「週刊文春」の怪 (文春文庫 た 38-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167598037

作品紹介・あらすじ

世の中には「週刊文春」をシュウカンブンシューと読む人たちが少なからずいるらしい。これは一体どういうことか?謎が謎を呼ぶ表題作をはじめ、正しいチョーさん言葉「松井?うん、全然いい」や、明治のマルチ人間である岸田吟香の真っ当な文章観についてなど、日本語の面白さを鋭く追究する好エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 世間にはびこる変な言葉遣いや漢字に物申すシリーズ。どの巻を読んでも、その深い見識に感心する。でもまあ。言葉遣いも漢字も難しいわ。
    ・「少年は社会を震撼とさせる事件を起こした」はおかしい。「何々を震撼する」と他動詞に用いる。
    ・遂の訓はツイ(和語)だが音はスイ。だから完遂はカンスイと読む。
    ・日本最初の女子留学生の5人の一人、津田梅子は、つだむめこであり、正しい発音はンメコ。留学から帰ってきて覚えていた日本語は「ねこ」だけだったそうだ。終生日本語が不自由だった。同じくアメリカ帰りの神田乃武がこの人に惚れ結婚を申し込んだがすげなくことわった。山川捨松は将軍大山巌の後妻となり、鹿鳴館の花と謳われた。写真が残っているが、たいへんな美人である。
    ・岸田劉生の父親の岸田吟香は、新聞の主筆、目薬の製造販売、大陸関係の事業にかかわったりしたが、日本で最初の英和・和英辞典を作り、さらに日本で最初の言文一致の文章を書いた。
    ・日本語においては、m音とn音とは近似しており、しばしば互換する。ミヤコドリ(都鳥は当て字)は「ミヤと鳴く小鳥」であり、ミヤは猫の鳴き声で、普通はニャンなのである。任那はニンナともミマナともいうし、壬生をミブともニブともいう。
    ・「たくさん」は、一つ、二つと数えていって、その集合としての数量だが、「多い」は、程度の大きさを全体的にとらえている。「本が多い」は「本がたくさん」と書き換えられるが、「人口が多い」は「たくさん」が使えない。
    ・明治41年の出歯亀事件の池田亀太郎は出っ歯ではなく出しゃばりで出歯亀といわれたらしい。殺人の方もどうも冤罪らしい。
    ・「年齢?女性に聞くなんて失礼なこと。外国では考えられない」の発言。こういう外国ありがたや教信者の外国は東南アジアもアフリカも入っていなくて、アメリカ・フランスあたりの2、3国だろう。イギリスでは女性は年齢を聞かれたがり、実際の年齢より若いのを誇るそうだ。
    ・愚妻というのは侮辱ではない。「愚」「拙」「僕」などを一人称というのは、西洋人の切り取り方で、日本人は大きく「こちらがわ」と「あちらがわ」と分ける。だから自分の会社を小社という。
    ・天声人語は「北海道旧土人保護法」に差別的な響きを読みとっているが、現在の物差しで昔の人間の用語に文句をつけてどうしようというのか。そもそも「土人」は差別的な言葉ではなく、地元の人間をそう言った。
    ・人類の日常生活の実在では、数は1から始まる。西暦紀元0年や0世紀はない。
    ・日本の英語教育には漢文の日本読みの影響が強かった。それによって日本の文化を作ってきた。英語を英語のままに理解するのはなかなか大変。
    ・還暦は満60歳とも誕生日とも関係ない。60年めの年が明ければ還暦なのである。「享年七十」と書くし、満でいえば69だろう。
    ・「全然」はもともと否定語と一緒には使ってなかった。

    • トミーさん
      goya626さん

      こんにちは!
      先日のやりとりでわたくしは
      同好の志とコメントしましたが
      とんでもございません。

      志ではなく、わたくし...
      goya626さん

      こんにちは!
      先日のやりとりでわたくしは
      同好の志とコメントしましたが
      とんでもございません。

      志ではなく、わたくしなどが足元にも及ばない方だと失礼なことを申し上げたと、反省しております。「師です。」
      後をついて読書の道を行きたいと思っておりす。レビュー力がすごいです。
      また、よみたい本を教えていただいてます。未読ですが。
      2021/03/27
    • goya626さん
      トミーさん
      同好の志ですよ。読んだことを書いてるだけですものね。いろんな本を読み散らかしています。結構警察小説が好きなんですよ。実際に殺人...
      トミーさん
      同好の志ですよ。読んだことを書いてるだけですものね。いろんな本を読み散らかしています。結構警察小説が好きなんですよ。実際に殺人事件なんかに出くわしたりしたら、恐れおののくでしょうにね。
      2021/03/28
  • "この本を読むと、今までの自分がいかにいい加減に言葉を使ってきたかを思い知らされる。
    もっと、言葉の意味を考えて適切な日本語を使わないといけないなぁ。
    愚妻という言葉も、誤解をして覚えていた。
    私の妻という意味。愚息といえば、私の息子という意味。話し相手に対して、へりくだった表現で、一人称である。「自分から妻を見て愚かな妻と見ている」という意味ではない。
    詳しくは本書をお読みください。
    勉強になります。"

  • 棋士・前田陳爾の文章を紹介したエッセイでは、「亀の踊り」や「ごんぼを掘る」といった言葉への疑問と、それに対する読者からの手紙に基づく追加情報が記されていて、世の中には博識な人がずいぶんいるものだと感心させられます。

    言葉についてのエッセイのほか、朝日新聞などを題材に、現在の価値観で過去を裁断する愚かさを難じたエッセイなどもあります。

  • ・1/17〜再読中。「お言葉ですが」のシリーズ、本棚に揃って並んでないので気になる。どこかにあることは確実なので、揃えたいところなのだが。

  • 再読

    知的興奮を与えてくれる書。
    言葉へのこだわりと権威への反発はお見事です。

  • めちゃくちゃおもしろくて勉強になります!!コスパは最高なので読まないと損です!!

  • とにかくお薦めですからみなさんも読むべし。

  • 「週刊文春」にかつて連載されていたコラム集。
    初出は1996~97年ごろ。
    中国文学の碩学による、ちょっとおかしなこの頃のことばを集めたエッセイである。
    丸谷才一さんが、やはり文春のコラム(四字熟語の話)で、この人の学識の確かさが称揚されていたこともあって、手にしてみた一冊。

    暦のことと、新字のことは繰り返し出てくる。
    それから、呼応表現のことも、何度か取り上げられる。
    「すべからく」「よしんば」の使い方などの揺れなどだ。

    「合衆国」の「合衆」は、民主や共和、連合の意味合いの言葉であったことは初めて知った。
    「州」が寄り集まったという意味合いの「合州」とは書きえないのも、これで納得。

    「血税」はそもそも人を税として差し出す(徴兵)ことであったそうだ。

    批判は国語辞典、漢和辞典にも及ぶ。
    過去の辞典から用例を引き継ぎ、「出典」を示さないことや、用例にしても原典を当たらないことが厳しく批判されている。
    これは、言葉の揺れを容認する立場であったとしても、学者さんとしては譲れないポイントであるはずだ。
    なるほど、こういうタイプの誠実さがある本、今となっては見当たらないかも。

    一方で、言葉は悪いが、本書は「人様の言葉遣いをあげつらう文章」ではある。
    それだけに跳ね返ってくるものも大変だったのでは、とも思われる。

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著者プロフィール

高島 俊男(たかしま・としお):1937年生れ、兵庫県相生市出身。東京大学大学院修了。中国文学専攻。『本が好き、悪口言うのはもっと好き』で第11回講談社エッセイ賞受賞。長年にわたり「週刊文春」で「お言葉ですが…」を連載。主な著書に『中国の大盗賊・完全版』『漢字雑談』『漢字と日本語』(講談社現代新書)、『お言葉ですが…』シリーズ(文春文庫、連合出版)、『水滸伝の世界』『三国志きらめく群像』『漱石の夏やすみ』『水滸伝と日本人』『しくじった皇帝たち』(ちくま文庫)等がある。2021年、没。

「2023年 『「最後の」お言葉ですが・・・』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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