石の来歴 (文春文庫 お 23-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167580018

作品紹介・あらすじ

「石には宇宙が刻印されている」レイテで戦友から聞かされた言葉によって、岩石に魅せられた男。戦後、彼に訪れる苦難とは!?現在と過去、夢と現が交錯するなかで、妻は狂気にいざなわれ、子は死にもてあそばれる。華麗にしてペーソス溢れる文体で、時と心との織りなす迷宮を描ききる、気鋭の芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 1993年下半期芥川賞受賞作。主人公の戦時中のレイテ島のジャングルでの過酷な体験と、現在の石の採集とは洞窟という1点でのみ繋がりを持っている。イメージの上からはわからなくもないが、小説としての必然性という意味では疑問なしともしない。過去、石とともにある幸福な現在、そしてその後―物語は3つの時間軸からなるが、それらは究極的には「虚しさ」に収斂していく。ここに展開されるのは、独特の暗さを持った世界であり、また物語の推進力も大きい。ただ、ともすれば通俗的なものに流れかねない危うさをも併せ持っているだろう。

  • 芥川賞、解説:芳川泰久
    石の来歴◆三つ目の鯰

  • ◆石の来歴
    文体に癖があるが、一旦慣れてしまえばリズム良く読み進めることができる。

    著者は全共闘世代でもないのに、彼らとその父親世代との葛藤なども鋭く描いている(ような気がする)。

    物語の進め方と、文中のエピソードも巧妙に組み立てられていてそつがない。

    ただラストの洞窟シーンは二番煎じみたいでちょっと疑問に思った。
    ※たとえば洞窟の中に裕晶を殺害したモノと思われる凶器が見つかり、それは真名瀬の愛用の刃物だったりとかの方が意味深だったかも…

    ◆三つ目の鯰
    著者や著者の近親者の自伝的なものだろうか。
    作中のモチーフやエピソードは軽くユーモアさえ感じるのに、底流するテーマは非常に重い。
    個と家族(或いは社会集団)、自我と彼我(或いは他我)、科学(哲学)と伝承(因習)、キリスト教とアニミズム、合理性と非合理性、etc…
    これらの対立事項を、三つ目の鯰という突飛なメタファーで見事にまとめている。
    上手い。それに尽きる。

  • 表題作と「三つ目の鯰」の二作品。ミステリでもなく華やかさもなく美しい文体でなく、でも緻密に緻密に紡がれる物語。微妙にメタが入るけど、全然イマドキじゃない。コンサバと言えばコンサバ。でも、こういう作家のこういう作品が書店の店頭に並ぶなら、この国の出版事情も捨てたものではない、と思った。

    ■石の来歴
    主人公と妻と長男と次男。それぞれの人物像と行動原理と思惑が骨太に構築されていて、この長さじゃ勿体ないほど。ま、それは読み手の都合で、逆にこの話をこの長さに収めるのが作家の手腕なのかもしれないけど。個人的に、ラストの解決は蛇足、と思った。

    ■三つ目の鯰
    一転して軽やか。同じように人が亡くなる話でも、惨殺された子どもと往生した老人とではおのずと違うのは当然か。登場人物たちの、「足が地に着いていない」という設定がしっかりと地に着いているので、こちらは安心して揺れが楽しめる。こっちはこれが気持ちのいい長さかな。

  • 起承転結の承転が無駄に長すぎる。
    結末は秀逸。

  • 「石の来歴」という本を読んだのだが、「三つ目の鰻」というタイトルの小説も同じ本に合わせて載っていた。
    なんかよくわからない。
    よくわからないのは内容も一緒で、難しくてよくわからなかった。

    「石の来歴」
    戦地の記憶を抱きながら石の標本を作る父。
    父の影響で同じように標本作りをしていて採取中に事故死してしまう長男と、内ゲバで人を殺してしまう次男。
    どのように消化して良いのかわからなくて、ただただ標本作りのノウハウが面白いと思っただけ。

    「三つ目の鰻」
    ワタルおじさんの信仰を軸にした、心理の揺れと、庄内の生活風景と自然描写。
    こちらの小説も、どのように消化したらよいのかわからずじまいだった。

    芥川賞ってむずかしいな。
    純文学って苦手かな。

  • 石の来歴は、初めからすっと入り込めた。
    三つ目の鯰もよかった。

  • 幻想と、現実と、錯綜。
    石という、地球の歴史そのもののような存在を通して、つながっていく時間。
    戦争という極限の状態が、そして、記憶が抜け落ちていることが、本人とその周りを巻き込んでいく過程。
    私には、結局これがハッピーエンドなのかそうでないのかわかりませんか、恐らく、それを定めることすらおこがましいのでしょう。

  • 10年以上振りの再読。
    一つのセンテンスが長く、場合によっては冗長に感じるかもしれないが、一気に読ませる。
    ミステリータッチのせいか、最後まで引き込まれた。

    同収録の「三つ目の鯰」の方は、また毛色のちがった作品。石の来歴の方と同じつもりで読むと拍子抜けしそうだが、こちらはこちらで純文学らしい味わいがあり、嫌いではない。

    この作者の他の作品も読んでみたい。

  • 戦争体験、子供の死と家族崩壊、石をもって交錯する過去と過去、これだけ話が重いのに、読ませる凄みのある小説。

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著者プロフィール

作家、近畿大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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