タマリンドの木 (文春文庫 い-30-5)

  • 文藝春秋 (1999年1月8日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784167561055

みんなの感想まとめ

恋愛を中心に据えつつ、社会や環境、個人の選択について深く考察する物語が展開されます。主人公は、恋愛を通じて自らの生き方や価値観を見つめ直し、時には厳しい現実に直面しながらも、静かに決断を下していく姿が...

感想・レビュー・書評

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  • 恋愛をきっかけに、どのような社会・価値体系・自然環境・政治環境のなかで誰と生きてゆくのかをゼロから検討することになり、たまたま生まれ慣れ親しんだデフォルトの社会を自ら逸脱する可能性と災害などによって社会が崩壊するかもしれない可能性とを見つめて、静かに決断する男性のお話。縦糸が恋愛なので読みやすかった。冒頭の難民キャンプで過ごす母子のモノローグが、世界は広いようで地続きですべて繋がっていてあらゆることは対岸の火事ではなくいつ同じようなことが自分や身近な人たちにふりかかるか分からないのですよ、という厳しい現実を影絵のように写し出しているようでした。二人が出会うきっかけを作ることになった同僚と主人公の男性との近過ぎないけれど親しさや分かり合っている感じの関係性も良かったです。少しロマンチックに過ぎる向きもありつつ、大変満足して読了しました。

  • お互いに強く惹かれあう情熱的でピュアな恋なのに、2人の未来のことに関しては、お互いを尊重してそれぞれが冷静に思い巡られているのが、大人の恋愛だな思った。普通ならどこかで感情的な判断をしたり、言わなくても、いいことを相手にぶつけてしまったりしそう。

  • ■はじめに
    初版は1991年。日本では狂乱のバブル経済が終わった年。その当時に読んだから、約30年ぶりの再読。昨年、池澤夏樹が芥川賞を受賞した『スティル・ライフ』を読み返し、こんなに瑞々しい文体だったんだ⁈と再発見し、この『タマリンドの木』の再読に至る。

    ■内容
    会社員の野山は、タイのカンボジア難民キャンプで活動する女性 修子と、仕事の依頼をきっかけに出会い、恋に堕ちる。修子は救援活動に身を投じ、社会的使命と信念をもって生きている。

    一方、野山は安定した会社員生活を送りながらも、自らの生き方に確信を持てず、心の奥で漠然とした空虚を抱えている。

    偶然の出会いがふたりを近づけるが、修子はタイへと戻り、野山は日本に残される。日に日に彼女への想いは募り、難民キャンプ場へ赴く。

    しかしながら、彼女はデング熱で療養中。病床で彼女の提案を受け、難民キャンプ場へ足を向け、彼女の仕事仲間らと交流を持つ…。

    ■読みどころ
    この物語は、ふたりが再び出会い、どのような恋路を辿るかは本筋ではなく、“愛が自分自身を変えていく過程”を見つめる恋愛小説と言える。

    一般に恋愛小説に見られる-出自・国境・道ならぬ恋–という外的障害に試され、翻弄される恋模様ではないが、ふたりを隔てるものは存在する。

    それは「時代」。舞台は90年代初頭—携帯電話は限られた者しか使わず、インターネットの出現はまだ先。ゆえに、連絡といえば、電話か手紙。でも国際電話はバカ高で、手紙は数週間の時差を伴う。

    会いたくても会えない。その通信の“遅さ”が、ふたりの想いを狂わせもすれば、逆に深めもする。今なら、すぐに返事がこないだけで、気持ちが揺れたり不安になったりするが、当時は沈黙と空白の中で発酵し、想像力が愛を膨らませ、同時に疑いも生む。

    そう、このジレンマが物語を静かに苦く彩る。池澤夏樹はこの恋愛を“ふたりの関係”ではなく、“自分自身との対話”として描く。とりわけ男の懊悩・煩悶を克明に独白文体で切々と綴る。さながら、現代なら白石一文が得手とする世界。

    相手を思う時間は、結局のところ自分を見つめる時間にほかならない。修子が自らの使命を貫くように、野山もまた彼女を追うことで自らの生の意味を問う。

    恋は、彼の中で「愛する行為」から「生き方の選択」へと変化していく。そこに、外的障害を排した“内的障害としての恋愛”という池澤夏樹が伝えたかった、この物語の核心が屹立する。

    ■感想
    30年前、この物語を初めて読んだ時、その“静かな距離”はどこか幻想的で、新鮮に映った。

    SNSやメールで即座に相手の心境や状況が届く今の時代に読み返すと、この「会えない時間」がどれほど尊いものだったかを気づかせてくれる。

    距離があるからこそ、言葉を選び、想像し、信じようとする。即時性ではなかった「待つ」という時間が、愛の成熟を育てていた。それが、現代から見る『タマリンドの木』の美しさでもある。

    郷ひろみが歌った、♫会えない時間が愛育てるのさ〜の一節はまるで、この小説の裏テーマのようである。ちなみに「よろしく哀愁」は51年前の楽曲。

    情報も即時もない時代に、人は“愛する”ことの本質とまっすぐ向き合っていたとも言え、それは、今を生きる我々がとうに忘れている〈恋愛の原型〉のようで、静かにページの奥で息づいていました。

    ■最後に
    繰り返すが、この作品は「時代」というもうひとりの登場人物が効いている。

    30年前といえば、僕は32歳。書棚に長らく眠っていた文庫本はすっかり日焼けし、ページはカフェオレ色に変色していたように、今回読み返し、当時には感じなかった“間”や“沈黙”の美しさが、今読むと胸に沁み、それって、人生の読み直しでもあるのね…と思った一冊。

  • 大人の恋愛小説。
    静かに時間は過ぎていて、世界を揺るがすような事件はなくて、でも、2人の世界は大きく様変わりしていく。
    短い小説で、映画のようだけども、映像にしたら案外と単調かもしれない。

  • レベルの低い本だとまでは言わない。それなりにストーリーはあるし、何より修子のキャラが立っている。行動の人である。これに対し主人公の野山は思考の人だ。出会いが2人を結びつけるが、相互に理解できる言葉を持たない。そこがおそらくは肝となるのだろう。物語の3の2ほどまではそれなりに良くできていると感じた。少なくとも『骨は珊瑚、眼は真珠』より良い。しかし最後のまとめ方が良くない。修子と野山を結びつけるものが観念でしか示されない。最後のシーンも無駄だった。彼女に連絡を取り、タイまでやって来るというところまでは良いだろう。しかし再会を書くのは蛇足にしか見えない。タイトルについても再考が必要だ。タマリンドの木はほとんどこの物語を支えてはいない。

  • タイのカンボジア難民キャンプで働くとはどういうものかを教えてくれる。人助け、ボランテアで働くのでは長続きしない。それが自分にとって必要だから長続きするのだ。2020年の今は難民キャンプも閉鎖され、カンボジアも着実に復興している。

  • 恋愛っていい!(したい!)って激しく感じてしまう物語だ。

    出会いも、会話も、女性の存在感も、男の奥手な感じも、美しい性愛描写も、カンボジアという国の貧しさ・悲惨さ・力強さも、そしてタマリンドも、すべてピシャリときた。

    池澤夏樹にでてくる女性はいつも美しいが、とりわけこの本の女性は美しい。

    いつかのために、私も主人公と同じような決断がとれるような心構えをしとかなくては。

  • 生き方の選び方」ついて思いました。

    アジアのNPO法人で働く彼女と
    日本でメーカーの営業職をしている主人公の彼とが
    ある接点を持ち惹かれ合いますが
    お互いの生き方の違いのため離れて生きることを選択する。


    男の生活に女が合わせるという常識は
    ともすれば生活の安定する方を選ぶという事である。
    常識のために生きるのか。


    『流される安定の息苦しさ』と『自分で選択する気楽さ』の狭間で
    受け入れ感や許容範囲・請け負う覚悟・納得感などの中でもがく主人公。



    世界に住む日本人のキッカケのようなものが話の中にあり
    どうして海外で暮らせるのだろうか?
    行ってみたいと思ったのか?
    日本が居場所じゃない感じはどのように感じられるのか?
    といった疑問にも説得力がありました。


    相手の人生の先を自分の人生の先の延長線上に見られるかどうか。
    どちらかの妥協ということではなく
    より強いイメージや進んでいく力が境界線を曖昧にし
    自分ごとが相手ごとになっていく様子に彼らの未来を感じました。

    重く難しいテーマはなく短いお話なので案外気楽に読める一冊です。

  • 恋愛小説!です。心地よい一気読み。こういうの久々。
    盛岡の町の感じがわかるから読んでて面白かった。カンボジアは行ったことないけれども。

  • 20年以上前に、池澤夏樹の一連の南国の物語に熱中したころに読んだ本書を、ミャンマーに旅したこときっかけに再読した。「タマリンド」はなぜか私にとって、南国の湿度や浅黒い人々、美味しい食べ物などをノスタルジックに想起させる言葉の一つである。この本を以前読んだからだろうか。
    小説『タマリンドの木』のほうは、行ったばかりのミャンマーを、都市の交通渋滞と汚れた空気、田舎の何もないけれど何でもある感ややたらと安くておいしい食べ物などを、今度は生々しく、想起させてくれた。同時に、私が惹かれるアジアの暮らしのシンプルさや暮らしたら得られるであろう日々の暮らしの充実感に対する憧憬を、主人公と(おそらく再び)分かち合えたのも嬉しかった。
    このころの池澤夏樹作品を熱烈に好きだったあの頃を懐かしむ機会にもなった。

  • こんなラブストーリーも書くのか?爽やかなエンディング。

  • 前半、いいんだけど、後半が足らない~。

  • カンボジア難民キャンプ。

  • こんな未来って素敵だ。自分が海外に来てはじめて、ラストの重要さを感じることができる気がする。そういう意味で、誰かにとっての特別な本になりうる本。

    再読@2013-05
    小説は自分に重ね合わせて読むものだけど後半野山が気持ちを決めるまで、たびたび涙が止まらなくて中断した。どうして仕事という居場所を見つけてしまった女性のキラキラ輝く気持ちと、そう見られると本当に幸せなことが著者には書けるのかな。自分の人生もそうありたいのにと思うと泣けて仕方なかった。いいの?いいの?と自分に問いかけながら読んだ。
    恋愛小説としては…いいんだけど、一番最初に読んだときと同じ、ラストはやっぱり現実的でないし、修子はそれでいいのかな?と思ってしまう。それがわたしの打算的で輝こうとでききれないところか?

  • 2007.10.03-04
    タイのカンボジア難民キャンプで働く修子と東京で働く野山の愛の物語。
    好きな人と一緒になれるのって奇跡だな。

  • タイの難民キャンプでの仕事に魅せられた女性と日本のエリートサラリーマンとの恋物語。男性の方が女性を追いかけて仕事を捨てる話だけど、日本での、企業価値・名声・収入・・といった価値観から、報酬はやりがいという現場に移るというのは、恋は盲目といえども想像以上に葛藤があると思う。 14.SEP.07

  • 2007.08.10

  • 最近 はまっている池澤夏樹さんの作品。
    主人公の気持ちが揺れ動くさまを、
    美しく、力強く、それでいて優しく表現している。

  •  私もいつか恋愛が出来るかもしれない。と思わせてくれる恋愛小説。「最後まで握っている力がなければ、いかに大事なものでも略、お前が捨てたというだろうか」

  • 大切に読みたくなる本。
    硬質なのにやわらかい文章。
    男と女が愛し合う時、互いの夢はどうなっていくのだろう。

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著者プロフィール

(いけざわ・なつき)
作家。1945年、北海道帯広市に生まれる。小学校から後は東京育ち。30代の3年をギリシャで、40~50代の10年を沖縄で、60代の5年をフランスで過ごす。ギリシャ時代より、詩と翻訳を起点に執筆活動に入る。1984年、『夏の朝の成層圏』で長篇小説デビュー。1987年発表の『スティル・ライフ』で第98回芥川賞を受賞。その後の作品に『母なる自然のおっぱい』(読売文学賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『楽しい終末』(伊藤整文学賞)、『静かな大地』(親鸞賞)、『花を運ぶ妹』(毎日出版文化賞)など。その他、自伝『一九四五年に生まれて――池澤夏樹 語る自伝』(聞き手・文 尾崎真理子)、編著に『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』(全30巻)、『池澤夏樹=個人編集日本文学全集』(全30巻)などがある。

「2026年 『遙かな都』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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