地を這う虫 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (1999年5月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784167616014

みんなの感想まとめ

硬質で緻密な文章が特徴の短編集で、元警察官たちの心情と人生の葛藤が描かれています。各短篇は異なる主人公を通じて、悔恨や郷愁、そして職を辞した後の矜持を淡々と表現しており、読者はその哀愁に引き込まれます...

感想・レビュー・書評

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  • 初めて読む髙村薫さん。
    あるエッセイを読んでて触発され「マークスの山」を買いに行ったら置いてなくて、こちらを購入。想像に違わぬ硬質な文章と細やかな心理描写で読み応え十分な短編4篇。
    どうやらラジオ番組で朗読されたようで上川隆也さんの声はピッタリだなぁと思いつつ、実直で不器用な主人公たちの、サラ金の取り立て屋、代議士のお抱え運転手と転職したあとも"元警察官"という誇りを忘れず地道に生きていくさまが描かれている。その姿に哀愁を感じたのでした。
    4篇それぞれ味わいが違ってて特に『巡り逢う人びと』が好きだったなぁ。

  • 克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る男性の姿を描いた表題作他、それぞれ別の元警察官の男性を主人公とした短篇を全4編収録した短編集。

    派手な事件や立ち回りはないですが、刑事という職を辞して別の道を歩むことになった4人の男性の、悔恨や郷愁、それでも捨てられない元刑事という矜持などを淡々と、かつ深い余韻を残して描いています。
    どの話も、硬質で精緻。読後感は寂しさが強いです。

    普段は探偵もののミステリを好んで読んでいますが、こういった硬派で地に足がついた物語も素敵ですね。

  • 日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの、敗れざる物語です――裏表紙――

    ☆愁訴の花

    田岡は定年後小さい警備会社で働いていた。上司だった須坂の命が危ないので見舞いに行くように連絡が来る。
    そこに妻殺しで服役していた小谷が電話をしてきた。出所していたのか。

    彼はなにかと噂のある女性と結婚して、警官の身にそぐわない家を買った。招かれて行ったことがあるが内装や家具は質素だった。六千万の家は半分が頭金だったらしい。これを奥さんが工面したという。どうやって。

    夫婦はどうもうまくいってない様子だったが、妻が殺され小谷が捕まった。捜査中に行方不明になりその後自首したのだ。
    調べが進むと奥さんは覚醒剤の販売をしていたらしい。殺された部屋にはリンドウが一枝活けられていた。田岡はその花が頭の隅に残った。

    もう助からないだろう上司から呼ばれて一通の封書を預かった。その記録で上司の恩情とリンドウの花がつながった。
    退職してやっと落ち着いた生活だったが、忘れがたい事件が蘇る。

    リンドウにまつわる真相は心の底に葬られた。一人の警官と、死ぬまで胸に秘めた上司の心情が哀しい物語。

    ☆巡り逢う人びと

    刑事だったが、今は金融会社で債権の回収をしている。借りたものは返すのが当然、彼は仕事と割り切っている。
    課長からまだかまだかと嫌味を言われるがうまくかわしている。

    行き詰った町工場に再三行き、居座ることもあるが、社長は行方不明だという。
    若い工員が親し気に近づいてきて刑事時代にどんぶりを奢ってくれたねという、そんなこともあった。あの頃と同じカバンだね。

    もう工場は追い詰められている。昔ぐれて陰のあった工員は明るい顔になり社長の穏やかさがうかがえた。
    ふと仕事を変えようかと思う。

    駅で高校時代の知り合いを見つけた。彼は顔色も悪く俯いたまま座っていた。声をかけると穏やかに親し気に笑いながら近づいてきた。
    また彼にあった。電車で一日中往復しているようだ。

    工員が頭を打って重傷だという。
    不動産業者が例の債権回収は話が付いた、社長が帰ってきて白紙委任状に判を押したもう行かなくてもいいという。そんなに簡単になぜだろう。

    現役時代、彼は恐喝事件で父親を逮捕した、残された家族が一家心中をした、仕事への精神的な苦痛を覚え、自ら退職したのだったが、民間に移っても、結局自分が似たような世界にいることに、密かに愕然とした。

    債務者を締めあげている顔は刑事時代と一つだった。だが扱われかたが変わった。組事務所に行ってもお茶も出なくなった。

    病院で出あった社長はあの電車の男だった。整理した残金は工員の補償金だと笑った。
    自分の胸のうちで最後の自己弁護の糸が一本、切れる音を聞いた。矛盾と痛恨と怒りと、かすかな希望が折り重なった複雑怪奇な響きだった

    人のいい社長に工員ともみ合ったことは言うなと固く口留めしたが、彼はただ笑った。

    ☆父が来た道

    警視庁捜査二課にいた息子は父のつてで永田町の元高官の運転手をしている。今、収賄事件が大きなニュースになっている。しかし見ざる聞かざるの運転手兼ボディーガードの仕事ぶりは重宝されている。

    父親は地方で政治にかかわっていた。買収などの嫌疑で実刑判決を受けたのは父親ひとりだった。
    父の後を継がず警視庁に入ったが、父親の有罪が決まって依願退職をし、今の仕事についている。
    自分は父親とは違う。
    行きつけの店の気のいい女と生きて行こうか。

    政治家の世界を書いて高村さんの筆は生き生きとして細やかだ。

    ☆地を這う虫
    足元のコンクリートをゲジゲジが這っていた。
    ゆっくりと蠕動運動をくりかえす虫の進路は、何を探しているのか、行きつ戻りつ遅々として定まらない。だが、自然の摂理で生きている虫に、自分の行先が分からないということはない以上こいつは本能に従って、こうして右へ左へと這いまわっているに違いなかった。虫なりの秩序もあるはずだ。

    省三は習慣になっている動作で手帳を出し「ゲジゲジを見た」と書きつけた。

    定年後ふたつの職場を掛け持ちして、碁盤の目のように整然と区画整理された住宅地を往復している。三分で自宅に着くところを時間をかけて毎日違う道を歩いている。300メートルを一辺とする正方形の中をジグザグに歩く。
    もう家の並びも形も住む人の習慣まで頭に入っている。

    そこで空き巣が頻発した。省三は住民から見れば変な人で警察の聴取を受けて気分を悪くした。
    しかしいつも閉まっている小窓が開いている家があった。そこに空き巣が入ったという。次の空き巣も窓を開けたままだった。

    もう抑えられない。夜を待って省三は窓が開いていた二階の部屋に忍び込んだ。そこで散弾銃で狙っている空き巣と遭遇。危機一髪のところで目的に思い当たる。

    恐るべしこだわりの習慣と記憶術。
    面白かった。

    というよくできた短編だが、高村さんのほかの大長編作品を読んでいたら、このくらいの話は安心だと思った。
    中でも「巡り逢う人びと」は余韻が残る、市井の人々の日々がもの悲しくも優し

  • 読書録「地を這う虫」3

    著者 高村薫
    出版 文藝春秋

    p208より引用
    “ そんなふうに考えてみると、現役のころ
    に今のようにありのままの自分を認めること
    が出来ていたならと、省三は少し口惜しかっ
    た。焦燥や不満や鬱屈しかなかった当時、今
    のような形で自分の生来の資質を評価してや
    ることが出来たら、もう少し違った人生になっ
    ていたのではないかと思ったりもした。”

    目次より抜粋引用
    “愁訴の花
     巡り逢う人びと
     父が来た道
     地を這う虫”

     元刑事達を主人公とした、短編小説集。
    同社刊行作全面改稿再構成文庫版。
     長年勤めた刑事を退職し、第二の人生を警
    備会社で過ごす主人公・田岡。捗らない仕事
    をしている時、元職場から会社に電話が入り…。
    (「愁訴の花」より)

     上記の引用は、表題作「地を這う虫」の主
    人公の胸の内。
    刑事を退職してからも、同じように本能に従
    うように生きていた事に対しての思い。世の
    中のだれが何を言っていても、自分は自分を
    認めることで、何とかやっていけるのかもし
    れません。
     全体的に陰気臭さが漂う作品集なので、明
    るく楽しくなりたい人には向かないでしょう。
    人生の盛りを過ぎた主人公達なので、ある程
    度年齢を重ねた人の方が、共感をもって読め
    るのではないでしょうか。

    ーーーーー

  • 高校生くらいの頃初めて読んだ一冊を、30代になった今再読。当時は「高村薫さんはやっぱり長篇で読みたいな」以上の感想は持たなかったものでしたが、今読むと味わいが全く違う。
    まずなんと言っても、高村薫さんの文章が好きです。特に一遍目、愁訴の花の書き出しは、一片の狂いもない正確な日本語と、淡々と緻密な情景描写から、匂い立つように人物を浮かび上がらせて行くいつもの手法が、とにかく見事すぎて思わず本を開いては閉じ、開いては閉じしてしまいたくなるほど。感銘を受け過ぎて読み進められないんですね。現代的に言うと、高村薫さんの文体オタクなんだな自分はと改めて実感させられました。
    四篇を収録した短篇集ですが、どの物語も登場人物の魅力が強すぎて、これを長篇で読みたい!と思ってしまう。そういう意味では高校生の自分にも共感。特に愁訴の花は、登場人物一人一人の魅力、伏線の巧妙さ、スピード感のある物語と各シーンの描写と、どれを取ってもこれで一冊読ませてくれ!という見事さで、しかしそれがスパッと立ち消えて物語が終わるので、その名残惜しい感覚を一冊分引きずるのがこの単行本なんですよね。
    二、三篇目は短篇でも無理のない複雑度と速度だし、表題作の地を這う虫については、この長さでないと描けない、独特の味わいが素晴らしいんですが、一冊読み終わってもなお「愁訴の花の続きが読みたい・・・」と思い出してしまったりするのです。魅力的すぎる物語も、罪なものだ。

  • 久しぶりに短編集を読みました。
    "高村薫"作の短編4作品を収録した『地を這う虫』です。

    収録されているのは、
     ■愁訴の春
     ■廻り逢う人びと
     ■父が来た道
     ■地を這う虫
    の4作品です。

    4作品に共通するのは元警官が登場すること。

    「愁訴の春」を除く3作品は、何らかの理由で警察を辞めたにも関わらず、ついつい事件に首を突っ込んでしまう… そんな展開なのですが、それぞれ個性的な主人公が出てくるので、ワンパターンな感じはしませんでしたね。

    4作品とも楽しく読めましたが、サラ金の取立屋の男が主人公の「廻り逢う人びと」が、印象に残りました。

    長編を読むのは楽しいのですが、読んでる間、ずーっと気持ちが抜けない感じがするので、1日1作品ずつ短編を読むのもイイですね。

  • 矜持なのか意地なのか。その姿は素直にカッコいいと思う。胸に沁みる重い一冊でした。
    あらすじ(背表紙より)
    「人生の大きさは悔しさの大きさで計るんだ」。拍手は遠い。喝采とも無縁だ。めざすは密やかな達成感。克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る守衛の奮戦をたどる表題作ほか、代議士のお抱え運転手、サラ金の取り立て屋など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの、敗れざる物語です。深い余韻をご堪能ください。

  • どうもこの作者とは合わない。相性が悪いことがはっきりした。 文章は格調高く好きなのだが内容がつまらない。つまらない意味のない内容を格調高く書いてるとしか思えなかった。

  • 短編

  • 高村薫の短編は初めて読んだけど面白いな。最初の二作は読後感悪いけれど、刑事を退職したものの刑事の癖が染み付いた男たちの生き様が端的に描かれてて良い。個人的には政界の主役にはならないけれど足を踏み入れてしまった『父の来た道』が秀逸で良い

  • 4つの短編小説をおさめた一冊。

    あまり小説を読まないせいもあるが、今まで読んだことがない種類の小説だった。結構好きかもしれない。ハードボイルドと言っていいのだろうか。硬質な手触りなのは間違いない。

    権力、しがらみ、法、執着、情と非情の狭間で揺れ動く元刑事たちが主人公。過去を引きずっているのか。それとも過去に引きずられているのか。娑婆で生きることのやりきれなさを描いている。表題作だけは苦さを残さず、元刑事という経歴と決別できそうな幕引きだった。

  • 短編なのに、こんなに重厚感のある物語を紡げてすごい。

    他の著書も読みたいが、上下巻だったり、超大作で尻込みしている。

  • 短編集。どれも高村薫らしい作品で、読み応えがあっていい。最初の「愁訴の花」と次の「巡り合う人びと」は重厚な警察ものという感じ。元警官が政治家の運転手を務める「父が来た道」がやや毛色が違うか。最後の表題作「地を這う虫」は、元警官の男が何気ない普段の通勤途中の変化を読み取って事件を解決しようとする異色作。

  • この作家の本は本当にはずれがない。

  • 刑事の話が多かった

  • 2010.2.28

  • 表題作を含む 4編

    NHKの朗読を聞いて 興味を持ち読む

    短編にしては読みごたえのある内容

  • 読みやすい、面白い、ほろ苦い

  • 朗読の番組で聞いているので、読みたくなった。「元刑事」の物語が4編で、この作家にしては短い作品だと思う。しかし、作家ってすごいな。世間の奥の闇や裏世界を描くと、高村氏も凄みがあって怖いほどだ。1993年刊だからもちろんアナログ時代だ。自分で作った地図を折って手帖に張り付けるとか、公衆電話とか、小道具ひとつひとつが物語に味わいを添えます。

  • マークスの山がすっごく面白かったので期待して読んだが、うーん、自分には”そこそこ”だったかも…
    中身としては短編集で、いずれも警察を辞めた男の話。
    色々な苦悩や背景がある中で事件が起こって…という形だが、短編集、元警察であくまでも一般人ということもあり、話に派手さはなく、物足りなさを感じた。
    寡黙な男が好きな人は好きな話かも。

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著者プロフィール

(たかむら・かおる)作家。『銃を置け、戦争を終わらせよう』(毎日新聞出版)、最近著『墳墓記』(新潮社)、『我らが少女A』(毎日文庫)など。

「2025年 『核と原子力の非人間性』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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