あなたは部下に見られている 平時の指揮官 有事の指揮官 (文春文庫 さ 22-6)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167560065

感想・レビュー・書評

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  • 現場指揮官に求められる資質、”有事”と”平時”での振舞のモードの切り替えはどうするべきか、について警察庁元幹部である著者の経験をもとに、多くの具体例を挙げつつ解説した1冊です。
    ”平時”には「After you」、”有事”には「Follow me」が基本であり、普段は控えめにふるまって部下をたて、しかし、いざ事が起こったときは先頭に立って事態の収束にむけて動くべき、との事。その辺りは私も他の本でよく似た事を読んだ記憶もありますが、「なるほど!」と感じたのは本書3章の「非常事態での情報伝達の基本」について述べられた部分です。”平時”の情報伝達、情報の承認プロセスに拘り過ぎて、決定権のある指揮官に情報が伝わらない事は、特に組織としてのルールが定まっているケースではよく起こりうる事態で、非常時には中間の承認等のプロセスを経ずに、決定権のある指揮官が直接、情報を集めて指示する事も重要と述べられています。『「非常事態には冷静沈着に行動せよ」との教えを勘違いして、自ら情報を集めようとせず、情報が来るのを待つような”変に老成した”中間管理職になるな』との表現は非常に共感を覚えます。
    本書は中間管理職としての現場指揮官に焦点を絞っていますが、最高司令官となっても、いざ有事には現場指揮官としての振舞いも求められる状況が多々あることから、一定レベル以上の管理職全般に求められる資質を述べておられるように感じました。
    本書の元になった単行本は1995年発売で、登場する実例が若干古い印象はありますが、分かりやすく説得力もあります。著者は”有事”と”平時”の切り替えができず、”有事”でありながら”平時”の運用に拘って初動対応を誤った例として阪神淡路大震災の時の村山首相の行動を挙げておられます。あれからもう25年。福島第一原発事故や、昨今のコロナ禍でも決定権のある指揮官や、組織が”有事”と”平時”のモード切替ができていなかった例が次々と発生するのは残念です。場数や経験を踏まないと個人の危機対応能力は伸びないのかもしれないですが、そういう経験をした人からの本書のような伝承を大切にして、私自身も今後遭遇するかもしれない危機に備えるようにしたいと思わされる1冊でした。

  • 平時のafter you、有事のfollow me.
    得たのものはこれぐらいかな。
    単に佐々さんの体験談です。

  • 危機にあたるリーダーとはどうあるべきか、がテーマ。筆者は、かつて警察庁で、「あさま山荘」「東大安田講堂」の現場で指揮をとった経験をもつ。そのため、筆者の描くリーダー像は、そういう現場を前提としている。すなわち、軍隊や部隊を組織する、自衛隊や警察の部隊長のような。たしかに、事件事故の現場での警察機動隊や自衛隊の指揮命令系統は毅然としていて、乱れがない。だけどそれは、命令を受けて動ける部下の存在や、装備(準備)あってこそ。リーダーは、危機下だけでなく普段から危機を見据えて、部下を動かしていかなければいけないのだ。

  • リアルな具体例を交えてリーダー論を語っておりためになる。昔の政治家の強いリーダーシップが面白い。

  • 海軍次室士官心得等のリーダーシップについて書かれた書物や自身の体験を基に、(特に危機的な場面でも強い)組織のリーダーシップについて語る。
    リーダーシップ論というだけでなくて、実体験とかに基づいて書かれているので、なるほどと思ったことはすぐに実践しやすい。
    読みながら、自分が仕えた人、自分がリーダーシップをとった経験などを思い出しつつ、あの人はどうだったろうか、あの時の自分は…などと考えながら読んだ。

  • リーダーとしてあるべき姿の参考になるかと。
    実践するとなるとなかなか難しいですね。

  •  リーダーシップのお勉強。結局、古来から言われていることは変わらないもの。


      前述したアメリカ海軍士官候補生読本『リーダーシップ』において、米海軍協会は「紳士としての海軍士官」という項で、「士官と紳士は同義語である」としたうえで、紳士の定義を次のように誌している。
    「内も外も清潔な人、富める者をあがめず、貧しい者を見くださない人、
    負けて悲鳴をあげず、勝って自慢しない人、他人に思いやりがある人、大胆で偽らず、寛大で欺かず、分別があって、のらくらして遊ばない人、世の中の財貨のうちの自分の分け前だけを取り、他人にその分け前をもたせる人―これこそ本当の紳士である」

     とにかく乗物乗降の後先の共通ルールは、「危険」から「安全」へは上級者を先に「アフター・ユウ」で、「安全」から「危険」へは自ら先に立って「フォロー・ミイ」とやれば、海外でもそのまま通用する”カディケット”となる。

     …天然現象居士を見るにつけ、その多くは「何かになりたい」で生きてきた人物のように思える。だが、こうした生き方は、その目的が達成された途端、蝉の抜け殻になってしまいかねない。
     一方、「何かをやりたい」をバネに生きる男がいる。こういった人物は幾つになっても活力に満ちている。


    『海軍次室士官心得』
    「『功は部下に譲り、部下の過ちは自ら負う』は、西郷南洲翁(西郷隆盛)が教えし処なり。『先憂後楽』とは味わうべき言であって、部下統御の機微なる心理も、かかる所にある。統御者たる我々士官は、つねにこの心掛けが必要である。石炭積みなど苦しい作業の時には、士官は最後に帰るよう努め、寒い時に海水を浴びながら作業した者には、風呂や衛生・酒の世話までしてやれ」(部下指導について)
    「人に事業を命じ、その終わりたる報告を得たる時、その労を謝する事を忘るべからず。この場合において『ありがとう、ご苦労』の一言は、最も廉にして(安あがりで)、有効なるものなり」

     …当時の官房長官・後藤田正晴氏が、われわれ五人の室長たちに五つの心得を訓示した。それは、次のとおりである。
    一、省益を忘れ、国益を想え
    二、嫌な事実、悪い報告をせよ
    三、勇気を以て意見具申せよ
    四、自分の仕事に非ずというなかれ、自分の仕事であるといって争え
    五、決定が下ったら従い、命令は直ちに実行せよ

    「計画立案はペシミスト(悲観主義者)に、計画の実施はオプティミスト(楽観主義者)に」というのが、危機管理に強いリーダーの発想法である。現場指揮官はとくに「意図的悲観論者」でなければならない。自分で自分の立てた計画に惚れこんではいけない。客観的な冷たい目で、自分の立てた計画の欠点探しをする冷厳さが要求される。

    「後方支援のイロハは、『何も前提にするな』ということである。物事を前提として事に当たる後方支援の専門家は、すぐに自滅する」

     味の素の渡辺文蔵元社長は「決断」について、こう語っている。
    「事業にせよ、人事にせよ、決断ということになると、無私になれるかどうかが問題だ。私の場合、クリスチャンということもあるが、宗教というのが大きな助けになっている。私情を離れて本当に無私になって決断を下してゆくことは、実にむずかしいことだ」
     事に臨んで私心を去り、本当に全体のため、目的達成のため、なにをするのが正しいのか、効果的なのかという点に一念凝集して取り組むとき、見透しは冴えわたり「決断力」は湧き起こる。しかし「もし失敗したら、私はどうなるだろう」と、自分のことを心配しはじめた途端に「決断力」は鈍る。

    ■命令についての心得十一訓
    ①出しっ放しは禁物
    ②命令には必ず復命を求めよ
    ③時間のかかる任務の場合には「中間報告」を必ず励行させること
    ④命令は必ず復唱させよ
    ⑤命令は通しナンバーを打って発令簿に記録せよ。備忘録として後日役に立つ
    ⑥命令はできれば文書化せよ
    ⑦行動にかかわる命令の前に「確認」
    ⑧勇気を持ってショート・サーキット命令をなせ
    ⑨二段命令、三段命令の必要性
    ⑩ダブル命令、遊び駒は厳禁
    ⑪命令系統は一元化せよ

     士気は「作業気候」とも呼ばれるもので、物理的条件よりも作業に影響を与える。士気は個人的精神状態であるよりは、集団精神状態であり、彼らの仕事、組織、その他の労働条件に対する態度である。

  • すべての上司がこの本にあるような立派な人ではないだけに、せめて自分はこのような立派な上司になりたいものだと思いながら、特に「平時の指揮官」の心得的な点を中心として読んだ。
    「有事の指揮官」については危機管理的な意味で有用ではあるが、なかなかそんな機会ないですから。

    そもそも本書は、1995年に発刊され、1999年に文庫化。ただ、思想的背景という意味では、「海軍士官心得」(おそらく戦時中)と「部下から見た監督者論」(昭和26年)を元にしているので、だいぶ古い内容であるはずであるが、十分現在でも通用するというか、大して人間っていうのは進歩してないなあ、と感じるところ。


  • 組織人として学ぶことが多かったです。

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著者プロフィール

1930年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、国家地方警察本部(現警察庁)に入庁。「東大安田講堂事件」「連合赤軍あさま山荘事件」等に警備幕僚長として危機管理に携わる。86年より初代内閣安全保障室長をつとめ、89年昭和天皇大喪の礼警備を最後に退官。2000年、第四八回菊池寛賞を受賞。2001年、勲二等旭日重光章受章。著書に『東大落城』(文藝春秋読者賞受賞)等がある

「2016年 『重要事件で振り返る戦後日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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