センセイの鞄 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2004年9月2日発売)
3.84
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  • 本 ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167631031

感想・レビュー・書評

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  • なんとも言えないセンセイとの距離感。

    時にもどかしくも感じるが、終始美しい。
    そして最後は切なくなった。

    大きな変化はないのに2人が気になって読み進めてしまう作品。

  • 長らくブクログを休んでいたこともあり、
    今一度、自分の原点を探ろう企画の第1弾(笑)


    僕が川上弘美を知り、ハマっていくきっかけとなった
    今だに何度となく読み返してしまう小説です。
    (けれど、川上作品のマイベストはまた違う作品です笑)


    初読みは15年ほど前だったかな。
    しかし、読み返しても読み返しても
    終わってしまうのが惜しくて、
    一字一句を味わうようにお酒とアテを食べながら
    少しずつ少しずつ読んでいました(笑) 


    強烈にあとを引く余韻と、
    それでいて
    不思議とあたたかな読後感。

    亀のように遅々として進む、
    こういう恋もあるのだと改めて勉強になったし、
    大人だからこそできる
    新しい恋の魅力に
    当時まだ若かった僕は気づかされました。
    (川上作品を何度も読み返したくなるのは、馴染みの店にまた呑みに行きたくなるのと同じ感覚の気がします)



    37歳独身のOL、
    大町月子。

    月子とは30と少し歳が離れた、
    高校で国語を教わった
    松本春綱先生。


    ふたりは駅前の一杯飲み屋で
    隣りあわせて以来
    20年ぶりに言葉を交わし
    飲み友達となり、

    やがて月子は
    先生をセンセイと呼び慕い、
    センセイへの
    ほのかな想いに気付き始めます。



    まぁ簡単に言えば、
    70に近い老人と
    30代後半の大人の女性の恋物語です。


    文章で書いてしまえば、
    なんだか陳腐な設定だなぁ〜って
    思う人もいるかもだけど(笑)


    決していやらしい話ではなく
    中学生の淡い初恋を読んでるかのような
    微笑ましさと、

    毎回酒を交わしながら
    二人がどう惹かれ合っていくかが
    本当に絶妙な塩梅で
    丁寧に丁寧に描かれていて
    妙に心地良い小説なのです。


    月子は、いつからか
    恋人とぬきさしならぬ関係になることを、
    いつも怖れていました。 

    林檎を剥きながら
    終わった恋に思いを馳せ、
    ふいに涙を流すシーンは
    なんとも切なく胸を焦がしたし、

    夜のバス停で
    帰り道が分からなくて途方に暮れている月子と、
    センセイがばったり出くわすシーンは 
    センセイが無性にカッコ良く見えてならなかった(笑) 


    川上さんの独壇場と呼べる、
    文章の端々から漂う
    濃密な夜の匂い。

    いつも酔っ払った
    月子とセンセイを見守る
    月の存在。

    月を見上げることや
    夜風が酔った頬を刺す感覚が好きな僕は
    夜の匂いのする川上さんの文体、
    それだけで、強く惹かれてしまいます。


    それにしても
    なんて抑制のきいた、
    それでいて官能的な文体なのだろう。 

    夜の花見の後
    幼なじみの小島孝と月子の大人なキスには
    本当にドキドキさせてもらったし、 

    センセイとの初めての
    島への旅行の話は
    月子さんが可愛いくて
    本当に微笑ましかったなぁ~♪


    川上さんの小説は官能的だと書いたけれど、
    そこには粋という言葉が似合う
    『品』があるんですよね。

    和服の女性の素足や手首が
    何かの瞬間に時折ちらっと見えるみたいに。

    肌を直接見せなくとも、
    性行為を描写せずとも、
    そこはかと漂う色気や官能。


    だから読むたびに
    胸がときめくのだけれど、

    川上さんが紡ぐ文章は、
    しとやかで
    でしゃばり過ぎない、
    引き際を解った大人な女性って感じなのです。


    また粋な大人の物語だけに、
    たくさんのお酒と
    お酒に合う季節ごとのおつまみやアテが
    これでもかと出てきます(嬉)

    まぐろ納豆、 蓮根のきんぴら、湯豆腐、焼き茄子、たこわさ、おでんなどなど。

    読んでいる僕らも登場人物たちと
    一緒に呑み屋に居合わせたような、
    心地いい錯覚に浸れる点も
    僕がこの作品に惹かれる理由です(笑)


    酌を受けることを好まない
    センセイ。 

    次に会う約束も交わさず、
    通いつけの飲み屋で会える日を
    ひたすら待つ二人の距離感。 

    誰も縛らず、
    一人で立ち、一人で自足する
    二人の生き方。 


    こんな、プラトニックで、
    修行僧のような恋は(笑)
    誰でもができることではないけれど、
    できないからこそ、憧れるし、

    もしかすると、
    こういう恋をしているからこそ、
    二人でいる時は
    誰よりも相手を尊重し、
    いたわれるのかなってちょっと思ったりなんかして。



    食べ物が好きで、
    お酒が好きで、
    一人が好きで、

    でも心から分かり合える誰かが欲しくて、 

    おじさま好きで(笑)、 

    身体だけの関係には
    もう飽きたという人に

    オススメします。


    もしかすると、人生観変わるかもしれませんよ♪

    • yamatamiさん
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、...
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、古い本のようで偶然に古本屋で見つけたのですが、円軌道の外さんの手元にも現れますようで・・・!文房具ってほんとにわくわくします。付箋とか、どこに貼るんや!っていうくらい買ってしまいます(笑)

      お忙しい日々をお過ごしだったんですね。
      ボクシングを教える側・・・!きっと、する側とはまた違った大変さがあるのでしょうね。でもお元気そうでなによりです(^^)

      私のほうも仕事が目まぐるしく、ブクログをお休みしていました(>_<)

      自分の原点を探ろう!企画、よいですね(^^)
      「センセイの鞄」、懐かしいです。
      高校の現代文の問題集で読んでから、勉強をほったらかして、図書室で借りて読んだ思い出があります。笑
      円軌道の外さんのレビューを読んでまた読みたくなりました(^^♪
      以前のように小説、漫画、それにジャンルを問わずにたくさん読まれているようで、なんだか読書欲が湧いてきましたよ・・・!

      円軌道の外さんのレビュー、これからも楽しみにしています♪

      読書スイッチを押していただき、ありがとうございます(*^^*)

      これからもよろしくお願いしますね!
      2018/03/06
  • ⚫︎感想
    表面的にはツキコさんは淡々とした性格だが、だからこそ、センセイに対する静かで熱い思いが際立った。物語に通底するしっとり感が「蛇を踏む」の作風を思わせ、よかった。

    ⚫︎本概要より転載
    センセイ。わたしは呼びかけた。少し離れたところから、静かに呼びかけた。
    ツキコさん。センセイは答えた。わたしの名前だけを、ただ口にした。
    駅前の居酒屋で高校の恩師・松本春綱先生と、十数年ぶりに再会したツキコさん。以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは列車と船を乗り継ぎ、島へと出かけた。その島でセンセイに案内されたのは、小さな墓地だった――。
    40歳目前の女性と、30と少し年の離れたセンセイ。せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。切なく、悲しく、あたたかい恋模様を描き、谷崎潤一郎賞を受賞した名作。

  • 平凡なアラフォーOLの月子さんが、かつての高校のセンセイと時を経て再会し、ゆっくりと、そして深い愛を育む、心地良~い純愛物語。
    月子と70も超えるセンセイとの素敵な恋がいつまでも続きますように、と祈らずにはいられない。

  • なんでもっと早く読まなかったんだろう。
    何が起こる訳じゃないけど、ツキコさんとセンセイの世界に、恋愛に、もっともっと浸っていたかった。ラストは胸が締め付けられた。出会えて良かった一冊。

    もう一つの物語「パレード」をこの流れで読んでみる。

  • ピュアな一冊。

    なんてすがすがしい関係なんだろう。
    これほどピュアという言葉が似合う二人はいないと思う。

    年齢が離れたセンセイとツキコさんの四季折々の時間。思い出の積み重ねと距離感が瑞々しく、時にせつなく心を潤した。

    相手と出会い、時間を共有するたびに空っぽだった心に名もなき感情が次第に積もっていく。
    やがて満タンになる。
    それが一気に溢れ出した時に恋というものが始まるんだと思う。

    月子さんのその心の積もりと揺れと溢れる瞬間が美しく伝わってきた。

    鞄の中に詰め込まれた二人の思い出。
    静かに開けて静かに閉めたいほどの良作。

  • センセイへの想いがはっきりしてくるにつれて、一人でいるより不安な感じがしてきて、成就するのが怖くなってしまう。
    そうなることはわかっていたのに、泣きそうになった。

  • 妙齢の女性ツキコさんと30歳年の差のセンセイ、元教師と生徒の間柄という関係の恋愛小説。
    ツキコさん視点で淡々と月日が流れていくが、不思議な空気のまま延々と読み続けたくなる、見守りたくなる感情に襲われる。
    性を感じさせられることは殆どなく、いやらしい感覚にもならない。センセイが達観しているように思えるからだろうか。ツキコさん子供扱いだもんね。

    今まで一人で楽しくなど生きてきたのだろうか。
    大事な人を見つけられるとこんな気持ちに陥るのだろうな。少し怖く寂しくなるが、やっかむ思いにもならない。
    突然に結末を迎えるが、身勝手にも思えるでもないがこんな終末を迎えたセンセイの生き方に憧れる。


  • NHKの朗読番組で、神野三鈴さんの朗読を聴き、感動。この本は昔に読んで、すごく良かった憶えがあったが、ほとんど忘れていた…
    神野三鈴さんの朗読がすごく良かった〜こんなに笑えるお話だったっけ…
    …というわけで再読してみた。
    クスッと笑える所ありつつ、女性の細やかな、複雑で面倒な感情をていねいに文字にしてくれている。とても好きな本。

  • 純文学らしい純文学。2001年の谷崎潤一郎賞受賞作品。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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