地を這う虫 (文春文庫 た 39-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167616014

作品紹介・あらすじ

「人生の大きさは悔しさの大きさで計るんだ」。拍手は遠い。喝采とも無縁だ。めざすは密やかな達成感。克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る守衛の奮戦をたどる表題作ほか、代議士のお抱え運転手、サラ金の取り立て屋など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの、敗れざる物語です。深い余韻をご堪能ください。

感想・レビュー・書評

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  • 克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る男性の姿を描いた表題作他、それぞれ別の元警察官の男性を主人公とした短篇を全4編収録した短編集。

    派手な事件や立ち回りはないですが、刑事という職を辞して別の道を歩むことになった4人の男性の、悔恨や郷愁、それでも捨てられない元刑事という矜持などを淡々と、かつ深い余韻を残して描いています。
    どの話も、硬質で精緻。読後感は寂しさが強いです。

    普段は探偵もののミステリを好んで読んでいますが、こういった硬派で地に足がついた物語も素敵ですね。

  • 初めて読む髙村薫さん。
    あるエッセイを読んでて触発され「マークスの山」を買いに行ったら置いてなくて、こちらを購入。想像に違わぬ硬質な文章と細やかな心理描写で読み応え十分な短編4篇。
    どうやらラジオ番組で朗読されたようで上川隆也さんの声はピッタリだなぁと思いつつ、実直で不器用な主人公たちの、サラ金の取り立て屋、代議士のお抱え運転手と転職したあとも"元警察官"という誇りを忘れず地道に生きていくさまが描かれている。その姿に哀愁を感じたのでした。
    4篇それぞれ味わいが違ってて特に『巡り逢う人びと』が好きだったなぁ。

  • 高校生くらいの頃初めて読んだ一冊を、30代になった今再読。当時は「高村薫さんはやっぱり長篇で読みたいな」以上の感想は持たなかったものでしたが、今読むと味わいが全く違う。
    まずなんと言っても、高村薫さんの文章が好きです。特に一遍目、愁訴の花の書き出しは、一片の狂いもない正確な日本語と、淡々と緻密な情景描写から、匂い立つように人物を浮かび上がらせて行くいつもの手法が、とにかく見事すぎて思わず本を開いては閉じ、開いては閉じしてしまいたくなるほど。感銘を受け過ぎて読み進められないんですね。現代的に言うと、高村薫さんの文体オタクなんだな自分はと改めて実感させられました。
    四篇を収録した短篇集ですが、どの物語も登場人物の魅力が強すぎて、これを長篇で読みたい!と思ってしまう。そういう意味では高校生の自分にも共感。特に愁訴の花は、登場人物一人一人の魅力、伏線の巧妙さ、スピード感のある物語と各シーンの描写と、どれを取ってもこれで一冊読ませてくれ!という見事さで、しかしそれがスパッと立ち消えて物語が終わるので、その名残惜しい感覚を一冊分引きずるのがこの単行本なんですよね。
    二、三篇目は短篇でも無理のない複雑度と速度だし、表題作の地を這う虫については、この長さでないと描けない、独特の味わいが素晴らしいんですが、一冊読み終わってもなお「愁訴の花の続きが読みたい・・・」と思い出してしまったりするのです。魅力的すぎる物語も、罪なものだ。

  • 久しぶりに短編集を読みました。
    "高村薫"作の短編4作品を収録した『地を這う虫』です。

    収録されているのは、
     ■愁訴の春
     ■廻り逢う人びと
     ■父が来た道
     ■地を這う虫
    の4作品です。

    4作品に共通するのは元警官が登場すること。

    「愁訴の春」を除く3作品は、何らかの理由で警察を辞めたにも関わらず、ついつい事件に首を突っ込んでしまう… そんな展開なのですが、それぞれ個性的な主人公が出てくるので、ワンパターンな感じはしませんでしたね。

    4作品とも楽しく読めましたが、サラ金の取立屋の男が主人公の「廻り逢う人びと」が、印象に残りました。

    長編を読むのは楽しいのですが、読んでる間、ずーっと気持ちが抜けない感じがするので、1日1作品ずつ短編を読むのもイイですね。

  • 矜持なのか意地なのか。その姿は素直にカッコいいと思う。胸に沁みる重い一冊でした。
    あらすじ(背表紙より)
    「人生の大きさは悔しさの大きさで計るんだ」。拍手は遠い。喝采とも無縁だ。めざすは密やかな達成感。克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る守衛の奮戦をたどる表題作ほか、代議士のお抱え運転手、サラ金の取り立て屋など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの、敗れざる物語です。深い余韻をご堪能ください。

  • 刑事の話が多かった

  • 2010.2.28

  • 表題作を含む 4編

    NHKの朗読を聞いて 興味を持ち読む

    短編にしては読みごたえのある内容

  • 読みやすい、面白い、ほろ苦い

  • 朗読の番組で聞いているので、読みたくなった。「元刑事」の物語が4編で、この作家にしては短い作品だと思う。しかし、作家ってすごいな。世間の奥の闇や裏世界を描くと、高村氏も凄みがあって怖いほどだ。1993年刊だからもちろんアナログ時代だ。自分で作った地図を折って手帖に張り付けるとか、公衆電話とか、小道具ひとつひとつが物語に味わいを添えます。

  • マークスの山がすっごく面白かったので期待して読んだが、うーん、自分には”そこそこ”だったかも…
    中身としては短編集で、いずれも警察を辞めた男の話。
    色々な苦悩や背景がある中で事件が起こって…という形だが、短編集、元警察であくまでも一般人ということもあり、話に派手さはなく、物足りなさを感じた。
    寡黙な男が好きな人は好きな話かも。

  • 2021.12.5 読了

    克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る守衛の奮戦をたどる表題作ほか、代議士のお抱え運転手、サラ金の取り立て屋など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの、敗れざる物語

    物語に派手さはなく淡々と綴られてるのでなかなか読むの大変でしたが読後にじんわりと染み入るものがありました

  • 昼は倉庫会社に、夜は薬品会社の夜警として勤務する沢田省三は非常にきちんと仕事をしていた。その彼が習性で事件を嗅ぎつけて捜査を始めた…。失意の内にあっても仄かな光を放つ男た..

    酷い。酷すぎる!もっと続きが読みたいと思ったところで綺麗に終わってしまう。シリーズ化して続きを書いてください、と作者に懇願したい短編集。5編収録。どれも退職した警官が事件に巻き込まれるのだが、5編全て本当に面白い。『愁訴の花』はジャンル的にミステリーサスペンスになるのかな?今まで読んだミステリーの中で断トツの面白さ。キャラクターの味付けがどれも薄いので、超濃いキャラが好きな人には物足りないかもしれません。表題の『地を這う虫』と『父が来た道』が最高に好き!

  • 陽の当たらない場所で生きる者たち。夜警、サラ金取立て、サンドイッチマン…。悔しさを胸に、諦めたり言い訳したり。でもとにかく生きていく。苦い、あまりに苦い。人生の岐路で逃げた、怖気付いた、運がなかった者たちが、二度と立ち上がろうとせず、内側を向いたまま境遇に甘んじていく。こんなの矜持と呼んでいいのか。坂道を転げていく。ああ、辛い。良い話ではないが心に沁みる。楽しくはないが面白い。自分は安全な場所にいて他人の不幸を気の毒に思うような他人事の居心地の悪さを感じながら読み終える。何と表現すれば良いのだろう

  • 地味だけど面白かった。
    余計な、解説がないから読後の余韻を楽しむ事が出来た。
    矜持・大切にしたい。

    世間で通用しないけど、
    ”見栄・意地・やせ我慢”
    私は、(自分の中の狭い世界だけでも)どうしても守りたい。

  • 2020.3.28再読。

  • それぞれの事情を抱えて警察を辞した元刑事たちの4つの物語は、髙村さんの無駄を廃した文章が相変わらず心地いい。

    警備会社の事務、サラ金の取り立て屋、代議士のお抱え運転手、昼は倉庫会社、夜は守衛・・・地味で地を這うような日々をやり過ごす彼らの中には、未だに警察時代の名残がある。
    良きにつけ悪しきにつけ、そんな名残を引きずりながら、人生の矜持を失わずに生きていく男たちの物語は、人生を振り返る年齢になった今だからこそ、しみじみとした余韻を残すのかもしれないな~。

    「巡り逢う人びと」では、借金のかたに主人公に工場を潰された同級生が、それでも、「笑う門には福来ると言うだろう?俺は藁にもすがりたいほど福が欲しいだけだ」といって笑いかけるシーンに泣けました。
    「地を這う虫」の主人公は憎めない。刑事の習性?でも、実際にこんな人がいたら完全に不審者です(笑)

  • 36292

  • それぞれ、警察官を辞めた主人公の第二の人生の中で、警察官である誇りや、その習性を忘れられないという短編を集めたもの。それぞれの結末が、余韻を残すというか、読み手に考えさせる余地を残すというか、独特の感じになっている。"

  • 警察系ヒューマンドラマ。結構好き。

  • どうして高村薫さんはおじさんの描き方がこんなにうまいのか…。

  •  そのむかし「黄金を抱いて翔べ」なんか読んで、どうにもキャラクターの心情がつかめずほとほと参った経験があって、カオルちゃんの本はずっと避け続けてきた(>_<)
     でも、今回ひさびさに恐る恐る手に取ってみたら、ぜんぜん違和感なく読めた( ´ ▽ ` )ノ
     たしかにところどころくだくだしくてやたら読みづらい文章もあるけど、慣れればどってことない( ´ ▽ ` )ノ

     本書は「元デカたちの再就職事情」という、かなり変わった趣向の短編集( ´ ▽ ` )ノ
    「武士の商法」というか「三つ子の魂」というか、ちょっと視点を変えたらギャグ・落語にもなりかねない話ばかり( ´ ▽ ` )ノ
     というか、最後のやつなんかあきらかにウケを狙ってるよね( ´ ▽ ` )ノ
     警察という組織がこういう「異常人」を作っていくのか、変わった症候の人間が寄り集まってくるのが警察という組織なのか?( ´ ▽ ` )ノ
    「新宿鮫」同様、ナチュラル・ボーン・ポリスものの支流だね( ´ ▽ ` )ノ
     ただし、鮫島と違って、本書の主人公たちは自らの信条に従って「警官」であるのではなく、強迫観念的な「何か」に取り憑かれて「警官的」なものにさせられているような感じ( ´ ▽ ` )ノ
     そこらへん、面白かった( ´ ▽ ` )ノ

     にしても、本書に出てくる女性たち、誰も彼もテンプレで薄っぺらだね(>_<)
     まるで昔の大御所作家の書き散らした「女ども」みたい(>_<)
     どこか軽く見てるというか、小バカにしてるような感じで、「ほんとにこれ、女性が書いたの?」と首を傾げざるを得ない(>_<)
     一編くらい、女性の元デカが主人公のエピソードがあってもよかった(>_<)

     まあ、でも、男どもの心情は的確に捉えられてて、全編しっかり堪能できた一書でした( ´ ▽ ` )ノ

    2017/12/19

  • やっちゃいました。二度買い、二度読みです。しかも二度目だと言うことに気付かないまま読了(かすかに違和感は有ったのですけどね)。恐らく6-7年ぶりだとは思うのですが。
    高村薫さんは「黄金を抱いて飛べ」で驚かされて以来、続けざまに数冊読みました。重厚で緻密、ひたすら重くしかも長い作品を書く人、そういうイメージが有ります。しかしこのような短編になると、その良さが出てきませんね。決して悪い作品では無いのですが、高村さんでなくても良い、そんな感じがします。警察組織の腐敗を描く作品が多いのですが、それも既に見慣れたテーマですしね。
    そういえば高村さんは最近方向が変わったようですね。そちらのほうを読んでみようかな。

  • 2016/11/24

    ◎愁訴の花

  • それぞれの理由で警察を辞めた男たちの、それぞれの物語四編。
    それぞれ小さな事件をきっかけに、過去に縛られた自分を見て、ひとつ何かを乗り越えていく話。

    『愁訴の花』の須永が泣かせます。こういうひとが地を這う虫だと思う。

  • 福井晴敏を読んだ後には、何故か(?)高村薫も読みたくなる・・・。
    なんとなく文体が似ていると感じるのは、自分だけだろうか?

    さて、本書……。
    特筆するほどのことは無いが、十分楽しめたかな。ただ、短編だからか、文体の高村薫らしさは、やや薄めだった。

    ★3つ、7ポイント。
    2014.07.??

  • 「地を這う虫」髙村薫◆訳あって刑事を辞め、それぞれの思いを胸に生きる4人の短編集。刑事の道を外れた哀愁が漂う。表題作がミステリとして面白いのですが、何より主人公があまりに凝り性なのが可笑しくて、髙村キャラらしからぬ可愛らしさ(?)。ただ、髙村さんの重厚感は長編の方が堪能できそう。

  • 警備保証会社の事務員、金融会社の取り立て屋、代議士のお抱え運転手。そして民間企業の守衛。
    一度は警察官となりながら、しかし生涯警察官として生きてゆくことなどできず、しかし司直の舞台から去ったとてほかの何者かの生き方もなかなかにできるものではない。
    犯罪現場から遠く離れて、世間の生々しさ、複雑さに翻弄されながらも、やがてそこに居どころを得ていく4人の元警察官たちの"その後"の物語。

    表題作の主人公のこだわりに激しく同意する。曰く「この世界で、無秩序こそは浪費と混乱と過ちと悪の始まりなのだ」!! 沢田さん、ぜひ一緒に在庫管理しましょう!

  • 独特の固執感にはまる。

  • 目次

    「愁訴の花」
    「巡り逢う人びと」
    「父が来た道」
    「地を這う虫」

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

髙村薫の作品

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