センセイの鞄 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 7153
レビュー : 1105
  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167631031

感想・レビュー・書評

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  • 長らくブクログを休んでいたこともあり、
    今一度、自分の原点を探ろう企画の第1弾(笑)


    僕が川上弘美を知り、ハマっていくきっかけとなった
    今だに何度となく読み返してしまう小説です。
    (けれど、川上作品のマイベストはまた違う作品です笑)


    初読みは15年ほど前だったかな。
    しかし、読み返しても読み返しても
    終わってしまうのが惜しくて、
    一字一句を味わうようにお酒とアテを食べながら
    少しずつ少しずつ読んでいました(笑) 


    強烈にあとを引く余韻と、
    それでいて
    不思議とあたたかな読後感。

    亀のように遅々として進む、
    こういう恋もあるのだと改めて勉強になったし、
    大人だからこそできる
    新しい恋の魅力に
    当時まだ若かった僕は気づかされました。
    (川上作品を何度も読み返したくなるのは、馴染みの店にまた呑みに行きたくなるのと同じ感覚の気がします)



    37歳独身のOL、
    大町月子。

    月子とは30と少し歳が離れた、
    高校で国語を教わった
    松本春綱先生。


    ふたりは駅前の一杯飲み屋で
    隣りあわせて以来
    20年ぶりに言葉を交わし
    飲み友達となり、

    やがて月子は
    先生をセンセイと呼び慕い、
    センセイへの
    ほのかな想いに気付き始めます。



    まぁ簡単に言えば、
    70に近い老人と
    30代後半の大人の女性の恋物語です。


    文章で書いてしまえば、
    なんだか陳腐な設定だなぁ〜って
    思う人もいるかもだけど(笑)


    決していやらしい話ではなく
    中学生の淡い初恋を読んでるかのような
    微笑ましさと、

    毎回酒を交わしながら
    二人がどう惹かれ合っていくかが
    本当に絶妙な塩梅で
    丁寧に丁寧に描かれていて
    妙に心地良い小説なのです。


    月子は、いつからか
    恋人とぬきさしならぬ関係になることを、
    いつも怖れていました。 

    林檎を剥きながら
    終わった恋に思いを馳せ、
    ふいに涙を流すシーンは
    なんとも切なく胸を焦がしたし、

    夜のバス停で
    帰り道が分からなくて途方に暮れている月子と、
    センセイがばったり出くわすシーンは 
    センセイが無性にカッコ良く見えてならなかった(笑) 


    川上さんの独壇場と呼べる、
    文章の端々から漂う
    濃密な夜の匂い。

    いつも酔っ払った
    月子とセンセイを見守る
    月の存在。

    月を見上げることや
    夜風が酔った頬を刺す感覚が好きな僕は
    夜の匂いのする川上さんの文体、
    それだけで、強く惹かれてしまいます。


    それにしても
    なんて抑制のきいた、
    それでいて官能的な文体なのだろう。 

    夜の花見の後
    幼なじみの小島孝と月子の大人なキスには
    本当にドキドキさせてもらったし、 

    センセイとの初めての
    島への旅行の話は
    月子さんが可愛いくて
    本当に微笑ましかったなぁ~♪


    川上さんの小説は官能的だと書いたけれど、
    そこには粋という言葉が似合う
    『品』があるんですよね。

    和服の女性の素足や手首が
    何かの瞬間に時折ちらっと見えるみたいに。

    肌を直接見せなくとも、
    性行為を描写せずとも、
    そこはかと漂う色気や官能。


    だから読むたびに
    胸がときめくのだけれど、

    川上さんが紡ぐ文章は、
    しとやかで
    でしゃばり過ぎない、
    引き際を解った大人な女性って感じなのです。


    また粋な大人の物語だけに、
    たくさんのお酒と
    お酒に合う季節ごとのおつまみやアテが
    これでもかと出てきます(嬉)

    まぐろ納豆、 蓮根のきんぴら、湯豆腐、焼き茄子、たこわさ、おでんなどなど。

    読んでいる僕らも登場人物たちと
    一緒に呑み屋に居合わせたような、
    心地いい錯覚に浸れる点も
    僕がこの作品に惹かれる理由です(笑)


    酌を受けることを好まない
    センセイ。 

    次に会う約束も交わさず、
    通いつけの飲み屋で会える日を
    ひたすら待つ二人の距離感。 

    誰も縛らず、
    一人で立ち、一人で自足する
    二人の生き方。 


    こんな、プラトニックで、
    修行僧のような恋は(笑)
    誰でもができることではないけれど、
    できないからこそ、憧れるし、

    もしかすると、
    こういう恋をしているからこそ、
    二人でいる時は
    誰よりも相手を尊重し、
    いたわれるのかなってちょっと思ったりなんかして。



    食べ物が好きで、
    お酒が好きで、
    一人が好きで、

    でも心から分かり合える誰かが欲しくて、 

    おじさま好きで(笑)、 

    身体だけの関係には
    もう飽きたという人に

    オススメします。


    もしかすると、人生観変わるかもしれませんよ♪

    • yamatamiさん
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、...
      円軌道の外さん

      わー!お久しぶりです!
      コメントいただけて嬉しいです。たくさんのいいねもありがとうございます!
      「文房具56話」、古い本のようで偶然に古本屋で見つけたのですが、円軌道の外さんの手元にも現れますようで・・・!文房具ってほんとにわくわくします。付箋とか、どこに貼るんや!っていうくらい買ってしまいます(笑)

      お忙しい日々をお過ごしだったんですね。
      ボクシングを教える側・・・!きっと、する側とはまた違った大変さがあるのでしょうね。でもお元気そうでなによりです(^^)

      私のほうも仕事が目まぐるしく、ブクログをお休みしていました(>_<)

      自分の原点を探ろう!企画、よいですね(^^)
      「センセイの鞄」、懐かしいです。
      高校の現代文の問題集で読んでから、勉強をほったらかして、図書室で借りて読んだ思い出があります。笑
      円軌道の外さんのレビューを読んでまた読みたくなりました(^^♪
      以前のように小説、漫画、それにジャンルを問わずにたくさん読まれているようで、なんだか読書欲が湧いてきましたよ・・・!

      円軌道の外さんのレビュー、これからも楽しみにしています♪

      読書スイッチを押していただき、ありがとうございます(*^^*)

      これからもよろしくお願いしますね!
      2018/03/06
  • 読んだ後、こんなに甘く切なく、そして暖かい気持ちになる恋愛小説は久しぶりでした。
    出会ったばかりの頃のセンセイはとても紳士的。それは二人の距離が近づいても変わらず・・・
    最初から最後までずっと紳士なのですが、逆に丁寧な言葉や行動だからこそ、ツキコさんに対する溢れんばかりの愛と優しさが感じられて・・・
    二人の距離が近くなりそうになると離れて、また近づいてを繰り返していくのですが、離れては近づく度に次離れる距離は前よりは近くなっているという感じで徐々に縮まっていくのが良いなと。
    激しい感情だけが恋じゃない。
    こんな風に穏やかに進む恋も素敵だなと思いました。

  • 一生涯、忘れ得ぬ本。
    棺桶にはこれを入れて!と声高に人様に告げるのだけど、良さを説明しようとすると、それはこの本の良さではなくて、自分の中の記憶のかけらにたどり着く。


    春の夜、つい上着を忘れて出てきた心細さ。
    昔好きだった人が結婚したことを人づてに聞いた薄ら寒さ。
    やけに美味しく感じた出し巻き卵の後味。
    上野公園の落ち葉、祖母のおにぎり。

    そんなかんじ。

  • 僕はセンセイをしているので。しかもまあまあ歳を食っているので…このような人生の終焉に共感した。

    愛されたいし愛したい。そんな純粋なことが、ほんの少しの時間のズレや、想いの強さのすれ違いでかなわないのが人の世だから、結ばれた二人を羨む気持ちは、強い。

    カウンターで呑む二人の繋がり具合が微妙でもどかしくて。だからこそ純粋だ。

  • ツキコは松本先生を、「先生」でもなく、「せんせい」でもなく「センセイ」と呼ぶ。


    「センセイ」
    どんな呼び方なんだろう。


    「先生」より堅苦しくなく、「せんせい」より親しげでもなく
    ある程度の距離感がある関係、それが「センセイ」なのだろうか。


    センセイには、忘れられない、忘れたくない過去がある。
    だから、ツキコが距離を縮めようとしても、センセイとツキコの間には見えない壁がある。隣りにいるのに二人の距離はなかなか縮まらない。


    手を伸ばせばすぐに届く距離にいるのに
    近いのに遠いな、、。


    不器用な二人のやりとりが微笑ましくて、いとおしく思った。


    センセイとツキコの再会から別れまでを書いた温かくて、切ない物語。

  • 恋愛関係なんだけど、距離感がいいというのかな、ちょっと植物とまでいかなくて、虫がたわむれてるみたいな。最後のほうになってきて、ああ、もう終わっちゃうなとさびしくて惜しい気持ちになった本は本当に久しぶりでした。

  • いい本でした。センセイ、センセイと追いかけるうちにいつの間にかツキコさんがどんどん大人から淡い恋をする高校生になっていくのがわかりました。恋をするのってこうなるものなんだろうな。

  • センセイとツキコさんの、
    ゆったりと流れる日々は、
    少し笑えて、少し切なくて、
    少しもどかしくて、少しだけ熱い。

    難しいことなど書いていない。
    まわりくどい表現など一切ない。
    過剰な情緒表現もない。
    実に巧妙。
    素晴らしい。

    飲み屋のカウンターで酒を注ぐ2人は、
    互いの心に何を注いでいたのか。

  • 僕はこのエンディングを一生忘れないと思う。

  • 言っちゃえば
    30そこそこの女性と
    おじいちゃんの恋のおはなし。

    現実考えたらけっこうきもちわるいよなぁ(笑)

    しかしそのきもちわるさも
    作者の文体があまりに綺麗すぎて全部消えてる。

    ゆらゆらしていた。
    いーですなぁ、「ゆらゆらしていた。」

    こういう表現ちょーたいぷ。



    *それといちいち料理うまそう。

著者プロフィール

川上 弘美(かわかみ・ひろみ)
1958年生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞と紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞と女流文学賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨、15年『水声』で読売文学賞を受賞。ほかの作品に『風花』『どこから行っても遠い町』『神様2011』『七夜物語』『なめらかで熱くて甘苦しくて』『水声』などがある。2016年本作で第44回泉鏡花文学賞を受賞した。


「2019年 『大きな鳥にさらわれないよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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