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Amazon.co.jp ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784167656454
みんなの感想まとめ
文明の衰退とその克服に向けた指導者の在り方を深く掘り下げた作品で、特にイギリスの歴代指導者たちを通じて、現代日本における教訓を考察しています。大国の盛衰のリズムを背景に、我々が直面する危機感や、文明を...
感想・レビュー・書評
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英国の近現代史を紐解き、大英帝国の絶頂期=パクス・ブリタニカからその衰退に至る過程をつぶさに分析して、バブル崩壊後長期低迷する我が国に示唆を与えようとした書。英国の文化・文明論にもなっている。1998年執筆なのに、現代日本に向けた警鐘は全く色褪せていない。
著者は、大国は、一定期間繁栄を続けたあと、成功したが故に衰退するのが歴史の必然とした上で、まずそのパターンを二つに類型化している。すなわち、一つ目は「国力の基盤がどんどん国境を越えて世界に広がってゆき、やがてそれが大きく拡散して」、「世界の隅々まで浸透するのだけれども本国が活力を失」ってしまう類型で、古代ローマ帝国、中世のビザンチン、ベニス、近世のポルトガルやオランダ、イギリス、アメリカ等がこの類型に該当する。もう一つは、「「自らの文明への固執」というアイデンティティ感覚が強く、一定期間、大国として世界に「飛雄」」するが、グローバルに普遍化し拡散するには何かが足りずに「非常に力強く繁栄している時期を過ぎ、…「壁」にぶちあたったとき、結局、もう一度身を固くして内向きになってゆき、「国内再編」という方向で、再び活力を甦らせようとする動きをとる大国の類型であり、フランス、ドイツ、ロシア、中国等がこれに該当する。
そして、現在日本も戦後の繁栄から衰退期へと入りつつあり、「時代の類型」として「十九世紀イギリスの「ビクトリア時代」の末期にかなり似」ているのだという。
今、我々が歴史に学ぶべきは、衰退を避ける術ではなく(繁栄は必ず衰退を招き、これ自体は避けえない)、繁栄を如何に長くもたせるか、ということであり、この点でも「ローマ帝国やスペイン、フランス、おそらくは二十世紀のアメリカと比べても、驚くべきスタミナを示した」近代イギリスの繁栄に学ぶべきは多い、という。
そして著者は、「愚かなるオプティミズム」や「衰弱的ペシミズム」に陥りやすい日本人に、イギリス人気質を参考としつつ、「活力あるペシミストたれ」と言っている。
イギリス人気質については、困難な課題に果敢に挑戦することを楽しむ気質(「人間はしょせん過程を楽しむために世の中に生まれてきたのだから、成果よりもプロセスを楽しもうという気質」)、「イギリス的怠惰」と「皮肉さの感覚」を挙げている。また、コモンセンスが教える「イギリス的知恵」として「アマチュアの優越」を、イギリスの政治や外交の特徴については、「早く見つけ、おそく行動し」、「粘り強く主張し、潔く譲歩する」ことを挙げている。
著者は、かつて繁栄を極めた英国の粘り強さや冷静さに学べ、と言っていて説得力がある。ただ、日本は世界帝国になったこともないし、言語からしてグローバルに通用しない特殊言語なのだから、目指すべきは、少なくとも言語では世界を制覇し続けている英国よりも、ドイツやフランスのような独自文化に拘ったタイプの国なんじゃないかとも思った。
それより、本書は英国の近現代史に多くのページを割いていて、とても新鮮で興味深い。本書を読んで英国のことをもっと知りたくなった。著者の「大英帝国衰亡史」も是非読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小泉政権下における日本の状況を念頭に置きつつ、イギリスやアメリカが文明の衰退という現象に対する取り組みについて論じた本です。
とくに、イギリスの指導者の中から、ハロルド・マクミラン、マーガレット・サッチャー、トニー・ブレアの3人を取り上げて、あるべき指導者像についての考察を展開している箇所は、読み応えがあります。
無軌道な自由の礼賛や、無責任な福祉国家論などを批判し、文明を維持していくたくましい精神とは何かという問題への関心が、著者の議論を貫いているように思います。ただ、そこで言われる「精神」が、「国民の歴史」を貫く実体的な内容を持っているように思えるところもあり、やや戸惑ってしまいます。
著者の学問上の師である高坂正堯は、冷戦期の国際政治を論じるに当たって、イデオロギー的な偏向を排してリアル・ポリティークの立場を取ったことで知られています。しかしその後の国際情勢の変化は、リアル・ポリティークを乗り越えて、諸文明の価値観の違いについて踏み込んだ考察を要求しています。晩年の高坂や本書の著者の文明論的な議論には、こうした課題への対応を見ることができると思われますが、文明を実体化してしまっているように見えることもあります。この点で、高坂正堯の父で哲学者の高坂正顕らが唱導した「世界史の哲学」の再来ではないかという気もしています。
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