- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167602031
感想・レビュー・書評
-
桐野夏生さんの短編はどれも面白かった。その中でも(ジェイソン)と(錆びる心)が、特に良い。ジェイソンの主人公がとうとう酩酊後の我が姿を知る事になる。酒が無くても常軌を逸した行動を批判され、自分だけが知らされていない呼び名が普通に通じている事がある。「スピーカーさん」なんて言われている事も知らず交友関係が広く情報通を自慢気に話されるとつい傷付けずに助言する方法はないものかと思ったことがある。そう言う自分にも、
気付けない事実があるのでは?怖いなと思った。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「OUT」以来の久しぶりの桐野夏生さん。
短編6篇の登場人物がそれぞれ心の内で悩んだり怒ったり決意したり、その決意が鈍ったり…その辺にいる人間らしくて、各々の話にどっぷりハマりこんで読めた。
特にジェイソンが気に入った。ジェイソンに変貌した自分を知るにつれ落ち込む主人公。ラスト、妻さえいてくれたらと開き直ったのに、やっぱりジェイソンは妻に対してもジェイソンだった。けど、お酒の失敗でなくても時に誰かのジェイソンに誰でもなり得てしまうんではないだろうか?私だけが知らないだけで…。 -
短編集なので、いいところで終わる。まだまた続きがあるんじゃないか とか、何か起こってほしいとか。未消化だぁ。面白いけど。
-
テーマが微妙に不揃いな6本の短編集。どの話も先が超気になり読書速度を加速させる掴みは完璧、結末はキツい尻切れトンボが多めで★4寄りの★3。表題作が一番印象的だったかな。
-
先日『ナニカアル』で初めて読んだ作家さんの初の短編。
『グロテスク』や『東京島』で名前は知っていたが、それまで読んでいなかった。
『グロテスク』を図書館で見つけて借りたまま読んでいなかったんだけど、一時帰国時にこちらをみつけて購入し、『グロテスク』が結構面白かったのでつづけて読了。
まず、文章がとても読みやすい。
抵抗なくぐいぐいと本の世界に引き込まれ、没頭することができた。
本作は六篇の短編からなっている。
どの作品にも共通するのは自己と他者との意識・認識の乖離かな、と思う。
そして、主人公はみんなとても自己中心的だ。
もう、後戻りができないようなところまできて、墜ちる。
人の自己中な所、思い込み、思い上がり、妄想、欲望、恨み妬み・・・そんなものたちが、桐野さんによってかなりアンプリチュードされて描かれていると思う。・・・ぞっ。
読んでいて、今村夏子さんの作品のような居心地の悪さを感じたが、今村さんが柔らかな文体で書くのに対し、桐野さんはもう少しシャープな感じ。
個人的には"虫卵の配列"と"羊歯の庭"が好きかな。
"月下の楽園"は羊歯の庭に少し似ている気がする・・・荒廃した庭に惹かれるようになったきっかけの部分が凄く気味悪いけど・・・。
"ネオン"は個人的には微妙でした。
"ジェイソン"は主人公の心理描写が凄くよかったけど、最後のパンチが弱い気がした。
登場人物に教職が多いが、何か桐野さんの経歴などと関係あるのだろうか。 -
サクッと読める短編集。
一番おもしろかったのはジェイソン。
アルコールの破壊力は侮れないと思いました。
-
6つの短編集。
消化不良な話もある気がするけど
おもしろかったし、読みやすかった
人間の裏側をちょっと覗き見たって感じ
"錆びる心"は、1番印象に残った
主観で見よることが
自分の世界やし正義で正解なんやろうけど
見方を変えたらちょっとズレとることもあるんやろうなって思った -
後味の悪い話が多い。
でも読んでしまう。 -
作者の性別を意識しなければ、本作の印象もまた変わっていたことだろう。最初の「虫卵の配列」を読んだ瞬間に、なんてわかりやすく女性の心理を語ってくれるのだろうと思った。ただ、あくまで特殊な状況下でのこと、という注釈はつくが、それにしても状況や設定はどうであれ、女性の本音を暴露しているようでちょっと恐ろしかった。その他の短編にも言えることだが、女性が主役となった短編は、すべてにおいて、女性の隠された本音がでているような気がした。本作をもし男の作家が書いていたとしたら、何を知ったかしているのかと思ったかもしれない。
全ての短編は、特別なトリックや衝撃があるわけではない。終わってみるとやけにあっさりとストレートに終わったなぁ、という印象の作品もある。特に「ジェイソン」などはただ男の酔っぱらい癖をもっともらしく、何か大きな秘密があるように描いているだけだ。結局は特別驚くようなことはなく、サラリと終わってしまった。「月下の楽園」も奇妙な不気味さというのはあるが、ラストのオチがちょっとあまりに急ぎすぎのような気もした。そう感じたのは、恐らくその他の、女性が主役の作品と比べると、心理的な描写にいまいち共感できなかったというのがあるのかもしれない。
女性の真の恐ろしさは、何を考えているかわからない未知の部分が見えてきたときだ。それはある意味、魅力とも取れるかもしれないが、単純な男とくらべ、あらゆる意味で深く、そして嫉妬を交じった考え方というのはなかなか理解するのが難しい。そんな、複雑な女性心理を作者はあっさりと、随分簡単に描写しているような気がした。それでいて、的を射ているような気がするし、鳥肌がたつような恐ろしさもある。特に最後の「錆びる心」は長年積み重ねてきた怒りの理由、そして、その結果起こした行動が、自分のためではなく復讐というただその一点だけのためということに、恐ろしさを感じてしまった。
女性の恐ろしさが垣間見える作品だ。 -
桐野夏生は好きな作家のtop3に入るけど、人間のおどろおどろしい感情を描くのが得意な彼女だからさっぱりとしたら短編小説は合わないのかもしれない。