センセイの鞄 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167631031

作品紹介・あらすじ

駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。谷崎潤一郎賞を受賞した名作。

感想・レビュー・書評

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  • なんとも言えないセンセイとの距離感。

    時にもどかしくも感じるが、終始美しい。
    そして最後は切なくなった。

    大きな変化はないのに2人が気になって読み進めてしまう作品。

  • 長らくブクログを休んでいたこともあり、
    今一度、自分の原点を探ろう企画の第1弾(笑)


    僕が川上弘美を知り、ハマっていくきっかけとなった
    今だに何度となく読み返してしまう小説です。
    (けれど、川上作品のマイベストはまた違う作品です笑)


    初読みは15年ほど前だったかな。
    しかし、読み返しても読み返しても
    終わってしまうのが惜しくて、
    一字一句を味わうようにお酒とアテを食べながら
    少しずつ少しずつ読んでいました(笑) 


    強烈にあとを引く余韻と、
    それでいて
    不思議とあたたかな読後感。

    亀のように遅々として進む、
    こういう恋もあるのだと改めて勉強になったし、
    大人だからこそできる
    新しい恋の魅力に
    当時まだ若かった僕は気づかされました。
    (川上作品を何度も読み返したくなるのは、馴染みの店にまた呑みに行きたくなるのと同じ感覚の気がします)



    37歳独身のOL、
    大町月子。

    月子とは30と少し歳が離れた、
    高校で国語を教わった
    松本春綱先生。


    ふたりは駅前の一杯飲み屋で
    隣りあわせて以来
    20年ぶりに言葉を交わし
    飲み友達となり、

    やがて月子は
    先生をセンセイと呼び慕い、
    センセイへの
    ほのかな想いに気付き始めます。



    まぁ簡単に言えば、
    70に近い老人と
    30代後半の大人の女性の恋物語です。


    文章で書いてしまえば、
    なんだか陳腐な設定だなぁ〜って
    思う人もいるかもだけど(笑)


    決していやらしい話ではなく
    中学生の淡い初恋を読んでるかのような
    微笑ましさと、

    毎回酒を交わしながら
    二人がどう惹かれ合っていくかが
    本当に絶妙な塩梅で
    丁寧に丁寧に描かれていて
    妙に心地良い小説なのです。


    月子は、いつからか
    恋人とぬきさしならぬ関係になることを、
    いつも怖れていました。 

    林檎を剥きながら
    終わった恋に思いを馳せ、
    ふいに涙を流すシーンは
    なんとも切なく胸を焦がしたし、

    夜のバス停で
    帰り道が分からなくて途方に暮れている月子と、
    センセイがばったり出くわすシーンは 
    センセイが無性にカッコ良く見えてならなかった(笑) 


    川上さんの独壇場と呼べる、
    文章の端々から漂う
    濃密な夜の匂い。

    いつも酔っ払った
    月子とセンセイを見守る
    月の存在。

    月を見上げることや
    夜風が酔った頬を刺す感覚が好きな僕は
    夜の匂いのする川上さんの文体、
    それだけで、強く惹かれてしまいます。


    それにしても
    なんて抑制のきいた、
    それでいて官能的な文体なのだろう。 

    夜の花見の後
    幼なじみの小島孝と月子の大人なキスには
    本当にドキドキさせてもらったし、 

    センセイとの初めての
    島への旅行の話は
    月子さんが可愛いくて
    本当に微笑ましかったなぁ~♪


    川上さんの小説は官能的だと書いたけれど、
    そこには粋という言葉が似合う
    『品』があるんですよね。

    和服の女性の素足や手首が
    何かの瞬間に時折ちらっと見えるみたいに。

    肌を直接見せなくとも、
    性行為を描写せずとも、
    そこはかと漂う色気や官能。


    だから読むたびに
    胸がときめくのだけれど、

    川上さんが紡ぐ文章は、
    しとやかで
    でしゃばり過ぎない、
    引き際を解った大人な女性って感じなのです。


    また粋な大人の物語だけに、
    たくさんのお酒と
    お酒に合う季節ごとのおつまみやアテが
    これでもかと出てきます(嬉)

    まぐろ納豆、 蓮根のきんぴら、湯豆腐、焼き茄子、たこわさ、おでんなどなど。

    読んでいる僕らも登場人物たちと
    一緒に呑み屋に居合わせたような、
    心地いい錯覚に浸れる点も
    僕がこの作品に惹かれる理由です(笑)


    酌を受けることを好まない
    センセイ。 

    次に会う約束も交わさず、
    通いつけの飲み屋で会える日を
    ひたすら待つ二人の距離感。 

    誰も縛らず、
    一人で立ち、一人で自足する
    二人の生き方。 


    こんな、プラトニックで、
    修行僧のような恋は(笑)
    誰でもができることではないけれど、
    できないからこそ、憧れるし、

    もしかすると、
    こういう恋をしているからこそ、
    二人でいる時は
    誰よりも相手を尊重し、
    いたわれるのかなってちょっと思ったりなんかして。



    食べ物が好きで、
    お酒が好きで、
    一人が好きで、

    でも心から分かり合える誰かが欲しくて、 

    おじさま好きで(笑)、 

    身体だけの関係には
    もう飽きたという人に

    オススメします。


    もしかすると、人生観変わるかもしれませんよ♪

    • yamatamiさん
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、...
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、古い本のようで偶然に古本屋で見つけたのですが、円軌道の外さんの手元にも現れますようで・・・!文房具ってほんとにわくわくします。付箋とか、どこに貼るんや!っていうくらい買ってしまいます(笑)

      お忙しい日々をお過ごしだったんですね。
      ボクシングを教える側・・・!きっと、する側とはまた違った大変さがあるのでしょうね。でもお元気そうでなによりです(^^)

      私のほうも仕事が目まぐるしく、ブクログをお休みしていました(>_<)

      自分の原点を探ろう!企画、よいですね(^^)
      「センセイの鞄」、懐かしいです。
      高校の現代文の問題集で読んでから、勉強をほったらかして、図書室で借りて読んだ思い出があります。笑
      円軌道の外さんのレビューを読んでまた読みたくなりました(^^♪
      以前のように小説、漫画、それにジャンルを問わずにたくさん読まれているようで、なんだか読書欲が湧いてきましたよ・・・!

      円軌道の外さんのレビュー、これからも楽しみにしています♪

      読書スイッチを押していただき、ありがとうございます(*^^*)

      これからもよろしくお願いしますね!
      2018/03/06
  • 平凡なアラフォーOLの月子さんが、かつての高校のセンセイと時を経て再会し、ゆっくりと、そして深い愛を育む、心地良~い純愛物語。
    月子と70も超えるセンセイとの素敵な恋がいつまでも続きますように、と祈らずにはいられない。

  • なんでもっと早く読まなかったんだろう。
    何が起こる訳じゃないけど、ツキコさんとセンセイの世界に、恋愛に、もっともっと浸っていたかった。ラストは胸が締め付けられた。出会えて良かった一冊。

    もう一つの物語「パレード」をこの流れで読んでみる。

  • ピュアな一冊。

    なんてすがすがしい関係なんだろう。
    これほどピュアという言葉が似合う二人はいないと思う。

    年齢が離れたセンセイとツキコさんの四季折々の時間。思い出の積み重ねと距離感が瑞々しく、時にせつなく心を潤した。

    相手と出会い、時間を共有するたびに空っぽだった心に名もなき感情が次第に積もっていく。
    やがて満タンになる。
    それが一気に溢れ出した時に恋というものが始まるんだと思う。

    月子さんのその心の積もりと揺れと溢れる瞬間が美しく伝わってきた。

    鞄の中に詰め込まれた二人の思い出。
    静かに開けて静かに閉めたいほどの良作。

  • センセイへの想いがはっきりしてくるにつれて、一人でいるより不安な感じがしてきて、成就するのが怖くなってしまう。
    そうなることはわかっていたのに、泣きそうになった。

  • 歳の離れたセンセイとツキコさんが居酒屋で再会してからゆっくり淡々と過ごして恋愛と変化していくお話
    ツキコさんの優柔不断というか、恋愛の駆け引きができないのにしようと試みる姿に苛々させられたけど、なぜか応援したくなる
    ラストは直接的な文章ではない一文にぐっと胸を掴まれた
    いくつになっても人間を愛していられるのは幸せだなあ
    センセイはきっと幸せな人生を送れましたね
    と言いたい

  •  月子は高校時代国語教師だったセンセイと居酒屋で再会します。センセイ自身も、居酒屋で交わされる会話も穏やかで心地がいいのにセンセイには近づけそうで親密になれない‥ 。月子はある梅雨入りの日、わたしセンセイが好きなんだもの と告白します。 若くないからこそのスローで丁寧な恋愛のお話です。

    「たとえば、身の丈ちょうどの服を何枚もあつらえたはずなのに、いざ実際に着てみると、あるものはつんつるてんだったり、あるものを裾を長く引きずってしまったりする。驚いて服を脱ぎ体にただ当ててみれば、やはりどれもちょうど身の丈の長さである。」
    それでいいはずなのに断言していいと言い切れず自分を疑うようなこの感覚。絶妙に文章にされていて手にとるように共感しました。

    「わたしがセンセイのことを思って悶々としていた間、センセイは蛸のことなぞで悶々としていたのである。」
    傍目にはくすっとしますが、当人の月子なら恨みがましくセンセイを見つめてしまいそうです。そんなもんなんだなあ、なんて気が抜けつつ自分の悶々とした時間すら後で愛おしく感じられそうなシーンです。

     この小説では恋愛のいちばんおいしいところ、出会って、仲良くなって、ヤキモキして、もっとこういうことが起きて欲しいと願うようなところが多く描かれています。このままなのかな?と思いきや、読者にとってもご褒美のような甘い結末に向かいます。ラストは‥。 月子と一緒に楽しい時間を過ごせてほっこりしましました。

  • ブクログ通信で「新しい出会いを描いた小説」にあった本。

    「ワタクシはいったいあと、どのくらい生きられるでしょう」
    親子ほどの年の差の不器用な二人の大人の愛です。
    ともすれば安っぽい感じになりそうな内容ですが
    ギリギリにいい感じでとどまっているのが好感が持てます。

    私も親子ほどの年の差ほどの元部下から
    「浦島さん、わたし日本酒飲みたいです!」
    って言われて飲みに行ったりしますが
    彼女も不器用なので、誰かいい人早く見つかんないかなー
    と読みながら共感して思いました。

  • 単調な日常の中で、徐々に距離を縮めていく男女間の穏やかな親密さと、反して高まっていく緊張感の矛盾を絶妙に書き表した作品。

    年齢だけなら親子以上孫未満ぐらいに離れている、高校の国語教師だった「センセイ」と、その生徒だった「ツキコさん」は、二十余りを経て、ばったりと居酒屋で再会する。
    特に約束もせずに、それでも出会えば、それぞれのペースで酒を呑んで、それぞれ好きなアテを食べながら会話をする。そのうちに四季はめぐって、キノコ狩りやらお花見やら、店の外でもなんだか会うようになってくる。

    共に重ねる時間の中で、時々些細な喧嘩をしながらも、互いの気質と程よい距離感に馴染み、確実に恋慕の対象として意識し合うようになっているのに、それに相反するかのように、それぞれが抱える過去と孤独のためか、予想外に近づいていく関係に戸惑う二人の間の緊張感は高まり続け、やがてぬきさしならないものとなっていく…。

    不器用な男女の、端から見たら凡庸な日常でしかないのに、実は激しさ吹き荒れる歪な関係を、川上さんらしい、静かな語り口で、淡々と、けれど、とことん濃密に描いた秀作です。

    川上さんの独特の擬態語を用いて語られる二人の関係の終わりは、逃れられない哀しい真理であると同時に、寂しい優しさに溢れていて、余韻を残します。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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