嫉妬の時代 (文春文庫 き 14-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167540036

作品紹介・あらすじ

みんな誰かを妬んでる。男と女の間のヤキモチから、写真週刊誌の覗き趣味、子供たちのイジメ、果ては世間を騒がせたロス疑惑や戸塚ヨットスクール事件まで、実はみんな人間の心に潜む嫉妬という病理が引き起こしている。「ものぐさ精神分析」の著者が時代を取り巻く雰囲気と人間の心の病理を明かす話題作。

感想・レビュー・書評

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  • 古い話だが、確かにこういうことがあったということが取り上げられている。
    書かれるプロセスは、あとがきで著者が述べているとおりなのだろうなと確認させられる。

  •  『ものぐさ精神分析』で有名な著者による、嫉妬をキーワードにした時事ニュースの論考。昔の本ではありますが、精神分析を用いた「へぇ~!」「なるほど!」と思わせる発想は今読んでも面白いです。

     本書の中で一番納得したのが『積木くずし』に関する論考でした。
     弁護士や医者がその職務に関して守秘義務があるように、親は子の成長過程について守秘義務を有する、という指摘がなされていました。
     そして、『積木くずし』では全くこの逆のことがなされており、娘が不良になった事情を赤裸々に語り、しかも著者である父親自身は反省し、改心したような結末に持っていっています。娘の立場からこの本を読めば、自分がダメになった理由から恥ずかしいことや人に知られたくない事情を、血の繋がった父親によってぶちまけられた挙げ句、父親は一人しれっと反省したような顔をしているわけです。そして、この本を出版した父親は教育評論家として自分のことをあっちこっちでベラベラしゃべって銭を稼いでいるわけです。…だんだん表現ががさつになってきましたが(笑)、こりゃ娘さんの立場に立ったらキツすぎますよね。再び不良になったのも、心理的に追い詰められたと考えるべきでしょう。

     この話を読む度に思い出すのが、以前知り合いだったとある女性です。
     この人は「面白いネタ話」として、ひょんな事から高校生の息子さんのオナホールを見つけてしまった、という話をしました。はじめて見たときはそれが何だかわからずにパニクったそうですが、この辺までは笑いながら聞いていられました。
     が、ネットで検索してそれが何かわかったら、「こんな話があったのよ!」と近所のおばちゃん連中にまで話して回ったというのです。あまりにも屈託無く「得意ネタ」を語っていたので、聞いていて怖くなった私は、「近所の人に触れて回るって、息子さんの立場で考えたら、こんなに残酷な話は無いですよ。だって、一番多感な時期に、近所中にオナホールを使ってたことを知られてるわけでしょ?」と言い、親の守秘義務についての話を少ししました。
     が、彼女は私の言っていることが全く理解できず、最後には「人がせっかく面白いネタ話をしているのに水を差した」と不機嫌にさえなってきたのです。私はこのとき、「この人はちょっとおかしい」と思い、それ以降距離を置くようになりましたが、その後の彼女の言動を見るにつけ、このときの判断は正しかったことがわかりました。
     話している当人は気づいていないんですが、この話って、一見自虐ネタっぽくも見えますが、本質的には息子さんの恥ずかしい話の暴露でしかありません。この一事を以て判断するのは性急だという見方もできるかもしれませんが、私が説明しても何が問題かを理解できなかったことからすると、親としての守秘義務という感覚をそもそも持ち合わせていないと言わざるを得ません。そうすると、息子さん(に限らず家族・身内)のプライバシーが、他にもネタとしてダダ漏れしていても全く不思議ではありません(だって、「悪い」と思う心理的ブレーキ自体がないわけですから)。
     私は息子さんに会ったことはありませんし、もう会う機会もないでしょうが、それでもその息子さんに対しては、「こんな母親をもってしまって可哀想に…」と思ってしまいました。

     話がだいぶ脱線しましたが、著者の思考枠組みは『ものぐさ精神分析』や『唯幻論物語』辺りでだいたい示されています。思考枠組みだけを知りたければそれだけ読めば十分と言えそうです。
     が、「公式」だけ教わっても使い方がわかりにくい、ということはあります。その「公式」を、実例にあてはめて使うところを見た方がわかりやすいですし、著者はその手際が鮮やかなので、それがまた面白かったりします。

     古い本なので手に入りにくいかも知れませんが、興味のある方には是非一読をオススメします。

  • 単なるエゴイズムを、合理主義や社会貢献論によって正当化する連中
    そういった奴らに対する怒りまで、「嫉妬」の一語にまとめられたんじゃかなわない
    そこらへんの混乱が致命的である
    いろいろと下世話で、面白い本ではあるのだが・・・

  • 嫉妬に対する心理学的考察。岸田秀的、考察。
    自分のはらわた煮えくり返るような嫉妬の感情に白黒つけてくれた感じで、すっきりした。
    自分がしたくて、でも我慢してるのを他人がしているのが腹立つとか、自分の所有物や、所有していて当然と思うものを他人が所有してると、じぶんの価値観を侮辱された気がして、腹立つ、とか。
    自分がもってることで自分が自分であると価値感をあたえてくれるのをとられると、自分の存在が不安定になるから、困る、とか。

    あとは、学校制度は、罪のない子供に懲役を課しているようなもの。決まった時間に会社にいき、好きじゃない仕事をイヤイヤし、上の言う事を聞く人間を育てあげて、便利な労働者を作り出すための訓練所。子供には有休もないし。あと、大人のまわりにずっといられると邪魔だから、そういう場所があったら便利だから、とか。
    今まで学校なんてないのが当たり前だったのに、
    勉学や知識のため、君自身のために、なんていって、行くのが当たり前になっているけど、嘘だ。
    行くのは嫌にきまっている。
    大企業はその大学の知識がほしいんじゃない、そんな制度のなかに組み込まれて今までやってきた、そういう性格の人間がほしいのだ、みたいのも、納得。

    岸田 秀 、他も久々に読みたいな。


  •  日々の苦しみの、
     殆ど全ての背景に、
     この嫉妬というものが横たわっているのを、
     人は知ってて、
     人は知らない。

     知らないままでいるのが、
     きっと幸せなんだと思うけれど。

  • 親子だからこそ、親の物語に子供をまきこむと事は超めんどくさくなる。歪んでいるものを、歪んでいなくする事はできない。
    だから、歪みの形を把握してその歪みにあった建物をたてるしかないっしょ。って。ひょうひょうと煮詰めている。

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著者プロフィール

精神分析者、エッセイスト。1933年生まれ。早稲田大学文学部心理学専修卒。和光大学名誉教授。『ものぐさ精神分析 正・続』のなかで、人間は本能の壊れた動物であり、「幻想」や「物語」に従って行動しているにすぎない、とする唯幻論を展開、注目を浴びる。著書に、『ものぐさ精神分析』(青土社)、「岸田秀コレクション」で全19冊(青土社)、『幻想の未来』(講談社学術文庫)、『二十世紀を精神分析する』(文藝春秋)など多数。

「2016年 『日本史を精神分析する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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