石原莞爾と昭和の夢 地ひらく 上 (文春文庫 ふ 12-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167593025

作品紹介・あらすじ

「最大の戦犯」「不世出の天才戦略家」「神がかりの予言者」…。石原莞爾を巡る評価は今もなお揺れている。関東軍参謀として満州事変を指揮し、「世界最終戦論」で未来日本のグランドデザインを示した陸軍史上最大の奇才が夢見た日本の姿とは?石原が辿った足跡と昭和日本が直面した国際政治のカラクリを活写した渾身の大作。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和史の本はそれなりに読んでいるにも関わらず、自分の中に『石原莞爾像』が全く確立しておらず、気持ち悪く思っていたところ、たまたま目にして手に取った。(よく対比される東條英機は、『小心な忠義者』で、どの組織にもいるタイプと思われ、すごくイメージしやすいのとは対照的だ。)

    上巻は満州国建国迄。筆者の、リットン調査団の報告書に対する評価が好意的なのが意外だった。

    歴史の転換点的出来事をアメリカの失策と整理する視点は新鮮だった。

  • 石原莞爾の評伝です。上巻では、石原の幼少期から陸軍学校時代を経て、満州国建国までがあつかわれています。

    著者は、ときに論者の政治的立場にもとづく毀誉褒貶の両極端な評価にさらされてきた石原について、その軍事的天才と思想的膂力において類まれな人物であったとしながらも、他方で「石原も、生身の、一人の人間であった」と述べています。そのうえで、歴史についての「持続の感覚」すなわち「今、ここにある私たちが、長い過去の集積として今あり、その過去から継受したものを未来へと伝えていく責任感、というよりも祈りを醸成するもの」を取り返すために、昭和という時代の動乱に石原がどのように向きあったのかを明らかにすることをめざしています。

    こうした著者のスタンスは、加藤典洋の『敗戦後論』における問題提起を思わせるものです。ただし加藤が、歴史との連続性を回復しうるという楽観性を素朴に語っているのに対して、著者は日蓮の教えにもとづく石原の「王道楽土」の理想主義的な性格を、その理想主義的な性格ゆえに高く評価し、十九世紀的な列強のパワー・バランスにもとづく国際体制が崩壊していった時代に新しい光を灯すものとみなして、そのヴィジョンの大きさを石橋湛山の「小日本主義」と対比することで読者に印象づけています。ここに、著者の考える「持続の感覚」が単純な連続性ではないことがうかがわれます。ポストモダンをくぐり抜けたうえで「保守」を標榜する著者の立場から見た、昭和という時代が鮮明にえがき出されている本だといえるように思います。

  • 丁寧な記述ぶりに圧倒される。最初は引き込まれたものの、途中からはあまりに専門的・詳細すぎる記述につかれてくる。下巻も読みたいとは思うが、どうも買う気になれない。

  • 石原については、ある種幻想をもって語られている部分は多いのだろうが、日本史上、唯一ヒトラーになりえた軍人であり思想家であったと思う。ただ、彼が唱えた東亜思想や、五族協和の理想が、後世の無知な右翼によって、後付けで日中戦争や太平洋戦争の目的だったとするような論調には辟易とする。ちなみに、私は物知りな保守派です。

  • 表面的にしか理解できていなかった石原莞爾の評伝を読む。
    上巻は幼少のころから満州事変まで。
    石原は軍事戦術家であり、思想家、宗教家でもある。
    陸軍の組織の枠組みに媚びることなく、正しいことを追求する熱意こそが天才を生む原動力なのだと思う。
    本著からは当時の陸軍の人材育成の考え方も理解することができる。

    若い頃から乃木希典や大隈重信と面談を求めたり、陸軍の中にありながら上司に平気で楯突く様は、自信に満ち溢れ、一段高見で物事を捉えようとする意志が感じられる。このような強靭な性格に肯定的で陽気な気性が加わる。
    また庄内出身であり藩閥とは無縁であるところも興味深い。

    本著は石原莞爾を通じて昭和史全体を俯瞰している。
    それも国内事情だけでなく国際情勢の中での昭和史を鋭く考察しており、それだけでも一読の価値があると思う。

    当時の政治判断を後世から良い悪いと判断するのは余りにも教科書的。
    当時の国際情勢下、日本が置かれた立場を客観的に分析し歴史を理解することの大切さを認識した。

    下巻も楽しみだ。

    以下引用~
    ・地方幼年学校では、外国語としてフランス語、ドイツ語、ロシア語のいずれかの語学を選択さえられた。これらの外国の選択は、三国干渉の相手国への報復を目的としていた、とする説が、まことしやかに囁かれていた。
    ・石原莞爾自身、みずから「王道」を貫くことをその信条としてきた。その思想は、西欧に発する近代文明を乗り越えていこうとする激しい情熱に貫かれており、そして来る文明の姿は、東洋的な「王道」のもとに建設されるべきであった。
    ・「陸軍大学」の編者である上法快男氏は、陸大教育が、昭和戦前期において、陸大出身者が文民政治を支配しえた要因ではないか、と指摘している。・・・・高級軍人たちはきわめて高い政治能力をもっていたがゆえに、政治家や官僚を圧倒しえたのである。
    ・大東亜戦争前に確立された、わが国のいわゆる総力戦体制の理念的モデルは、ナチス・ドイツではなく、ルーデンドルフの独裁体制だった。その体制は、長期戦の見通しを欠いたまま、作戦計画の貫徹を最大の目標とするような国家体制であり、軍事以外の諸要素をすべて無視した、勝利のみが価値観であるような社会を要求した。
    ・教育総監部が、このように高い地位を、軍事体制の中で占めていたことは、いかに近代日本の軍隊が、教育、啓蒙に力を注いていたかを証し立てるものである。
    ・過大な人口を抱えた日本が生存していくためには、海外に国民を雄飛させて人口を調節するか、工業化をすすめて生産力を高めるしかない。だが、移民の道も工業化の前提である貿易の発展も、ともに英米からのきびしい制約を受けている、という認識。ここで石原が語っている国際情勢と、その中におかれた日本の立場の認識は、第一次世界大戦後に日本が迎えつつあった難局の核心を正確に把んでいる。
    ・(第一次世界大戦での)ドイツの敗北が中途半端であったこと、そしてその責任をドイツ軍部が担わなかったことによって、ドイツ国民は、世界大戦での敗北という現実を直視することが出来なかった。
    ・軍事だけにとどまらず、外交や経済、あるいは科学、社会科学においても、石原に匹敵するような、容量が大きくなおかつ純度の高い精神をもつ者は、当時の日本人にいなかったかもしれない。
    ・領土、権益放棄論の前提は、植民地市場をあてにしない貿易立国への転換が可能であるということだ。当時の国際情勢は、日本が、貿易立国を図れるような要件を備えていただろうか。
    ・宮崎の計画的な経済発展の手法は、岸信介や満州国の官僚らによって習得され、それが戦後日本の経済発展の雛形になった。

  • 俺の中では保守論客のイメージが強い福田和也による、関東軍参謀として満州事変を指揮した石原莞爾の評伝。

    まあ、石原が軍人であるから、それなりに当時の歴史状況を書かなければならないのはわかるが、それにしてもこの評伝は、時に石原莞爾の人生を置きざりにして当時の状況を語っている様にも感じられる。が、そこが読んでいて楽しい。。明治後期から昭和にかけての歴史、政治状況、軍部での権力の移り変わり、世界の動きが詳しく書かれている。

    俺は高校時代、日本史を選択していたわりには、あまり勉強していなかったため田中義一がどうしたこうしたとか、浜口雄幸の金本位制導入とか、鈴木商店が潰れていった過程などをあまり理解せずに言葉でしか知らなかったが、本書によりおぼろげながら理解できた(まあ、高校時代にもっと真面目に勉強してたら、今回より理解できたと思うが)。

    で、冒頭、福田和也を保守論客のイメージが強い、と書いたが、保守派の本は割と日本の都合の良い事実しか書いていない印象が俺にはあるんだが、第一次大戦の青島での日本軍の略奪、暴行強姦があったという従軍記者の報告に触れていたり、満州での関東軍の行動が当時の日本国内の世論の中で歓迎されていた中でそれらの行動を批判した石橋湛山を(論文自体は浅薄としながらも)勇気あるジャーナリストして高く評価すべき、としている点などは、福田和也の誠実さを感じた。

    また、石原莞爾とアナーキスト大杉栄、共に陸軍幼年学校に入学し問題児であったという同じ境遇であった事から、大杉と同じ様に陸軍幼年学校を退学していたら、石原は社会主義陣営にはしったのだろうか(石原は妻宛の手紙に大杉を「日本ニ於ケル偉大ナル人物」と記し、社会主義者として身命を惜しまない果敢な活動にたいして、深い敬意を抱いていたとの事)といった問いかけや昭和の日本の権力の中枢に不動の一点がなく、陸海の軍部、各省庁、政党、財界そして皇室とその周辺の元老に拡散し、それらの関係の関数によって国の進路が決められてきた 事、当時の政治指導者がそれをわかっていたにもかかわらず、克服できず、満州事変、ニ・ニ六事件といった出来事がこのような分裂の結果として引き起こされたと言えるが、その反面でこのような権力の分裂を克服し、全体化しようとする試みであったと総括しながらも現在の日本は依然透明な権力中枢のあり方を実現していない、という福田和也ならではの考察が読んでいてくすぐられる。

    と、まあ興味深く読めた。やっとこさ、上巻を読み終えてすぐに下巻に移りたいが、ちょっと俺にはこの評伝を理解するには知識が欠けているから、なんかざっと昭和史に関する本を読んでから、下巻に行きますわ。

  • 天才と狂人は紙一重。。書いた福田和也には注目。

  • 石原莞爾という男に興味がひかれ読んだ。
    人物に関して賛否両論あるだろうが、まぎれもなく戦争の天才。
    そして壮大な構想力、世界観。今の政治家には全くない要素だろう。
    またこの本の昭和史の細かい描写。
    非常に臨場感があり、昭和の緊張感が伝わってくる。
    上読むのにすごい時間がかかったが、はりきって下に挑もう。

  • ¥105

  • あの時代の空気というか雰囲気みたいなものを感じることができるんじゃないでしょうかこの本で。

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。批評家。慶應義塾大学名誉教授。『日本の家郷』で三島賞、『甘美な人生』で平林たい子賞、『地ひらく――石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。

「2023年 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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