動機 (文春文庫 よ 18-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167659028

感想・レビュー・書評

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  • 横山秀夫作品のなかでは警察ものが特に好き。D県警警務部警務課人事担当の調査官 エース二渡さんが大好きってことも大きいけれど、彼が主役じゃなくても硬派(堅物)な面々が、それぞれの信念のもと警察官という仕事に向き合う不器用なまでのまっすぐさが魅力的だから。

    「動機」の舞台はJ県警。主役は二渡と同じく管理部門である警務課企画調査官 貝瀬。
    貝瀬が起案した警察手帳一括保管制度をテスト導入したU警察署で、警察手帳の大量紛失という前代未聞の事態が起こる。
    警察官の魂ともいうべき警察手帳を保管することに猛反発していた刑事部を何とかねじ伏せての導入だっただけに、本部刑事部を筆頭に、上司である警務部長、警務課長、同僚、各部の幹部、さらにはU警察署の刑事課からの風当たりは強く、貝瀬は孤立無援に陥る。
    事件解決までのタイムリミットは記者発表までの2日間。
    犯人の「動機」は何なのか。
    貝瀬が背水の陣の覚悟で、ひとり事件の捜査をはじめる。

    警察という組織で働くという意味を、貝瀬なりに出した答えが警察手帳一括保管制度。だけどやっぱり、同じ警察官であっても職務に対する意識は様々で。
    「お茶汲み3年」、「仕事は盗め」、「24時間365日警察官であれ」と叩き込まれた職人気質の刑事たちには、貝瀬の警察官も「職業」の1つであるという考え方は生ぬるくて腹立たしいのだろう。
    それでも時代は変化しているのだから、管理部門と現場部門、または年齢差や育ってきた環境の違いなどで、職務に対する意識や精神的な部分には多かれ少なかれギャップは生まれるはず。
    おまけに警務部、人事部、公安もそうだけど、そこには同じ警察官である「身内」に対する仕事もある。こういう問題が起きたとき、身内を信じて仕事しなきゃいけない刑事や現場の警察官にとっては、これほど苛立つ存在はないだろう。

    それでも職務内容は違えど、相手が大切な誰かを守るために警察官という仕事に誇りを持って臨んでいることが分かると、お互いを認めあうことができるのもやっぱり身内だから。
    皆それぞれに見えない絆があって、それが「大切なもの」への思いを鍵に、浮かび上がってくる場面にはぐっときた。
    いつまでも時代の波に背を向けてるような、無骨でまっすぐな警察官たち。彼らのまっすぐな信念には胸が熱くなるし、ここが横山作品の好きなところだ。

    今回の事件は刑事部と警務部の確執から起きたものか。それとも外部犯か。または組織を混乱させる目的か、特定の誰かを窮地に陥れるためか……
    “ありうべからざることをすべて除去してしまえば、あとに残ったものが、いかにありそうもないと思えても、すなわち真実である。”
    というコナン……じゃなくて、シャーロック・ホームズの名言を思い出した、哀しいような切ないような、そんな事件の「動機」だった。

    あとはチラッと、本当にチラッと二渡さんの名前が出てきて、ファンとしてはとても嬉しかったな。
    「動機」のほか、女子高生殺しの前科を持つ男が、匿名の殺人依頼電話に苦悩する「逆転の夏」、地方紙の女性記者の悲哀を活写した「ネタ元」、公判中の居眠りで失脚する裁判官を描いた「密室の人」が収録。

    • ダイちゃんさん
      返信して頂き、ありがとうございました。
      返信して頂き、ありがとうございました。
      2021/08/21
    • mofuさん
      地球っこさん、こんばんは♪

      『動機』読みました!
      二渡さんの名前もチラッと出てきて嬉しかったです。
      地球っこさんのおっしゃる通り、無骨で真...
      地球っこさん、こんばんは♪

      『動機』読みました!
      二渡さんの名前もチラッと出てきて嬉しかったです。
      地球っこさんのおっしゃる通り、無骨で真っ直ぐな男たちに胸アツですね。
      私もこのシリーズにすっかりハマってます(*^^*)
      2022/07/08
    • 地球っこさん
      mofuさん、こんばんは☆

      二渡さん、見つけましたか~
      エース推しとしては、チラッと出てくるだけでテンション上がりますよね(勝手にmofu...
      mofuさん、こんばんは☆

      二渡さん、見つけましたか~
      エース推しとしては、チラッと出てくるだけでテンション上がりますよね(勝手にmofuさんもエース推しにしちゃった 笑)。
      もっとこのシリーズ出てほしいですね♪
      2022/07/08
  • またまたいぶし銀の渋みが随所に出てくる短編集。

    今回は県警本部警務課勤務の警視の他、犯罪に手を染めた者、犯罪を記事にする新聞記者、犯罪者を裁く裁判官、と犯罪絡みの4編。
    自分の職務や人生に迷いを感じる主人公たち。揺れる気持ちがストレートに伝わり胸が締め付けられた。罪を犯す怖さを嫌というほど知り尽くした彼らのリアルな姿に共感した。

    相変わらずオチの付け方が巧い。また情景描写も巧いので映像がドラマのように目に浮かんでくる…と思ったら既にTVドラマ化されている短編もあって納得。
    特に『逆転の夏』がいい、と思っていたらドラマはなんと佐藤浩市が主演なんて!これはぜひ観てみたい。

    • 地球っこさん
      mofuさん、こんばんは☆

      いぶし銀の渋み、その通りですね!
      『逆転の夏』、ドラマ化されてたんだ。それも佐藤浩市主演。私も観てみたいです。...
      mofuさん、こんばんは☆

      いぶし銀の渋み、その通りですね!
      『逆転の夏』、ドラマ化されてたんだ。それも佐藤浩市主演。私も観てみたいです。
      佐藤浩市さんといえば、『64』の映画でも主演でした。そちらは観ました。
      もちのろん(←ふるい)、仲村トオル版二渡さんもチラッと登場してました( *´艸`)
      見逃さないわよん♡ 笑
      2022/07/08
    • mofuさん
      地球っこさん、またまたこんばんは♪

      『逆転の夏』のドラマ化の話は文庫本の解説で紹介されていましたよ。
      『動機』も『陰の季節』の続編としてド...
      地球っこさん、またまたこんばんは♪

      『逆転の夏』のドラマ化の話は文庫本の解説で紹介されていましたよ。
      『動機』も『陰の季節』の続編としてドラマ化されていて、貝瀬警視ではなく二渡さんが主役(演じているのは上川隆也)だそうですよ。こちらも気になりますね〜(*^^*)
      また『64』も読んでみたいです!
      2022/07/08
    • 地球っこさん
      おお、情報ありがとうございます!

      お盆休みにでも、ひとり「 ドラマ横山秀夫サスペンス祭」りでもしよっかな~(’-’*)♪
      おお、情報ありがとうございます!

      お盆休みにでも、ひとり「 ドラマ横山秀夫サスペンス祭」りでもしよっかな~(’-’*)♪
      2022/07/09
  • D県警シリーズ第2弾!
    短編4作品。
    面白いけど、相変わらず、内向きやな。
    面子とか、責任とか、保身行為が炸裂しまくってる。(警察の管理部門の話)
    あのね!一応、税金でお給料貰ってるんやから、外向き(国民、市民)の為に頑張ってな。
    と書いたけど、2つ目以降の話は、違う。内向き、外向き以前に、D県警は、何処へ?
    出てへんし。話の中に…
    犯罪、事件記者、リーガルサスペンスと続く。
    なかなか、ええ感じに面白い!

    でも、内向き過ぎとか、書いたけど、出て来んのは更に寂しさもひとしお。
    やっぱり、出て来て欲しいな。内向きでもええから。
    何か始め書いた思いと違う気もするけど、ええか (⌒-⌒; )

  • 横山さんに最近になり突然ハマり読むのは3冊目。
    64は前編後編の映画まで視聴。

    短編集で読みやすかった。
    2話目の逆転の夏は、えっー!!??ってビックリでした٩( ᐛ )و笑

    私の本棚が、またまたダークな色になっていきます、、ミステリーや警察系は表紙がダーク。
    面白いー、最近休みの日、本しか読んでないかもしれないなあ。運動不足。でも読書楽しい!

    警察系に出てくる出前のラーメンとかは、本当にあるのかなあ?美味しそう、深夜の出前ラーメン

  • 「動機」「逆転の夏」「ネタ元」「密室の人」の4つの短編集。
    「動機」は警察内部の警務部と刑事部の軋轢とプライドのぶつかり合いがうまく描かれている。私のようなオジサンが好きな編ですね。

    横山秀夫氏の作品はやはりいい。

  • 「動機」 横山秀夫 著

    1.横山秀夫さん
    64、半落ち、クライマーズハイ、ほか全て、読了感が⭐️五個の横山秀夫さん。
    だから、手にとってしまう作家さんのお一人です。
    ------------

    2.動機
    2000年執筆、横山さんの初期の作品です。
    短編集。
    どれも、読みたくなりませんか?

    ①警察手帳が警察内部の保管庫から消える。
     だれが? 何の目的で?

    ------------
    ②殺人犯が刑期を終えて出所。
     真面目に働いている矢先、1本の電話。
    「ひとをあやめてほしい、、、」。
     だれが、なぜ、俺に?

    ------------
    ③30歳間近の女性記者。
     トクダネ探しに奔走する日々。
     殺人事件発生、混迷する犯人探し。
     彼女のネタ元は報道前に教えてくれる。
     なぜ、彼女は記者にネタを?

    ------------
    ④50歳間近の裁判官。
     あろうことか法廷で居眠りを、、、。
     地元記者が記事にする。
     なぜ眠ってしまったのか?
     真相は、身近に、、、
    ------------

    3.横山秀夫さん 緊張感、最高。
     事件の裏には、必ず動機があります。
     動機は、その人の生き様、思考です。

     それを異なる物語で描くのがこの小説の
     面白さ です。

     登場人物の感情は、行間から読む展開です。
     さらに、登場人物に無駄が少なく、
     また、絡みも本筋からずれないから読了後に
     理解しやすいです。

     6時間で読了!
     あっというま でした。

    #横山秀夫さん好きな人と繋がりたい

  • 私が読む横山秀夫氏の10冊目にして初期の方の作品。
    短編集。
    表題作の1話目、警察手帳大量紛失の話が1番良かった。

  • 追い込まれた人は葛藤の中で何をどう選択するかを投げかけている短編4作品。展開にスピード感があるので、どれも面白い。

    動機:貝瀬は警察手帳の一括保管を導入したが、その保管された警察手帳が盗難に遭う。方法と機会が明らかになり、動機だけが残る。貝瀬がその動機を追う。そして意外な動機が見えてくる。

    逆転の夏:女子高生殺しで13年服役した山本に殺人の依頼が舞い込む。更生した山本に魔の手が忍び寄る。ひとつひとつは事実かどうかわからないことに踊らされている根拠のない憶測が不幸を招いているもどかしさを感じる。切ないストーリー。

    ネタ元:主婦殺人事件を追う女性記者水島、低迷している新聞社には無理なトクダネがいる。ネタ元も限られている女性記者の葛藤が上手く描かれている。

    密室の人:裁判長の安西はあろうことか強姦致傷事件の公判中、法曹で居眠りをし妻の名を寝言する。エリートの失墜から哀しい大人の愛が描かれている。

  • 四つの短編を収録。横山氏といえば警察小説だが、本作は最初の一編のみが警察モノ。これは面白かった。あとは、殺人前科持ちの男の話、新聞記者の話、法廷で居眠りした裁判官の話、と続く。ミステリーなんだろうが、暗いなあ。

  • 20年以上も昔の作品

    なんだかんだで倫理観やらコンプラ意識やらが知らず知らずのうちにアップデートされている昨今
    自分はいまだに古い意識の人間だと思っていたけど、そうでもなかったんだなというのを感じた

    というのも、書かれた文章が
    『当時なら違和感なく受け入れられていたもの』
    なのか
    『違和感を持ってもらうために書かれた、あえてのもの』
    なのかがわからなくなって、どう読んだものかに非常に戸惑ってしまって……


    収録作品は、お話がどういった結末に着地するのが読めないものばかりで、最後までそわそわドキドキして読めました!

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著者プロフィール

1957年東京生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、1998年「陰の季節」で松本清張賞を受賞し、デビュー。2000年、第2作「動機」で、日本推理作家協会賞を受賞。2002年、『半落ち』が各ベストテンの1位を獲得、ベストセラーとなる。その後、『顔』、『クライマーズ・ハイ』、『看守眼』『臨場』『深追い』など、立て続けに話題作を刊行。7年の空白を経て、2012年『64』を刊行し、「このミステリーがすごい!」「週刊文春」などミステリーベストテンの1位に。そして、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞(翻訳部門)の最終候補5作に選出される。また、ドイツ・ミステリー大賞海外部門第1位にも選ばれ、国際的な評価も高い。他の著書に、『真相』『影踏み』『震度ゼロ』『ルパンの消息』『ノースライト』など多数。

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