猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
4.04
  • (529)
  • (485)
  • (296)
  • (60)
  • (20)
本棚登録 : 4164
レビュー : 531
  • Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167557034

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 唇が閉じられたまま生まれ、大きくなることを怖れ、小さな身体のままチェス盤の下で美しいチェスをさすリトル・アリョーヒン。
    閉じ込められたままにそれを受け入れる人々は、静かで哀しく、いまにも消えてしまいそう。小川洋子さんの独特の世界観に満ちた小説だった。
    チェスのことはなにもわからないけれど、美しい棋譜が編み出される様子は魅力的。
    リトル・アリョーヒンは幸せだったのかもしれないけれど、最後までそうは思えなかったし、インディラもマスターもミイラもとても切ない。総婦長さんの生命力ある存在が救いに感じた。小川洋子さんの文章は本当に美しい。

  • 小川洋子の書く「才能のある人」にいつも胸が詰まってしまう。その人より優れたものが、必ずしも全ての人に迎合されるわけではないことを、静かに突きつけてくるからだ。
    彼の小さい体、毛の生えた唇、マスターとの関係を、小川洋子の目を介さずに見て愛すことができただろうか、と不安に駆られる。
    あるいは、同じ布巾を洗わずに使う老婆を、鳩を肩に乗せた少女を、キャリーバッグを引く多弁な老人を。
    優しくて静かな目を持ちたい、と思わずにはいららない。

  • またもやタイトルで選んでしまった。後悔はないけど・・ガラスの人生を生きる人々を描くのが好きなのだろうか。辛そうなことを好む人々を描くのが好きなのだろうか。もっと平凡だけれど痛くも辛くもない人生を歩むことは物語にならないのだろうか。
    チェスの場面は緊張感も戦術の詳らかさや宇宙をふくめた浮遊感も一読の価値ある。
    インディラを写真を思い出した。

  • リトル・アリョーヒンの縁を描いた物語。縁が来る。それを受け入れる。すると次の縁がやって来る。またそれを受け入れる。そんな流れの中を旅していたのかな*゜端から見た主人公の人生は、偏っていて狭い。だけど、彼は色々なことを知っていて、それは正しいのだと感じさせられる。
    本のタイトルも装丁も何もかもがぴったりそこに収まっている。そして、こんなにも泣きたくなったのは初めてだ。

  • 小川洋子の作品はどれも素晴らしいのですが、これは文句なしに一番の傑作です。チェスという一見馴染みにくい題材で、どうやったらこれほどの物語を描き出すことが出来るのかと、驚くばかりです。さらに、魅力あふれる登場人物と、繊細で印象に残る文章は、読後感をより深いものにします。一人でも多くの人に読んで欲しい作品です。

  • 霧の中のような心地よさのある作品でした。
    暗いし視界も悪いのだけど、その湿気と冷たさに安心する感じ。
    なんとなく、プールの底から水面を見上げた時の感動も思い出しました。

    こんなふうに余韻の残る作品はなかなか無いのではないでしょうか。
    ちょっとつまづいた時や立ち止まりたい時に、またこの本を開くような気がします。

  •  小川洋子氏は実在したチェスチャンピオン、アレクサンドル・アリョーヒンと「背中合わせに生きた人物」として、伝説の天才リトル・アリョーヒンを創りだした。
    だがリトル・アリョーヒン自身がチェスを戦ったわけではない。「チェス人形」の狭い狭い空間に身体を押し込ませた操り手として生きたのである。

     生まれながらの異形であるリトル・アリョーヒンは、デパートの屋上から降りられなくなった象や、壁に挟まれて出られなくなった少女を心の友とし、プールのa8の場所に浮いていた溺死体が縁になり、マスターと出会う。マスターは今にも消えてしまいそうだった彼に、チェスという海への航海を教え、「人生」を与えた。だがマスターも異形なまでの肥満体で、そのことがまたリトル・アリョーヒンの心に傷を残すことになる。
     
     リトル・アリョーヒンの人生は、不幸であり幸せでもあった。全うな人生を与えられなかったかわりに、才能を与えられ、心より愛する対象を見つけて生きることができたのだから。彼の痛々しいまでに慎ましく純粋な生き方は、どんなアクティブな主人公よりも私の中に強い印象を残した。

     本当に美しい物語である。小川洋子氏の発想と表現力はさすがで、数学的なシステムへの愛情は、無機的なものを、匂いやぬくもりのある愛すべきものに変えてしまう。その力はもはや魔法だ。

     読みながら私の頭では何度もこの物語がアニメ化された。ベルヴィル・ランデブーのような、四畳半神話大系のような。
    シルヴァン・ショメ監督にぜひアニメ化してほしい。実写はダメ。

  • 人形を操りながらチェスの盤上に詩を描くリトル・アリョーヒンが主人公です。この本からテーマを読み取るとるのは、私には難しい気がします。

    自由とは何か?、自分を表現するということとは何か?、思いを伝えるというとはどういうことか?をチェスを通じて語っているとも言えます。

    デパートの屋上に取り残された象のインディラ、身体が大きくなりすぎたチェスのマスター、鳩を肩に乗せたミイラ、そして老婆令嬢等魅力的なサブキャラクター達も登場します。

    認知症の母を持つ身としては、エチュード内の様子を現実と重ね合わせながら読まざるを得ないし、かつて思慮深かった老婆令嬢が認知症となってリトル・アリョーヒンの前に現れた時には、予想をしてたとはいえ心が痛みました。

    「博士が愛した数式」の中に登場する主人公も、短期記憶しか保持出来ない病に侵されていました。小川洋子氏は外からは窺い知る事ができないインナースペースを描くにあたって、特殊なプロットを用いる事が得意なのでしょうか。数式の美学と、チェスの棋譜が描く美しさに同じようなものを感じました。

  • この本は電車のなかで読めなかった。
    リトル・アリョーヒンが泳ぐ海に潜るためには静かな場所が必要だった。
    静かで力強くてとても綺麗。
    チェスについては全く知識がないけれど、リトル・アリョーヒンが描く棋譜の空気には触れることができたんじゃないかなと思う。
    読み終わった後に、水族館で大きな水槽をずっと見上げている時のような、眩しくて神秘的な心地よさが体に残って、知らぬ間に感じていた体の力が、すーっと抜けていくような感覚が好きです。

  • 背伸びばっかりしてる人、口だけの人、言うことがコロコロ変わる人、
    何かとアピールばっかりしてる人っているんだよね。
    必要以上に自分を強く見せようとしたり、計算で媚びる事を云ったり、
    知りもしないのに・ちょっとしか知らないのに偉そうにしてたりね。
    ちょっとお付き合いすれば、そういう薄っぺらいのは大人にはバレるのに。
    かっこわるい人。見てらんない人。

    まあ自己紹介はこのくらいにして……
    主人公のリトルアリョーヒンはそういうのと対極にいる人。

    この小説全編を通してその実直で素朴で
    固い信念を持った人柄が伝わってきた。
    すごく小さくて力もないリトルアリョーヒンだけど、
    家族やマスターや老婆令嬢をそれぞれまっすぐに信頼・尊敬し、
    美しいチェスを追求する態度に感服。
    言葉じゃなく、態度・行動一つ一つに感服。

    ミイラが人間チェスで受ける仕打ちを知った時が
    リトルアリョーヒンがこの小説の中で一番取り乱すところかな。
    かなり印象的だった。
    そこからのミイラへの想いの純粋さ、
    そしてそれに対するラストシーンに胸が詰まった。

全531件中 31 - 40件を表示

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)のその他の作品

猫を抱いて象と泳ぐ Audible版 猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子
猫を抱いて象と泳ぐ 単行本 猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子

小川洋子の作品

ツイートする