名もなき毒 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.70
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本棚登録 : 4953
レビュー : 475
  • Amazon.co.jp ・本 (607ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167549091

作品紹介・あらすじ

今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。人の心の陥穽を圧倒的な筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • おもしろく、先へ先へと読んだけど、長かった!

    この本のキーパーソンである「原田いずみ」。
    トラブルっていうより、事件を起こしまくるんだけど、
    ここまでくるともはや「かわいそうな人」。
    (もし、身近にこんな人がいたらそんなぬるいこと言えないけど。)
    原田が杉村ファミリーに嫉妬する気持ちも、まあ誰しも少しはあるだろう。
    杉村ファミリーは、老後2000万とか考える必要もないだろうな~とかね。
    そんな、私の中の「毒」も自覚しながら読みました。
    人間の中には、みんな名もなき毒を持っている。
    「名もなき毒」って、すごくしっくりくる表現でね。
    生きていると、人の毒にあたることも、自分の毒を感じることもたくさんある。

    これは杉村三郎の物語だけど、
    他の登場人物の視点で見たら、また別の話になるんだろう。

    毒殺事件の犯人が、「少しのズルをすることができなくて、大きな罪を犯した」という理不尽さには、やるせない、悲しい気持ちになりました。
    北見さんは、きっとそんなことの連続に疲弊してしまって、警察を辞めたのかな・・・。
    私も、自分の仕事についてむなしさや悲しさを感じることが多いから、北見さんが警察を辞めたエピソードのところは、ぐっと、じーんときた。
    実際、色々考えすぎるとしんどくなるから、思考停止して生きて行かなきゃいけないときもある。
    だから私にとっては、北見さんのような生き方はファンタジーであり、物語の中の英雄のようにも感じた。

  • シリーズ2作目。起こる事件はシリアスでも主人公の杉村をはじめとしたキャラ達が心をなごませる。

    杉村の去就はどうなるんだろう、と彼の行く先を見守れる
    のがシリーズもののよいところ。

    自分はもっとできる、もっといい生活を送れるはず、という自己の理想像と、突きつけられる現実の間のなかで葛藤する現代人が成れの果てに行き着いてしまうと原田いずみになるのかな。

  • 宮部みゆきさん「名もなき毒」読了。杉村三郎シリーズ第2弾。広報室で雇ったアルバイト原田いずみはトラブルメーカだった。解雇された彼女の連絡窓口になった杉村は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。街では無差別と思われる連続毒殺事件が注目を集め、次第に杉村も関わることに。。敏腕刑事や残虐な犯人とは無関係な杉村たち登場人物によって、日常的な生活が描かれる。杉村家の引越しとシックハウス症候群、原田のクレーマーぶり、被害者の犯人調査を通して人間の持つ「毒」を考えさせる内容。次作の「ペテロの葬列」も読みたい。

  • さすが宮部みゆき、と思える本でした。やっぱり宮部氏は文章が巧く読みやすいし、人物の描写がプロフェッショナルです。
    本書は、「毒」をテーマにした王道ミステリー。ただ、謎解きだけが目的ではなく、宮部氏得意の社会派小説として読者にいろいろ考えます。
    いろいろな人がそれぞれに病んだ現代社会で、何が普通なのだろうとふと思ったりします。被害妄想の女性は気違いじみて描かれますが、彼女は本当にそこまで特殊なのでしょうか。
    長い小説ですが、飽きることなく最後まで一気に読めます。硬派なミステリー、万人におススメできます。

  • 『誰か』の続編。今多コンツェルンの広報室に勤める杉村三郎は広報室のバイトを首になった原田いずみの対応を任される。しかし原田は自身の処遇に不満を抱き、杉村や広報室に嫌がらせやクレームを続ける。折しも街では連続毒殺事件が発生していた。ひょんなことから事件の被害者の孫娘と知り合いになった杉村は毒殺事件にも徐々に踏み込んでいく。

     今作も宮部さんの筆勢は圧巻! 『模倣犯』以降の宮部さんの人間の心情のひだの描き方、悪意の描き方は宮部さんにしか書きえないものになっているように思います。

     今作でその悪意は名もなき毒として表現されます。原田いずみと毒殺事件の犯人が心に抱えた毒。それは単なる理解不能な悪意ではありません。なぜ自分だけがこんな目に遇うんだ、という不満、怒り、嘆き、嫉妬、歯がゆさ…そうしたものが背景にあります。

     そうした毒を溜め込みつつも何とか懸命に生きようとする人もいれば、原田いずみのように少しの毒にも耐えられない人がいます。それがこの作品の一つのテーマでしょうか。

     そして、なんとか毒をまき散らさないよう耐えてきた人でもあるきっかけ、ある瞬間にどうしようもなくなってしまうこともあります。原田いずみや毒殺事件の犯人のような、毒のまき散らし方は極端かもしれませんがそれは決して自分たちと無縁な毒ではないのです。

     そしてその毒の怖さは、突然何の脈絡もなく人を襲うことでもあります。無差別な毒殺事件や作中で触れられる土壌汚染やハウスシック症候群はその具体的な典型例でもありますが、それは人がまき散らす毒にも言えるのです。
     原田いずみに関わった杉村三郎をはじめ広報室の面々、原田いずみの身内も彼女のまき散らす毒に触れるうちに徐々に消耗してしまったり、何かを失ってしまったり、ということも描かれます。そしてそうした突然襲ってくる毒に対し自分たちはとても無力だということを悟らざるをえなくなるのです。

     ラストシーンで杉村三郎はその毒に対し戦いたい、正体を知りたい、という気持ちとこれ以上それに触れ続けると何か大切なものを失うという狭間で揺れます。文庫版『ソロモンの偽証』で期せずして、杉村三郎がその狭間から選んだ回答を知ってしまったのですが、その回答に至るまでの具体的な道筋が描かれるのは次作『ペテロの葬列』になりそうな感じですね。本当に文庫化が待ち遠しい。そして願わくば”名もなき毒”に対し杉村三郎は、宮部さんはどんな答えを導き出すのか、知りたいなあ、と思います。

    第41回吉川英治文学賞
    2007年版このミステリーがすごい!6位
    2007年本屋大賞10位


    以下引用です。
    引用ページでは文字数がオーバーしてしまいました…
    250字だと会話文を載せるのは難しいですね(苦笑)

    杉村三郎と、探偵の北見氏の会話の場面(p413~414)より

    「じゃ、普通の人間とはどういう人間です?」
    「私やあなたが、普通の人間じゃないですか」
    「違います」
    「じゃ、優秀な人間だとでも?」
    「立派な人間と言いましょうよ」北見氏は疲れた顔で微笑んだ。「こんなにも複雑で面倒な世の中を、他人様に迷惑をかけることもなく、時には人に親切にしたり、一緒に暮らしている人を喜ばせたり、小さくても世の中の役に立つことをしたりして、まっとうに生き抜いているんですからね。立派ですよ。そう思いませんか」
    「私に言わせれば、それこそが、”普通”です」
    「今は違うんです。それだけのことができるなら、立派なんですよ。”普通”というのは、今のこの世の中では”生きにくく、他を生かしにくい”と同義語なんですよ”何もない”という意味でもある。つまらなくて退屈で空虚だということです」
    だから怒るんですよと、呟いた。
    「どこかの誰かさんが”自己実現”なんて厄介な言葉を考え出したばっかりにね」


     普通の暮らしや生活、中流階級が崩壊し格差が広がり日々の余裕もなくなってしまった日本において、北見氏と杉村三郎のこの会話は妙な実感を持って響きました。

  • 前作ではひき逃げ事件の解決に巻き込まれてしまった杉村三郎。妻子を愛し、義父には頭が上がらず、誠実に仕事をこなす人の良いサラリーマンだ。

    今回、彼が巻き込まれる事件は青酸カリによる無差別殺人事件だが、その前に現れるのは理由のない悪意のかたまりを持つ女、原田いずみ。杉村のような常識人には全く理解のできない破滅的行動を人生で何度も繰り返してきたモンスターだ。

    一昔前なら架空の小説といえど、こんな人間の創作には無理がある。が、モンスターと呼ばれる近隣住民や学生の親、消費者が話題になるこの時代、彼女のような人間は決して非現実的ではない。

    本作品では、タイトルでもある「毒」の様々なタイプが描かれる。殺人に使われる毒、シックハウス症候群の素になる毒、土壌汚染の毒。これら、いつの間にか人間の体内に入り込み、体を病ませてしまうのが毒。その意味では、自分こそが正義と思い込み、他人を不快にさせてしまう原田いずみという人間の存在も毒だろう。

    そんな強烈なキャラクター原田いずみと、連続殺人事件がどうつながっていくのかを期待して読んでいたんだけど、意外なオチ。結局、杉村とその家族に毒が入り込んだところで、次巻へ。

  • 前作の「誰か」より、もっと深い闇に触れる作品でした。シックハウスや土壌汚染などは目に見える毒、原田いずみや外立くんのように人が持つ毒は見えない毒なのかなと感じた。イジメもまた然り。ただ原田いずみの場合は、生まれ持った毒で、外立くんの場合は育った環境が彼を蝕んでいったのだと思う。なので、原田いずみには最後まで憎たらしい感情しか持てなかったが外立くんには同情してしまう自分がいた。
    本作を読んで杉村三郎シリーズの大きなテーマが人の毒なのではないかと思った。恐らく今後も杉村三郎は、毒と向き合いながらどうすれば解毒できるのかを模索して行くような気がする。その過程で、今回最も猛毒を持った原田いずみをという人物は、常に杉村三郎の前に立ちはだかる毒になると思う。
    現実でも、最近の異常な犯罪を見ると、充分にリアリティのある作品だと感じました。

  • 杉村三郎シリーズ第二弾、青酸カリ毒殺事件とトラブルメーカーとの対応。
    青酸カリ、シックハウスや土壌汚染をもたらす毒物、そして悪意・被害意識の毒。
    今回の杉村は、名付けられ捕捉されないゆえに対抗できない心の毒に翻弄され、偶然のような周囲の助けによって、たまたまのような解決に至る。
    探偵の方向性も見えるものの、何とも頼りない。そのお人好しの好奇心と巻き込み力の展開に期待する。
    19-82

  • 再読。原田いずみは本当に恐ろしい。こんな人、正直付き合ってあげられる優しさは私にはない。ほんと家族が殺してしまってもおかしくないと思う。それでも頭を下げるお父さんの気の毒なこと。ほんとに杉村は優しい。お兄さんの結婚を壊した話は読むだけで辛かった。そして外立君は切なかった。ばあちゃんのことは心配するなと叫んだ社長には涙が出た。ほんと、この人もいい人だ。外立君は孤独ではない。それでも他人がやれることには限界がある。杉村の母親が電話をかけてきたのも泣けた。巷で騒いでいる無差別殺人事件とか、あの自殺した人とかも原田みたいな気持ちだったんだろうか。自分だけが不幸であると思っていたのだろうか。ほんと毒があるのは人間なのだ。

  • 2〜3年前に宮部みゆきの「誰かSomebody」を読んで、今年「希望荘」を読もうとしたら、これも杉村三郎が主人公の小説で、既に杉村三郎シリーズの4作目ということがわかりました。それなら2作目と3作目を先に読まなくてはと思って、2作目の「名もなき毒」を急遽買って一気に読み終えました。
    今多コンツェルン会長の娘婿で社内報の編集が仕事だと言うのは変わってなく、事件に巻き込まれて探偵のように解決するというパターンも同じですが、事件の内容は色んな絡みがあって、前作よりだいぶスケールアップしています。
    全く関連のない二つの事件に関わることになった杉村が、最終的には二つの事件を同時に解決することになる結末が用意されているとは凄い展開です。
    一つは杉村の部下になるアルバイトの女性が起こす逆恨みの事件、もう一つは青酸カリによる連続殺人事件。両方の事件に複雑に絡んでいく経緯も面白い。
    この2作目までは少なくとも、夫婦仲も問題なく、会社での仕事も問題なく、会長との関係も問題ない。奥さんがあまり丈夫でないようで、今回の事件に巻き込まれたストレスが少し気になるところはある。4作目では離婚して会社も退職しているらしいので、次の3作目「ペテロの葬列」では夫婦仲がどんな展開になるのかも楽しみの一つだ。

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著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

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