死体は語る (文春文庫 う 12-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167656027

感想・レビュー・書評

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  • 読み応えあり。

    海外ドラマの影響で法医学に興味がありいろんな本を探っている時に、この本にたどり着いた。
    監察医という仕事がどんなものなのか。
    読んでいて辛い事件もあったが、解剖されないとわからなかった死因もあったり、本当に大変な仕事だなと思う。尊い職業ですな。

  • 小説やドラマなどでは遺体の死因を特定する人の背景にはスポットライトがあまり当てられない印象だが、この本は実際に監察医としてキャリアを積んだ方のエッセイということで興味を持った。監察医制度というものをこの本を読んで初めて知ったので、監察医制度の知名度向上という点からも有意義であると感じた。
    実際の業務についても小説が一本書けそうなエピソードが数多く掲載され、読みやすい文体で書かれているので読んでいて感心することが多かった。
    著者にとっては内科は「重箱の外側を触って中身が赤飯か牡丹餅かを当てるようなもので、見方によってはかなりいいかげん」であり、外科は「もっと大雑把で、悪いところを切り取って捨ててしまう」ところが合わなかったと書いてあり、そういう見方もあるのかと驚いた。出版されてから時間がたっているので、現在の法医学がどうなっているのか知りたくなった。

  • タイトルはシュールだが、決してホラーではないし、小説でもない。著者は東京都の監察医を務める先生である。不自然な死体を検視し、時に行政解剖を行う監察医制度が、五大都市(東京、横浜、名古屋、大阪、神戸)にしかないことにまず驚いた。著者は予算上、全国にあまねく本制度を導入することは困難だと語るが、それにしても犯罪かどうかを認定するために非常に重要な制度が、たった五つの大都市にしか施行されていないことに、釈然としないものが残った。

    著者は監察医の意義として、死者の人権擁護を語る。監察医制度が五大都市でしか機能していないのであれば、他の都市で死んだ者は、五大都市で死んだ者と比較して、死者の人権が守られていないということになる。某国の愚かな首相は「憲法で定める『基本的人権』は、生存するものにのみ適用される」という大した根拠もない法解釈を勝手に披露するかもしれないが、監察医の視点から死者の人権を擁護しようとする著者の見解のほうが、明らかに合理性がある。

    といっても、本書は決して固い内容ではない。否、書いてあることは非常に崇高であるが、著者の軽妙な語り口が固さを感じさせない。監察医か、少なくとも法医学を志しでもしなければ、一生現実には出会うことがないであろう不自然な死体とその裏に隠された真実は、著者の語り口の軽さに乗せられてすっと読み進んでしまう。タイトルの『死体は語る』にしても、一見シュールに思えて、著者の洒脱な文体の一部となっている。その結果、不自然な死を遂げた死体にまつわるエピソードを扱ってはいるが、堅苦しさのないエッセイとなっているのである。

    監察医ゆえ、時に専門的な用語も登場するけれども、検死の所見や行政解剖で得たわずかな手がかりから、ただ死体を眺めただけでは決して判ることのない真実が導き出されるプロセスは新鮮な驚きに満ちている。エッセイでありながら、ミステリーの趣をも備えているのだ。すなわち死者の専門家たる監察医が、目の前の死者に静かに耳を傾けるとき、「死体は語り」かけるのである。死者の言葉を聞くための条件はただ一つ……一流の法医学者であることだ。

    生きている者たちは、程度の差こそあれ偽善者であり、嘘をつく。中には犯罪に手を染める者もいるだろう。一たび法を犯した生者は、おのが罪の隠ぺいに躍起になる。そうしたときにありのままを語ってくれるのは、もはや死者しかいないのかもしれない。そうであるならば、五大都市でしか施行されていない監察医制度は、本来的に制度としての欠陥を内包しているように思う。死者が検死や解剖を通して語り掛ける言葉こそ、何よりも真実に近い、大事なダイイングメッセージだからである。

  • 法医学者の著者の経験を通じて、人生観なりモノの考え方を綴った本。インパクトのあるタイトルだけど、グロい描写などはない(個人差があるかもしれない)
    「死者の人権と尊厳を守る」のが法医学。

    犯罪だと調査したらすぐ分かりそうなものが、調査という舞台に上がらずに処理されてしまうケースで隠れていることが多いのかなと感じた。
    警察・医者・役所などの現場の人の感じた違和感を、法医学者がデータドリブンで裏付けするって感じ。
    割と前の本なので、法医学を取り巻く状況や法律はもう少しアップデートされているのかもしれない。

    俗っぽい読み方をしているので、著者の意図した捉え方ではないと思うが、前半に割合多かったの実際の事例ベースの章が、ミステリや犯罪モノのような出来事が実際にあったのか… という読み物として興味深かった。
    文庫版あとがきにも書いてあるが、当時は痴情のもつれケースが多いのも時代を表していそう。

    生活反応という、生物が生きている間のみ起こる反応がある、というのも初めて知った。例えば、死後に刺されても血が出ないなど。

  • DNA鑑定が存在しなかった頃の古い作品。今作者は監察医を取り上げられたTVドラマをどのように見ているだろう。昔の公害薬害事件の甚大さに驚く。東京、横浜、名古屋、大阪、神戸でしか監察医制度がないのは今も変わらないのであれば、隠れた事件は相当ありそうだ。老人の自殺は独身世帯より同居世帯で多いというのも何とも言えない。

  • 死体はそれだけでミステリなんだな、と。
    監察医というものの重要さは理解していたつもりだが、考えていたよりも、それは生活に影響を及ぼすものなんだ、と実感できた。
    要は、保険金や労災…現実だな。

  • 著書の中でも、ご遺体のセンセーショナル具合で言えばトップクラスの事例が多い印象の一冊。ちょっとしたミステリー小説並みに、大学助教授と教え子の不倫で遺体が見つからなかった謎についての話、カップルの自殺や心中に絡む話、など。列車脱線事故やホテル火災による数十名の死者を出した事件、なんかは時代を感じさせる部分もあった。
    家族鑑定、など、言葉自体は私たちでも知っているものであっても「夫の死後に、隠し子を連れて現れた女性と財産分与を巡って家族鑑定をすることになった。双方が出してきた証拠物件も結果が分かれ、どれが信ぴょう性のあるものとして考えるべきか」など実際の事例での話の経緯含めて読むと考えさせられるエピソードも多かった。遺族への賠償金のために死亡診断書が表す意味の重みを感じた。

  • 興味のある分野だったので勉強になった。

    30年以上前に描かれたということなので、若干現在とは違う考え方だなぁと思うところがあったが、上野さんの考えているような世の中になってきた部分も多々ありで考えさせられた。

    何度か同じ文章が繰り返されてるような気がする…

  • 小説だと思って読みましたが、エッセイみたいな感じでした。
    解剖のお仕事が好きな著者の思いが文章からあふれていますね。
    死体から得られるメッセージを理解し、謎を読み解く。。。その熱い想いにとても感銘を受けました。
    死体解剖のお話をしているのに、なんだか清々しい!

  • 語るのは「死者」じゃない「死体」なんだな(あとがきにあるけど)。生きている間だけでなく、死んでからも名医にかかる、なんて目から鱗。
    犯罪を暴くだけではなく、本当の自分を知ってもらうためには、だまされず、まちがいなく、何がおこったのか、最期の最後まで自分の声を真摯に聞いてくれる医者と巡り合うことが重要なのだろう。
    そして、それが謎解きではなく、何がおこったか、からそれがおこらないようにつなげていってくれる、そんな存在である人に。

著者プロフィール

昭和17年、和歌山県生まれ。京都大学法学部卒業。職業:弁護士・公認会計士。●主な著書 『新万葉集読本』、『平成歌合 新古今和歌集百番』、『平成歌合 古今和歌集百番』、『百人一首と遊ぶ 一人百首』(以上、角川学芸出版。ペンネーム上野正比古)、『光彩陸離 写歌集Ⅲ』、『ヨーロッパの大地と営み 写歌集Ⅱ』、『ヨーロッパの山と花 写歌集Ⅰ』(以上、東洋出版)

「2016年 『万葉集難訓歌 一三〇〇年の謎を解く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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