永遠も半ばを過ぎて (文春文庫 な 35-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 1406
感想 : 122
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167585013

作品紹介・あらすじ

「えっ。ユーレイが小説を書いたの!?」巨大タニシの母貝1個1億円の商談をしくじった三流詐欺師の俺にも、運がめぐってきたようだ。謎の原稿を出版社に持ち込んだところ、文壇の大事件に発展し…。うふふ。ここは腕の見せどころ。輪舞するコメディ。あふれ出る言霊。待ってましたの痛快らもワールド。

感想・レビュー・書評

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  • ドタバタものかと思いきや、どこか詩的な言葉や表現が現れ、物語の方向性がいきなり変わり、怒涛のように言葉が紡がれる。

    まさに中島らもさんらしい作品でした。

    一番印象的だったのは、写植を営む波多野が知り合いである詐欺師の相川からもらった薬を口にして、ハイになった状態で仕事にかかる場面。

    写植というのはPCによるデザインが普及する前の時代、フィルムや専用の機械などを利用して紙に印字する技術のこと。

    波多野の思考と、仕事で打ち込んでいく文字が混ざり合い、意味の通らない言葉の連なりが延々と続いていく。

    どういう思考回路をしていたら、こういう文章を書き続けることができるのだろう、とこうして本の感想を文章として書いてる身からすると、不思議だしうらやましくも思いました。でも、そういう文章を書くには、著者である中島らもさんなみの波乱万丈な人生経験と、何かの中毒にならないといけないような気がしますが……

    話としては写植を営む波多野のもとに、詐欺師の相川が転がり込んできて騒動に巻き込まれていくというストーリーになるのだけど、詐欺師の相川のキャラも面白かった。

    いきなり波多野のもとに謎のタニシを持ち込んでくるという、めちゃくちゃで自分勝手な人間かと思ったら、詐欺自体は巧妙でリアリティがあり、独自の哲学を持っている。そうした不思議な二面性や、彼の回想から明らかになる、彼自身のどこか憎み切れない愛嬌や情けなさみたいなものが、良かったのだと思います。

    あと作品の中盤以降に現れる女性編集者の宇井もいいキャラでした。一昔前のトレンディドラマに出てきそうな、古い男性的な表現をするなら「いい女」といった感じの女性です。

    この手の女性キャラは今読むと時代を感じてしまい、冷めてしまうときもあるのですが、この作品に関してはそれがありませんでした。彼女と波多野・相川のやりとりが洒落ていて、単なる古くささを超えた、中島らもさんの女性に対する一種のロマンや理想が現れているように感じました。それが自分の感性にも刺さったのかもしれません。

    独特の愛嬌があるキャラクターたちのドタバタ劇に、中島らもさんしかできない表現が合わさり、楽しく笑えながらも、どこかおしゃれで知的な雰囲気も感じます。やはり中島らもさんは唯一無二の作家だったのだと改めて感じました。




  • 私の中にも成仏してない言葉があるんだろう。きっと。

    これ、男の人は大好きなんだろうな。


    波多野善二、相川真、宇井美咲の三人による一人称多視点による小説。

    いきなりよく分からない用語の羅列に始まる。
    ひたすら無意味な文字の羅列にひとつのセンテンスが数ページにも及ぶことがあるかと思えばひらがなの多用など、読ませるテクニックもすごい。

    視覚、嗅覚、痛覚に訴えてくる表現。
    スピード感、疾走感。痛快でいて切なくロマンチック。総じてめちゃくちゃ、ドタバタ、酩酊、ドラッグ、なのに美しい。

    エンタメ要素を見事に文学的表現に落とし込んでいる、めちゃくちゃ面白いのに、まるで額装して飾りたいような心を鷲掴みにされる美しい言葉が並ぶ。そのバランス感覚もすごい。

    なので「とんでもありません」という言葉をなぜ出版社勤めの美咲に言わせているのかが少し解せない。


    装丁とタイトルがあまりにもかっこよくて、自分でハードルを上げていないか心配だったけど何も知らずに読んだため、とてもいい意味で杞憂に終わった。

    エッセイのイメージが強い中島らもさんだったけれど、これから色々読んでみたいと思えた。

    このいれかたで、インスタントコーヒーを飲んでみようか。

  • 数ある小説の中でもタイトルのハイセンスさはピカイチだと思う。

    内容は本の出版詐欺を巡って繰り広げるドタバタもの。お酒や酩酊描写がやたら上手いのはさすが、中島らも。

  •  永遠も半ばを過ぎて。まずこのタイトルがいい。永遠と言ってるのにその半分も過ぎたというのはどういうことだろうと、まず考えてしまった。これも一つの術なのだろうか。
     内容についていうと、前半部は読ませるが中盤からは読みやすいところと読みにくいところがある。筆者の知識が溢れているところでついていけなくなる。流れが途切れずに最後まで読み切れたなら、これはと思っている作品だと思う。

  • 映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』で引用されていた「君の体にも成仏してない言葉が詰まってるよ きっと」というセリフで興味を持った。

    今まで写植を打ち続けることで抑え込まれていた波多野の中の言葉たちが、ナルムレストを飲んだことがトリガーとなって溢れて出てくる。馬鹿みたいなチラシの文言を無私で打ち込んでいたのに、知らないうちに、突っ込むようになっていて、気付いたらビート文学みたいな支離滅裂な文章を打っていたあのシーンの怒涛さは読んでて興奮した。トリガーが薬物なのは少し不満、ナチュラルハイが良かった。

    私は「押し殺して押し殺してそれでも出てくるのが個性」って主義だから、主義に合う小説。今は、波多野が写植を打ってきた数十年の期間に私もいて、色んな知識や言葉の洪水で自分を洗い流す期間なんだろうな。洪水に自分自身が流されてると思いきや、自分の中の要らない部分だけが流されて洗練されていた。その残った個性の部分が自分の声を欲しがるようになって、「永遠も半ばを過ぎて」ができた。例えフィクションでも信じたい未来。

    相川のプレゼンの部分は読んでていつも楽しい。宇井にニセモノって見破られたのは可哀想だったけど。台本を読むんじゃなくて、その役の人となりをとことん考えてから、そいつを降臨させる、ってのは処世術として役立てたい。

    キキに影響を受けてガムラン音楽を聴き始めた。

    好きだった文
    ・中国人で太った人を見たことがありますか?
    ・”ここにあるものでおまえのものはおまえだけさ”。そうかもしれないが、おれは自分のものであるおれと、ずいぶん折り合いが悪かった。
    ・「これは何ていう音楽なんだ」「ガムランよ。ジャワの」「この音楽はこんなに大きな音で聞くものなのかね」「質が変わるのよ。あるレベルを超えると。何だってそうよ。あんた......」
    ・「ひとつ手に入れると、ひとつ失うのよ。何でも手に入れる男は、鈍感なだけ。失ったことは忘れてしまう。哀しみの感情がないのよ、わかる?」
    ・「僕の直観だがね。人間の心っていうのは、こういう、イチジクというか、キンチャクというかそういう形をしてる(中略)このキンチャクの上部の、ひだになって締まってる部分をね、ゆるめてやるんだよ。そこから誰かが入ってきてくれる」
    ・「知らないふりをして若い人の話を聞くのは、老人の義務だよ」
    ・「あなたの中には、その文字の言霊が残ってるのよ。五千万字分」

  • ほんと申し訳ないですけれども、中島らもさんの小説は竜頭蛇尾のことが時々ありますが…この本は最後まで美しくてまとまっていると思います。雰囲気に浸りたくて、キャラクターに会いたくて、文章を、言葉を味わいたくて、何年か経つと読みたくなってしまう。

  • 私の心に名前をつけないでほしい。どうしてもというのなら、私には一万語くらいの名前が必要だ。

  • 以前に写植業に携わっていました。なかなか陽の目を見ない職種でこの作品を原作とした映画が公開されたときは変な嬉しさを感じたような思い出があります。

    20QナールEツメ、本文ゴナUの記述には『大丈夫か?』と思いましたがあの頃の雑誌を含めた出版物のデザインは文字組をはじめ、全て今よりも洗練されたものだったと感じてしまいます。

    • miさん
      興味を持ちました。今度、読んでみようと思います。
      興味を持ちました。今度、読んでみようと思います。
      2024/04/10
  • これが半フィクションだという事がとても凄い
    生者はそこまで誇らしくない事
    生きてるのが異様
    取り憑かれてこそ作家なのだと
    らもさん思想が伝わってくる文でしたね...

    中盤、僕にとっては少々難解で読むのが苦しかったのですが
    終盤からするっと読む事ができました。

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著者プロフィール

1952年兵庫県生まれ。大阪芸術大学放送学科を卒業。ミュージシャン。作家。92年『今夜、すべてのバーで』で第13回吉川英治文学新人賞を、94年『ガダラの豚』で第47回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞した。2004年、転落事故による脳挫傷などのため逝去。享年52。

「2021年 『中島らも曼荼羅コレクション#1 白いメリーさん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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