黒く塗れ (文春文庫 う 11-6 髪結い伊三次捕物余話)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167640064

感想・レビュー・書評

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  • 面白いだけではないどこか哀愁を感じるシリーズです。
    『蓮華往生』では文吉と伊三次とは違い、夫婦になることは許されなかった緑川と喜久壽、その二人の仲を思い悩み寺へ通い詰める緑川の妻、その寺での不思議な出来事に事件性が…という話。
    真相を突き止めるために自ら危険な囮となる緑川ですが、喜久壽の心配をよそに緑川が選んだのは妻で、それを目の当たりにした喜久壽はショックだったでしょうね。
    『畏れ入谷の』もまた切ない話でした。自分の妻が家計の為に大奥にあがり、将軍に見初められてしまったために別れなければならず、共に想い合っているだけにやり場のない思いがします。
    『月に霞はどでごんす』ではお文と伊三次に待望の長男が誕生します。難産でしたが無事に生まれて良かった。
    表題作の『黒く塗れ』。タイトルに「ん?」と思ったのですが、まさかそのタイトルが永ちゃんに関係あったとは(笑)。
    『慈雨』では掏摸の直次郎に春がきます。伊三次の心配も分かりますが、私は直次郎にチャンスがあっても良いのでは、と思います。だから本当に良かった。
    この巻を通して印象に残ったのは不破といなみの夫婦仲の良さでした。お文と伊三次もこれから様々なことを乗り越えてそういう夫婦になっていくのかなぁ。

  • 伊三次が小者をつとめる町方同心の不破友之進と妻のいなみに、待望の女の子が誕生する(「蓮華往生」)。一方、伊三次の女房・お文も出産を間近に控えていた。だが、お文の子は逆子(さかご)。伊三次は不安を抱きながらも、人斬り請け負いの下手人を捕らえるために奔走する(「月に霞はどでごんす」)。惚れたお佐和のために掏摸(すり)から足を洗った直次郎のその後を描く「慈雨」など、伊三次を巡る全ての人々の幸せを願わずにいられない、人気シリーズ第五弾!

  •  お文は逆子で難産の末、無事に男の子、伊与太を産んだ。伊三次、伊与太、お文の親子が川の字になって眠る。庶民のささやかな倖せ。 宇江佐真理「黒く塗れ」、髪結い伊三次捕物余話№5、2006.9発行。蓮華往生、畏れ入谷の、夢おぼろ、月に霞はどでごんす、黒く塗れ、慈雨 の連作6話。直次郎が秋の七草を携えて、小間物屋の跡取り娘、お佐和のところに行くくだりでは、胸がじーんとしました。

  • ようやく伊三次とお文の間の子が無事に産まれた。お産が始まった日に限って伊三次の仕事はなかなか終わらないし、逆子という心配事もあるし、ひやひやした。しかし、無事に生まれてからは、 徐々に、お文の母親としての姿が変わっていくのがとても微笑ましかった。 途中、伊三次との何気ない会話の中で、お文の変化が描かれている。『お文は伊与太を産んでから少し変わったと伊三次は思う。むやみに意地を通そうとしなくなった。 芸者の意地も何も、頑是ない赤ん坊には通用しないことを悟ったせいだろうか』 。こう言うことがさりげなく描かれているのも、女性作家らしさだな、と思う。 女性は子供を産んで強くなる、怖くなるみたいな、ありがちな描き方じゃないのがいい。

    今回、「蓮華往生」「黒く塗れ」みたいな不思議な話もあったり、「夢おぼろ」のように捕物というよりは、美雨と監物の男女の話に、富札 (現代の宝くじ) の話が絡んで描かれていたり。作者本人が以前にも触れていたように「捕物」よりも「余話」に比重があるお話が多いな、と感じた。 そんな中で、「慈雨」は直次郎が幸せになってくれてとても嬉しかった。『雨が降る。まっすぐな雨が降る。 だが、この雨は暖かい雨だ。すべてを洗い流し、 代わりに何かを潤す恵みの雨だ。そう、伊三次は思う』 この場面では、涙が出た。 暖かい涙が。
    この後に、伊三次が家に帰ると、お文は疲れて眠ってしまっているが、横で伊与太が泣いている。すると伊三次は、お文を起こしたりせず、おむつを替えてあげる。そして、伊与太が 伊三次を見て笑うのだ。『まるでその時、初めて伊三次が父親であることを確認したような感じがした』いい場面だ。涙がまた出てしまう。でも、これもまた暖かい涙だ。

    ところで、今回、おみつが出てこなかった。 うーん、どうなるんだろうな。お文とおみつの間は。おみつのことは好感を持っていただけに、前巻で残念なことがあり、どうなっていくのかなあと気になっているが。

    余談。 文庫のためのあとがきで、 宇江佐さんが時代小説であっても新しいことを取り入れたいし、時代小説に感じられる時代臭が好きではない、と言う話があった。その中で、読者の手紙のことに触れている。「函館は西洋文化を早く取り入れた土地柄なので、あなたもそれに多少、影響を受けている。 浅草の下町あたりに住んで、じっくり下町情緒を学んではどうか」 と書かれていたそうなのだ。・・・いるよなあ、こう言う感じの人。と、人に聞かれていたら、何て嫌な感じ、と思われるに違いない、笑いが出てしまった。これが"苦笑" のお手本なんだろうなと言うような笑いが。しかし、そのすぐ後に、宇江佐さんが「大きなお世話と思ったが、読書の感じ方は様々である。(略) だが、私は自分のやり方を変えないだろう」と書かれていて、すっきりした。そう、大きなお世話だ。感じ方は様々だけど、その上から目線の「学んではどうか」って。あなたが、人としての情緒とか物の言い方とか学んではどうか・・・性格悪いな私(苦笑)

  • ラストの一編、大好き。
    ああ幸せだ。この二段落ち。

  • 目次
    ・蓮華往生
    ・畏れ入谷の
    ・夢おぼろ
    ・月に霞はどでごんす
    ・黒く塗れ
    ・慈雨

    今回捕物が少ないなと思ったら、作者があとがきで「捕物」ではなく「余話」を書いているのだといっている。
    というわけで、伊三次が出会うあれこれの出来事が書かれているのだけど、やはり後味苦い作品が多い。
    特に『畏れ入谷の』は、なんだかんだ言って上手くいくんだろうなあと思いながら読んでいたので、如何ともしがたい結末に、それでも目を逸らしてはならないという伊三次に、胸を突かれた。

    多分始めは善意からの行為だったはずが、いつの間にか姥捨て山で金儲けの話になってしまった『蓮華往生』。江戸時代、武家の一人娘の生きる道は、自分を捨てるか、女を捨てるかだった『夢おぼろ』。
    まるで必殺仕事人のような『月に霞はどでごんす』。

    廻り髪結いの傍ら同心の小者として働く伊三次は、金儲けとは無縁な損な性分。
    けれど、無事に生まれた我が子のために、我が子に恥じない”ちゃん”であろうと思う。

    お文は子どもを出産して「自分はさほど子ども好きではない」ことに気づくが、それでも慣れない家事・育児にと奮闘している様子が健気である。
    「子ども好きではない」母親は割と世間にもいると思うけれど、さらっとお文にそう言わせるところが女性作家の腕か。
    伊三次が子煩悩なところも微笑ましい。

    人の心を操る犯人に逆にわなを仕掛ける『黒く塗れ』であがったテンションを、『慈雨』がそっとなだめてこの巻は終わる。

    前巻で伊三次の恩人の娘・佐和に恋をして、巾着切りから足を洗い、姿を消した直次郎が振り売りの花屋として再登場。
    どうしても直次郎の前科にこだわり、二人の恋を認めることができない伊三次に、人はやり直すことができるのだと、神でも仏でもない伊三次に二人の運命を決めることはできないのだという、周囲の年寄りたちの温かいまなざし。
    更生を信じることの出来る世の中。

    同じく前巻でお文を傷つける一言を言ってしまったおみつは、今回出番なし。
    だけど今までのお文とおみつの関係や、おみつの夫(伊三次の家に空き巣に入ったがその後更生して同心の小者となる)のことを考えると、いつかどこかで関係修復してほしいものだ。
    おみつに子どもができるまで、無理かなあ。

  • 短編それぞれに趣があって、飽きない。切なさや安堵やほのぼのした気持ちが交錯する。

  • 結末が温かく終わる話が多いので読後感の良いもの。

  • 2018/1/10
    おみつ出てこなかった!
    まさかこのまんまなんてことないよね?
    お文が子供を生んだことどこからか聞いてるだろうに。
    今頃何を思っているのかな。
    この種の争いというか妬みというか劣等感というか、現代も相変わらずあって人間てそう変わらないなと思ってみたり。
    それより図書館で借りた本だったのだけど、誰かがマーカーを引いてやがるのよ。
    それも良くわからん見当ちがいなところに。
    集中できない。
    図書館の本にマーカー引くようなやつはやっぱり馬鹿なんだなと思った。

  • 次へ次へ…と読み進めてしまう。とりあえず、母子ともに元気で良かった!

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著者プロフィール

1949年函館生まれ。95年、「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。2000年に『深川恋物語』で第21回吉川英治文学新人賞、翌01年には『余寒の雪』で第7回中山義秀文学賞を受賞。江戸の市井人情を細やかに描いて人気を博す。著書に『十日えびす』 『ほら吹き茂平』『高砂』(すべて祥伝社文庫)他多数。15年11月逝去。

「2023年 『おぅねぇすてぃ <新装版>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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