阿弥陀堂だより (文春文庫 な 26-7)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167545079

感想・レビュー・書評

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  • 小説家として結果を出せず苦しむ夫。優秀な医師として多忙な妻。都会で支え合いながら生活する中、妻は心を病んでいく。夫の故郷信州の山村に戻る決意をする。そこは、母を亡くし父が家を出た後、祖母と二人、自然と共に暮らした懐かしい場所だった。
    都会で傷を負った二人に自然は懐が深い。妻は、以前の笑顔を取り戻していく。
    タイトルの「阿弥陀堂だより」は、地元の病気で声を失った女性が“阿弥陀堂守”のおうめお婆さんに、インタビューし、その言葉を広報誌に連載している小エッセイからきている。お婆さんの飾らない、自然に同化した言葉は、人を導く力がある。
    夫婦はこの山村で人生を過ごす土台を作る。生きていく為の足るを知る。
    読後感が心地良い。最後に、この女性たちを写真に撮るのだけれど、あらゆる年代が揃って生活できるというのが望まれる社会なんだろうなぁと思う。

    • shukawabestさん
      shukawabestです。
      この小説も映画も大好きです。お年寄りと都会で神経をすり減らしてしまった人にとても優しい。ああ、本当にいい作品だ...
      shukawabestです。
      この小説も映画も大好きです。お年寄りと都会で神経をすり減らしてしまった人にとても優しい。ああ、本当にいい作品だと思います。
      2022/06/26
    • おびのりさん
      おはようございます。shukawabestさん。
      ありがとうございました。
      素敵な作品でした。
      南木さんは、お医者さんなんですね。
      死生観が...
      おはようございます。shukawabestさん。
      ありがとうございました。
      素敵な作品でした。
      南木さんは、お医者さんなんですね。
      死生観が確立されているようでした。
      高齢者医療や介護の問題は山積みですが、
      おうめお婆さんの様に、生きることを受容できればと思いました。
      2022/06/27
  • 「映画は小説とは全く別のものですから」

    南木さんはそれだけ言い、小泉監督に映画化を快く了承したそう。

    両方好きな僕には言い方が引っかかる。

    寺尾聰を追いかけて、映画→原作と進んだ10数年前とは逆に、今回は、原作→映画と進んでみた。

    たしかに、南木さんの言い方もわかる。

    でもそれは、映画(映像)と文字(連想)の表現方法の違いかも。

    この映画がすごいのは、原作そのままの描写•セリフを点と点にして、その間を、原作を損なわないギリギリの演出で繋ぐ。

    原作の延長線上に、キャラクターを創出していたりもする。

    これは原作に惚れ込んだ人(監督)にしか成し得ない業。

    原作も映画も極上。

    でも敢えて、どちらかを選ぶとすれば、(まるで映画のレビューみたいになってしまっている今回だけど、)ストレートに表現されている原作かなぁ。

    今思えば、医者でも小説家でもある南木さんは、自分の、医者部分を美智子に、小説家部分を孝夫に託していたか•••。

    ん〜、唸るしかない。

  • 南木佳士さんの小説は筋だけ書くと,なんだということになるし,振り回されるような感動があるわけでもないんだけど,読み終わると,静かな心持ちになれる.この作品もそう.非常に読後感がいい.

    最近,南木佳士を集中して読んでいるわけだが,こうして,エッセイを読みつつ小説を読んで見ると,小説の舞台裏がうかがえて面白い.実生活の小さな材料をいくつも細部に織り込みながら,ストーリーを紡いでいく技術ってのはほんとにすごい.

  • 主人公が主人公のようでない、不思議な立場の小説だと思った。妻の美智子や難病の小百合ちゃん、阿弥陀堂のおうめ婆さんの3人の女性たちにスポットは当たっており、主人公はむしろ脇役的存在。ただ、これらの女性たちの生き様を見てだんだんと等身大の自分を自覚していくところは、ビルドゥングスロマンと読めなくもない?
    山村でろくに働かずぷらぷらしてるって、相当肩身がせまいと思うのだが、この主人公かなりお気楽。まあ、そうでなければ夫婦ともに病んでおしまいな気がするので、バランスの良い夫婦といえるのかも。とはいえ、喧嘩するシーンが全くないのは違和感ではある。
    小説は読むに限る(書くものではない)と思う私から見ると、この鈍感な主人公は明らかに書く側には向いていないと思う。この小説自体のなんとなくぼやけたハッピーエンド風の終わり方もなんかいまいち。

  • 面白いのが、なんといっても阿弥陀堂に住むおうめ婆さんの存在。
    主人公はおうめ婆さんのことを社会からあぶれた生活保護受給者のように見ていて、弱い者、守ってやるべきものとして捉えているふしがあるんだけど、阿弥陀堂に通うにつれ、おうめ婆さんにホトケのような神々しさが見えるようになってくる。
    「方丈記」や「歎異抄」が作中に出てくるけど、このおうめ婆さんこそが、鴨長明であり、親鸞なのだ。
    1年間の山里生活を経て主人公は、その地にどっしりと根をはり今を淡々と生きる人の強さを理解し、心の礎のようなものを得る。
    踵を地につけることの「確かさ」を実感できる本でした。

  • 心を病んだエリート医者の妻と作家兼ほぼ主夫の主人公。田舎っていいな。闇雲に頑張り続けることだけが人生ではないと思った。

  • 医者という人の生死に関わる仕事につき、自らも精神を病んでしまう妻。新人賞を受賞したものの次が思うように書けない夫。山の人となり前時代的な生活を続けているおうめ婆さん。病の再発から再起した小百合ちゃん。暗くなりがちな登場人物の設定だがそうならないのは、自然が圧倒的だからなのかもしれないですね。

  • 追われるように過ごしてる毎日が、なんとなくもったいなく思えてくる。
    踵から地に足をつけて生きていくってすごい。
    ちゃんと地味を味わいたいものです。

  • 小説もいいけど、映画がさらによかったなぁ。
    しかしながら、この人の文章は静かな感じがして、好きだ。

  • 売れない作家の孝夫は、心の病に罹った妻の美智子の療養も兼ねて、故郷の信州に戻ることにした。
    不器用ながら田舎暮らしをしていくうちに、挫折を知らないエリート医師だった妻の、病以降の屈託がほどけてゆく。

    集落のはずれで村人の霊を祀るおうめ婆さん。
    山の上にある小さな阿弥陀堂に住み、ほぼ自給自足で暮らしている。
    役場の若い事務員、小百合がおうめ婆さんに取材しまとめたものが、村の広報誌の中のコラム『阿弥陀堂だより』だ。

    おうめ婆さんから、余分な力を抜いて自然体で生きることを教わる孝夫と美智子。
    病気の再発で再び死と向かい合う小百合。
    小百合の治療をすることで、医師としての自信と責任を取り戻す美智子。
    そんな彼女たちの姿を見て、衒うことなく文章を綴りはじめる孝夫。

    抱えているものはそれぞれに重いのだが、おうめ婆さんの飄々とした語り口がそれを軽やかにしてくれる。
    おうめ婆さんが出てくるだけで、読んでいても顔がにこにこしてくるのがわかる。
    こういう年の取り方をしたいと思う。
    もう少し物欲を捨てて。

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著者プロフィール

南木佳士(なぎ けいし)
1951年、群馬県に生まれる。東京都立国立高等学校、秋田大学医学部卒業。佐久総合病院に勤務し、現在、長野県佐久市に住む。1981年、内科医として難民救援医療団に加わり、タイ・カンボジア国境に赴き、同地で「破水」の第五十三回文學界新人賞受賞を知る。1989年「ダイヤモンドダスト」で第百回芥川賞受賞。2008年『草すべり その他の短篇』で第三十六回泉鏡花文学賞を、翌年、同作品で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞する。ほか主な作品に『阿弥陀堂だより』、『医学生』、『山中静夫氏の尊厳死』、『海へ』、『冬物語』、『トラや』などがある。とりわけ『阿弥陀堂だより』は映画化され静かなブームを巻き起こしたが、『山中静夫氏の尊厳死』もまた映画化され、2020年2月より全国の映画館で上映中。

「2020年 『根に帰る落葉は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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