鷺と雪 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2011年10月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784167586072

みんなの感想まとめ

昭和初期の士族のお嬢様とその付人である運転手の女性が、日常の中でさまざまな謎を解き明かす「ベッキーさん」シリーズの最終巻では、歴史と文学が巧みに交錯します。短編3編から成るこの作品は、実際の事件や文芸...

感想・レビュー・書評

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  • ベッキーさんシリーズ3作目最終巻。
    昭和初期の古き良き時代の雰囲気を味わえるのもこれが最後かと思うと寂しい。
    タイトルの『鷺と雪』から雪はある重大な事件を想像できるが、鷺はどんな意味があるのだろう?そしてどんな結末を迎えるのか?これから悲しい時代に突入するのが分かっているので複雑な気持ちで読み進めました。

     3篇の短編を収録
    〇「不在の父」 
    華族主人の「神隠し」の謎を英子とベッキーさんが解き明かす。
    謎を解き明かす過程で英子が住む世界とは全く違う世界が見えてくる。箱入り娘が箱から一歩踏み出し世間を知る瞬間だ。結末は切ないけれど潔さを感じた。
    今ではあまり使われないルンペンという言葉が懐かしい。
    そしてブッポウソウが鳴き、騒擾ゆき、暗雲が徐々に近付いてくる。

    〇「獅子と地下鉄」
    補導された良家の少年の謎を追う。
    川端康成の「浅草紅団」を元に、世間知らずの英子は危機に直面しヒヤッとさせられる。
    この時代から中学受験や受験戦争があったのが驚いたのと「えっそんな理由なの?」と獅子に纏わるジンクスが面白い。
    そしてブッポウソウの鳴き声が帝都でも聞こえるように…

    〇「鷺と雪」
    特にこの章はページを一枚一枚めくる度に軍靴の足音が近付いてくるようで複雑な気持ちで読み進めた。
    桐原家侯爵勝久様とベッキーさんとの問答するシーンが心に残った。
    「善く敗るる者は亡びず」漢書の一節
    最後にベッキーさんは勝久様に絶望を乗り越えるための希望としてこの言葉を贈った。
    善く敗れることで未来に繋がる道がある。
    凄いのは二人ともこの時点で大きな歯車が動き出せば日本の破滅を予感していたこと。
    そしてその未来を英子と歴史を知っている現代の私達に託した。(解説から)
    「何事もお出来になるのはお嬢様なのです。明日の日をを生きるお嬢様方なのです。」
    私達に何が出来るのか改めて考えさせられる。

    昭和11年2月26日ある事件が起こった日
    雪がしんしんと吹き積もるなか最後に英子が贈り物をしようと電話をかけた先が奇しくも著者がこのシリーズの原動力となった『昭和史発掘』のなかのある一節。
    官邸の電話を一本だけ残して、みんな切った。
    「その残した電話が銀座の服部時計店の番号と似ていたらしくハットリですか、という間違いの電話がずいぶんかかってきた。」
    (元石川上等兵団)
    この一節だけでこんな壮大な物語を書き上げた著者が日常のなかの非日常のように思えてしょうがない。

    ラストは鷺は舞い降り羽をたたんで地に伏す。
    ベッキーさんの恐れた時代へと流れていく。
    英子とベッキーさんは戦時下をどう生きたのか?二人の生き様に思いを馳せる。

  • 時代は、昭和初期。当時の士族のお嬢様と、その付人としての運転手の女性“ベッキー”さんが、日常生活の謎解きをする「ベッキーさん」シリーズ。第3作で最終作の、短編3編。
    第1作から読まなかった事は、大失策。
    推理小説ですので、各作品その時代らしい謎解きが楽しめます。そして、作中に何作かの文芸作品を絡めます。その作品にも興味がわきます。
    「不在の父」
    自宅から突然失踪した子爵。その行方と理由を探します。実際にあった男爵失踪事件を題材にされています。山村暮鳥の囈言という詩の一節が、最終話への布石となります。この詩は、はじめ知りましたが、犯罪名と名詞で熟語としたような魅惑的な作品でした。
    「獅子と地下鉄」
    受験を控えた少年の上野補導事件。銀座三越のライオンにたどり着きます。
    「鷺と雪」
    ドッペルゲンガーと思われる現象の謎解きです。
    そして、お嬢様が密かに想いを寄せる青年将校と最後になるであろう奇跡的な語らいが見事な最終話です。

    この最終話のベッキーさんの語らいの部分が、理解できず、まあいいか?と諦め気味だったのですが、直木賞評価を読んだところ、宮部さんの論評で納得させていただきました。当初から、謎多き女性でしたが、未来から来たお嬢様になるほどと。

    二、二六事件が、最終話を飾るのですが、三島由紀夫の憂国、宮部みゆきの蒲生邸と、視線が変われば小説も変わりますね。数行の昭和史から含まれるものが多い創作でした。

  • いよいよ最終巻。「不在の父」と「獅子と地下鉄」、「鷺と雪」3つのお話。「不在の父」は華族主人の失踪について英子が追いかける。失踪した華族主人は桐原侯爵家の道子様の小父様なので、今回は道子様の家格を背負った凛とした場面をみることが出来る。昔の人は自分の意思でどうこうできない既に敷かれたレールの上を進むしかないのだから、この華族主人のように考えに考えて失踪してしまうことだってあると思う。敷かれたレールの上を進まなくてはいけない人生は、その道が自分の望む道なら良いけれど、そうでない場合、知性のある人ほど苦しいことなのかもしれない。

    「獅子と地下鉄」は大人なら気にしないようなことを必死に考えて実行しようとした中学受験を控える優しい少年の話。このころから既に中学受験における受験戦争のようなものがあって、親もジンクスに頼りたくなるほど必死だったのだなととても親近感を覚えた。英子もお嬢様育ちの人の良さにつけこまれそうになる事件もあり色々盛り込まれた話だった。

    最後の「鷺と雪」は終章。雪とあるので軍国主義への大きな一歩となってしまった昭和のあの事件を思い浮かべながら読む。このお話には、英子と同級のお嬢様が、写真機を使ってご友人を驚かせようとした、あるいたずらの謎を解く話もあり、まだ明るい部分もある。けれど最後は英子がある人に贈り物をしようと雪降る朝にかけた電話が偶然にもある場所に繋がり・・・・。これから先の不穏な歴史を知っている私たちは英子の今後をある程度想像出来る。でもこの直前に英子はベッキーさんとあるやり取りをしている。英子がベッキーさんに本当に何でも出来るのねと感心すると、ベッキーさんから「別宮は何も出来ません、何事もお出来になるのはお嬢様なのです」と強く訴えられる場面がある。そこを読んでいるので辛く苦しい時代が始まるけれど、英子はきっと強く生きていけるはずと希望を持って読了した。

    桐原侯爵家道子様のお兄様の帝国陸軍参謀幹部である勝久様とベッキーさんとのこれから大日本帝国が突き進む戦争への必然の流れを問答するシーンが重かった。勝久様は1巻からベッキーさんの知識の広さと度胸と腕を見込んで一目置いていたので、最後にもう止められないこの歴史の流れを自分なりに受け止めるために、ベッキーさんに問いを投げかけたのかもしれない。勝久様は大きすぎる機械が動き出せば、それは人の手では制御できなくなり、それ以上進めば奈落の淵というところへさえも進んでいくかもしれず、それに対して怖れを感じ身もすくむと語りかけ、漢書の「善く敗るる者は亡びず」という一説は信じられるかとベッキーさんに問う。ベッキーさんは「人間の善き知恵を信じる」と答える。勝久様はまるで護符を頂いたように頷いた。有能な人なら動き出してしまって迎える結末はわかっていたのかもしれない、けれど国家が動き出したらどんなに有能な人でも流れは止められない、悲しい歴史の中には葛藤しながらやりきれない思いを押し殺して邁進した人々がいたのだと心に止めておきたい。

  • この時代が好きな方は良いのかなと思います。

  • シリーズ最終巻。

    この時代を、それぞれ自分の身分を生きる人たちの思いを英子とベッキーさんを通して教えてもらった気がする。

    そして あぁ、ずるいです、北村さん。こんな終わり方だなんて。
    これじゃ良い意味で永遠に心に居座り続ける一冊じゃないですか。

    歴史を知っているからこそ襲われる思い、せつなさにまんまと心は捕らえられたまま。

    夢の世界であったら、どんなに良かっただろう。この後を思えば思うほど、英子の気持ちに寄り添えば寄り添うほど時を止めたくなる。

    いつまでも降りしきる雪、英子の想いを乗せた鷺が舞う。

  • ベッキーさんシリーズ最終巻。物語全体を覆う静けさが、鷺と雪というタイトルに象徴される。

    暗いトーンの本書だが北村薫節は現在で、芥川に山村暮鳥や北原白秋など、物語と絡めて本や作家が登場する。北村先生がたびたび言う「読んだ本と本とが繋がったりするのが、書物を開く楽しみだ」との言葉が主人公の英子からも発せられるのはファンとしても嬉しい。

    日常が非日常を垣間見ることがテーマだという本シリーズ。本書では史実を下敷きに、物語と事実とが交錯する。そこに芥川のドッペルゲンガーに関するエピソードが効果的に差し挟まれる。

    ベッキーさんがあのような発言をした以上、やはりシリーズはここで完結だろう。英子のさらなる成長を見たい気もするけれど。

    本書で扱われた「事実」のうち、いくつかを私は知っていた。ただ一片の事実からこのような物語が紡ぎ出されるのかと、北村先生風に言えば、それこそ《背筋がぞくりとした》。

  • 「お嬢様。……別宮が、何でもできるように見えたとしたら、それは、こう言うためかもしれません」
    「はい?」
    ベッキーさんは、低い声でしっかりと続けた。
    「いえ、別宮には何もできないのです。……と」
    「……」
    「前を行く者は多くの場合―慙愧の念と共に、その思いを噛み締めるのかも知れません。そして、次ぎに昇る日の、美しからんことを望むのかも―。どうか、こう申し上げることをお許しください。何事も―お出来になるのは、お嬢様なのです。明日の日を生きるお嬢様方なのです」
    わたしはヴィクトリア女王ではない。胸を張って《I will be good》と即答することはできなかった。
     だが、この言葉を胸に刻んでおこうと思った。

    昭和初期の上流階級の日常に潜む「謎」を解く趣向の「ベッキーさんシリーズ」はこの本にて終る。09年の「玻瑠の天」のとき、あと3年待たないといけないなあ、と思っていたが二年と少しで文庫になった。急いで読んだ。足掛け七年をかけて、英子さんの未来を描いたのだとつくづく思う。最後まで、「日常の謎」を描きながら、一方で「時代」をも描くという難しい課題に挑んだことに敬意を表す。

    改めて、「ベッキーさんは未来の英子さんなのだ」という宮部みゆきの喝破に敬意を表す。

    上流階級の純真で賢くて英明な女性の日常の思考の推移をきちんと描いているが、それでも彼女は「外の世界」を少しだけ垣間見る。「不在の父」ではルンペンの世界を、「獅子と地下鉄」では上野を根城にする少年少女の小犯罪集団を、そして「鷺と雪」では2.26事件を。

    ベッキーさんはずっと思っていたはずだ。「外の世界は大人になれば否が応でも見えるようになる、眼をつぶることのできない女性だからこそ、しっかりと守って生きたい」。と。あそこで終わって正解だった。

    文庫の解説にはシリーズ全体の構想がどこから出たのか、という「謎解き」がされている。北村薫は、なんと一番最後の場面からこのシリーズを創って来たのだそうだ。なるほど、だから最初の章に服部時計店がでてきたのではある。

    北村薫は松本清張の「昭和史発掘」のたった数行のエピソードからこのシリーズの着想を得たという。2.26事件について書かれたところである。それは以下のようなエピソードだった(普通の人がここからあのような話を作れるかどうかということは、また別の話)。

    官邸の電話は一本だけ残して、みんな切った。
    「その残した電話が銀座の服部時計店の番号と似ていたらしく、ハットリですか、という間違いの電話がずいぶんかかってきた」(石川元上等兵談)

  • オール讀物2008年1月号:不在の父、6月号:獅子と地下鉄、12月号:鷺と雪、の3つの連作短編を2009年4月文藝春秋から刊行。ベッキーさんシリーズ3作目。読み終わるのが惜しいほどの作品でした。2.26事件をもって、物語は終わります。2000年代には、まだ存命であってもおかしくない英子お嬢様のその後を読んでみたいと思いました。第141回(2009年上半期)直木賞受賞。直木賞に関しては、宮部みゆきさんが、選考委員に入られたことが大きいと思います。

  • 5・15事件のあった昭和7年に始まった不穏な時代を背景に、上流階級の令嬢と才色兼備の運転手<ベッキ-さんとわたし>シリ-ズの最終巻。 華族主人の失踪の謎を追う『不在の父』、受験戦争に喘ぐ良家の少年と日本橋三越本店前のライオンのからくりを探る『獅子と地下鉄』、帝都・東京に雪の舞う昭和11年2月26日、偶然の成行きから劇的な運命の幕切れとなった『鷺と雪』は、第141回直木賞受賞作。・・・芳醇な文芸の香りとミステリ-のエキスが散りばめられた、北村薫文学の代表作。

  • "ベッキーさん"シリーズの最終章。華族・上流階級の好奇心旺盛なお嬢様の
    探偵好きが高じた三つの事件の謎解きが淡々と綴られていきますが――

    結末はなんとも切ない幕切れでした。
    この後の英子にどれだけの悲しみが待ち受けていたか....想像したくはないのに
    せずにはいられず、胸がギュッと締め付けられる思いが余韻として心に残りました。

    とはいえ、東京、銀座、上野を舞台に、三越百貨店、上野公園、上野動物園
    美術館、地下鉄など、実在の時代と風景とが織りなす情景にはすっかり魅了され
    知らない時代なのに自分もそこにいるかのような気分に浸れた素敵なお話でした。
    ベッキーさんの賢さと気転の良さのかっこいいこと! 惚れ惚れします。

    あとがきで、3つの謎解きのすべてにも実話が絡んでいたことを知って驚きました。

  • この幕切れには言葉がすぐに見つからなかった…。切ないとか、やるせないとかでは言い表せない感情が読後に残りました。

    昭和初期の華族の令嬢とその女性運転手が様々な謎を解くベッキーさんシリーズの最終巻。
    収録作品は三編。過去二作品を通しての語り手である〈わたし〉こと英子の成長もあってか、収録作品の背景にあるものも、身分や格差といった社会のひずみを映したものが多くなってきたように思います。

    そうしたひずみに対し英子はどこか無垢に近づいていきます。それは上流階級で育ってきたゆえの純粋無垢さゆえの行動、感覚と言えるのかもしれない。

    その純粋無垢さを表現しているのが、作品全体に漂う一種の品位。英子の日常であったり教養が出てくる部分の切り取り方が、本当に見事の一言に尽きる。
    家族との食事や女学校でのやりとりもそうだし、文学や芸術に関する含蓄や教養も、その品位を裏付けします。そこに北村作品ならではの静謐で品のいい語り口が加わり、シリーズ全体の空気感というものが醸成されている気がします。

    昭和華族という設定を、設定だけに終わらせず物語に完全に取り込めたのは北村さんだからこそなのではないかと感じます。

    だからこそ、上流階級で育った純粋無垢な英子がベッキーさんとの事件の数々を通して成長していく、というのも実感できるし、なによりまっさらな英子と徐々に不穏さをましていく時代との対比が映えてより心に残る。

    それがシリーズ最終話の表題作「鷺と雪」で頂点を迎えます。物語の終盤でベッキーさんが英子にかける言葉。そして運命の電話。歴史の大きな転換点。日常と非日常が入れ替わっていくであろう日。シリーズはある意味では大きな余白をともない、閉じられたように思います。

    その余白に読者である自分は様々なものを思い、そして言葉で昇華しきれなかったものをいまも詰め込もうとしているようにも思います。

    シリーズ三部作と不穏さを増す現代の時代というのは図らずもリンクしているようにも思える。だからこそベッキーさんの言葉というものの切実さはフィクションの壁を越えて、今の自分の心にも強く突き刺さりました。

    第141回直木賞

  • ベッキーさんシリーズの最終巻にして、直木賞受賞作。
    直木賞受賞作ということで本作から読む人もいるかもしれませんが、「街の灯」、「玻璃の天」と順番に読むことをお勧めします。
    分かりやすさが優先された作品ではないので、万人受けする作品ではないかもしれません。
    それにしても、何という幕切れなのでしょうか。
    その後の歴史について、現代の我々は知っているのですが、主人公がこれから歩む道を想像すると、息が止まりそうです。
    シリーズ全体を通じて、フィクションですが、その時代を体験したような気持ちになりました。

  • 2.26事件で終了、ということは知っていたので、どう転んでもハッピーなエンディングにはならないのは分かっていたが、このような切なさで終わってしまうとは。

    現代に生きる私たちが当たり前と思う自由が、当たり前ではなかった時代、それを当たり前にしていく過程の時代である。当たり前の自由が数多くの犠牲の上に成り立っていることを、もっと私は自覚した方がいいかもしれない。

    上野で、英子が危機に瀕したとき、それを手引きしたのが子供だった、ということに辛さを感じる。生きることに必死だった、だからといって、このようなことをしていい訳がない。それでも手引きをした子供を心を痛めずに罪人と言えはしない。このような状況(大人が指図して犯罪に加担する子供)で子供に罪はない、という人はいるが、それは私は違うと思っている。人は誰かのせいにしたがるものである。子供だから罪はない、という言葉を当の子供が言ってはいけない。子供が子供であるということを利用した犯罪に罪がない訳がない。罪は罪として、痛みを背負って生きていくのが人生なのではないだろうか。度胸があり、仲間のしんがりになって、大人の男をどやしつけながら、キイちゃんは消えた。きっとこの時代、たくさんのキイちゃんがいたはずだ。現代はキイちゃんの心に痛みを感じられる世の中になっているだろうか。


    英子もだんだんと大人になり、周囲の結婚の話も身近になる。仲良しの桐原道子様も想い人と結婚の運びになる。修学旅行に出かけたのちに聞かされた、写真の不思議の話。なるべく、オブラートに包むようにしていたが、これは人の悪意のなせるものではないだろうか。何かが気に食わないというわけではなくとも人に意地悪してやろう、という気持ちになることはある。お金があって、相手がお美しく、お幸せなご結婚をされるのが分かっていれば、なおのこと。分かりたくない心理だが、分かる自分もいる。
    ベッキーさんを意識していたような桐原勝久様も大名華族の方とご結婚の運びになる。ベッキーさんのように千里の道を見とおすような頭脳を持っていたとしても、時代の流れを止めることは出来ない。


    「別宮には何も出来ないのです」「前を行く者は多くの場合、慚愧の念と共に、その思いを噛み締めるのかもしれません」「何事も━お出来になるのはお嬢様なのです。明日の日を生きるお嬢様方なのです」
    この言葉が染みる。

    願いは必ず叶うもの、という先生の言葉を英子が、無責任だ、願い事は簡単には叶わないから願うのだ、と言ったことに、ベッキーさんが英子が言うことは、いうまでもないことであって、人生を長く生きている、先生が知らないはずがない、とたしなめるシーンも良かった。「そのお言葉が多くの哀しみに支えられたものに思えます。お若いうちは、そのような言葉が、うるさく、時には忌まわしくさえ感じられるかもしれません。ですけれど、誰がいったか、その内にどのような思いが隠れているか、そういうことをお考えになるのも、よろしいかと存じます。」これは現代の私たちにも通じることではないだろうか。

    若月さんへの想いがこのような結末を迎えても、しっかりとした足取りで未来を歩いていく英子であってほしい、と未来を生きる人間の一人として思った。

  • 柔らかく、優しいミステリーのベッキーさんシリーズの3作目、最後です。
    「鷺(さぎ)と雪」

    前作から数年を経て、昭和10年頃。
    上流階級は変わらず、穏やかな時の流れのなかにあるようですが、時勢は、太平洋戦争を向かって行きます。

     公、侯、伯、子、男。爵位の順位だそうです。維新の功績や、それ以前の石高で決まっていたらしい。全くもって、私がおよそ興味を持たないであろう世界が、こんなに面白く。また儚く、時にはうす暗く、読ませてもらいました。

    最後はあの事件で閉じます。図られた運命のように。

    このシリーズ、読めて良かったです。
    たまさんに感謝。


    1作目「街の灯」レビュー
    http://booklog.jp/users/kickarm/archives/1/4167586045

    2作目「玻璃の天」レビュー
    http://booklog.jp/users/kickarm/archives/1/4167586053

  • 北村薫の連作ミステリ作品『鷺と雪』を読みました。
    北村薫の作品は昨年7月に読んだ『空飛ぶ馬』以来ですね。

    -----story-------------
    帝都に忍び寄る不穏な足音。
    ルンペン、ブッポウソウ、ドッペルゲンガー…。
    良家の令嬢・英子の目に、時代はどう映るのか。
    昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、明治三十年頃に発生した、松平斉(ひとし)男爵の失踪事件を題材にとった「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録。

    『街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)』『玻璃の天』に続く、花村英子とそのおかかえ運転手・ベッキーさんが主人公のミステリー・シリーズ第三弾。
    本書所収の3短編は、それぞれ昭和9年から11年にわたる3年の物語。
    6度目の候補で、第141回直木賞受賞作。
    -----------------------

    2008年(平成20年)に文藝春秋が発行する月刊娯楽小説誌『オール讀物』に連載され、2009年(平成21年)に刊行された作品……1934年(昭和9年)から1936年(昭和11年)の帝都・東京を舞台に、上流家庭の花村家の長女・英子とその運転手・ベッキーさんが活躍するベッキーさんシリーズの第3作(最終作)で、第141回直木賞を受賞した作品です。

     ■不在の父
     ■獅子と地下鉄
     ■鷺と雪
     ■主な参考文献 
     ■解説 佳多山大地

    ベッキーさんシリーズ最終巻の直木賞受賞作……日本にいるはずのない婚約者が写真に映っていた、、、

    英子が解き明かしたからくりは?? そして昭和11年2月、物語は結末を迎える……。

    当時の上流社会の生活や風俗が克明に描かれており、雰囲気がムッチャ好きなシリーズです、、、

    華族の主人が突然失踪する謎を扱い、格差婚の難しさや厳しさが背景に描かれており、ベッキーさんの慧眼が主人の行方と事情を解き明かす『不在の父』、

    中学受験を控えた少年が夜中に上野の美術館付近で補導されるが、夜中に上野まで出向いた理由について少年は口を閉ざす……心配した母親が息子の日記帳を見てしまうと、そこには「ライオン」「浅草」「上野」と書かれていた! ベッキーさんが、少年が上野で何をしたのかを探り当てる『獅子と地下鉄』、

    英子の周りで起こった、写真に写ったはずのない人物の謎が話の鍵となり、ドッペルゲンガーを思わせるような運命の偶然が導く切ないエピソードを軸に物語は進行……そして、昭和11年2月に起こった歴史的な大事件(二・二六事件)の発生とともに、英子たちの日々が一変し、物語は突然の幕切れを迎える『鷺と雪』、

    3作品とも愉しめましたね……華やかな上流社会の描写の中に、時代の影、特に軍事国家への傾斜と戦争の足音が忍び寄り、物語の最後は歴史的な大事件とともに劇的な幕切れを迎える展開、いずれも実話がヒントになっているようですねー 面白かったです! 本作品がシリーズ最終話というのは残念、続篇を読みたいですね。

  • どうもシリーズ2作目を先に読んだようだ。時代と世界観が好きではあるがこれと言って特筆すべき感想はないと思っていた。3作の短編最後の「鷺と雪」でやられた。ラスト、予期したことだったが鳥肌が立ち涙が出た。余韻に浸れる良い小説だ。

  • 鷺と雪

    『街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)』『玻璃の天』に続く、花村英子嬢とそのおかかえ運転手・ベッキーさんが主人公のミステリー・シリーズ第三弾。英子嬢が拾って来る友人や知人の小さな謎をベッキーさんが慎ましやかに解いてみせるといういつものパターンはそのままですが、時代背景が影を落としていて段々と暗さを増していきます。
    「不在の父」は、英子嬢の兄が浅草で失踪した知り合いの華族を見かけたことに端を発して、失踪の真相が悲しみをもって明かされます。結末は暗めですが、別の人生を潔く生きた人の心意気を感じさせてくれます。
    「獅子と地下鉄」は、今に通じる受験の願掛けを巡る謎解きのお話です。英子嬢は上野で浮浪児のグループにからまれますが、その中で庶民の貧しさと自分の豊かさをしみじみと感じることになります。
    「鷺と雪」は、写っているはずのない友人の婚約者の写真を巡る謎解きのお話ですが、そのお話よりも、ベッキーさんと軍人である友人の兄との最後のやりとりが竹蔵の心を打ちました。
    自らの行動に迷いを生じている軍人に対して、”善く敗るる者は滅びず、わたくしは、人間の善き知恵を信じます”と答えるベッキーさんに思わず涙が出てしまいました。
    そして、時は昭和11年2月26日の雪の日を迎えます。

    私たちはいつからこの国の、家族の、子供達の将来を思いやることを忘れてしまったのでしょう?
    私たちはいつから勝つことばかりに一生懸命で、”善く破るる者”という大切な志を持てなくなってしまったのでしょうか?
    そんなことを考えさせてくれる本でした。

    竹蔵

  • 最終話は繰り返して読んだ。
    雪と226事件。
    歴史を知っておくことが、読書に必要だなんて。
    本年度ベストであった。

  • 2019年4月10日読了。希望と不穏さが交じる昭和10年代で、華族のお嬢様英子とそのお抱え運転手ベッキーさんが探る一見不可思議な出来事たちの真相。第141回直木賞受賞作。「日常の謎」ミステリだが時代背景と丹念な世相の描写、リアルに感じられるモダンガールの思念などがミソ。ミステリ原理主義者からするとこれらの記述は冗長以外の何者でもないのだが、シンプルな謎解きミステリになんとも言えない余韻を残す…。3部作の3作目をいきなり読んでしまったのは残念、順番に読んでいくともっと深い読後感が得られたのかも。

  • ≪私≫シリーズで、北村さんのすごさを知り、ベッキーさんシリーズを読破。
    現代の話ではないので初めは読みにくかったけど、あれよあれよと引き込まれました。
    知らないことが多くて、勉強にもなるし、情景の描き方が素敵。
    主人公英子さんと、私シリーズの主人公がなんとなく似ていて、素敵で大好きな二人です。
    この後が気になるけど、ここで終わりなのがまた、なんとも!

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北村薫の作品

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