楽園 下 (文春文庫 み 17-8)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167549084

作品紹介・あらすじ

彼の告白には、まだ余白がある。まだ何かが隠されている。親と子をめぐる謎に満ちた物語が、新たなる謎を呼ぶ。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    早速下巻を読み終わりました!
    世間一般ではかなり評価が高いと聞いていましたし、とても期待して読み始めたのですが、なかなか辛いレビューになりそうです。。。
    本作品を面白かったと思っている方にとっては気分を害するレビューーかと思いますので、回れ右でお願い致します。。。。




    毒舌だが、かなり期待していただけに、読み終わった後に感じた肩すかしは相当だった。

    え?これだけ引っ張って、結局スピリチュアル路線なの?っていうのが一番の感想。
    勝手だが、こちらとしては本格的なミステリーだと思って読んでいただけに、ファンタジーな要素を加えられてしまうと拒否感が出てしまう。
    サイコメトラーとか超能力とか母親のカンとか、結局理屈が一切ない展開だったため、ちょっぴり非現実的で面白くなかったな・・・
    「模倣犯」の続編ということで、ハードルがかなり高かったのもあるけども、大きなどんでん返しはほぼナシっていうのはどうでしょう。
    もう少ししたら面白くなるかな?っていう期待を抱きながら、何もなくスンナリと読み終えてしまったような印象だった。

    あと、これはかなり私情を挟んじゃいますが・・・
    本作の主人公である前畑滋子が、本作でもやっぱり好きになれなかった。
    この方の「私が正義です」感や、「私は全部わかってますよ」感は、本当にイケ好かないというか。
    そもそも、いくら依頼された事とはいえ、他人の家庭に土足でドカドカと入り込み、自身の正義感を説く権利が彼女なんかにあるのか?
    ここまで来ると、マスコミっていう職種自体が僕は嫌いなのかも。。。

    茜が殺害された謎もその他の事件も、前半から気になっていた「断章」も、そして「楽園」というタイトル自身も、すべてが悪い意味で想定の範囲内でした。
    辛口・批評が続いて恐縮ですが、読者の期待を良い意味で上回る作品を、宮部みゆきには創ってほしかったですね。

    言い方悪いけど、宮部みゆきの今まで読んだ作品の中で、唯一面白くなかった作品でした。残念・・・・


    【あらすじ】
    ライター・滋子の許に舞い込んだ奇妙な依頼。
    その真偽を探るべく16年前の殺人事件を追う滋子の眼前に、驚愕の真実が露になる!
    彼の告白には、まだ余白がある。まだ何かが隠されている。
    親と子をめぐる謎に満ちた物語が、新たなる謎を呼ぶ。


    【メモ】
    p17
    ・タイトルの「楽園」とは、「あおぞら会」のこと??
    「素敵なところですね」滋子は率直にそう切り出した。
    「何から何まで綺麗に整っていて、清潔で。わたしが子供の頃にこういう場所があったなら、入り浸りになっていたでしょう。天国みたいです」
    お世辞ではないし、大げさな表現でもなかった。まさしくゴージャスなのだ。


    p213
    「私も家内も、これは天罰なんだと思っておりました」
    土井崎夫妻にとっては、シゲに金を払い続ける事が、いつしかどこかの時点で、茜を殺害した罪を償うことにつながってしまったのだ。
    実際問題として、いくらシゲの言いなりになろうと、夫妻の自責の念が薄れるわけはないし、罪が償却されてゆくわけもない。だが、そういう錯覚を買うことはできた。
    そう、土井崎夫妻はシゲの沈黙を買っていたのではない。彼らが金と引き換えに得ていたのは、この錯覚なのだ。


    p234
    「誠子には会えません。どの面下げて会うんです?何て言うんです?私らが本当のことを話せばあの子も救われるなんざ、あんたみたいな部外者の勝手な想像だ」


    p235
    高橋弁護士は言った。
    「あなたも過去に一度は大きな犯罪と渡り合ったことのある人だ。わかるでしょう?こういうことでは、全部がすっきり割り切れて、全員の気持ちが落ち着くなんてことはあり得ないんです。他人が救うことはできないし、誰かの告白で何かが解決するということでもないんです」


    p243
    「シゲは、生きてるのかな?」
    どうしても釈然としないのだ。土井崎元の告白には、まだ余白がある。語られていないものがある。まだ何かが残って、隠されている。そう思えてならない。


    p292
    茜は、自分を叔父さんたちの養女にしてほしいと言った。
    「いつもふくれっ面で、挨拶もろくにしない子ですのに、そのときだけは内緒話でもするみたいにこっそり近づいてきました」
    木村氏も強く頷いた。「叔父さん家の子供にしてくれたら、ちゃんと勉強するからって言うんですよ。驚きました」
    刹那だが、滋子の心にそのときのあの切実な表情、すがりつくような目の色がくっきりと浮かんだ。
    こんな家から出たい。好んで生まれてきたわけではないこの家、両親と境遇。何から何まで冴えないことばかり。
    ここからもっと明るく豊かな場所に移れるなら、自分だっていい子になれるんだ。


    p296
    「何でもかんでも自分が自分が自分がと自己主張するくせに、悪いことや拙い(まずい)ことだけ他人や社会のせいにするなんて、正しい日本人の考え方じゃありません。輸入物の思想です。昔から日本人は、まず我が襟を正すという生き方をしてきたんです」


    p332
    「三和明夫の頭の中を覗き見ることで、等くんは土井崎茜の死を知りました。彼にとっては不可解で、恐ろしいだけの光景だったことでしょう。なかなか絵にできなかったんでしょうし、それでいて絵にして吐き出さないと辛かったんだとも思います」
    風見蝙蝠のある家の床下で眠る、冷たい灰色の肌の少女。この女の子はこの家から出られなくて、悲しいんだよ。

    p335
    自殺、ではない。むしろこれは真の意味での「事故」なのだ。
    等はふたつの世界を生きていた。車に撥ねられたときは、望みもしないのに生まれながらに与えられたもうひとつの世界が、彼の視界を奪ってしまっていたのではないか。


    p412
    「茜はわたしの娘です。わたしがお腹を痛めて産んだ子です」
    「だからわたしが手にかけました。あの子がああいう人間になってしまった以上、それがわたしの責任です」
    16年の歳月をかけて、土井崎向子はそういう墓碑銘を刻んできたのだ。最初からそう思っていたわけがない。茜の傷を消毒してやった母親が、同じ手で、これほど確信に満ちて茜の首を絞めたのだ。


    p425
    海の向こうの宗教は、人間は原罪を抱えていると説く。神が触れることを禁じた果実を口にして、知恵を知り恥を知り、それによって神の怒りに触れ、楽園を追放されたのだという。
    それが真実であるならば、人々が求める楽園は、常にあらかじめ失われているのだ。

    それでも人は幸せを求め、確かにそれを手にすることがある。錯覚ではない。幻覚ではない。この世に生きる人々は、あるとき必ず己の楽園を見出すのだ。たとえ、ほんのひとときであろうとも。

  • 彼女と私が同じ歳だとはやはり信じたくはない。一人ひとりの人物がどうしてこうもはっきりはっきり描けるのか。ただ、彼女はやっぱり描けないものがある。恋愛ものと骨太な政治構造である。今回は「模倣犯」のスピンオフ作品。前畑滋子が主人公である。しかし、少しあの事件にかすりはするが、基本的にまったく違う事件を扱う。前畑滋子は子どもを持たないフリージャーナリストである。宮部みゆきと被るところがある。宮部がみる「心の世界」がこの作品なのだと思う。

  • 模倣犯で重要な役柄を背負っていたジャーナリスト 前畑滋子が再び活躍するお話。

    さすが宮部先生。読み物としても大変面白いが、読ませるテクニックも凄い。
    文章表現も多彩で飽きることなく読み進められる。

    いくつか伏線の回収不足??が気になったが、私の気にしすぎなのかもしれない。
    宮部先生への期待が上回ってそう思ってしまっただけなのかもしれない。

    模倣犯の回想シーンが多い為、先に模倣犯を読んでおいた方が良さそう。
    私は何年も前に模倣犯を読んでいたが、何となく場面場面を思い出しながら読み進めることができた。

    宮部先生の作品の何がイイって、人情なのかなぁ・・・?
    登場人物それぞれ人間味があって、魅力的だと感じる。

    そのような魅力的なキャラと対峙する犯人の残忍さがその分強調され、
    読者は色々な視点で考えさせられる作品なのだと思う。

  • 面白かったです、萩谷敏子がいい味出してました。
    しかし、主人公の慈子が模倣犯の人だったとは。まったく内容覚えてませんでした。

  • 後半一気に読みきりました。人間の悪意(模倣犯にももちろん繋がります)と、それだけではない泣ける感動があります。親の情にも考えさせられます。はじめて読んだ「火車」にも通じる暖かい読後感が残りました。

  • ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
    ※裏表紙より
    未曾有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件)から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子等が“超能力”を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に16年前の少女殺人事件の光景が立ち現れた。

    16年前、土井崎夫妻はなぜ娘を手にかけねばならなかったのか。等はなぜその光景を、絵に残したのか? 滋子は二組の親子の愛と憎、鎮魂の情をたぐっていく。その果てにたどり着いた、驚愕の結末。それは人が求めた「楽園」だったのだろうか――。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

     開始数ページで、泣きました。それから等くんの話が出てくる度に、泣きました。等くん、色んな人の頭のなかが勝手に見えて、それで苦しんだこともあったよね。でも、幸せだったでしょう、お母さんが大好きだよね。
     私、まだ両親の庇護下にいるから、わかります。お母さん(もちろんお父さんも)、大好きです。弟も加えた家族四人の世界は、私の楽園です。
     非行に走りとうとう取り返しのつかないことをしでかしてしまった娘を手にかけた土井崎夫妻。母の向子は、責任をとるのだと言った。16年の沈黙の末にようやくつけた折り合いです。
     最近、似たようなニュースを見ました。もうどうしようもない我が子を、我が子が他人様に迷惑をかけてしまう前に始末をつける。悲しいことです。でも、気持ちはわかる気がします。愛しているから、その選択をしてしまう。そしてそんなニュースを見たときに、第三者の無責任な考えかもしれないけれど、それをできる唯一の権利は、家族だけが持っていると思うのです……
     

    ※以下引用

    (母親が象みたいと揶揄されたのを受けて)
    ――象ってね、野生のときでも、人間に飼い慣らされてからも、目つきが変わらないんだよ。ずっとああいう、穏やかな目をしているんだよ。それは知性があるからなんだ。そんな動物、ほかにはいないんだって。   (上巻P9)

    「そうです。子供の自我が、まだ親の自我のなかにすっぽりと内包されていることを示す、平和で温かなパターンです。だからこそ、父の日や母の日に展示されるああした絵は、見る人の心を等しく癒すんじゃないでしょうか」   (上巻P264)

    「他人を毟る味を知ってしまった人間は、そう簡単には手を引かないということです。彼らは潮時というものを知りません」   (下巻P142)

    彼の描く現実の景色は、どこまでも温かく、それは、彼が彼の母親と二人で作り上げていた世界の写し絵だった。母と子の楽園だった。等は、そこに入り込んでこようとする彼にとっては未知のもの――人の世の悪を、秘密を、葛藤を、執念を、我欲を、一枚の紙の上に定着させて、彼にはまだ早すぎる認識から、せめて距離を置こうとしていたのではないか。
     それでも――滋子は、ふと気がついた。
    「あの、梅の絵」と呟いた。「お二人で偕楽園に梅を見に行ったあとに、等くんが描いたあの絵……」
     涙を拭いながら、敏子がうなずく。
    「きれいな梅の絵でした。等くんが現実に見たものなのに、”変な絵”の方に分類されていましたし、実際、ちょっと変でしたよね?」
    「ええ、はい」
    「あれはね、敏子さんの記憶に残っている梅林を描いたものだったんじゃないでしょうか」
     滋子は、敏子にほほえみかけた。
    「だから、等くんの分類としては”変な絵”になったんですよ。でも、あれはちっとも怖い絵じゃなかった。不可解でも恐ろしくもありませんでした」
     そういうものが、ほかにもあったかもしれない。等にしか見えない、温かいものや美しいものが。誰かの心に焼き付いている、等の知らない異国の雄大な景色。誰かが誰かを想う淡いときめきの色合い。   (下巻P336)


    ――手が痛いよ。
     手当てしてくれと、茜は言った。向子に、母親に甘えた。痛いよ。
     向子はそれを、聞き入れた。
    「夫は動くこともできずに、ただ座り込んで降りました。わたしは救急箱をとってきました。消毒してやろうと思ったんです。あの子の手を。本当に痛そうだったから」
     茜はわたしの娘だから。   (下巻P409)

    「茜はわたしの娘です。わたしがお腹を痛めて産んだ子です」
     声音には、まるで自信のような力強さが戻っていた。
    「だから、わたしが手にかけました。あの子がああいう人間になってしまった以上、それがわたしの責任です」   (下巻P412)

     愛情を注いで、懸命に育ててきた我が子が、自分の手から離れ、親の目には見えない流れにすくいとられて、みるみるうちに遠ざかってゆく。手が届かない。声が届かない。振り返ってくれた子供と目が合っても、そこには理解し難い暗い色が見えるだけだ。   (下巻P418)

    ――それなら、どうすればよろしいというのでしょう。
     幸せになるためには。
    ――身内のなかに、どうにも行状のよろしくない者がいる。世間様に後ろ指さされるようなことをしてしまう。挙句に警察のご厄介になった。そういう者がいるとき、家族はどうすればよろしいのです? そんな出来損ないなど放っておけ。切り捨ててしまえ。前畑さんはそうおっしゃるのですか。
     誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。   (下巻P425)

     おばさんが作ってくれるオムライスは、ほっぺたが落っこちるほど旨かったそうだ。友達みんなに自慢しまくったと、青年は言った。だから、当時の青年のいちばんの親友は、敏子のことを「オムライスのおばさん」と呼んでいたそうだ。
                     (下巻P432)

     お母さん。
     頭のなかに、梅の花がいっぱいだよ。
     ――きれいだね。きれいだね。  (下巻P433)

  • 素晴らしいスタートを切った作品を読み進めると、すぐにでも「この作品はどう終わるのか?」を考えてしまうのは、我ながら悪い癖なのかも。
    本作はピタッと来た!予想通りではなく予想を超えた結末ながら、良い終わり方であったな、と。まさに宮部みゆきの、最高到達点!

  • 上下巻の本は読むのに個人的にモチベーションを保つのが一苦労ですがこの本は能力者なのかどうなのか気になるところから全く別の要素が入ってきて一気にいけた。
    いろいろな人の人生が交差してスッキリ読み終わった。
    そしてもう一度「模倣犯」を読んでみたくなった。

  • 滋子大活躍!9年前よりかなり頼もしくなっていた。
    刑事になったほうが良いのでは。

    超能力については、ん~、わからん?

    シリーズではないけど、滋子の「次」を知ってみたい。

  • やっと読了。。
    上巻の感想を覆す事はできなかった。
    登場人物像、話の精巧さは素晴らしいと思ったが、正直、読み終えるまでが結構苦痛だった。
    とにかく、暗くて重くて何にもスッキリせず、何が言いたいのかよく分からない作品だった。
    火車に期待したい。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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