上野介の忠臣蔵 (文春文庫)

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  • 文藝春秋
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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167551070

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  • 忠臣蔵を吉良家側から書いた小説。
    とても面白かった。昔読んだ忠臣蔵よりこっちが史実なのでは?と思わせる。

    思えば忠臣蔵は突っ込みどころ満載。
    塩の作り方を教えてくれなかった浅野家に吉良が意趣返しで教えるべきことを教えず意地悪をしたので、浅野が殿中で切りかかった。
    →例え意地悪が本当だとしても、殺すのはいかん。
    浅野は即日切腹。お家断絶。→早いけどやったことを思えば妥当。殿中で殺人未遂だからね。
    浅野家家臣、喧嘩両成敗なのにと怒る。→喧嘩じゃない。浅野が勝手に切りかかってきただけ。
    いろいろあって大石蔵之介が仇討ちを果たす。→まず仇討ち相手は幕府では?吉良はちょっと意地悪しただけだぞ?浅野が無防備な吉良に切りかかったことについてはどう思っているのか?

    堀部安兵衛は浅野と大した関係無いっぽいし、吉良の領地では上野介は良政を敷いていたらしいし、浅野の妻は子供っぽいし、浅野は怒りっぽすぎる、そもそも吉良が何をした、となんか変だなあと思っていた疑問が解けた。
    もちろん実際はどうだったかはわからないわけだが。
    時代小説としても雰囲気があって、一学が清々しくて良い。

  • 突然逆ギレして殿中で切りかかってきた馬鹿の家臣に逆恨みされて斬り殺された上に、孫は幽閉されお家断絶を迎えた老人の悲哀の物語。
    世論を納得させる裁きの公正さが大事と。

  • 畳の縁の模様で格式がある。上野介の知恵をもっと出したら良かった。

  • 忠臣蔵は世の中の雰囲気が起こした復讐虐殺事件であるという解釈。正義の名のもとに命を軽視する大戦中の空気を感じる。


     この人の本はトンデモ学説な下馬評があるけど、まぁ目の付け所が面白いし、こういうのがないとダメだよな。

     やはりいつの世も神経質な人間は生きるのが難しいんだな。

     吉良上野介義央(ヨシヒサ)という本名も今回初めて認識した。

    _______
    p23  五代将軍:綱吉
     徳川五代将軍綱吉は生類憐みの例とか気違いじみたストーリーが多いが、忠臣蔵はこの頃の話。むしろこの綱吉の時代だから起きたような事件なのである。
     綱吉は15代将軍の中で一番お家取り潰しという裁断を下した男である。初期の幕府は機会があれば大名を潰そうとしていたのだが、一つの藩を一決で無くすというのはものすごいことだ。嫡男がいなければ強制お家断絶である。武士は一所懸命なのに…
     このお家断絶というのが吉良家に大きく関わっている。吉良上野介の妻は米沢藩上杉家の出自だった。その上杉家に跡継ぎがいなくなるという危機が迫った。例の御家断絶である。そこで、吉良家の長男:三之助を上杉家に養子に出して事なきを得たのである。
     しかし、その時吉良家には男児は三之助しかいなかった。逆に吉良家が跡継ぎを失うのだ。それを了承した義央の人間性がわかる。30万石の上杉家という大藩に恩を売ったという悪い噂もあるが、著者は漢気だという。
     嫡子を失った吉良家のその後は、次男:三郎が生まれるも早逝してしまう。そこで最終的に上杉家に養子に行った三之助の次男を養子に貰い受けている。養子に出した実子から養子をもらうという複雑な家庭事情がこの両家に生まれたのだ。
     しかし、そんなんだから吉良家と上杉家の繋がりは深まった。互いに助け合う関係になった。それがのちに災いするとは…。

    p47 藩財政
     米沢上杉家は吉良家からの養子の一件で石高を30万石から15万石に半減させられた。(本来、藩主が死んだときに養子が居なかったらその時点でお家断絶だが、保科正之の助力で何とかお家が潰されるのは免れた。)
     上杉家は収入が半減したのだから財政難だった。しかし、大名としての生活の質を落とすことは誇りをかけてできない。そこに来て、関係の深い吉良家への援助を惜しまないやり方を気に喰わなく思っている藩士もいた。いつの世でもいるもんだ。

    p53 高家
     吉良家は武門の家ではない。高家といって、将軍家が朝廷と付き合う上での折衝役であり、公家社会の礼儀・作法の指南役の御家だった。その最高格。
     この役職は家康が作ったといわれ、江戸初期から吉良家はこの職に就いている。
     吉良家は鎌倉初期に足利系譜の吉良長氏が三河国吉良のちに起こした家であった。今川家も吉良家の系譜である。吉良家は足利幕府の衰退と同じく没落したが、近所の三河松平家の徳川家康が天下を治めたことがラッキー。足利家として朝廷との付き合い方を知っている吉良家を朝廷の窓口として取り立てたのである。そういう歴史のある家が吉良家である。

    p58 折り紙
     吉良家は折り紙の家元だという研究がある。改まった席で使われるのし袋や金子の織り方の礼儀があったのだろう。

    p76  赤穂
     浅野匠頭長矩(ナガノリ)は赤穂藩の藩主。吉良家との共通点はどちらも製塩業が盛んなこと。
     どうやら義央は長矩のことをあまり知らなかったようで、同じ塩づくりの浅野藩の藩主ぐらいの認識である。

    p86 義央の強欲のワケの一つ
     吉良上野介には強欲だったという噂があるが、その一つに「呉服橋の大豪邸」がある。
     吉良家の江戸藩邸が火事でなくなって、呉服橋に新たな二万五千両をかけた大豪邸を建てた。それもその費用の大部分を上杉家からの援助だったという。
     なんて金食い虫なんだという世間評がそこでついてしまった。しかし、両家には切っても切れない縁があるのはもう語った。

    p97 綱吉②
     綱吉は独裁者だった。だから色んな逸話があった。
     そんな独裁者が独裁を振り回せたのは、老中を軽視して自分を諌める人間を周りに集めたからである。そのお気に入りの側用人の筆頭が、柳沢吉保である。

    p121 浅野匠頭のよくない所
     吉良上野介と浅野匠頭の喧嘩の舞台は御馳走役という朝廷からの勅使を接待する重役である。 
     そこで浅野匠頭は悪い所を出してしまう。
     ケチなところ。当時の慣例を重んじる武家社会で、慣例に従わずに饗宴の予算を削ろうとしたのである。
     長矩にとってこの高家の仕事は肌に合わない嫌な仕事だったのかもしれない。だから反抗的だったのかもしれない。ここら辺から溝が生まれている…。

    p127 イザコザ
     吉良上野介が浅野匠頭の馳走役での予算削減について聴取を行い、態度を戒めた。そうしたら長矩は歯向かって見せた。若さゆえの過ち的な物だろう。そういう頭の固い田舎侍だったのも本当だったのだろう。

    p129 頭痛持ち
     浅野匠頭には痞気(ツカエ)と呼ばれる片頭痛のような持病があったとされる。この御馳走役の任務の際もこの片頭痛が起きていたようである。しかし、その頭痛が発生したのは嫌な仕事をやらされて、意見の対立する上司との人間関係のストレスからだったのであろう。つまり、そういういろいろなストレスが重なって、事件の当時はいっぱいいっぱいな状態だったのだろうと予測できる。

    p139 名前が出てこない
     吉良上野介は事件当日に、浅野匠頭たちが作法を間違えているのに気付いた。それを指摘しようとするが、年齢のせいなのか、浅野匠頭の名前がまさか出てこない。悩むも思わず「そこの人」とあたかも厭味ったらしく名前を呼ばないような言い方をしてしまった。という演出。これに堪忍袋の緒が切れたようだ。

    p145 乱心の罪の重さ
     吉良上野介は長矩の狂行を「私には身の覚えがない。御乱心だろう…」と言い張った。当時の法律では、乱心ゆえの狼藉は刑事責任能力はないとされ情状酌量の余地があった。
     これは吉良上野介の配慮だったのかもしれない。

    p148 ケンカかどうか
     当時、喧嘩両成敗という不文律があった。しかし、この事件を聞いた綱吉は「一方が切りかかったのだから喧嘩ではないだろう。」として、浅野は即日切腹、吉良は無罪放免と独断した。いつもの独断。
     この独断がのちによくない雰囲気を産んだ。

    p154 上野介の悔しさ
     事件の後、上野介はどうしていたかというと、ものすごく悔しがっていただろうと予想できる。高家である吉良家として役目を全うできなかった。末代までの恥だ…。そんな風に考えていただろう。

    p164 空気の醸成
     お家断絶後の赤穂藩が敵討ちをするだろうという噂が世の中で膨らんでいった。
     一般のイメージでは、吉良家は金の亡者で一人だけ助かった悪者である。そういうイメージが噂に尾ひれがついて大きくなっていった。そんな人間は死ねばよかったのに。赤穂浪士たちも仇討をすればいいのに。綱吉による圧政で世の中逆に面白い物への欲求が高まっていたから、赤穂浪士の仇討は期待され、その空気が赤穂浪士たちを焚き付けてその気にさせた。その気配がある。

    p166 見捨てられた!?
     幕府は呉服橋にある吉良家の藩邸からの転居を命じた。この藩邸の隣に住む蜂須賀家から要望があって、それに幕府が答えたらしい。吉良家は本所(隅田川の先)の替え地に移された。しかし、この地は前の呉服橋よりも江戸城から遠く、セキュリティ上より危険であった。これはもはや幕府から吉良家が仇討されても良いと、見捨てられたようなものである。

    p180 再興断念
     御家取り潰しになった後の赤穂藩は、大石内蔵助を中心にお家再興をはかった。しかし結局、長矩の養子となっていた浅野大学は蟄居ののち広島藩の浅野家での差し置き預かりになった。つまり独立した赤穂藩はもう作れないということが事実上決まったのである。
     お家再興のために活動していた赤穂藩の浪人は希望を失った。そういう人間がどういう行動に出るか、考えられないでもない。

    p189 ろうえい!
     赤穂浪士が吉良家に討ち入りをかけるには義央が確実に家にいることがわからなければならない。
     義央は老齢もあって息子の待つ米沢上杉家に隠居することになった。そのお別れ茶会を山田宋偏という茶人と行うことになっていた。その宋偏が茶会の日を漏らしてしまった。この日には確実に義央が在宅する。その日に討ち入りが決行された。

    p197 かたびら
     赤穂浪士の人間は吉良家の武人に抵抗されたが死人はいない。鎖帷子を着込んでいたからである。それに対して吉良家の物は寝間義で応戦したのだから、不利だ。
     どんなに攻撃しても相手の致命傷にならないが、自分は一撃で死んでしまう。こんな不公平な戦いがあるだろうか。

    p203 黄泉がえり
     家督を継いだ吉良義周もこの忠臣蔵の襲撃に遭っている。彼も寝間着で応戦し善戦した。しかし背後からの袈裟がけ切りで傷を負い、倒れていた。しかし致命傷にはならず、事後に蘇生し幕府の検見役の事情聴取に答えている。

    p213 あやしむ…
     忠臣蔵の事後、上杉家に朝七時には幕府の役人として畠山義寧が幕府の意向を伝えに来た。事件があった一時間足らずで幕府の決定が下りるなんて怪しいと著者は言う。事前に赤穂浪士の仇討が起きたらどう対処するかが決められていたのではないか。
     畠山曰く、「今回の赤穂浪士の行為に対して上杉家が兵を出すのは江戸に混乱を招くことになるから慎むように。事態の収拾は御公儀に任せるように。」こう言われたら武家として従うほかない。自分の実の父を殺されたのに、一方の仇討は実質認めるのに、こちらの仇討は認めないとは…。そう言う判決だった。

     幕府としては、世間の評価では赤穂藩が不利だと言われているから、ここでバランスを取ったつもりだったのかな。

    p216 そりゃあないぜ…
     忠臣蔵の一件の後、事件を起こした赤穂浪士は切腹という名誉の死を遂げている。
     それだけで話は終わらない。吉良義周は領地没収の上、諏訪の高島城に幽閉という処分になった。そこで不遇の幽閉生活を強いられて義周は21歳という若さで獄死する。お家断絶である。

     この忠臣蔵の一件は最終的に喧嘩両成敗のカタチに収まった。しかし、法治国家のやり方としては実にお粗末である。


    ______

     世間が「吉良は悪」という風潮になった。それが赤穂浪士の討ち入りを後押しし、正義に仕立て上げた。

     世間の空気が冷静な判断を鈍らせる、日本人特有の空気を読む文化が暴走した一例であるという捉え方。

     日本人が太平洋戦争の時に見せた狂気、これがあるからこの捉え方も納得がいく。

     冷静に考えて、嫌味を言われたから切り殺そうとしたなんて喧嘩両成敗になるわけがない。それなのに悪者というイメージが噂の尾ひれで大きくなった吉良上野介が仇討されたのが正義になるという、異常事態。

     正義が大事ではない。大切なことを忘れないことが大事なのである。それを改めて感じました。

     良かったです。

  • 読完2011.08図書館

  • こういう裏側から見たものって、
    比較的偏りがちになってしまいがちなものなのですが、
    この小説はあまり上野介側に偏ることなく、
    見事に一歩離れた目で見ています。

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著者プロフィール

清水義範
 愛知県名古屋市生まれ。愛知教育大学教育学部国語学科卒業。
  『国語入試問題必勝法』により第9回吉川英治文学新人賞を受賞。
 代表作に『蕎麦ときしめん』『国語入試問題必勝法』『永遠のジャック&ベティ』『おもしろくても理科』『どうころんでも社会科』などがある。

「2014年 『清水義範のイッキによめる! 日本史人物伝 戦国時代~幕末激動編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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