桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活 (文春文庫 お 23-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167580032

作品紹介・あらすじ

人気ユーモア・ミステリー、待望の文庫化!大学の怪事件に挑むヘタレ教員・クワコーと奇人ぞろいの文芸部員。教員の自虐と女子学生の暴言が衝突するとき謎は解かれる。全3編。

感想・レビュー・書評

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  • 桑潟幸一、通称クワコー40歳。準教授だけど底辺だし、やる気も元気もない小市民で俗物のクワコーはヘタレなダメンズ(笑)タイトルの「スタイリッシュな生活」はかなりの皮肉です。でもなんだかその卑屈で小物な感じが憎めないクワコーが、千葉にある、たらちね国際大学に転任してきて、文芸部の顧問を押し付けられる。

    この文芸部のメンバーは基本的に女子ばかり、しかも文芸部と言いつつ彼女らの書いているのは純文学ではなくラノベ、BL、アニオタとコスプレの巣窟。しかしその部員のひとり、ジンジンの愛称で親しまれるホームレス女子大生・神野仁美が天才的な謎解き能力を発揮、とんちきなトラブルに巻き込まれがちなクワコーをその推理力で助ける展開。

    女子大生たちの前でめそめそと泣き崩れるクワコーの情けなさと、あくまでタフで天真爛漫な女子大生たちの無軌道なおしゃべり、随所でクスッと笑えてとても楽しかった。シリーズが他に3冊くらいあるみたいなので、順次読んでみよう。

    ※収録
    呪われた研究室/盗まれた手紙/森娘の秘密

  • 「クワコー」こと桑潟幸一は、消費者金融会社の取締役だったという経歴をもつ鯨谷光司(くじらたに・みつじ)とともに、千葉県権田市のたらちね国際大学に転任することがきまります。「レータン」に勝るとも劣らない大学事情を知って落胆しつつも、下流学者生活に適応していくクワコーでしたが、そんな彼の研究室に幽霊が出没するといううわさがあることを教えられます。

    一方、クワコーは大学文芸部の顧問を務めることになり、部長の木村都与(きむら・とよ)、ホームレス女子大生のジンジンこと神野仁美(じんの・ひとみ)、ギャルの早田梨花(はやた・りか)、コスプレ女の山本瑞穂(やまもと・みずほ)などのクセのある部員たちが彼の研究室に押しかけてきて、うっかり彼が漏らしてしまうミステリの謎解きをおこないます。

    もともと前作『モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活』(文春文庫)でも、キャラクター性の強さは前面に押し出されていましたが、本作ではいっそう明確にそちらへ振り切った作風になっています。いまとなっては納得できるのですが、それにしても当初は、著者にこの方面の才能があることが意外に感じました。

  • 奥泉光氏は芥川賞作家である、作家としてのスタートはミステリではなかったようだが、作風として「作品はミステリーの構造を持つものが多く、物語の中で次第に謎の位相をずらしていき、虚実のあわいに読者を落とし込む、といった手法を得意としている。」wikiより と、ある。

    今作との出会いはブクログ上での情報だったが、今年のベスト3には入るであろう大傑作だった。

    短編3作からなる連作であり、ミステリ的謎解きに特別な仕掛けがあったり、アクロバティックな叙述トリックが仕掛けられていたり、そんなことはない。ただただ主人公桑潟幸一准教授(通称クワコー)と彼を取り巻く文芸部の面々のキャラ造詣と、彼らの織り成す舞台劇ともいえるドタバタスラップスティックに、笑いころげるだけなのだ。

    いわゆるユーモアミステリの範疇に入るのであろう、探偵役はホームレス女子大生神野 仁美(通称ジンジン)が勤める。主人公クワコーは様々な事件に巻き込まれる被害者であり、ジンジンを始とする文芸部の面々に助けられ、その対価として部費をせがまれるのがパターンである。

    なんといってもクワコーが愛しすぎる!努力が嫌いなのに人並みに見栄はあり、プライドもそれなりに高いくせに、長いモノには巻かれるチキンだし、ありついた准教授のサラリーが想定外に低くても低いところで落ち着いてしまう、そんな適応力だけはある。そんなクワコーが大好きになる。これが芥川賞作家のキャラ造詣なのだ!ほとほと感心するばかりであった。そして現代の若者たちの会話をこれほどまでに熱心に研究されていることがスゴイ!もう笑って笑って…

    長編を含むシリーズになっているようだ、これはシリーズ全制覇しなくては!そう思える傑作だたった。

  • 沈没寸前の短大から何とか抜けだし、千葉の底辺大学の准教授として赴任したクワコーこと桑潟幸一。
    相変わらず風采も上がらずやる気もないクワコーだったが、教授職とは思えない超低収入に節約生活を余儀なくされ、顧問となった文芸部の生徒達に研究室を占拠されたり、教授達の派閥抗争に巻き込まれ使いっぱしりをしたりする毎日。
    そんなクワコーを、怪事件が毎月のように襲う―。

    ああ…クワコー面白すぎる!
    学園を舞台にしたライトミステリなのですが、クワコーの小説を楽しむにあたって、わたしにとってミステリ部分はメインではありません。

    クワコーシリーズの最大の魅力とは、彼の煩悩のかたまりのような俗人っぷりなのです!(たぶん)

    何しろ彼ってば、卑屈なくせに努力も大嫌いだし、無駄にプライドも高いのに意志薄弱で長いものにすぐ巻かれるし、思うようにいかないことは全て他人や環境のせいにするような、ネガティブで打たれ弱いどうしようもない人間。
    ほんと、すごく共感できる(笑)し、読み進めていくうちにクワコーがだんだんいとおしくなってきちゃうのです。

    人間の醜い部分をぐりぐりとほじりながらも自虐がくどくなりすぎないよう調節される、綿密かつ闊達にすべっていく筆とあいまって、彼の冴え渡る自虐の詩をあますところなく楽しめる、奇跡のようなシリーズなのです。

    そしてまた、ゆとり世代のオタク文芸部員たちの人物造形も秀逸でした。
    彼女たちの言動もすごく自然で、まるで目の前にいるみたい。
    クワコーと彼女たちの噛み合わない会話もシュールすぎて、おかしい。

    タイトルからして、スタイリッシュって・・・。脱力するわ!

  • 「電車の中では読まないほうがいい」

    このアドバイスに従ってよかった。本書を読みながら何回吹き出したかわからない。
    読みどころとしては謎解きではなく、著者の語り口である。学生の話し方をよく観察されているのだろう。「なんかこういう喋り方のヤツいるよな」と思わせるほど、学生とは何十歳も離れているのに、うまいのだ。また、古典的な語り口がしばしば見られると思うのだが、エンタメとの組み合わせが妙に笑える。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18358

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB13957057

  • こういう作風でもいけるのか、と作者の力量に感心。
    楽しいユーモアミステリーってところなのかな。
    でもこういう描写の仕方って、とっても世代を感じる気がする。人によっては古いと思うかも。

  • 前回の『モダールな事象』は殺人が絡みオドロオドロしい作品であったが、今作はスカッと爽やかにミステリーが展開していく。
    廃校が決まったレータンから辛うじてたらちね国際大学に転任するも、最底辺大学には変わりなく、クワコーはやる気なさ、優柔不断さ全開でスタイリッシュ(?)に突き進む。
    最底辺と言いながら、文芸部の学生達は各々個性的で優秀であり、クワコーに降り掛かる難題を解決していく。なかなかに楽しい大学生活を謳歌していらっしゃる。
    方やクワコーはどんどん生活が苦しくなる一方。しかしながらこれがなかなかにある意味楽しそう。頑張れ、頑張るなクワコー

  • 再読。やっぱり面白い、純文学作家×エンタメの最高峰。
    自分はやっぱり、純文学なら純文学、推理小説なら推理小説として、それぞれ徹底してくれないと楽しめない。
    まあ、純文学とかエンタメとかの区分の意味が何なのかと言われても困るけれど、本来「純文学」の作家であった著者が、純文学的でない作品をものしたとき、それは必然的に純粋に非純文学的になるのではないか。
    ますます何を言っているのかわからなくなってしまったが、こういう作品は本当に読む方も余裕を持って読める。福永武彦の探偵小説のように、純粋に余技的というか、遊戯的なものとして書かれる(読まれる)ものであって、読む方も気が楽であるし、書く方も力を抜いて書けるのではないか?
    「ノヴァーリスの引用」のようにやや純文学的な要素を持ち込んだようなミステリ?(あるいはミステリ的様子のある純文学か)は(同作が秀作であることは間違いないにしても)、やっぱり読む方も集中して読まないといけないから、疲れる。面白くても、疲れる。
    その点、本作はただ、面白い。ただただ面白い。

  • 半分から流し読み。おもしろくないわけではない。多分気分が乗らないだけなんだろうけど…自虐ネタが多すぎて飽きました。どんだけ自己評価低いんですか…それもおもしろく読めない気分なんだと思います。ミステリでもあるし、キャラも良いので好きな分野なはずなんですが。残念。

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著者プロフィール

作家、近畿大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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