風味絶佳 (文春文庫 や 23-6)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167558062

作品紹介・あらすじ

70歳の今も真っ赤なカマロを走らせるグランマは、ガスステイションで働く孫の志郎の、ままならない恋の行方を静かに見つめる。ときに甘く、ときにほろ苦い、恋と人生の妙味が詰まった小説6粒。谷崎賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;小説家で漫画家。高校で文芸部に所属、フランソワーズ・サガン等を愛読。大学の時に、漫画研究会に所属。在学中に漫画家デビュー。「ベッドタイムアイズ」で文芸賞、「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」で直木賞、「風葬の教室」で平林たい子文学賞他、多数受賞。福田和也氏が、山田氏の「4U」「MAGNET」等を短編小説の名手と評価。
    2.本書;恋愛小説の名人と言われる、山田氏の短編集(6編)。①間食 ②夕餉【人妻が清掃局職員に惚れて、家出→同棲。男に料理を作り続ける話】③風味絶佳【70歳でも真っ赤なカマロを走らせる祖母を巡る話】➃海の庭【離婚した母親の中学の同級生で、いまだに母を慕う引越し屋の男。その男を慕う娘の話】⑤アトリエ⑥春眠。登場人物は、ビジネスマンではなく、とび職や清掃局員等という人々であり興味津々。谷崎潤一郎賞を受賞。
    3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
    (1)『第2編 夕餉』より、「どんなに私が丁寧に作ったものでも、口に合ったためしはなかった。もっとも、私も、正確に料理はしたものの、それが彼の血や肉になるなんて考えた事はなかった。・・・味気ない妻。愛してもいないのに結婚するからこういう事になるのだ。条件だけで配偶者を選ぶから、食卓の楽しみを失う破目になったのだ。軽はずみな夫」
    ●感想⇒結婚観は十人十色です。某調査によれば、日本の1日当たりの結婚数は1813組→離婚は646組。3組に1組が破綻。結婚は、❝経済的な安定❞の他に、❝家と家という、複雑な人間関係を背負う❞事になります。しかし、離婚原因を見ると、男女共に「性格が合わない」が最多。従って、結婚に際しては、相手の人格を見極めると同時に、完璧な人間はいないと思うので、短所の許容範囲にも柔軟性が必要です。『恋愛→結婚→オシドリ夫婦』という幸せな人達もいるでしょうが、少数派と思います。生涯を共にする伴侶選びは重要です。そうは言うものの、大恋愛の結果、結ばれるというドラマチックな人生にも憧れますよね。読んだ小説の一節です。「仕事と伴侶。その2つだけ好きになれば人生は幸福だ」と。いずれにせよ、人間として尊敬に値するものを一つでも持ちたいものです。
    (2)『第3編 風味絶佳』より、「いつだって、どのような時だって、女、優先。祖母は、それを貫いていた。幼い孫に対しても強要した。彼女と一緒の時に、志郎は電車やバスの座席に座った事はなかった。一つ空いていれば彼女に譲る。二つ空いていたら、もう一つを側に立っている別な女に譲る。・・・女がいる限り、男は疲れたままなのだ、と子供心に悟った。・・・仕込まれた事は山程ある。重い荷物を女に持たせてはならないとか、ドアは先に開けて押さえておき女を先に通すとか・・・」
    ●感想⇒一昔前までは、男女差別という言葉をよく耳にしました。その頃は、ビジネスの場では、女性幹部は少数でした。男女雇用機会均等法を皮切りに、十分とは言えないまでも、差別は縮小しつつあります。私も幼い頃に、祖母から「生活の各場面で弱い立場の人がいたら気配りしなさい」と口酸っぱく言われました。バスや電車での席譲り・幼子を抱えた母親へのアシスト・困った様子の人等への気遣いは当然だと思います。女性と男性では、役割や体格等が違うので、それなりの配慮が必要。祖母はこうも言いました。「他人様が困っていたら、自分の親等、大切な人と思って、行動しなさい」と。経済的に、裕福とは言えない家庭でしたが、手前味噌ながら、祖母の教えに感謝しています。
    (3)『第4編 海の庭』より、「何か大きなものによって人間関係は動かされている。私達にはかなわない力強いものに。そう思うと、何故だか気は楽になる。色々な事を諦めるのに成功して、波立つ心は、ようやく鎮まる。『(作並)そんなことないよ。・・・あの時、自分から行動起こさなかったら、今、日向ちゃんともこうしていないよ。・・・人との付き合いって、全部自分の努力からなんじゃないかなあ』『(日向)努力なんて言葉、大嫌い。報われなかった時に悲しくなっちゃうよ』」
    ●感想⇒悩みに関する調査では、人間関係の悩みが最上位だそうです。人間関係には、憎しみ・妬み・・・、と色々あります。人は社会の中では、何らかの集団(家庭・地域・学校・企業等)に属して生きていかなければなりません。従って、人間関係を避けられません。私は、(作並)の言う「人との付き合いって、全部自分の努力から」に賛成です。色々学び、自己を確立するのです。それを武器にして(修正しながら)人に接すれば良いのです。疑心暗鬼に陥らず、へつらう事をせず、堂々と振舞えば良いのです。そう言うと、カッコいいのですが、私も人間関係に苦労しました。それにもめげずにやってこられたのは、良き友人・先輩・書物のお陰です。自分だけでは限界がありますよね。
    4.まとめ;恋愛小説をあまり読まない私が、本書を手にしたのは、文章力に優れていると評判の、山田氏の作品という単純な理由です。そして、私とは異なる「肉体の技術を生業とする人々、職人の域に踏み込もうとする人々」の恋愛観を覗いてみたいという、好奇心からです。著者の表現力の巧みさと、六篇それぞれに興味をそそられる話の構成力に感心しました。高橋氏の解説での賛辞です。「現代の言葉のシェフが秘蔵のレシピで作り上げた六篇の小皿料理」と。❝個別感想❞で書いた他にも、『第六篇 春眠』では、父親が息子の片思いの女性と結婚。悶々とする生活を送る男の心情の描き方には、見事のひと言です。この小説は、恋愛がテーマと言いながら、人生の機微を巧妙に綴った作品だと思います。(以上)

    • ダイちゃんさん
      いつも丁寧に返信して頂き、ありがとうございます。
      いつも丁寧に返信して頂き、ありがとうございます。
      2023/06/10
    • ダイちゃんさん
      参考です。吉川英治氏(故人)は、小説家。「宮本武蔵」等があります。好きな言葉は「われ以外みなわが師」より。森本哲郎氏(故人)は、ジャーナリス...
      参考です。吉川英治氏(故人)は、小説家。「宮本武蔵」等があります。好きな言葉は「われ以外みなわが師」より。森本哲郎氏(故人)は、ジャーナリスト。好きな言葉は「生き方の研究」より。
      2023/06/10
    • 村上マシュマロさん
      こちらこそ、ご丁寧な返信をありがとうございます。参考書籍のご紹介もありがとうございます。先程、浅くですが検索エンジンを使用して調べていたとこ...
      こちらこそ、ご丁寧な返信をありがとうございます。参考書籍のご紹介もありがとうございます。先程、浅くですが検索エンジンを使用して調べていたところです。もう少し深く調べます。ありがとうございますm(_ _)m
      2023/06/10
  • 何回読んでもまた読みたくなる。
    簡単に感想なんて書けないから、
    いつもそのままにしてる。
    表紙を見るたびに甘い香りが漂っている気がしてしまいます。

  • ずっと積読でやっと読んだ。とてもよかった。短篇集。どれもちょっと特殊なように見える恋愛物語。甘いだけではない、寂しさ、切なさ、やりきれなさも感じられる。「風味絶佳」と「海の家」が好き。切ないような終わり方が好きかなぁ…。

  • 短編6篇。

    決して不愉快という訳ではないが、かといって心地よい後味とも違う、ビターな読後感。好みは人それぞれ分かれそう。

    そういった意味でカバーのキャラメルの絵は見事にこの作品集にしっくり来ていると思う。だいぶ焦げが強い感じ。

    全体的にガテン系な男性というか、あとがきに曰く‘職人’が醸す風味を小説に編み上げたとの事。
    恐らくは一般的な勤め人には無い粗さ、特異性のようなものを指していると思うが、若干の変態性を感じるのはなぜだろう。

    まあでも綺麗で心地良いだけが「風味」ではないしな。


    5刷
    2021.2.6

  • キャラメルに見立てた装丁が素敵な本。

    久しぶりに山田詠美を読みました。
    といっても、彼女の作品自体3冊目くらいですが。

    やっぱり独特の雰囲気があります。
    優しさと、現実の生臭さが混在している、というか。
    なんとも言えない気分になるのは自分とは全然違う考えや視点だからなのでしょう。

    「夕餉」と「風味絶佳」は好きでした。

    だけど「アトリエ」でギブアップ。
    生理的に受け付けず、先を読む気になれませんでした。
    もう少し成長したら、もう1回読んでみるかもしれません。



  • 映画は柳楽優弥と沢尻エリカの共演。君の心がわかるよなんていう男についていく女を、黙って見守って、俺が幸せにしてやろうとか考えてることは、錯覚か、酔ってるしかない。恋なんて、上書き保存。次から次へと移り変わっていくのが人生だ。沢尻エリカは、松田翔太や高城剛、そのほかにもデザイナーなど、いくつもの恋を重ねてきた女性だから、風味絶佳に描かれる艶やかでキュートなイメージにぴったりなのだと思う。そういう恋ができる、もしくはそんな女と付き合うってことは、自由を失う覚悟がいるし、恋と愛の間を彷徨い続ける苦しみに耐えなければならない。幼さと大人、甘さと苦さ、いろんな想いを感じさせてくれる。

    シュガー&スパイスという言葉と「優しいから好きだ」と言われる主人公が妙に自分に似ていると思った。優しいと思ってしたことはなく、いつも男らしい人が好き、家庭的でなんか和んじゃうのと言われるのが嫌だった。本当は全然違うのに、、あぁ、俺だ、まさに俺がいる。と思った。映画こそ全てと思っていたら、本も侮れないと、年に数十冊は読むようになる。

    以前読んだときとは、全く違う所に共感し、泪が出る。いい出逢いをしてきたからなのだろうか。うっかり買ってしまって返品されたんだなぁと、寒い部屋の中で、ひとり重い現実を受け入れる。ここに出てくる登場人物のような、風味を感じる日は、やってくるのだろうか。もともと、好きっていう感情が欠落してるから、実は、これは執着なんだろうか、自己憐憫なんだろうか、と読みながら考えてしまう。読後感は、どのストーリーも良かったのが救いだ。滋養豊富、風味絶佳!!

  • 読後の後味は甘すぎるチョコレートやキャラメルを嚥下した後、喉に絡みついたり、ひりひりする感覚に似ている。
    どれだけ甘くて楽しい生活や恋をしていてもどろりとしたそういう感覚にふと陥ることは小説の中だけではなく、現実世界で恋愛に囚われずともあると思った。

    肉体労働に日々勤しむ男性に愛されるため、隠しごとをしたり独自の考えを持つ女性たちが強かでありながらも、相手がいなかったら崩れてしまうのではないかと疑う程の脆さも兼ね備えてるように感じた。

    一日に一度は寂しいって思うことって人を愛するこつ。
    表題にもなってる風味絶佳が一番好き。
    グランマ(不二子さん)チャーミングでとっても素敵。

  • 悲しくなったりくるしくなったりしたい人なんて誰もいなくて、楽しい嬉しいことだけなぞって生きてたい。
    つらいことはしたくないし嫌なことはみたくない。
    日々の幸せなところだけを享受していたい。

    でも、そんなことは不可能で、いっぱい上手くいかないことがあって、少し上手くいってもまたすぐにだめになっちゃって、全然ままならない。

    でも、だから愛しい。
    明るいばかりじゃない人生が少し愛しくなる6つの短編

    (あと、帰り道に、キャラメルを買って帰りたくなる。)

  • 山田詠美さんの小説6つ。すごく独特。1つ1つ時間をかけて読むと良いんだろうなとおもった。

  • 面白いんだけど、掴みどころが難しく、自分の読書量の少なさで感じられる部分がかなり狭いまま読んでしまってる感覚があった。
    出てくる男性の職業がしっかりとした仕事ではあるが世間的に声高に言えないようなものばかりで、その職業と絡めて、恋愛描写が進められていくのが割と多く、初めてのタイプの恋愛小説だった。
    女性作家がここまで男の心情をリアルに書けてるのが素晴らしい

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著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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