日本人と「日本病」について (文春文庫)

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感想 : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167540043

作品紹介・あらすじ

日本軍はアメリカの物量に敗けたのではない。バンザイ突撃もカミカゼもその精神構造において、既にアメリカに敗北していたのだ。自らも下級将校として従軍した体験を持つ歴史学者と、日本は精神分裂だ、と断じる精神分析学者が、日本近代史に現れた病理を診断。その「病い」克服の道を探る、ユニークな文化論。

感想・レビュー・書評

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  • <blockquote>山本 だいたい、人間の信頼関係というのは、マイナス的なものでして、「彼はこれだけは絶対しない」というところから始まるわけです。(中略)だから個人が神との契約の形でそういう規範をきちんと持っていることによって、信頼関係が成り立つわけで、これが彼らがいう個人主義の理想家なんですね。
    岸田 そして日本人にはその形がない。
    山本 でね、私は人々がなぜ自民党を支持するのだろうかと考えたんです。すると、やっぱり信頼関係というのは、日本人の場合も、最終的に何かをしないということなんですね。あいつは飲む・打つ・買うのとんでもない奴だけど、こういうことはしないという信頼の仕方がありますね(笑)、自民党への支持というのはこれなんだな。とんでもない奴だけど何かをしないと信じている。つまり、自分たちが自覚していない伝統的な文化的規範に触れるようなことはしない、という信頼があるんですよ。(P.72)</blockquote>

    本書は1979年に上梓された対談本ではあるが、この箇所など未だに通用する。戦後から30年経ち焼け野原から世界一の経済大国に成長しただけの同じ月日を、ただ無為に過ごしてきたのか…と暗澹たる気持ちにもなる。


    思うに「けっしてコレはしないだろう」という信頼を裏切ったのは何よりも先の民主党政権だろう。民主党政権への反発・ガッカリ感がいまの自民党支持へ繋がっているように思う。
    そして、その"信頼感"もいつの間にかタガが外れてしまった。内閣の解釈による憲法改正など「けっしてコレはしないだろう」という信頼を次々と裏切っているのだから。

    <blockquote>岸田 戦争中の日本人の行動からわかるのは、ことの是非は別として、極論すると、日本には組織というものがないということです。元来、組織概念がなく、究極的には人間なんだという思想なんですね。日本人は、「人は石垣、人は城」ですよ。(P.171)
    </blockquote>
    これは自分もわかるし、そう思っているところがある。
    翻って考えると"組織ではなく人"だから、日本の組織はジェネラリスト(何でも屋)を求める。プロフェッショナルを育もうとはしない。ところが欧米では各々の職能、ポジションでの最大限の効果を求める。グローバル化が求められ、そういうシステム・体制に作りなおしたはいいけれど(Ex.成果主義など)、それを動かす考え方いわばOSが「人は石垣、人は城」のままであるから機能不全を起こしてしまっているのだと思う。


    <blockquote>山本 それにしても、日本のやり方を外国人に分かってもらうのは、きわめてむずかしいと思いますね。
    岸田 日本語の問題も大きい。ぼくはつねづね、日本語は家族語だといっているんですよ。家族にしか通じないという意味で、日本語には暗黙の前提というのがいっぱいありすぎる。その前提が分かっている人にだけ通じる言語です。
    山本 そうですね。
    岸田 日本語を直訳すると通じませんよ。だから、日本人が英語が下手なのは当たり前の話で、(中略)英語というのは他人にしゃべる言語だけれど、日本人は身内に喋る言葉しか持ち合わせてないんです。。(P.177)
    </blockquote>
    ここらへん流石は『空気の研究』で知られるならではの慧眼だ。
    日本人は身内に喋る言葉しか持ち合わせていないというのも、本国会のしどろもどろな答弁や言い訳を聞くにまさしくと相槌を打つ。


    <blockquote>岸田。本当に本人の行動を決定している動機を本人が知らないという場合があるでしょう。そういう場合、意識的には別な理由を持っているもんです。人間というのは、自分の行動を説明しないといけないから、いわばニセの説明を持ってくる。日本の場合の法律とか、憲法とかを考えるとき、ぼくはいつもそういう神経症患者のニセの説明を思い出すんですがね。法律の条文で行動してないんだけれども、説明を求めらるとそれでやるわけです。
    山本 同時に、憲法改正絶対反対なんていう場合、その反対の理由がどこにあるかという説明は、だいぶニセの説明ですね。精神分析からいったら、その反対の理由というのはおもしろいんじゃないですか。契約を変えちゃいけない。しかし、実際に履行しなくてもよろしい。
    岸田 日本人にとって、なぜ憲法改正はタブーなんでしょうかね。
    山本 これはもう精神分析の問題ですな。
    岸田 精神分析から言えば、それを変えることがタブーであるという、そのことが、ニセ物である証拠なんですよ。神経症の患者の場合、意識的には偽りの理由を持っているので、その理由に断固として固執するんですね。つまり、ニセ物であるがゆえに、変えられないんです。(P.204)</blockquote>
    1979年に書かれた文章とは思えないほどドンピシャなので、長々と引用してしまった。
    2015年の憲法改正に関してはどちらの立場も神経症ぽい。というよりか日本全体が神経症に罹患しているのだろう。

    因みにこの文庫本の帯には「やっぱり少しへんだぞ、日本人!」というキャッチコピーが踊っているのだけれども、自分たちを少し変だと思いたがるのは日本人特有の性質なのだろうか?
    「アメリカ人は少し変だ」とか「イギリス人は少し変だ」、「中国人は…」とそれぞれの国では言われているのだろうか?

    この本が上梓されてからの日本の動きを振り返る。
    バブル経済 → バブル崩壊 → 阪神・淡路大震災 → オウム事件 → 長引く不況 → 東日本大震災と"共同幻想"が壊れていく一方の36年だったように思う。

    規範となるものを持たない日本がそれでもやってこれたのは、この"共同幻想"のおかげだったが、それが綻び瓦解したことによって迷走してしまっている。

    そのように思える。
    それと同時に自分もそんな日本人なのだなという思いも強く強くあらためた。

  • 何だか難しいけど、日本人は空気を読む事と周りに流される事を再認識した感じ。以心伝心とか、察して動けとか、功罪あるよな〜

  • そうですね。ばかりです。

  • ちょっと一般化が行き過ぎで決めつけ過ぎな感じもするが、面白かった。

  • 岸田秀さんが、
    「ほんとうの悪人というのがいるとすれば、それは、
    他人を悪人に仕立てあげる人なんですよね。
    そうしているという自覚なしに。
    ぼくに言わせれば、あいつは悪人だと言って正義を振りかざす奴が
    いちばんたちのわるい悪人です。」とおっしゃっていました。
    とても共感しました。自覚なしに、というのが一番厄介な点です。

    この他、様々な点で共感するところが多い本でした。
    岸田秀さんの本をじっくり読みたいです。

  • 30年前の本なんだって。太平洋戦争で日本軍がなぜ失敗を繰り返したか、を入り口に「日本病」についておふたりが対話する。自虐でも自尊でもない内容で、かえって暗くなる。「なんで日本はこうかなあ」と思ってる人は読めばいいと思うよ。

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著者プロフィール

1933年、香川県生まれ。早稲田大学文学部卒業。和光大学名誉教授。精神分析者、エッセイスト。著書に『ものぐさ精神分析』など。

「2018年 『エスの本 ある女友達への精神分析の手紙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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