人質カノン (文春文庫 み 17-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167549046

作品紹介・あらすじ

「動くな」。終電帰りに寄ったコンビニで遭遇したピストル強盗は、尻ポケットから赤ちゃんの玩具、ガラガラを落として去った。事件の背後に都会人の孤独な人間模様を浮かび上がらせた表題作、タクシーの女性ドライバーが遠大な殺人計画を語る「十年計画」など、街の片隅、日常に潜むよりすぐりのミステリー七篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 1993年から1995年にかけて小説誌に掲載された七篇を収録した短篇集。
    特に気に入ったのが次の3篇。
    『人質カノン』深夜の帰り道に寄ったコンビニでピストル強盗に遭遇してしまったOLの遠山逸子。左遷された中年サラリーマン、夜食を買いに来ていた中学生らと人質になってしまう。
    『八月の雪』いじめグループから逃げる途中、交通事故に遭った少年、充。いじめグループは罪を問われず、被害者側のみがわりを食う。充はそんな世の不公平さを呪い、ひきこもりになってしまう。
    『生者の特権』恋人に裏切られ、飛び降り自殺をするビルを捜して、深夜の街をさまようOLの田坂明子。そんな彼女が出会ったのは、いじめっ子に隠された宿題のプリントを取りに小学校へ忍び込もうとする少年だった。

    1990年代は、仕事のやりがいと楽しさにイケイケ状態だったわたしにとって、とても熱くてエネルギッシュな時代だった。
    だけど日本社会全体にとっては、いろんな問題が浮き彫りになってくる時代でもあったようだ。
    「失われた10年」と呼ばれる1990年代の経済の停滞。1993年以降、就職氷河期が続き、中高年のリストラも行われ、1995年以降は失業率が3%を超える。サラリーマンを狙った、少年による「オヤジ狩り」、オウム真理教による事件など、社会は混沌としていた。年間自殺者数も急増、子どもの不登校・引きこもり問題が深刻化していく……
    記憶のなかの90年代と真逆な社会情勢は知っていたものの、どこか他人事だった。時代の明るい一面にしか目を向けていなかったこと、知ろうとしていなかったこと、今さらながら浅はかだったことに気づく。

    ほとんどの短篇には、たとえば近隣の人たちとの交流が希薄であったり、家族間でも心の距離が開いていたことによって起こった事件や出来事。いじめ、地域社会の崩壊、心を病んだ人など、他人への無関心や自分さえ良ければいいとの利己主義的なものによって、傷ついた人たちが登場する。
    特に「いじめ」が根底となったストーリーは七篇中、三篇もあり、いじめに対する作者の思いの深さが伝わってくる。

    世紀末へと踊り踊らされた時代。その足元に広がっていた闇。闇に呑み込まれる寸前で踏ん張っていた傷ついた人たち。 
    見ず知らずの他人同士が出会い、言葉を交わし、同じ体験をすることによって、お互いを闇から引っ張りあげる力が湧いてくる。そこでは、正論は役に立たないし、何が正解なのか答えることもできない。ヒーローの登場もない。ただ悩み傷ついている人々がいるだけだ。
    それでも、人と人が繋がることによって、希望が生まれる。明日がやってくる。そして誰かが味方となってくれる。

    時代の波に飲まれ、失ってしまったものを描くことで、人や社会が失ってはいけないものが見えてくる。そんな短篇集だった。

  • 宮部みゆきさんの初期の頃の短編ミステリー7編。
    中でも表題作、『十年計画』、『生者の特権』が良かった。

    今から約30年前に書かれた短編なのに、令和の今でも十分通用する、時代を感じさせない作品集。
    ごくごく普通の人のありふれた普段の生活の中で、ちょっとした落とし穴にはまったかのような謎めいた出来事に次々に誘われていく。
    陰湿な出来事もあったけれど、必ずラストはほっとさせてくれる、そんな安心感が心地よい。
    「あたし、生きてる」
    生に対する細やかな希望も与えてくれる。宮部さんの優しさに溢れていた。

  • 久々に宮部さんの本を読みたくなって、結構昔のものを読んでみた。

    様々なテーマの短編集となっており、各話楽しめた。 

  • 宮部さんの90年代に書かれた短編集。「人質カノン」「十年計画」「八月の雪」が好きだったな。全体にいじめが出てくる作品が多かったのは、社会問題になり始めた時期だったりしたのかな。書かれた年代が結構前なので、設定やセリフにも時代を感じるものが多かった。苦しい立場にいる主人公が最後には希望を見出すお話がほとんどだけど、最後の最後にちょっとザワッとするような終わり方のものがきて面白かった。

  • デビュー作『我らが隣人の犯罪』はわたしの初読み宮部みゆき。
    その後、数々の力強い長編を面白く読んできた。
    こういう短編小説もいいなあ、と改めて確認。

    90年代半ばの作品なのだけど、内容は古びていない。今だってこう。

    たとえば短編の一つ「過去のない手帳」

    電車の中に置き忘れられていた一冊の手帳。
    ​拾った大学生と、紆余曲折の末見つけた持ち主の女性の、両者とも深い悩みがあった。

    学生は「5月病のやるせなさ」かたや「離婚後の虚脱感」がなんとも胸を撃つ。
    ひとは「しっかりせよ」というが、しっかりしていたらそうはならなかった。
    つまり、自分のことがわからないのだろうね。
    短編ゆえ結末はないが、答えはわかっている。

  • 宮部みゆきさんの短編集。日常に潜むミステリー7編を収録。いじめ絡みの話が多かったが、ラストは前向きで、読後感は悪くない。さすがは宮部さんだが、もう一度読みたいかと問われれば、no thank youかな。

  • 嫌ミス読みたくて読んでみたら、爽やか短編集でした。ほのぼのもでした(笑)。こういうのも書かれるのだと発見した。最後の一編だけ、ちょっとだけうっすらと嫌ミスかな

  • 短編集。
    殺人事件のような大きな事件ではなく、むしろ事件が起きる前のような、ちよっとした出来事の話が多くて、それでもウンウンと共感出来る部分が多く、面白かったです。『八月の雪』『過ぎたこと』『生者の特権』等、“イジメ”の中で、半ば諦めながらも何とか光を見出していく、そんな人間の逞しさも感じられ、ほんのりと心が温かくなりました。

  • 2021年3月2日読了。どこにでもいそうな一般庶民を主役とした7篇のミステリ短編集。2001年発表、「模倣犯」などを発表した頃の宮部みゆきはとにかく人気作家だったが「もちろん面白いが、うまくできすぎている」ような印象を自分は持っていたのだが、この短編集も確かにどれも巧みで楽しまされた。最後の「漏れる心」などは、不穏な雰囲気でもっともっと心を抉るような話になって終わるかと思ったらいい話風に着地してしまい拍子抜けというか…。もっと心に爪痕を残すというか、「歪だが忘れられない」ようなミステリを読みたいものと思うがそれはたぶんこの人に期待しちゃいけないんだろうな。(最近の作品はまた違うのかな?)

  •  表題作含む7編収録の短編集。そのうち3編が「いじめ」をテーマに置いている。
     ミステリーではあるが、謎解きというよりは人間の孤独と葛藤を描いた作品という印象が強い。表題作などはコンビニを舞台にしており「よく会っているけれどその人のことは意外と何も知らない」というコンビニならではの匿名性を描いた作品として印象深い。
     現在では時代作品という印象が強い作者だが、私はこうした現代のちょっとした日常の片隅を描いた現代作品も面白いと思う。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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