錆びる心 (文春文庫 き 19-3)

著者 :
  • 文藝春秋
3.22
  • (33)
  • (110)
  • (310)
  • (50)
  • (7)
本棚登録 : 1349
感想 : 149
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167602031

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 桐野夏生さんの短編はどれも面白かった。その中でも(ジェイソン)と(錆びる心)が、特に良い。ジェイソンの主人公がとうとう酩酊後の我が姿を知る事になる。酒が無くても常軌を逸した行動を批判され、自分だけが知らされていない呼び名が普通に通じている事がある。「スピーカーさん」なんて言われている事も知らず交友関係が広く情報通を自慢気に話されるとつい傷付けずに助言する方法はないものかと思ったことがある。そう言う自分にも、
    気付けない事実があるのでは?怖いなと思った。

  •  6つのお話、ミステリーというのだろうけど、怪しげな世界観があり、ファンタジー(大人向け?)という感じもする。
    表題となっている『錆びる心』。自分が去ることで、相手に「自分を植え付けたかった」というところ。共感しすぎて、息が詰まりそうだった。

  • 桐野作品に出てくる登場人物は、安易な感情移入を許さない癖の強さを感じます。6つの短編も語り手の常識や行動の方向は私と異なっていて、予測できない分、おもしろかったです。

  • 現実にありそうな世にも奇妙な物語。
    初めての桐野夏生の本だったが、するすると読ませる巧みな文章を書く作家だと思った。
    感情の描写も巧く、震えるほど共感した部分が所々あった。
    様々な人生を垣間見れておもしろかった。
    桐野夏生の長編にも挑戦してみたい。

    虫卵の配列 ★4
    羊歯の庭 ★4.5
    ジェイソン ★3.5
    月下の楽園 ★3.5
    ネオン ★3
    錆びる心 ★3.5

  • 桐野夏生さんの短編小説集。
    はじめ把握していないまま読み始めたのだが、収録作は作者デビュー翌年の1994年から1997年で、大ブレイクする『OUT』(1998年)より前の、初期の作品群だ。
    これらは多彩で、どれも面白く読める豊かな短編小説である。なるほど、松本清張の作品のように、それぞれに心理的な劇の物語時間が推進されていて、それが確かな人間観察に基づいているからこそ、リアルな感触を持ち、読者の心を引きずり込んでいくのだろう。
    ただし、結末は
    「あれ? これで終わり?」
    と驚かせるような、少々肩すかしを食わせるようなものが多く、一般的な多くの読者をいくらか失望させるのではないだろうか。
    古典的な「完結感」を演出せずに、突然パタッと止まるかのような終結をしばしば導き出す現代音楽を私はよく聴いているので、「終わり方」に関しては何でもありと考えているから、「それもOKかな」ととらえる。しかしたいていの読者はやはり落胆するのではないか、という終わり方が幾つかあった。大衆向けのエンターテイメント小説としては、それはうまくないと思われる。
    本書はあくまで作家初期の作品集なので、後年の短編は円熟によって形式的にも「よくまとまった」作品になっていくのかもしれない。
    だがこれをマイナス要素としても、作者の人間理解の鋭さが端々に現れるこれらの小説の魅力は代えがたいものがある。
    特に巻末の表題作は、結婚生活にウンザリした主婦の心理を鋭くとらえ、家出からさすらい歩く新たな生の歩みが、場面転換に応じてラプソディックに綴られてゆくが、全く違う場所に到達したかのような最後のところで上手く冒頭の場面の状況と結びついていて、印象深い作品となっている。
    本書全体にわたる、多彩な心理世界を描出するこの手腕が、後年さらに円熟してどのような短編集を生んでゆくのか、興味をそそられた。

  • 『虫卵の配列』『羊歯の庭』『ジェイソン』『月下の楽園』『ネオン』『錆びる心』の全6篇の短篇集。傑作というほどではないが、どれもそれなりに面白く、最後まで飽きさせない。
    『虫卵の配列』は、道端で一年ぶりにあった知人と話をするが、それがすべて知人の妄想であることがわかる話。
    『羊歯の庭』は、地方の書店の店主が人妻と不倫し、妻と別れることを迫られる話。
    『ジェイソン』は、主人公がとんでもない酒乱であり、学生時代には陰でジェイソンと呼ばれていたことに気づく話。
    『月下の楽園』は、荒れ果てた庭に心惹かれる男が不法侵入を繰り返した挙句、庭の持ち主に驚かされる話。
    『ネオン』は、仁義なき戦いのファンが、新宿歌舞伎町のヤクザの舎弟になってから逃げ出すまでの話。
    『錆びる心』は、不倫がみつかって10年間夫の家政婦として耐える羽目になった妻が、隠れて貯金を貯めた後、変な家庭の家政婦として働く話。

  • 2015.9/30〜10/1。桐野さんらしさが溢れた短編集。派手ではないが、背後から少しずつ追い詰められていくような恐怖感がある。人間の奥深くに潜む感情を書き上げるのが本当に上手。「虫卵の配列」「錆びる心」がとてもよかった。

  • 短編集。作品に共通するのが作品の中での輪廻というか因果応報のような流れがあって思わずなるほどと感心してしまうオチがある。それが作品一つ一つに魅力を作り出していると思う。

  • 虫卵の配列
    まさかの妄想。痛いです。

    ジェイソン
    世にも奇妙な…みたい。

    錆びる心
    妻の復讐。家政婦のような他者の家庭に入る人は、強さが必要だと思う。

  • 静かにコワい狂気・・・表題作の「錆びる心」がよかった。

著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

桐野夏生の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×