
    無事を祈るというメッセージが何度も繰り返されるのを見る。

    いい話だ。緊張感が盛り上がる中に、地上の人々の醜い心理や、潔い決断や、読みどころが最後まで詰め込まれ500ページ近いストーリーが飽きることない。逃げない男になるのは命がけ。だが小説というのはこうでないと。掴み所も外してない。作家と元パイロットの共作は極上の冒険小説になっている。

  • 1979年の古典的航空サスペンス名作が、昨今の航空機ハイテク化に呼応して全面的加筆されたのが1998年の本作。さらに従来、トマス・ブロック単独名義とされていたものが、実は幼馴染みの小説家、ネルソン・デミルとの共著だったことも明らかに。
    話は米軍極秘訓練中、ミサイルで民間航空機を誤爆した米軍幹部らの空からの事故隠蔽工作と莫大な賠償金を逃れるため航空会社と保険会社による地上からの証拠隠滅というダブルの危機的状況に最終的に対峙するのは、奇跡的に生き残ったアマチュアパイロットとスチユワーデスと少女の3人のみ。さらに機内では高度酸欠により脳の損傷で正気を失った乗客が襲いかかるという絶体絶命の状況。
    これだけの苦難をどの様に乗り切るのかが本作の読みどころ。結局、一部の人間の良心と本来人間の持つ動物的本能とも言える危機察知能力が明暗を分ける。
    本作は、小説でありながら、現実的に十分あり得る世界を描いているという点で、航空関係者必読の書となっている。
    ちなみに、原題「メーデー(Mayday)」とは、無線電話で遭難信号を発信する時に国際的に使われる緊急用符号語。 フランス語の「ヴネ・メデ(venez m'aider)」、すなわち「助けに来て」に由来する。 一般に人命が危険にさらされているような緊急事態を知らせるのに使われ、警察、航空機の操縦士、消防士、各種交通機関などが使う。(Wikipedia)
    PS.
    校正ミス見つけました。誤⇒正
    たが⇒だが(P275)、あたしか⇒あたしが(P376)
    どちらも濁点不足という凡ミス。普通に読んでも気がつくのに校正者はなぜ気づかない?

  • 素直に傑作と認めたい。
    次から次に主人公を襲う危難や事故の原因を作った空軍の対応はもとより、自社のミスで事故が起こったであろうと憶測するがゆえに人道的手段よりも会社の損益を天秤にかけ、旅客機が帰着したときに起こるであろう脳挫傷被害者への保険負担、アマチュアパイロットがジャンボ機を操縦している事実から推測されるサンフランシスコ市街への被害に対する賠償金などを算盤に掛けて自社のジャンボ機の墜落を願う会社重役、それと対極を成すアメリカの正義を象徴するような絵に描いたヒーローとなるような筆頭パイロット、不撓不屈の精神で困難に立ち向かう主人公などハリウッド映画好みの人物設定が眼前としてあるのは否めないし、また彼らがこういったパニックストーリーにそれぞれ有機的に機能するように計算された配置を成されているのも盤上の将棋の駒のような動きをしているような感じもするが、これほど読者を楽しませるのにあれやこれやと試練を畳み掛け、葛藤する人間ドラマを盛り込んでいるのは正直素晴らしい。亜宇宙空間での事故に関する良質なシミュレーション小説としても評価は高いだろう。

    なんせ今回ほどストーリー紹介の不要な小説も珍しい。
    最高水準のジャンボジェット機が空軍の訓練ミサイルのミスショットにより風穴を空けたまま、素人パイロットの操縦でサンフランシスコへの帰還を目指す。
    このたった1文で十分だ。おそらく今後この小説のストーリーは忘れないだろう。久々ページを繰る手がもどかしい小説を読んだ。

    しかしこれがデミルの小説であるとは恐らく思わないだろう。デミル特有のワイズクラックがここではそれほど強調されておらず、文学的風味も抹消され、小説のムードとしてはやはりパニック小説に徹しており、余計な挿話は挟まれていない。デミル一人ではここまで贅肉を削ぎ落としたストーリー展開はなかったろう。当時トマス・ブロックがビッグ・ネームだったのかは寡聞にして知らないがなぜデミルの名が表出しなかったのか、すごく気になるところである。

  • ずっと昔に読んだ。もう一回読んでみたくなり図書館で借りた。今読んでも面白い。歳のせいか登場人物が覚えられず何度も最初のページへ。笑

  • このアイディアは後世に残る。

  • 約25年以上ぶりの再読。
    今読んでもさほど古びていない名作。
    冒険小説というよりも、サスペンス小説といったほうが正しいかもしれない。
    それにしても何故アメリカ人はゾンビとかそれに類するものが大好きなんどろう。

  • 原版が1970年代末に書かれているので、航空小説では草分けと言う位置付けにあたると思う。

    ただ、改版されたとは言え40年後に読む場合ディテイルの古さと超音速旅客機のミスマッチが不整合をおこして、気持ちが悪い。

    ただ、その後に出版された航空小説の多くがここを出発点にしているのは、確かであり、その面で草分けとしての功績は大きい。

  • 面白かった。久々に時間を忘れて読む体験をした。序盤はややモタモタしているし、人物の描写は浅いと思うし、エンディングもそれでいいの?と、欠点を挙げればキリがないのだけど、それでも続きが気になって、ページをめくらずにいられないのだから、☆5つに値すると思います。
    事故に遭った飛行機を、助けるより葬る(しかも複数の陣営が!)、という発想が、妙にリアルで背筋が寒くなりました。

  • いや-、面白かった。映画見ているようだった。少し、話に無理だろってところはあるが。アメリカ海軍機が訓練空域で標的に向かい発射したミサイルが、ジャンボ旅客機を直撃した。機体に大穴があいたのみで、爆発はしなかったが・・。機長は死亡し、急激に高度が低下したため、低酸素症に陥った乗客は脳を破壊され、ゾンビ化し凶暴になる。トイレにいた乗客、調理室にいたフライト・アテンダント等5人が生存するが、つぎつぎと犠牲になる。海軍の指揮官、航空会社の運行管理者、保険会社の支社長はそれぞれの思惑でこの機を墜落させようと、計画は進行していた。果たして、旅客機は生還できるのでしょうか。82年に出版された、航空サスペンスの古典が、全面的に加筆され、決定版として登場。

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