尋ね人の時間 (文春文庫 あ 21-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167543013

作品紹介・あらすじ

“失われたもの”を求めて尋ねさすらうカメラマンと女子大生の、実を結び得ぬ“絶望の愛”。現代人の心の空洞を“引き算の美学”で描いて衝撃を呼んだ芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • ★2.5かなぁ。
    訃報を聞いて再読しましたが、悪くないんだけれどももう一押し足りないというか。個人的にはもっと粘り気が欲しいです。
    しかし「バスストップ」って言いますか?「バス停」じゃないのかなぁ?妙な言葉遣いが引っ掛かったかな、、、

  • 東京に住むカメラマンの男。
    家族、仕事仲間、知り合った人々を通じて自分を探している。

    娘との会話が印象的だった。2人の本質に触れているような気がして。

    後ろ向きな未来を見つめ死者を思う姿は、生きている確かな感触が無く宙に浮いて夢の中にいるかのようだった。
    都会の雑踏の中で自分だけ時間が止まったような孤独を感じる一冊。

  • 存じ上げなかったが、「千の風になって」の作詞もした作曲家で、写真を撮ったりとマルチに活躍する人の小説。

    中堅写真家の神島は、男性的不能となり、妻と別れてから評価の高い作品を作り活躍している。たまに会う、ボーイッシュな実娘月子や駆け出しのモデルの圭子など、様々な人達と絡む人間模様を描いた、連作短編集。

    冒頭の作品が、話途中な感じで突然終わって、ああ、純文学だったのかとはじめて気づいた。そこまで探偵小説か何かと勘違いしていた。その後の作品も、無理に落ちをつけようとせずにふわっと終わるが、比喩をこねくり回して無理やりゲージツ的に描こうというところは、触手が伸びていく部分を除いてほとんど無いため、読みやすく爽やかな筆致である。

    途中の作品で、若干無理やりな部分はあるが、手乗りの小鳥「サヨナラ」や井戸の話など、つげ義春の漫画で見たような、映像的な表現が使われている部分が印象深い。たまたま藤子不二雄の短編集を並行に読んでいたため、藤子キャラでつい読んでしまった。

    芥川賞を取ったということで、まあそれっぽいものの、読みやすさではかなりおすすめはできる作品だろう。ただ、強烈に記憶に残る作品というわけではない。

  • (2022/03/03読了分)新井満の訃報に接して、再読。カフカの外套、黒い傷のある部屋、ヴェクサシオン、サンセット・ビーチ・ホテルと読み返したあとに。何年かごとにまとめて読み返す作家だなあ、と。厭世的で世の中斜めに見て、あまりに健全で体育会的なものを忌避する姿勢は、バブル真っ盛りで物質では充分に満たされてるけど、でも…という世界ではアンチテーゼとして効いたのかな、という思い。その背景がなくなるとただの絶望に堕してしまう危惧。ただこういう主人公嫌いじゃないのよね。(2016/12/21読了分)何年かぶりの再読。ヴェクサシオン、サンセット・ビーチ・ホテル、尋ね人の時間、と読み進めてくると、サンセット・ビーチ・ホテルの併録作をのぞいて、骨の髄まで厭世的な男が主人公なんだな、というのが改めて感じられる。この作品も、不能者の増加は人口爆発を抑える地球の意志、フランスの田舎にある二歩進んで三歩下がるリゴドン・ダンス、スクランブル交差点が苦手…。生きることに積極的でないと責められても、それが自分と、むしろ、地球はこの先長くないのでは、という確信を深めていく。発表から30年経ったけど、残念ながら、まだ地球はありますよ、あなたが見たかった地球ではないかも知れませんけど、と語りかけたい心地に。

  • インポテンツがマッチョイズムの喪失に根差すものであるとして
    マッチョ否定が戦後民主主義の目指す理想であるとするならば
    勃起回復の願望は、マッチョイズム回帰の願望でもあるわけだが
    それはもちろん戦後民主主義への憎悪をともなうもので
    同時に、それを押し付けてきた女性(母親)たちへの憎悪をも
    含むことになる
    しかし憎悪は、愛との二律背反として、互いを抑圧しあうことになろう
    結果、インポテンツは解消されぬまま
    或る象徴的な現象が表出されることになるのだった

    「尋ね人の時間」は88年の芥川賞で
    ノル森と同時期の作品なんだが手や口を使う描写は無しだ
    作者の新井満はのちに
    老いと死をテーマにした歌唱作品をいくつか発表してブレイクする

  • 1988年上半期芥川賞受賞作。それぞれの場面は鮮明でありながら、統体としては夢の連鎖であるかのような印象を受ける。月子のイメージなどはことにそうだ。また、それはあえてそのように書いているのだが、登場人物同志の関係性も極めて儚く、主人公は敢えて孤独を選ぶ。ただ、主人公の神島をあえて性的不能に設定するのは、そうした構図と、物語の構想が顕わ過ぎて感心しない。なお、選考委員の吉行淳之介も指摘しているが、神島のもとを去っていった妻のカオルが新たに選んだ男は、「文学」の対極にあるようで、たしかに笑ってしまいそうだ。

  • 月子という名の女の子が出てくる。
    以前から、こういうタイプの登場人物(それが男でも大人でも)に強く惹かれる方。
    肌になじむというか、どこかすーっと自分の中に溶けていくような感じ、かな。

    小説を無理やり太陽と月に分けるとするなら、まさに月の部に入る小説だと思う。
    淡々とした語り口で暗いわけではないけれど、神島も月子もその他の人々もどこか寂しげ。
    心のなかの空虚な部分を覗いているようなそんな気がした。

    神島や山田の写真、見てみたくなった。

  • 作品集らしい
    「水母」と「尋ね人の時間」の二つ。
    「水母」は30ページの短編でもう一つの後に書かれた作品で、それのプロローグみたいなもん。現代小説らしい作品だなーって。

  • 著者が作曲家だという事は知っていたが、まさか芥川賞作家だとは?!たまたま図書館で目に付いたのがこの本。そんな事もあるもんだ。

  • 誰がつくったのか知らないけどそれは神様からの試練だという人もいるかもしれないけど。その世代にはその世代がちゃんと受け入れていかなきゃいけないものがあるってこと。問題をクリアする知性とか経験とか相当タフになってきたはずなのに。なかなか越えさせてくれない。自分はどこへいってしまったのか。ちょっと読むのはやすぎたかも。

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著者プロフィール

1946年、新潟県生まれ。上智大学法学部卒業。電通入社後、音楽・映像プロデューサーとして活躍。1987年『ヴェクサシオン』で第9回野間文芸新人賞、1988年「尋ね人の時間」で第99回芥川賞受賞。作家活動以外に、作詞・作曲家、写真家、環境ビデオのプロデューサーとしても活躍中。

「2015年 『生きている。ただそれだけで、ありがたい。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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