海へ (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167545116

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  • 患者のために尽くす医者が、尽くすがゆえに心を病む。海のないところで長年過ごしてきたが、旧友の海辺の町で療養する。旧友の娘などと話しながら心を癒していく。

  • この人の作品の主人公の多くはパニック障害を得た中年の医者という設定です。もちろんそれは南木さん自身でしょうが、物語の全てが現実ではなく、多くのフィクションも含まれていると思います。しかし、その区別がつきにくい。。
    また、やはり精神的な不安定さを抱えているせいでしょうか、作品に波があるようです。全体に暗いものが多いのですが、その中に時に透明感のある爽やかさが入ったり、また一方で露悪的な話が入ったり。そしてこの作品はやや後者に近いようです。
    私は南木さんの作品の暗い中に見せる爽やかさが好きなのです。そういう意味でこの作品は少々乗り切れませんでした。

  • 山間の病院で長年医師として勤めて来た。心病んでから閑職についているものの取り立てて不満も無い。心病んだ切っ掛けになった病棟が閉鎖になるというので記念に見回ってみると何だか心がざわついて仕方が無い。
    友人の医師に誘われ海の見える医院に静養に出かけようと思う。十数年ぶりに新幹線に乗って。

    とても臆病で心の弱い主人公の医師は、作者の南木さんの投影された姿だろうと思う。情けないくらいにへにゃへにゃしたキャラクターだけれども何だか癒される。妻もその辺は心得ていて、新幹線に一人で乗れないであろうと踏んで、一緒に新幹線に乗る練習に行ったりするのが何ともはや可愛らしい。

    静養先の友人の医師には、主人公の書く小説のファンである女子高生の一人娘がいる。何くれと世話を焼いてくれるとても利発な子。とても可愛らしい顔をしていて、よくよく見れば豊かに張った乳房をしている(このおっさん何を見ているのやら。男って馬鹿ね)
    そんな娘さんが海近くの秘密の洞窟に連れて行ってくれて、一緒にイワシを焼いて食べ楽しい時間を過ごす。特に色っぽい話は無い。

    なんという事もオチも無く話は進み、すっと掠れるようにして話は終わる。何だか自分の張りつめていた心も知らないうちに脱力していた。

    読んでから気が付いただけれども、阿弥陀堂だよりの作者さんだったのですね。毎回適当に買ってくるので全く気が付かなかった

  • 人の生死に接する仕事に就いている人は、人を個々に扱いながらも、親族同様に患者と向き合っていては心が疲弊してしまいます。

    主人公の中年男性医師は地方で、比較的負担の軽い内科予約診療と人間ドッグの診察を受け持っています。
    10年前に心を病み、呼吸器病棟の責任者から降格です。

    発症後彼の行動範囲は極端に狭まりました。
    過去働いていた病棟には入ることができず、外出も他人が相乗りする乗り物は苦手。

    「一ヵ月くらい休暇とってきてみろよ」

    海辺の町で開業している友人からの誘いです。
    新幹線に乗る練習を経て、友人の病院で過ごします。

    そこで知り合った少女が教える秘密の場所で過ごす時間。
    朝市で知り合った老婆に見る母への思い。
    彼はゆっくりと回復を実感します。

    とはいえ、10年かけてやっと癒しの入り口に。
    これからも完治の時期の定まらない道のりです。

    作品中の人々の心のありようをたどるには、南木佳士の静かな語り口、ゆったりとした文章はぴったりのリズムです。

  • 2012/01/19読了

    心の病気を持った男が、海の近くで仕事をしている友人のところへ行く。ただそれだけ、それだけの物語だ。でも「リアル」なんだ。何ということの無い色々な物事に脅えて、満足に生活できなくて。
    「鬱」は誰でもなりうる。男の背負う得体の知れないなにかが、まさにそれなのだ。完全でなくとも、広大な海により癒され、再生する男…。ただそれだけのシンプルさだが、それが心を癒すのかもしれないね。

  • 作者が医師であり、作家であることから、医学的な内容、特に精神的な面について語られているが、ごく身近に起こる事柄でもあり、そういうことで悩んでいる人もいるのだろうと想いながら、せつなくて、優しい気持ちになっていくし、これからも生きてゆく勇気を与えてくれる作品である。

  • 自身の心の再生を願って、出かけた海の物語。

  • 患者の生死と正面から向き合ってきた医師が、シビアな医療現場の中で苦悩し、精神的な病を発病する。

    大学時代の友人が営む海辺の医院を訪れた日々の中で、自分以外にも心の中の刃の上でもがき苦しむ人がいることを知る。

    で、病が完治するとか、明らかに明るい未来へ一歩踏み出すとか、劇的なエンディングはない。

    なぜなら、これは完璧に医者と小説家の2足の草鞋を履く南木氏の私小説であるから。




    感受性豊かな友人の娘、千絵ちゃんとの会話の中で、

    「文章ってのはその人の考えがそのまま外に表現されたものだから、分かりやすいってのは、それだけ単純な思考しかできない脳の持ち主ってことだよ。そればかりの脳だってことを確認して開き直ってるところはあるよね。おじさんたちの歳になると背伸びするのは疲れちゃうから、おれはこんなに小さいんだぜって、やけっぱちで宣言しちゃうんだ。それだって、自分の居場所を確保するための手段ではあるけどね。」

    ってのがあって、ここんところが一番リアルだな、と思ったりした。




    あと、「医学生」を読んだときにも思ったことだが、性的なものにこだわる…というか、男性としての機能にこだわるという思考って、男性特有のものだな、と。(あたりまえだけど)




    私はココロの病とは無縁だと思って生きてきているが、いつか不安とか苦悩とかいうものが、処理するところのキャパを超えてしまって、表面に出てくるとも限らないな、と思った。

    ていうか、いっそのこと壊れてしまいたい欲望に駆られるのはなんかの予兆なんかもな、なんて。

    脆く繊細な精神を水平に保っていることの方が、案外キツいことなのかもしれない。

  • 山国の総合病院の医師、工藤は10年前に心身が不調となり呼吸器病棟の責任者から内科外来に降格となった。パニック障害、あるいは神経症性うつ病。
    友人の開業医の誘いで海の見える彼の病院に旅行する。

  • 精神を病んでしまった外科医が、旧友が営む海辺の診療所へ行き、そこの家族を通して、医者としての精神のあり方、家族のあり方などを感じ取る話。
    とにかく、話が暗すぎる。
    読んだ後、後味が悪い小説だった。
    出てくる人、みんな何らか精神病んでるし。
    ただ、診療所の娘の彼氏の詩は気にいった。
    オナラのことを「自分の中にもマグマがある」って。
    こういう考え方する人、好きですなー。

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著者プロフィール

南木佳士(なぎ けいし)
1951年、群馬県に生まれる。東京都立国立高等学校、秋田大学医学部卒業。佐久総合病院に勤務し、現在、長野県佐久市に住む。1981年、内科医として難民救援医療団に加わり、タイ・カンボジア国境に赴き、同地で「破水」の第五十三回文學界新人賞受賞を知る。1989年「ダイヤモンドダスト」で第百回芥川賞受賞。2008年『草すべり その他の短篇』で第三十六回泉鏡花文学賞を、翌年、同作品で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞する。ほか主な作品に『阿弥陀堂だより』、『医学生』、『山中静夫氏の尊厳死』、『海へ』、『冬物語』、『トラや』などがある。とりわけ『阿弥陀堂だより』は映画化され静かなブームを巻き起こしたが、『山中静夫氏の尊厳死』もまた映画化され、2020年2月より全国の映画館で上映中。

「2020年 『根に帰る落葉は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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