雲雀 (文春文庫 さ 32-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167647049

作品紹介・あらすじ

オーストリア軍の兵士、オットーとカールの兄弟は、膠着状態の戦線で、ロシア兵達の虐殺を目撃したことをきっかけにジェルジュと呼ばれる若者に出会う…。第一次大戦の裏舞台で暗躍する、特殊な"感覚"を持つ工作員たちの闘いと青春を描いた連作短篇集。芸術選奨新人賞を受賞した『天使』の姉妹篇。

感想・レビュー・書評

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  • 『天使』の姉妹編。『天使』は長編だったが、こちらはスピンオフ的短編4作を収録。『天使』を読んだのがもう4年くらい前なので、実は細部をほとんど覚えておらず。ばくぜんと、なんか耽美な感じでヨーロッパ戦時中で超能力ものだったな~くらいだったんですが、読んでるうちにだんだん思い出してきました。

    「王国」オットーとカールの兄弟が『天使』の主人公ジェルジュ・エスケルスやルドルフ・ケーラーと出会うエピソード。“感覚”と呼ばれる一種の超能力を持った人間を集めていたロシア軍将校カルージヌィの陰謀を、彼らが挫く。

    「花嫁」ジェルジュの父親グレゴールの物語。“感覚”を持って生まれ、馬泥棒の父親との確執、人妻ヴィリ(彼女も強力な“感覚”の持ち主)に一目惚れ、金に物を言わせて強引にモノにするも・・・。どちらも強い“感覚”の持ち主である両親から生まれたジェルジュはハイブリッドだからあんなに強いんですね。

    「猟犬」ここからようやく『天使』以降の話になり、主人公もジェルジュで固定。諜報合戦でブタペストに赴いたジェルジュは、かつて殺さなかったヨヴァンに襲われる。今は狂犬と呼ばれているヨヴァンはジェルジュを憎んでおり・・・。

    「雲雀」ジェルジュの上司であり後見人でもあった枢密顧問官スタイニッツがつに亡くなる。後任のディートリッヒシュタインの下で働く気のないジェルジュは組織を辞めるが、ディートリッヒシュタインの妻であるギゼラとの恋は再燃。そんなジェルジュに大公はある取引を持ち掛け・・・。ジェルジュのために奔走するオットーが有能すぎて好き。

    短編集のおかげか、『天使』よりも読みやすかったかも。佐藤亜紀の文体は相変わらず硬質というか、無駄が一切ないので、うっかり一行読み漏らすこともできず、緊張を強いられます。長編だとその緊張を持続することに疲れてしまうのだけど、短編ならまあまあ大丈夫でした。

  • 2007-05-00

  • 歴史小説とタグは付いているけど、サイキック物のSFが該当するか。対隣る「天使」を未読のため、登場人物や設定がわかりにくい。

  • 「天使」の続編、というよりサイドストーリー。
    素っ気ないのに美しい文章がやっぱり好き。
    オットーの強かさ・ヨヴァンのかわいらしさ・そして何といってもジェルジュのピュアさに惹き込まれること請け合いです!ジェルジュの実父母のやや即物的なロマンスもツボ。

  • いつもながら、時代背景や状況など細かい部分は自分の脳内で
    補完しながら読み進める本。
    「天使」の続編でありながら、登場人物も増えて混乱してしまう。
    過去から未来への時間軸も大きくなっているので、前作を読み返すのが
    良いかと。

    とはいえ、最後まで一気に読ませる筆力は圧巻。
    脳がしびれて来ます。

  • 先に本棚に載っている「天使」の続編である。

    「雲雀」っといえば…夏目漱石「草枕」の一節を思い出す

    ※ウィッキペディアより
    「あの鳥の鳴く音には瞬時の余裕もない。
    のどかな春の日を鳴き尽くし、鳴きあかし、
    また鳴き暮らさなければ気が済まんと見える。
    その上どこまでも登って行く、いつまでも登って行く。
    雲雀はきっと雲の中で死ぬに相違ない。登り詰めた揚句は、流れて雲に入って、
    漂うているうちに形は消えてなくなって、
    ただ声だけが空の裡に残るのかも知れない。」

    本書は「王国」「花嫁」「猟犬」「雲雀」の4部作からなる

    なかでも「雲雀」は主人公ジョルジュが尊敬と畏怖を持って接してきた
    オーストリア組織の長が亡くなり、
    枷が消えた彼の、組織からの足抜けのお話し。

    その足抜けの仕方を読んでいて、漱石の「草枕」の一節を思い出した
    それほど…「お前は雲雀か?」ってな組織からの抜け方なのだ(笑)

    雲雀は天敵が現れると子供を守るために、
    空高く舞い上がりピーチクパーチクと叫ぶが…
    「お前が叫んでおる真下に、巣があるってバレバレだぞ」っと常日頃思っておった
    そんな目立つ足抜けをジョルジュはするのである(笑)

    「死んだってイイんだ」っという自暴自棄な思いと
    「誰が僕を殺せるって言うんだ」っという高慢ちきなジョルジュの性格が
    よく現れているお話しだと思う

    最後に、どーしても納得いかないのだが…

    「感覚」を持つ人間が本当に居たとして…
    それらの人々と接触した普通の人は、正直、もっと怖がるハズである。
    そんな人々の出演が少なすぎるのだ

    自分の心の中まで見透かされるんだぞ~~。普通はもっと恐れるだろう。
    作者が、そんなシーンを書きたくなかったのか…
    本書では普通人より、感覚持ちの超人の方が多いもんで(笑)
    「お前もかっ!?」っと何度も思った(ハハハハハハハ)

    また、「感覚」を持って生まれたゆえの苦悩も数々あるはずである
    有頂天になって失敗したり、逆に人の気持ちが読める分、普通に楽しめなかったり
    そんなシーンや繊細な部分も一切書かれていないので
    それが作者の思惑なのかもしれんが、読者としては、少々疲れた(笑)

    ただし、細かい描写が少ない分
    何時か誰かが「映画化」しそうだな~とも思った


    こんな「人の心が読める人」が、本当にこんなに大勢いたら
    戦争なんぞ、起きなかったんとちゃうか?っと、つい…突っ込みたくなった(笑)

    時代が変化する波は、それほど大きくって、誰も手が出せないってことかの?

    この高慢ちきで自暴自棄なジョルジュの性格なら
    自分が焼かれても、大きな時代のウネリに突っかかって行ったんではないかな
    っとフっと思った(笑)

    だとすると…「天使」よりも…「イカロス」の方にタイトルが傾いてしまうか…

  • 『天使』と併せて再読したい。

  • 「天使」の姉妹編。短編4編収録。

    やはり鮮やかで美しい。面白い。
    「天使」よりもほんの少し明るくて全体的に軽快な感じはあるのだけど、さばさばした部分は変わらなくて、…うーん、気持良い。痛快。
    「天使」とともに、大切に手元に置いておきたくなる小説です。

  • 2009/10/17購入
    2012/12/2読了

  • やっぱこの人の文章は気持ちいいなぁ。
    「天使」と時間を交差する幾つかの短編集。
    個人的に、「天使」後のすっかり成熟したオトナになったジェルジュが見れるのが良かった。
    ジェルジュの父母の物語「花嫁」が短編としては一番面白く読んだ。
    だけど個人的にはもっと顧問官様を!!!顧問官様にスポット当たった話待ってたのですが・・・
    最期まで来ず・・・↓しかも死・・・
    顧問官が死ねば仕事をやめる。生きている限りは尽くす。死んだ後の後始末を全てつける。
    てゆーのをなんか忙しく国々を飛び回ったり危ない橋渡ったり、ご婦人とアバンチュールだったり
    する間に当たり前のごとくしれっとやる。
    ジェルジュのそうゆうとこ・・・ツボでした。

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著者プロフィール

1962年、新潟に生まれる。1991年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。2002年『天使』で芸術選奨新人賞を、2007年刊行『ミノタウロス』は吉川英治文学新人賞を受賞した。著書に『鏡の影』『モンティニーの狼男爵』『雲雀』『激しく、速やかな死』『醜聞の作法』『金の仔牛』『吸血鬼』などがある。

「2022年 『吸血鬼』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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