古地図に魅せられた男 (文春文庫 ハ 20-1)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167651145

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  • 1996年のアメリカ・ボルチモアで、ミスタ・ブランドという中年男性が、希少本を多数所蔵する私立図書館「ピーボディ図書館」の所蔵本から古地図を切り取った罪でFBIに逮捕された。
    目立たない風貌の彼は古地図店主で、調べにより数々の図書館から古地図を盗んでいた大泥棒であったことが判明する。
    地図好きを自認する著者は、この大泥棒ミスタ・ブランドに興味を持ち、彼が犯罪に手を染めた背景を調べ始める。

    本書はミスタ・ブランドによる古地図盗難事件の背景を明らかにするノンフィクションと思いきや、その趣向はやや異なる。取り上げられるトピックは、歴史上の地図の役割、歴史に名をはせた人物の古地図をめぐるエピソード、ピーボディ図書館の歴史、書物の修復、古地図を扱うマーケットなどなど幅広く、事件のインパクトが薄れるほどである。それもそのはず、本書において著者はミスタ・ブランドからのインタビューを取り付けることができなかったのだ。
    もちろん、さまざまな角度からミスタ・ブランドの人生を追い、彼が犯罪に手を染めた背景を明らかにしようと試みてはいるが、実際のところ、ミスタ・ブランドには古地図自体の魅力にはまり、蒐集にのめり込んでしまった狂気のようなものは感じられず、著者にとっては期待外れだったのではないかと推測する。そのため、本書は途中から方向転換し、古地図をめぐるさまざまな歴史や環境を広く取材することでそれを補完したのではないだろうか。

    そういうわけなので、本書の評価は前述した古地図をめぐるさまざまなエピソードを楽しめるか否かによる。私は各エピソードを楽しめなかったわけではないし、『古地図に魅せられた男』というタイトルも、ミスタ・ブランドだけを指すわけではないと解釈すればあながち間違いではないのだが、謎めいたミスタ・ブランドが犯罪に手を染める背景について明らかになることを期待していただけに、正直言って自分にとっては期待外れだった。
    ミスタ・ブランドの事件と切り離して読めば楽しめたかもしれないので、そこは少し残念である。

  • 1996年、ギルバート・ブランドという古地図屋の男が、ボルチモアにあるピーボディ図書館の稀覯本から切り取った地図を盗み、現行犯逮捕された。FBIが調査を開始すると、男はアメリカとカナダの図書館から250枚以上の古地図を盗んでいたことが発覚。自身も大の地図好きである著者はこの事件に興味を持ち、ブランドと古地図商の世界について調べ始める。実際に起きた事件を縦軸に、地図を通じて〈驚異と占有〉の歴史を紐解いていくノンフィクション。


    著者のハーベイは元々ブランドの伝記を書くつもりだったが彼がインタビューに応じないため、仕方なく外堀を埋めて古地図泥棒の犯罪動機に迫ることにした。その足跡自体が一種のドキュメントになっている。ブランドの性格や起こした犯罪を地図と冒険の歴史に重ねていく手つきは時折強引だが、この語り口こそ単なる犯罪ものノンフィクションで終わらない本書の美点だ。
    実際、読んでいて面白いのはブランド関係の箇所より、司書、古地図ディーラー、稀覯本修復士、古地図コレクターらにインタビューするうち、著者自身の認識が変化していくさまである。特に、ミスタ・アトラス(仮名)という大コレクターの家を訪ね、「コレクションを作ることは本を書くことといささか似ているのではないか」と感じて以来、ハーベイはブランドを掘り下げながら自分自身と向き合うことになる。
    著者は口を閉ざしたブランドを白地図に喩え、己の好奇心とメディアの暴力性を前時代の探検家に重ね合わせていく。ブランドという白地図を埋めるためにびっしり書き込まれた歴史地図トリビアはとても楽しい。国同士の熾烈な地理情報の奪い合いや、西洋人が新大陸の征服を正当化するために生みだした「自明の運命」説、蒐集と狩猟の類似性などが語られるうち、いつしか〈知りたい〉という欲求の功罪についてぐるぐると思いがめぐり始める。最後にハーベイが向かうのはスペースシャトルの発射セレモニーだ。宇宙という未知の世界へ旅立つ人類を見送り、果てのない好奇心に思いを馳せる。ただ地図泥棒を断罪するのとは全く異なる余韻を残す幕引きが印象的だった。

  • とある古地図泥棒を巡るノンフィクションに加えて歴史上での地図の周辺の話を混ぜてある一冊。
    コレクターの心理分析と地図を巡るキナ臭い話が同列のものであると論じている。
    この窃盗犯の過去を探っているのだが、読んでいて吐き気を覚えるほどの嫌悪感に襲われた。

  • 2016/11/3購入
    2016/12/1読了

  • (チラ見!/文庫)

  • 歴史の中の地図泥棒と地図作成者の話。地図が好きな人にだけ勧めます。

  • アメリカ史上最悪の実在した古地図泥棒について書かれたふりをした古地図を巡る様々なエピソードをめぐらせた本。図書室から丁寧に古地図を盗んで売りさばいていた古地図専門店主も魅力的ならパスファインダーなどの開拓時代初期の冒険者たちもまた魅力的で、犯罪にまつわる読み物とは思わせない。

  • 今回読んだこれは、ミステリーではなくて、
    アメリカ犯罪史上最大規模の古地図泥棒を追ったドキュメンタリー。
    と言っても、ずーっと追ってるわけではなく、それを軸にして、
    古地図ディーラー、コレクター、図書館員、地図の歴史、地図の作り方など、古地図に関する読み物と言った感じ。

    最大規模といってるように、向こうでは古地図ってのは、フェアが開かれるくらい市場があるもののようだ。
    古地図は嫌いじゃないけど、集めたいとは思わないなー。
    でも、向こうじゃ研究家でなくても、実業家がちょっと応接室に飾りたいとかそういうのがあるみたい。
    それとも、日本でも盛んだけど、俺が知らないだけか?

    さて、この泥棒の手口はと言うと、偽名で図書館に入り、
    剃刀でページを切り離してしまうと言う、なんとも本好きにとってはぞっとするような手口。
    けれども、この本をばらすと言うのは別に犯罪でなくても、
    向こうの業者は稀覯本を入手すると地図や図版をばらして売ったりするのが、珍しくないようだ。
    日本でもこう言うことやってんの?

    蒐集と言う行為は基本的にハントであって、
    目当てのものを見つけたときは高揚するけどそれは長続きせず、すぐに次の獲物を探し始める。
    得てして、ハンターは獲物を探す過程自体を楽しむようになる、っていうコレクター心理の研究家の言葉が出てくる。
    まさにそのとおり(笑)

    結局、犯人にインタヴューすることはできないから、はっきりとした理由とかは出て来ないんだけど、
    それ以外の地図エピソードが面白いから別に気にならない。
    地図の蘊蓄がたっぷり詰まっていて、こないだ読んだ『経度への挑戦』とともに、
    この手の話に興味がある人にはオススメ。
    専門書じゃないから読みやすいしね。

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